休暇編9話 臨時党大会、その弐



旅行の準備を終えたオレは、長期休暇を申請し、三人娘を連れてリグリット行きのヘリを手配した。


どっちの手続きもスムーズに済んだ。司令がリグリットに出掛ける前に、オレの長期休暇申請書とヘリの使用許可証にサインをしてくれていたからだ。ご丁寧に長期休暇申請書には"これで区長就任の件はチャラだぞ"とメッセージが添えてあった。


やれやれ、オレはいつまで司令の手のひらで踊ればいいのかね?


出発は明日だ。今夜は大事なイベントが開催される。そっちもつつがなく終わるといいがな。


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08区画1番倉庫で開催されたのは、いうまでもなくおっぱい革新党の臨時党大会である。


常に凜誠による摘発の魔手に晒されているおっぱい革新党だけに、定例党大会は開催出来ない。


だが我々おっぱい革新党党員は、おっぱいが世界を救うその日まで活動を止めるコトはないのだ。


深夜の倉庫に集結したイカ頭巾達は、それぞれのコレクションを持ち寄り、おっぱい談義に興じる。


前回の党大会よりさらに党員が増えているようだ。ふふっ、我々が天下を取る日はそう遠くではない!


あの黒光りする肉体美……キーナム中尉も同志になったらしいな。しかしタンクトップにイカ頭巾は、限りなく犯罪者に近いぞ。そもそも季節を考えましょう。


「カナタが我が党の幹事長らしいな。よろしく頼むぜ?」


この声、やっぱりというか、当然というか、ダニーも同志の仲間入りか。


「よく我が党に乳頭してくれたな、同志ダニー。」


「入党ではなく乳頭って言うあたりがおっぱいマニアらしいな、同志カナタ。」


「うむ。やらしい牛乳の特典グラビアを見てみるか?」


「見る見る!」


オレとダニーはホルスタインおっぱいの素敵な金髪姉ちゃんのヌードグラビアを堪能する。


このお姉ちゃんも素敵だけど、やっぱオレにとっての至高の金髪姉ちゃんはシオンさんだよなぁ。


ナツメの証言ではシオンさんは艶やかおっぱいの保持者らしい。恐ろしいコトに着痩せするタイプでもあるらしく、見た目より豊満なおっぱいでもあるらしい。……一度でいいから触ってみたいもんだ。


上映会に交換会、革新党党大会らしい交流の場は大いに盛り上がり、党首である同志アクセルと幹事長であるオレはホッとした。希望と欲望に充ち満ちた新党員達をガッカリさせたくないからね。


これで凜誠のガサ入れがなければ完璧なんだが……


門番役と物見役がしっかり仕事をしてくれているようだな。ん? また党員が来たようだが……


「パフィーニップルとはなんぞや?」


「……お、おっぱいの中に咲く一輪の乳輪。夢とロマンが膨らむ小宇宙。」


この声は同志磯吉か。明日の仕込みがあるから遅れて来たんだろう。


「よし、入れ。」


!!……マズい!


「待てっ!開けるな!」


クソッ!一歩遅れた!


「合言葉は合ってるだろ? なにが…」


勢いよく開けられた扉が門番を吹っ飛ばし、倉庫内に踏み込んできた凜誠の手先は、イカ頭巾を脱ぎ捨てて訓練刀を構える。


「お覚悟!手向かいするなら加減はしまへんえ?」


やっぱりコトネかよ!厄介な特殊能力だぜ!


「なんでコトネだってわかったんだ?」


同志ダニー、そんなの明白だろ!


「合言葉を言う時に躊躇いと恥じらいがあった!そんな同志がどこにいる!」


膨らみ乳輪であるパフィーニップルは男の夢。口にする時に高揚はしても、恥じらったりするヤツが党員の訳がない。


ピィー、ピィーと笛の音が鳴り、倉庫外でも動きが感じられる。


「四方の倉庫の陰に潜んでいやがった!来るぞ!」


リフトの上にいた物見役が叫ぶ。


……包囲されたか、倉庫街は死角が多いからな。だが正面ゲートを破るのには時間がかかるはずだ。その間に……


バキャンと音がして正面ゲートが押し開けられる。凜誠め、パワーリフトまで用意してやがったのか!違う、パワーリフトなら駆動音が聞こえるはずだ。


「おうおう、変態どもが群れてやがんねえ。さあ、いっちょ揉んでやろうか!」


人間パワーリフトのアビー姉さんを駆り出してきたのかよ!


同志バクラと同志カーチスへの対策で戦力を強化してきたってコトか。前回の反省を踏まえてしっかり対応してきやがんなぁ。


(ダニー、コトネを頼む。カーチスさんを先頭に立てて、裏口から同志達を逃がすんだ。)


(任せな、裏口を奪取して脱出する。シグレさんはバクラさんが抑えるとして、アビー姉さんはどうするんだ?)


(オレが抑える。同志達を任せたぞ。)


(おう!)


オレは訓練刀を抜いてアビー姉さんを抑えに走る。イカ頭巾達の首根っこを掴んでポイポイ投げていたアビー姉さんは、オレの接近に気が付いて訓練用ハンマーを構えた。


「出たね、エロ狼。アタシの相手をしようってのかい?」


スイカみたいなおっぱいをブルンと震わせたアビー姉さんは、かかってこいとハンマーでアピールしてきた。


「推して参る!せいっ!」


訓練刀をハンマーで受けたアビー姉さんは、鍛え上げられた太股が美しい脚でキックを繰り出してくる。


蹴り脚の足首を掴んで背後に跳んでみたが、アビー姉さんはすぐさま振り向き、パチキを入れてきた。


コンクリートブロックを板チョコみたいに粉砕するアビー姉さんのパチキは受けちゃダメだ。


太い首に腕を回して掴み、身を捻る。また背後を取ったぞ!子泣き爺ィ殺法を見たか!


