休暇編5話 特務少尉の初仕事



真っ白な装甲コートに身を包んだオレは取材班が来る予定のヘリポートへと向かった。


「お、カナタも新しい軍服をもらったらしいな。新開発されたカメレオン繊維にゃあ驚れえたぜ。」


「バクラさん、それにトッドさんにカーチスさんまで。」


マリカさんが命名した「ガーデン三馬鹿トリオ」のご登場ですか。


「しかも生意気にパーソナルカラーまでもらったみてえだな。カナタの色は白地に金か。」


カーチスさんにさほどの感慨はないみたいだけど、トッドさんには感慨、いや憤慨があったらしい。


「ちょっと待て!金は俺が使おうとして却下された色じゃねえか!俺が金を使おうとした時はみんなして反対しやがった癖に、なんで何も言わねえんだ!」


「トッドだから反対したんだ。なにかおかしいのか?」


バクラさんが突き放し、カーチスさんが頷く。


「そういうこったな。ま、カナタならよかろう。」


「待て待て待て!カナタはまだ半人前、俺は一人前どころか百人力、いや、千人力だろうが!どう考えてもゴールドに相応しいのは俺のはずだ!な? カナタもそう思うだろ?」


「オレが自分で選んだ訳じゃないですし、変えてもらうように司令に話してみましょうか?」


トッドさんは金色に愛着があるみたいだからなぁ。オレにそんなこだわりはないし。


無頓着なオレにバクラさんが事情を教えてくれた。


「カナタ、おまえのパーソナルカラーは最初、ただの白だったんだぞ。マリカが"黄金の瞳を持つ狼に相応しいから"って司令に頼んで白地に金になったんだ。それでも変えるってのか?」


マリカさん、司令にそんな頼み事をしてくれたのか。


「トッドさん、そういう事情みたいですから譲れません。マリカさんの心遣いを無駄には出来ないんで。」


「黄土色で頑張ってる俺はどうでもいいってのか?」


少しでも金色に近い色を選んで黄土色なのか。……涙ぐましい努力だ。


「明るい黄色にしてみたらどうですか? 金に見えなくはない。」


「黄色だとコメディリリーフっぽい感じがするだろうが!戦隊モノでは大食いキャラのカラーだしよ!」


こっちの戦隊モノでも黄色はそういうポジションなのか。


「……戦隊モノの黄色ってリストラされてません? イエローの代わりにブラックやホワイトが入ってたような……」


「トッドにゃ丁度いいんじゃないか? アスラのリストラ要員だし、キャラ的にも黄色が似合ってる。なあ、カーチス?」


「そうだな。それによぉ、黄色はモヤシの頭の色でもある。おい、トッド。モヤシの茎をイメージした白地に、襟だけ黄色ってのはどうよ?」


「誰がリストラ要員だ!それに白地に黄色じゃ俺がカナタのパチモンみてえだろうが!」


憤ったトッドさんは、右手と左手で二人の胸ぐらを掴んだ。


……サッサと逃げるべきだな。部隊長同士の喧嘩に巻き込まれちゃかなわねえや。


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ヘリポートには白装束の1,1中隊の面々が勢揃いしていた。唯一の例外はゴスロリドレスのリリスだけだ。


既に取材班は到着しており、機関紙に載せる為の集合写真を撮る準備をしている。


「おい、リック。えらくめかし込んでるじゃないか。」


「広報部の取材を受けるんだから見栄ぐらい張るのが普通なんだよ。平常運転の兄貴がおかしいんだ。」


リック小隊の連中ときたら、七五三にいくお子様みたいに髪型を整えてやがる。


「だからって限度があるだろう。ポマードてかてかのウスラもやり過ぎだが、……トンカチ、その恰好は軍服を着た三下パフォーマーみたいだぞ?」


「ンな事言ったってよぉ、隊長。俺達が機関紙の表紙を飾る訳だからねえ。」 「大兄貴、三下パフォーマーはヒドいッス!」


ビーチャムとノゾミは熱心に手鏡を覗き込んでやがるし……あれ?


