激闘編26話 八岐大蛇を攻略せよ!



「研究所の一件は、さらなる調査が必要でしょう。放っておいてもいいかもしれませんが……」


これで胸クソ悪い実験は頓挫したワケだしな。いい気分だ。何者か知らないが、いい仕事をしてくれたぜ。


「そうだな。シジマの回復待ちでもいいかもしれん。事実が判明した後、再度計画を遂行しようという動きが出れば今度こそ潰す。シジマを暗殺してでもな。」


軍神の娘は冷たく言い放った。司令が本気である以上、博士は気が触れたままの方がいいんだろう。


正気に戻れば博士は再度の実験を望むに決まっている。そうすれば司令は本当に博士を暗殺しかねない。


「研究所の件はここまでにしておいて、八岐大蛇に喰わせる撒き餌の選別をしましょうか。戦艦の二隻や三隻はくれてやらなきゃならないでしょ?」


「カナタ!どうして計画の事を…」


「クランド、カナタの納豆菌を甘く見るな。……だが、思った以上に読めるようだな。一応、計画の説明をしておこうか?」


「お願いします。」


司令は戦術タブレットを執務机に置いて、計画の概要を説明し始めた。




司令の立てた計画は念のいったモノだった。


まず、一方向に艦隊を集結し、攻勢に出る。力押しの攻略にかかると見せかけるのが狙いだ。


当然、シュガーポット駐屯軍は、八岐大蛇で迎撃してくるだろう。


攻勢に出た艦隊の迎撃の為に集結した8両の八岐大蛇、そこでマリカさんのチームが八岐大蛇の左右の線路を爆破する。


そうすれば八岐大蛇は一カ所に固まり、動けなくなる。長所が短所に変貌するのだ。


八岐大蛇の動きを封じたら、全軍は八岐大蛇の反対方向に移動し、一気に本命の攻勢をかける、というプランだ。


「湾曲防壁だけは自前でなんとかするしかない、というワケですか。」


「マリカはレール爆破の後にゲートを管理している詰め所の制圧もやってみるとは言っていたが、そこまで望むのは酷だろう。」


……無理しないでくださいよ、マリカさん。


「ですね。いくらマリカさんでもそこまでは……」


「既に八岐大蛇に喰わせる撒き餌は選別してある。シノノメ師団の戦艦、巡洋艦を自動操縦で突撃させる予定だ。」


「自動操縦だと駐屯軍にデコイだと見抜かれませんか?」


オレの質問に、司令は苦渋の表情で答えた。


「……自動操縦だとバレないように、何隻かの艦にはクルーが搭乗する。無論、全員が志願兵だ。」


「……決死隊、というコトですね?」


「ああ、うまくいけば自動操縦の艦に攻撃が集中し、犠牲者ゼロという事もあり得るが……」


「八岐大蛇は戦艦を狙ってくるでしょう。人員はあえて巡洋艦に乗せるのがいいかもしれません。」


「そうしとる。護衛の巡洋艦が人間特有の艦隊機動を行い、戦艦は直進させる。八岐大蛇はジグザグ機動の巡洋艦より、直進してくる戦艦を狙ってくるじゃろう。不審に思われる前に、マリカが任務を終えてくれるのを祈るしかないのう。」


クランド中佐の表情も冴えない。オレ達には決死隊の無事を祈るしか出来ないよな。


「八岐大蛇はそれでいいとして、固定式の曲射砲はどうします? 攻勢予定地点の防壁内にも何門か配備されていますが?」


「物量で押す。ケクル大佐が大量のスパイダークラブ曲射砲を用意して反対側に潜伏している。」


高足蟹スパイダークラブを用意してあるのか。司令のやる事はソツがないねえ。


「最低射程を割り込むのは足の速い巡洋艦の仕事ですね。」


「そうなるな。カナタは第一次攻撃部隊に入ってもらう。覚悟はいいな?」


「はい。ラウラさんに頑張ってもらいましょう。」


「船頭部のワイドソナーをワイドキャノンに換装させておけ。アレスをせっついて持ってこさせた。」


今回の任務じゃソナーより火力が必要、備えは万端ってコトか。いくしかねえな。


「了解しました。作戦開始時刻は?」


「明日の22:00だ。日が落ちた方がマリカの仕事がやりやすい。」


「それでは準備にかかります。」


オレは敬礼して、艦長室から退出した。




作業用のクレーン車が何台も設置され、ハンマーシャークの頭部を換装してゆく。


作業を見守るオレの隣にラウラさんがやってきて、主砲のスペックを説明してくれた。


「……という性能です。ワイドキャノンは戦艦主砲に匹敵する威力があるのですが、シュガーポットのゲートは並の厚みではないでしょう。至近距離からの砲撃でも短期間で破壊出来るかどうかは分かりません。」


