激闘編4話 赤毛のビーチャム
「ホーイホーイ!」
二階の窓からオレ達を見下ろす見張り役が
走りながら頭上を見上げるオレと目が合った。ツキがなかったな。……死ね!
耳から血を流しながら見張り役は倒れ、入れ替わりに現れた狙撃手がスナイパーライフルを構える。
チッ、オレと目を合わせない!……あの角度!狙いはビーチャム!
後ろを走ってるビーチャムの腕を掴んで前方に放り投げると、ビーチャムは空中で華麗に身を翻し、着地。そのまま慣性を利用して数回前転し、立ち上がりながらビルの入り口に滑り込んだ。
期待以上の身のこなしだぞ、ビーチャム!出来るコだ、おまえは!
狙撃手が排莢し、ライフルを構え直す前にオレも入り口に滑り込む。
すばやく立ち上がってビーチャムと拳を合わせ、聞いてみた。
「さて、ビーチャム。無事に第一関門は突破だ。次の一手はなんだろうな?」
「念真強度の高い隊長殿が全面に障壁を展開、階段を駆け上がる、ですか?」
「敵もそう思ってるだろう。だから射撃に有利な階段の上がり口あたりに伏せ、待ち構えている。レッスン1、相手の裏をかけ、を実践するぞ。」
オレは窓から手鏡を出して上方の安全を確認、ビルの壁に取り付けられている看板の位置も把握した。
ビーチャムを手で招き寄せて、爆竹を準備。火を点けて床に投げ、グリフィンカスタムにワイヤー弾をセット。
すぐさま窓から身を乗り出して壁掛け看板にワイヤー弾を撃ち、ビーチャムを抱えたまま壁を駆け上がる。
爆竹が破裂すると同時にビル内から銃声。……うん、練度はあって中の上までだな。
「撃つな!下には誰もいない!」
マシンガンを構えた兵士達に指示を出した奴だけがヘルメットを被ってない。コイツが
「bingo!オレはここだよ!」
窓から躍り込んだオレは狼眼で敵兵を始末にかかる。
「目を合わせるな!コイツは邪眼持ちだ!」
そう叫んだノーヘル野郎は古びたソファーの陰に隠れて難を逃れたが、全員逃れられる訳はない。
「ぎゃべっ!!」 「はひょあ!!」 「ひぎぃ!!」
……3人死んだな。
相対した敵と目を合わせるな、なんてのは難しい話だ。邪眼能力の始末の悪さはそこにある。
ソファーから身を乗り出してハンドガンを乱射してくるノーヘル野郎の射撃を障壁で逸らしつつ、距離を詰める。
一足でソファーを乗り越え、刀を振り下ろしたが、ノーヘル野郎はナイフで受けて、ハンドガンの銃口をオレの太股に向けた。
引き金を引く前にハンドガンを蹴飛ばして跳ね上げたが、追撃は叶わない。
ノーヘル野郎を援護すべく斬りかかってきたヘルメット兵士二人のマチェットをバク転して躱し、仕切り直し、と。
「ヘルメット2人は自分が殺ります。隊長殿はノーヘルを。」
ビーチャムはオレのサイドに立って敵兵と相対する。
「頼む。すぐにノーヘルを始末……」
3人殺して残りはヘルメット2、ノーヘル1、窓際の見張り役1……数が合わない!!
バイオセンサーオン!そこか!!
オレは咄嗟にビーチャムを突き飛ばした。空を切った見えない刃が火花を散らしながら床に突き刺さる。
なにもないかに見える空間に回し蹴りを見舞ってみたが、風切り音と共に伏兵は躱してのけた。
突き飛ばされたビーチャムは、もう立ち上がっていた。鋭い、ネコ科の猛獣のような目付きで、歪む人影を睨み付ける。
「カメレオンがいたみたいですね。隊長殿、ありがとうございます。」
「ビーチャム、下がってろ。中の上2人に上の下2人、
「荷が勝っていても、そのカメレオンには負けません。」
「ビーチャム、死んだら……」
「終わり、わかってます。でも
……バクラさんが、か。信じよう、バクラさんとビーチャムを。
「……すぐに仕留める。絶対に死ぬな!」
「イエッサー!
オレはノーヘル野郎とヘルメット2人を相手取り、ビーチャムはカメレオンを相手取る。
敵方にも異存はないらしく、マッチアップは成立した。
ビーチャムはオレのお古のオニキリーを構え、カメレオンは見えない
カメレオンは絞殺紐で刀を受け、巻き付けて絡め取ろうと試みたが、ビーチャムはそうはさせじと刀を引き抜く。
だがカメレオンの狙いは別にあった。絞殺紐を鞭のように使い、ビーチャムの足を取って投げ飛ばす。
……窓に向かって。そして自らも窓に向かってダイブした。
オレは3人の敵を牽制しながら窓に寄って、ビーチャムの姿を確認する。
二階から突き落とされたビーチャムだが、落下のダメージはないようだ。
軽量級で身は軽いし、膝の使い方も柔らかい。うまく着地の衝撃を殺したんだろう。
カメレオンは
鏡面迷彩は念真力の消耗の激しい。ビーチャムがサーモヴィジョンを装備していると踏んで、解除したのだろう。
「小僧、これで上官は助けちゃくれないぞ?」
「バカ。投げられてやったんだ。1対1で勝負する為に。」
「小僧っ子がほざくじゃないか。……縊り殺してくれる。」
「小僧じゃない。自分は女だ。……クスクス、鏡面迷彩が必要な訳だ。」
「なにが言いたい?」
訝しげな絞殺紐使いに、ビーチャムは嘲りの笑みを浮かべる。
「隠したいよな、そんな
……ビーチャムもすっかり口が悪くなってやがる。困ったもんだな。
「テメエはぶっ殺す!!」
どうする? オレも飛び降りてフルチン野郎を仕留めるか? いや、コイツらも飛び降りてきて乱戦になるだけだ。まずこの3人を仕留める!