「ビーチャム、そばかすが……」


「ノゾミのお姉さんがファンデーションで消してくれたのです!」 「お姉ちゃんはお化粧が上手ですから!」


……そりゃ影武者のバイトもやってる姉さんだからな。


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オレが中心になった集合写真の撮影が終わり、小隊長達は個別の取材に応じる。ナツメは少し離れたところで様子を窺っていた。


そのナツメの姿を横目でチラ見した記者に話しかけられる。


「雪村曹長への個別取材は許可されていないのですが、天掛少尉と一緒の写真を撮って構いませんか?」


司令がナツメに配慮してくれてたらしい。いいボスだぜ、実際。


「ナツメがうんと言えばね。」


オレはナツメに事情を話してみた。


「……いいよ。カナタと一緒なら。」


「そっか。じゃあ並んで撮ってもらおう。」


……え!? ナツメさん、腕まで組まなくていいんじゃない?……さらに横ピースですか。サービス精神旺盛ですね。


「ナツメだけズルい!少尉、次は私と2ショットだからね!」


「……あの、隊長……私も……その……副隊長ですし……」


「待て待て!まずは家臣筆頭であるこの私が先だ!」


「自分は最後でいいであります!」


あの~、……皆さん、これは取材だってわかってる?


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「お陰様で有意義な取材になりました。1,1中隊のご協力に感謝します。」


「本気で言ってるのか?」


オレの問いかけに記者は苦笑いした。


「いささかはっちゃけ過ぎな気も致しますが、同盟軍が開かれた軍隊である事のアピールにはなるかと。最後に2ショットをお願いします。」


これ以上誰と2ショットを撮れというのか……


「ミリアムちゃん、おいで。」


記者がヘリに向かって呼びかけると、小さな女の子が降りてきた。


綺麗な褐色の肌に対照的な白いドレスを纏った女の子はおずおずとオレの方に向かって歩いてくる。


……このコはどこかで見たような……!!


「ま、まさか。キミは……」


「ミリアム・マドラスが……わたしの新しい名前。……あの時はありがとう、お兄ちゃん!」


オレは女の子を抱き上げ、顔を覗き込んだ。間違いない!キッドナップ作戦の時に実験ポッドの中に閉じ込められていたあのコだ!


「天掛少尉が救出したミリアムちゃんは、普通の生活が送れるまでに回復しました。里親のマドラス夫妻も見つかり、ミリアムちゃんは日常に戻ります。その前にどうしても天掛少尉に会ってお礼が言いたいと……」


今回の取材に限ってはオレも喜ぶ、か。司令の言う通りだったな。


「……ありがとう。よく引き合わせてくれた。」


オレのやったコトは無駄じゃなかった。たった一人でもいい。誰かの役には立てたんだ。


「記者さん、僕とホタルも一緒に入っていいかな?」


シュリ夫妻の登場ですか。これも司令の差し金、いや、心遣いだな。


「お願い出来ますか?」


オレ達はミリアムちゃんを囲んでフレームに収まり、記念撮影してもらった。


「ご協力ありがとうございました。今日撮った写真のデータはコピーして副隊長さんに渡しておきますね。」


「……オレは広報部が嫌いだったんだが、少し認識を改めたよ。アンタの名は?」


「ドリノ・チッチ准尉です、よろしく。私達は他の隊の取材があるので、その間、ミリアムちゃんをお願いしてもよろしいですか?」


「もちろんだ。」


オレは笑顔のチッチ准尉と握手を交わし、中隊には解散を命じた。


「ミリアムちゃん、甘い物でも食べに行こうか?」


オレの誘いにミリアムちゃんは元気よく頷いてくれる。


「私ね!チーズケーキが好きなの!」


「じゃあ4人でガリンペイロに行きましょう。ミリアムちゃん、お姉ちゃんと手を繋ごっか?」 


「うん!」


ミリアムちゃんと手を繋いで歩き出したホタルの背中に、男二人はついて行く。


「カナタ、僕達のやった事は無駄じゃなかった。きっと他の子達も……」


「ああ、きっといつの日にか……」


チッチ准尉からミリアムちゃん以外の子供達について言及はなかった。つまり、まだ日常に戻れる状態じゃないんだ。でも、生きているなら希望はある。ミリアムちゃんみたいに日常に帰れる日がくるかもしれない。


……甘い物を食べたら四人でショッピングモールに買い物に行こう。ミリアムちゃんに、なにか贈り物をしないとな。


「わっ!大きなワンちゃん!」


お、雪風先輩までやってきたか。


「バウ!(こんにちわ!)」


「ねえねえ、お姉ちゃん!このコに触っていい?」


「いいわよ。撫でてあげて。」


「わぁい!新しいパパとママがね!犬の友達を連れてきてくれるって言ってるんだぁ!このコみたいな友達だといいな♪」


里親のマドラス夫妻はいい人みたいだ。本当によかった。




雪風先輩と戯れるミリアムちゃんの無邪気な笑顔に癒されるオレ達。今日だけは軍人であるコトを忘れて、平和な日常を楽しもう。



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