「だろうな。ま、ワイドキャノンは内部に侵入してから活躍してもらう。」


「艦長にはなにか策がおありなのですか?」


「策ってほどのモンじゃない。詰め所を占領し、ゲートを開くだけだ。ナツメ!艦長室に来てくれ!」


ビーチャムに体捌きをレクチャーしていたナツメは、頷いて駆け寄ってくる。


気は進まないが、殺戮天使の個人技を見せてもらう時がきた。


危険な任務だが、ナツメならやってくれるはずだ。




艦長室でナツメに作戦を説明する。真剣な表情で作戦を聞き終えたナツメに、オレは聞いてみた。


「出来そうか?」


「任せて!闇夜に真っ暗なロープ、イケると思う!」


「オレも行きたいが、こればっかりはオレが行っても足手まとい、そもそも能力が不足してるしな。」


「大丈夫、必ず成功させる。」


「……頼む。ゲートを管理する詰め所を素早く制圧出来るかどうかに、作戦の成否が懸かってる。」


天使の笑顔で笑ったナツメは、オレの肩をポンポンと叩いてくれた。……頼んだぞ、ナツメ。




21:00時に作戦が発令され、全軍に作戦内容が通達された。事前に作戦を知らされていた師団幹部以外はさぞ吃驚しただろうな。


22:00時ジャストに作戦が開始、この戦役の勝敗を左右する大作戦は決行されたのだ。


……少し雨が降ってきたな。強運の司令には天候も味方する。いや、天候を計算に入れて、今夜作戦を決行したんだろう。


シュガーポットに猛進する艦隊群を後方から見守る。湾曲防壁内から轟音が響き、決死隊が率いる艦隊目がけて、特大の砲撃が降り注いできた。八岐大蛇が火を吹いたのだ。


直撃を喰らった戦艦が一隻、大破し炎上する。……聞きしに勝る威力だな……


数度の砲撃で、三隻の戦艦と一隻の巡洋艦が犠牲になった。……巡洋艦にはクルーが乗っていたはずだ。


……まだか!マリカさん!……まさかマリカさんの身に……


八岐大蛇の咆哮とは別の爆破音!!マリカさんの任務は成功したのか?


「全軍、3時方向に回頭せよ!12時方向より総攻撃を開始する!」


スクリーンに現れたシノノメ中将の命令で、後方に布陣していた師団全軍は回頭を開始した。


大任を果たしたオトリ艦隊は散開し、全速で離脱を開始している。


レールの爆破は成功したんだ!さすがマリカさん、いい仕事するぜ!


これで八岐大蛇は足を失った。ざまあみな、蛇なんだから足なんかいらないよな?


「ハンマーシャーク、3時方向に回頭!」


「了解!3時方向に回頭!」


輪舵を勢いよく回すラウラさん。張り切ってるな!


「全速前進!最大戦速を維持したまま、最前列に出ろ!」


「イエッサー!」


艦隊の最前列に出たハンマーシャークは、攻撃予定地点に向かって走り出した。




12時方向に回り込んだ艦隊の最前列が第一次攻撃部隊のポジションだ。


列車砲の反対側から攻勢をかけてくる事は、敵も読んでいるだろう。激戦は必至だな。


「第一次攻撃部隊、攻撃開始!」


シノノメ中将の命令で、足の速い艦で構成された一次攻撃部隊の艦艇は前進を開始する。


湾曲防壁を目指し進軍する艦隊。固定式曲射砲から繰り出された砲撃が着弾し、闇夜の戦場を一瞬、明るく照らす。


「頼むぜ、ラウラさん!八岐大蛇は動けないが、固定砲台はまだ生きてる!」


「お任せください!発射の角度で着弾方向はわかりますから!撞木鮫の足なら躱せます!」


「次弾が発射されました!」


ノゾミの声と同時に戦術情報画面を横目で見たラウラさんは、見事に曲射砲の砲撃を躱してみせた。


躱したとはいえ近い位置への着弾。その衝撃が撞木鮫を震わせるが、怯えて震える弱兵はこの艦にはいない。


「そんなへなちょこ砲撃で、この撞木鮫を落とせると思ったら大間違いよ!どんどん来なさい!躱しきってあげるわ!」


軍帽を投げ捨ててエキサイトするラウラさん。舵輪を握ると人が変わるらしい。


「僚艦に被弾を確認!大破した模様!」


クソッ!最低射程を割り込むまでに何隻かはやられるな!


「怯むな!最低射程を割り込むんだ!」


「イエッサー!私が操舵している艦は、すなわち不沈艦!女のド根性を見せてあげるわよ~!」


人が変わったラウラさんは、次々と襲い来る砲弾の雨を予告通りに全て躱してのけた。


「艦長!最低射程を割り込みました!湾曲防壁までの距離800!」


待ちに待ったノゾミの報告!よし、今だ!


オレは無線機を取ってナツメに連絡した。


「ナツメ、ゴー!」


「任せて!」


「1,1中隊、出撃ハッチ前に移動!ラウラさん、壁際に着いたらハッチを開けてくれ!」


「はい、艦長!ご武運を!」




頼むぜ、ナツメ。うまくやってくれよ!



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