「しかしおまえら、オレが窓の下をチラ見してんのに仕掛けてこないのな? ああ、あのフルチン野郎が一番の手練れで、ビーチャムを仕留めて戻ってくるのを期待してんのか。……ところでさ、オレはゾンビ映画が好きなんだけど、おまえらはどうよ?」
「現実じゃ死体は動かねえよ!アホ!」
「……それがそうでもない。」
オレはすっとスライドし、体の陰になっていた見張り役の死体が銃を発射した。
サイコキネシスって便利だねえ。
虚をついて懐に飛び込んだオレは中の上を一太刀で仕留め、返す刀でもう一人も仕留める。
上の下の振るうマチェットを刀の束頭で弾いて、突きの連撃、百舌神楽を見舞って確実に殺した。
すぐさま身を翻して窓辺に駆け寄り、階下へ身を踊らせる。
オレが着地した時に、ビーチャムは絞殺紐で後ろから羽交い締めにされていた。
「ビーチャム!」
「遅かったな!この小娘はもう死ぬ!」
「……死ぬのはおまえだ。フルチン野郎!」
ビーチャムの赤毛が毛針となってフルチン野郎を襲った。間一髪で直撃は避けたフルチン野郎だったが、右目に毛針が刺さり、片目を奪われていた。
「き、貴様ぁ!」
ビーチャムは素早く落ちた刀を拾って、片目を押さえたフルチン野郎に対峙する。
「見下ろすのと見下すのは違うって知ってる? 本物の強者は格下を見下ろして戦うけど、おまえみたいなのは見下して戦って、不覚を取るんだ。得物が絞殺紐という時点で詰んでいた。自分は念真髪使いだから。」
フルチン野郎を追い詰める言葉を発しながら、赤毛のショートカットだったビーチャムの髪が伸びてゆく。
「片目を潰したぐらいで粋がるな!まだ勝負はついてねえ!」
「じゃあ、勝負をつけよう!」
髪を振り乱しながらビーチャムは攻勢に出る。
刀と髪のコンビネーション攻撃をフルチン野郎はなんとか凌ぐが、凌ぐのが精一杯だ。
「ほらほらほら!凌いでるだけじゃ勝てないよ?」
「こ、このクソ
体捌きはフルチン野郎のが上なんだが、急に片目になった距離感の欠如と、格下と舐めてた相手の思わぬ切り札に動揺しちまってるな。オレは手を出す必要はなさそうだ。
フルチン野郎もシグレさんが師匠ならこんな事にはならなかっただろう。シグレさんの弟子は眼帯をつけた稽古でこういう事態に備えているからな。
ビーチャムは絞殺紐の巻き付きを刀で止めて、逆に念真髪をフルチン野郎の首に巻き付ける。
「何人も締め殺してきたんだろうけど、最後に締め殺されるのは自分自身だったね!」
「……ごぁ……クソがぁ……」
ゴキッと頸椎が折れる音がして、フルチン野郎の首が落ちた。
初陣を勝利で飾ったビーチャムは伸ばした髪で死体を放り捨てる。
「お見事。」
「隊長殿、自分は殺れました!」
人を殺していい笑顔、か。軍人ってのはホント、倫理の外にいるお仕事だぜ。
「剣技、体術はまだまだでも、念真髪を組み合わせれば補える。その技はバクラさんに習ったんだな?」
獅子髪の異名を持つバクラさんは同盟最高の念真髪使いだ。ビーチャムの才能を見抜いたんだろう。
「はいっ!バクラさんが、おまえは操作系念真能力に適正があるかもしれん、と言ってくださって!髪に変位型戦闘細胞を仕込んで、戦い方も教えてくださいました!」
高い反射神経を活かした鏡水次元流剣法に、獅子髪直伝の念真髪闘法……ビーチャムは思った以上の逸材だった。
「その技、ガーデンの訓練でなぜ使わなかった? 知っていればオレの対応も変わったんだぞ?」
「この技は実戦の場で、隊長殿に見て欲しかったんです。辺境基地のみそっかすだった自分を、見込みがあるって拾ってくださった隊長殿に。」
卑屈だった自分を変えたい、変わりたい。ビーチャムの願いはオレの願いだ。
強さを重んじ、強者を目指す。ビーチャムの志はバクラさんに通ずる。
そして自分を証明する為に、戦う。ビーチャムの魂はシグレさんと同じ。
……大したヤツだぞ、キンバリー・ビーチャム。
「任務完了だ、帰投するぞ。「赤毛の」ビーチャム。」
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