激闘編27話 オレは気分が悪いんだ!
ハッチ前に集合した1,1中隊の隊員は全員、ハーネスを装備している。
「隊長、ナツメはうまくやっているでしょうか?」
シオンは単独先行させたナツメが心配らしい。
「オレはナツメを信じてる。うまくやるさ。」
オレの命令で、ナツメは漆黒のロープを携えて戦場に先行していた。
合図と共に身を隠していた窪地を出て鏡面迷彩で偽装し、湾曲防壁に張り付いて駆け上ったはずだ。
そして防壁上からロープを垂らしてくれているはず……並のニンジャには無理な芸当だが、ナツメなら出来る!
「艦長!ハッチを開きます!」
ラウラさんの声と共に出撃ハッチが開いていく。
「1,1中隊出撃!オレに続け!」
ハッチから駆け下りるオレの後に続く1,1中隊。いくぞ、反撃の時間だ!
ドシャッという音。防壁際に兵士が叩き落とされてきたのだ。
死体の真上を見上げると、防壁上で複数の兵士を相手に戦うナツメの姿が見えた。
予定通りに垂らされていた黒いロープにハーネスを掛けて、壁を蹴って駆け上る。
念真障壁も足場に使って、早く、早く駆け上がらないと!
「隊長!先行し過ぎです!」
シオンの叫びに下を向いて怒鳴り返す。
「オレは先行してナツメを援護する!シオン達はまとまって上がってこい!」
防壁上部に近付いたオレに向かって銃を構える敵兵を、ナツメは蹴っ飛ばして突き落としたが、背後から攻撃されて手傷を負った。さらに多数の敵がナツメを包囲する。
オレはハーネスを外して宙に身を躍らせ、念真障壁をトレイの様に展開して飛び石ジャンプ、空中からナツメを包囲した敵兵に向かってグリフィンカスタムを乱射した。
弾倉がカラになると同時にナツメの前に着地、生き残りの連中を狼眼で一掃する。
「ナツメ!無事か!」
「うん!浅手だから心配しないで!」
オレは背嚢を外してナツメに渡した。中にはナツメの軍服や装備一式が入っている。
鏡面迷彩使いだけに早着替えが特技のナツメは、あっという間に軍服を纏い、オレと左右に分かれて新手の敵に対峙する。
オレとナツメが敵兵を始末しながら橋頭堡を確保していると、シオン達も上がってきた。
シオンとリックはすぐさま小型ウィンチを床にインパクトで打ち付け、後続がスムーズに上がってこられるように工作を行う。
「シオンとリックはここで後続が上がってくるのを援護しろ!オレは中に降りて安全を確保する。」
「いくよ!カナタ!」
ナツメはフックを防壁に引っ掛けてオレを手招きする。
「よし!いくぞ!」
二人並んで助走をつけ、要塞内部へ向かってジャンプした。
オレとナツメは凄いスピードで防壁内側を落下してゆく。
眼下に敵兵のグループを視認、すぐさま狼眼で始末。これで安全は確保だ。
オレをがっしり掴んでるナツメが、手袋をした手でワイヤーを操作し、そのまま防壁に足を着いて静止を開始。完全に落下が止まった時には、ナツメの軍靴から白煙が上がっていた。
「はい、成功。」
「いい仕事だ。」
ハイタッチしたオレとナツメは、地上まで念真皿で飛び石を作って駆け下りる。
地面に足を着けたと同時に敵の新手がやってくるのが見えた。……忙しいねえ。
「みんなが降りてくるまで、ここを死守する!」
「イエッサー!」
背中合わせに戦うオレとナツメを援護してくれる銃弾。シオンの仕事だ。
さらに空中から投擲される多数の
黒い翼を生やしたリリスが、ゆっくり羽ばたきながら降りてくる。両手をいい塩梅に広げてるあたりが、芝居がかってるねえ。天性のアクトレスだわ。