背中にしがみつかれたと同時に仰向けに倒れてのプレス攻撃。おっぱいに潰されるなら本望だが、背中に潰されるのは御免だね!


オレはアビー姉さんの背中にあてた両足を使って、背転キックで距離を取る。


並のヤツならオレの背中蹴りを喰らえば前のめりに吹っ飛ぶはずなんだが、アビー姉さんは少しよろけただけだった。猛獣の笑みを浮かべたアビー姉さんが褒めてくれる。


「体捌きが格段に上手くなったねえ。だけど位置取りがまだまだだ。」


跳んだ先にはアブミさんとアスナさんが待ち構えていた。背後に中隊長二人、前からはアビー姉さん、その隙間は隊士達がカバーか。包囲網のど真ん中への誘導、まさに袋のネズミだ。一見、絶体絶命に……見えるよな?


「いや、位置取りも考えてるんですよ。バクラさん!」


「おう!」


合図と共にシグレさんを抑えていたバクラさんは槍を使った棒高跳びで、オレの傍に跳んできた。


「あらあら、二人揃って袋のネズミですよ?」 「しかも槍まで手放しましたね?」


ジリッと距離を詰めてくるアブミさんとアスナさん。だがここまでは予定通りなのさ。


オレは刀を捨てた右手でグリフィンカスタムを抜き、左手でバクラさんの腕を掴む。


間髪入れず、バクラさんは念真髪を伸ばして頭上にあったフックを掴み、体を引き上げた。


そしてオレはゴム弾を装填したグリフィンカスタムで、クレーンの昇降スイッチを狙い撃つ!


動き出したクレーンによって、オレらの体は天井近くにまで引き上げられた。すぐそこに見えていた天窓を蹴破り、オレとバクラさんは屋根の上に退避成功、と。


「おのれ小癪な!」 「お待ちなさい!」


「アブミさん、オレは小癪な男ですから。アスナさん、待てと言われて待つバカはいません。」


「べろべろべえ!口惜しかったら、ここまで登ってきやがれ!」


変顔を作って舌を出したバクラさんは楽しそうだけど、飛び石戦術で追跡される前に逃げ出すべきだな。


地団太を踏むアブミさん達の姿を堪能したオレ達は二手に分かれて逃走し、難を逃れた。


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「逃走劇の成功に乾杯!してやったりですね!」


「おう!アブミの口惜しそうなツラを見たか? 傑作だったなぁ!」


ダーツバー「スネークアイズ」で落ち合ったオレとバクラさんは祝杯を上げた。


コトネの声真似は想定外だったが、凜誠の摘発に備えたシミュレーション通りに逃走出来た。今夜のところはこれでヨシ、だ。


「しかし凜誠相手に同じ手はもう通用しねえな。」


「また新しい手を考えておきますよ。」


「カナタは悪知恵の宝庫かよ。よくもまあ次々と狡っ辛い事ばっか思い付くぜ。」


「褒め言葉だと受け取っておきますよ。」


「今夜の手柄に労働で褒美をやろうか。」


バクラさんは客の袖で磨かれたカウンターを優雅に跳び越し、シェーカーを手に取った。


「バクラさんはシェーカーを振れるんですか?」


「まーな。マスター、ちょっと店を借りるぜ。」


例によって無言を貫くマスターは、冷蔵庫から生ジュース各種を取り出し、カウンターの上に置いてくれた。


「相変わらず愛想もクソもねえが、気が利くねえ。まずはショートカクテル、悪代官大吟醸とウォッカを使った「雪風」だ。俺のオリジナルカクテルなんだぜ?」


華麗にシェーカーを振るバクラさんの手付きは、本職顔負けだ。カッコイイ!


バクラさんのオリジナルカクテル「雪風」は味も抜群だった。ん~、このカクテルに合うツマミは……


グリルから何かを取り出したマスターが、小皿をそっと差し出してくれる。


これは干物かな?……炙り加減も絶妙で、抜群にこのカクテルに合う!しかしなんの干物なんだ? アジじゃないし、サバでもない……


ん? マスターが喉を指差してから、蝶ネクタイを指差してたぞ? 喉にネクタイ?


……蝶ネクタイの色は黒だ。……のど、くろ……ノドグロかぁ!


「マスター、これはノドグロの干物なんですね!」


ボディランゲージの伝わったマスターは、満足げに頷いた。


「このオッサンは喋っちまったら死ぬのかよ。ま、俺のオリジナルカクテルはまだまだあるぜ? そろそろカーチスが来る頃だろうから、コーラベースのカクテルでも用意してやるか。」


また見事な手捌きを見せてくれたバクラさんが、カクテルグラスをカウンターに置いた瞬間に、鈴の音が鳴ってドアが開く。


「下手の横好きがまたシェーカーを振ってんのか。丁度いい、コーラベースのカクテルを…」


「これがそうですよ、カーチスさん。一杯飲りましょう。」


「気が利くじゃねえか。走りまくって喉が渇いたアクセル達も、じきに合流してくんだろ。」




酒飲み達が集結してきますか。……これは朝までコースかな? 




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