器用が取り柄のリリスは、悪魔形態の一部だけを使用するという小技を習得してやがんだよな、大したモンだぜ。
「リリス、格好つけすぎ!」
トンと着地したリリスにナツメが文句を言ったが、小悪魔は意に介さない。
「格好つけてるんじゃなくて、私は元から格好いい女なの。少尉もそう思うでしょ?」
「格好いいのは認めるが、悪魔形態の使用はほどほどにな。リリスが入院して喜ぶのは花屋と果物屋だけだ。」
「人気者は辛いわねえ。」
軽口を叩きながら、敵兵を始末し、後続を待つ。
ほどなくリック小隊とシズルさん率いる白狼衆が降下してきた。よし、次の段階に移行するか。
「ゲートの管理をしている詰め所を制圧する。いくぞ!」
1,1中隊が詰め所に向かって進軍していると、湾曲防壁を越えて曲射砲弾が要塞内に着弾した。
「お館様、スパイダークラブの支援砲撃が始まった様ですね。」
隣を走るシズルさんが燃えさかる着弾点に目をやりながら、ノールックで目前の敵を斬り伏せる。
「ああ、固定砲台を黙らせるつもりだ。間違っても砲台近くには行かないようにしないと。」
「味方の砲撃で死ぬほどバカな事はねえもんな。」
ポールアームで敵兵を薙ぎ払うリックに、ナツメがツッコミを入れた。
「リックはバカだからお似合いじゃない?」
「俺にバカバカ言うのはそんなに楽しいのかよ!」
大振りのリックの隙を小回りの利くナツメがカバー、コンビとしちゃあ相性抜群なんだがなぁ……
詰め所が見えた!入り口に何人かの敵兵が倒れているが、応援に来たらしい多数の敵兵が詰め所に突入していく。
「マリカさんが既に突入してるんだ!援護するぞ!」
詰め所に駆けつけた敵部隊はコンマ中隊に即応してきた!かなり練度の高い連中だ。詰め所を制圧されたら要塞内に同盟軍が大挙して侵入してくる。そりゃ増援は精鋭に決まってるよな。
敵前列に狼眼を喰らわせるが、即死しない。やはり精鋭だ。気合い入れていかなきゃ死人が出る!
「ダイアモンドフォーメーションだ!いくぞ!」
オレが先行してトップを張り、右がシズルさん、左がリック、真後ろにシオンの菱形隊形。
力押しに最も適したダイアモンドフォーメーションを形成した1,1中隊は敵精鋭部隊と交戦を開始した。
「せりゃあぁぁ!」
狼眼でダメージを負った敵兵を容赦なく始末する。そして目が合ったヤツにはまた狼眼だ!
「ナツメはリック小隊をカバー!コイツらはデキるぞ!」
しまった!指示が遅かったか!前衛をすり抜けた敵兵が、中衛のノゾミに迫ってる!
敵兵の斬撃をノゾミは間一髪でマシンガンで受けたが、銃を叩き落とされてしまった。
「死ねぃ、小娘!」
「させるかぁ!」
返しの斬撃はビーチャムが伸ばした髪を腕に巻き付けて封じた。
「死ぬのはアンタよ!」
そしてナツメが頸椎を突き刺し、トドメを刺す。
乱戦の中、すり抜けをすぐに察知し、フォローに回る。広い視界に的確な判断、ビーチャムには指揮官適正もあるのかもな……
「よそ見をしてる暇があるのか、剣狼!」
飛んできた分銅を首を捻って躱し、手練れと対峙する。……コイツが隊長だな。
鎖を左腕に巻き付けて分銅を回し、右手には逆手持ちの大鎌……この構えは……奥群風刃流!
「オレは同盟軍少尉、天掛カナタ。鎖鎌とは珍しいな。」
「機構軍大尉、
コイツの異名は「
「ほう、奥群風刃流とはな。
「そうか、ならば最後にとくと見よ!風刃流の妙技を!」
変則的な鎖鎌の攻撃だが、対応は出来る。
この世界の必勝の法則は、「部隊のエースを仕留めるコト」だ。
仲間に犠牲が出る前にコイツを仕留める!
互いに様子見しながら、何合か打ち合う。……かなりデキるな。
「やるではないか!伊達に剣狼などと呼ばれてはいないな!」
腕の鎖に纏わせた念真障壁で斬撃を受け止め、大鎌で反撃してくる。迫る大鎌をオレは飛び退って躱す。
「おまえさんもな!死の大鎌はハッタリじゃないってか!」
様子見の打ち合いで、何度も攻撃を
一気に距離を詰めたオレに分銅が投げつけられる。
「これでも食らえ!」
「食らうか、バカ!」
分銅を躱して間合いを詰めたが、その攻撃の狙いはオレじゃないんだろ? オレは生き物のように戻ってきた分銅に、抜いた
「そろそろ
「貴様!なぜ蔦絡みの事を!」
脇差しから手を離したオレは、苦し紛れに繰り出された大鎌を手首を押さえて止めた。
そのまま握った右手首に刀を一閃し、斬り落とす。
「ぐおぁ!」
「初めて見たって言ったが、ありゃ嘘だ。風刃流を使うなら、シド・バイケンを知っているだろう?」
「あのマヌケか!」
手首を押さえながら助九郎は後退った。
「マヌケ?」
「風刃流を継げなかったバイケンは、立身出世を夢見て機構軍に入った。だから邪魔してやったんだよ!横領の罪をなすりつけてな!」
「なぜそんな真似をした?……同門の仲間じゃないのか!」
「仲間? 由緒ある風刃流の門弟に毛唐など必要ない!死ねえ!」
助九郎の左手がカクンと折れ、飛び出した銃口から発射されるグレネード弾を、オレは即座に斬って落とした。
「バ、バカな……」
「左手なのに右手と同等のパワーがあったからな。そんなコトだろうと思っていた。もう隠し芸はないのか? バイケンに負けて腕を落とされた
「なぜ腕の事を知っている!」
バイケンの性格とテメエの性格を考えりゃあ、誰だってわかる。血を見ずには収まらねえコトぐらいはな。
「冥土の土産に教えてやるが、おまえの風刃流はバイケンよりも一枚落ちる。わかるか? 毛唐と蔑んだバイケンより、おまえは下なんだ!」
近付くオレから逃れようと後退る助九郎の姿に怒りが沸き上がる。バイケンと助九郎、どっちも外道かもしれないが、少なくともバイケンは風刃流だけは信じて戦った。誰も信じない男だったが、培った技だけは信じていたんだ。
……風刃流はヤツに残された最後の誇りだったから。
「ま、待て!話を……」
「冥土の土産と言っただろうが!死ね!!」
背中を向けて逃げようとした助九郎を、オレは容赦なく両断した。
どんな事情があれ、ロードギャングに身を落としたバイケンに同情はしない。
でも風刃流継承者になる夢に破れたバイケンは、機構軍での立身出世という新しい夢を見た。
コイツが余計なコトをしなければ、バイケンはああはならなかったかもしれないんだ!
身分だ、地位だ、派閥だ、って張り合うバカどもだけでもウンザリなのに、今度は人種だぁ?
……人間の本質に関係ないところでクソくだんねえ足の引っ張り合いばっかしやがって!!
「テメエらも助九郎みたいに死にたいか!オレは気分が悪いんだ!!まだやるってんなら、楽に死ねると思うなよ!!」
殺意と怒りを込めた狼眼はいつも以上の力を発揮し、視界に入った敵兵達を即死させた。
「引け引けっ!」
副隊長らしき将校が叫び、身を翻すと、敵部隊は距離を取って後退し始めた。
「お館様、殲滅しますか?」
シズルさんにオレは首を振った。
「いや、詰め所入り口を固めろ。シオンと協力して新手を防ぐんだ。オレはリック小隊と詰め所内に突入する。リック、いくぞ!ナツメとビーチャムもこい!」
「おう、みんな兄貴に続け!」 「カナタが怒ったらメチャ怖いの。敵兵は気の毒だね。」 「隊長殿を怒らせた助九郎がバカなのであります。」
やり場のない怒りを抱えたまま、オレは詰め所内に突入した。
助九郎、ヘンゲン、エプシュタイン、グリースバッハ、どいつもこいつも我欲まみれで尊大なクソ野郎ども!
それにフィンチにオルセン、リリスの親父もオリガもだ!
もう沢山なんだよ!人間の汚えところばっかり見せつけやがって!!
クソが!! この世界はクソ野郎ばっかりだ!……クソじゃない仲間の為にしか、オレは戦わないからな!
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