激闘編3話 二人一組
一時間ほどでオレとリンドウ中佐の謀議は終わった。
戦役後、ガーデンに監視役が二人やってくる。この二人を迎え入れる手筈は、オレが司令につけておく。
監視役と言っても出来レースだ。実際に監視なんかしない。二人の仕事は、オレが御門家に楯突くつもりはなく、なんとか照京に帰参したいと考えている人物だと証明する事だ。
照京で地位を得る事を至上の価値だと信じているガリュウ総帥は、オレの人物像を都合よく考え、見極めた気になるだろうとリンドウ中佐は言った。
ミコト様の統治する照京なら魅力的だけど、ガリュウ総帥の支配する照京なんざ御免だがね。
独裁者ってのは、自分の支配都市に値打ちをつけたがんだなぁ。理解出来ねえよ。
後はご機嫌取りしたい連中が動いた時の連絡方法なども詰めておいた。ガーデンにいるオレを暗殺するなんて不可能だが、業炎の街で預かってもらう予定のシズルさん達が心配だ。向こうから仕掛けてきたら、シズルさん達は黙っちゃいないだろう。
カムランガムランを出発した混成部隊は次なる戦地、ラマナー高原へ向かう。
高原の先にある機構軍所属の都市国家グラドサルを攻略し、その先にある要衝シュガーポットを目指すのだ。
北回りのルートでシュガーポットを目指す司令とシノノメ中将の進軍は順調なようだ。オレ達も負けてはいられない。
ラマナー高原に向かう途中のゴーストタウンで、機構軍の先鋒部隊と交戦したが軽く一蹴し、混成艦隊は廃虚の街で停泊する。
44口径を何発かもらったウォッカは医療ポッドで休ませ、オレはコンマ中隊のメンバーを食堂に召集、食事がてらの作戦会議を行う。
コンマツーの方はリックが小隊メンバーとフォーメーションの検討を行っている。しばらく口出ししない方がいいな。
「隊長、イワンの具合はどうなんですか?」
ウォッカが医療ポッドに入ったと聞いたシオンは心配そうだ。
「問題ない。44口径じゃウォッカの筋肉を貫くのは無理だ。念の為にポッドに入れさせただけさ。戦いはまだ続くからな。」
ゴーストタウンの地図を見ながら、昼間の交戦の戦闘レポートを作製中のリリスが、オレに見解を聞いてきた。
「ねえ少尉、敵はなに考えてるのかしらね? ゴーストタウンなんて遮蔽物の多い格好の戦場よ。もっと部隊を配備してたっていいんじゃない? 昼間の戦闘は手応えなさすぎだわ。」
「たぶん、嫌がらせの足止め。伏兵はまだいて、夜陰に乗じて襲ってくる。」
「ナツメの言う通りだ。機構軍が本当に守りたいのはグラドサルのはず、ここで足止めしている間にラマナー高原の陣容を整えるつもりだろう。」
「詳しい解説をお願いね、少尉。」
「ここにはオレ達に比べれば寡兵だが、さりとて無視は出来ない、というぐらいの兵を潜めているだろう。ゴーストタウンを無視してラマナー高原に進軍すれば、後背から奇襲か陽動を仕掛けてくる。ゴーストタウンに入って伏兵を叩くなら、ラマナー高原の主力が陣容を整え、罠を埋設する時間が出来る。実に合理的な戦略だ。」
「今のところ、敵の思う壺な状況ですね。隊長、どう打開すべきですか?」
「マリカさんは今夜中にケリをつける算段じゃないかな。そのつもりで……夜を待ってる。」
「夜を待つ、ですか?」
シオンは視線でオレに先を促してくる。
「並の部隊が相手なら思う壺だろうが、アサルトニンジャ主体の第一番隊には通じない。部隊丸ごと斥候要員みたいなもんなんだ。敵の隠蔽能力を超える索敵能力があるんだから、伏兵を探し出して叩く、単純な話さ。隠密性を重視した敵部隊は小部隊で散開し、潜んでいる。
「戦力分散、各個撃破のカモ、ね。」
状況を把握したリリスが、冷酷な目で微笑する。
「そういうコトだ。合理的戦術に見えても、相手によっては悪手に化ける。このゴーストタウンが敵先鋒部隊の墓場になるだろう。」
「おあつらえ向きの墓標になるわね。蜘蛛の糸に絡められた羽虫達の……」
詩吟を詠うように呟くリリスにナツメが協奏する。
「……私達に出会ったのが運の尽き。もう……逃げられない。」
そう、逃れられるものか。手練れのニンジャだけじゃない。うちには最強の索敵能力を持つホタルがいるんだ。
「いい解説だったぞ。だが一点、訂正だ。夜までは待たない。日暮れ前から仕掛ける。」
張りのあるおっぱいの素敵なお胸を張ったマリカさんが、コンマ中隊に命令を下す。
「カナタ、
「イエス、マム!」
急いで編成を考えないとな。
出撃前に敵は何度か奇襲を仕掛けてきたが、その都度追い返された。
接近を察知出来なかった訳じゃない。知った上で、あえて奇襲を受けていたのだ。
もちろん殺さずに撃退し、潜伏場所を教えてもらう。さらにホタルを中心にした索敵部隊が、かなり敵の居場所と動向を掴んでくれた。
大まかな数も潜伏場所も把握。……頃合いだ、確かに夜まで待つ必要はない。
「ラセン、最後のお客さんは帰ったみたいだね。」
出撃ハッチに部隊を集めたマリカさんが、奇襲部隊を撃退して艦に戻ってきたラセンさんに首尾を聞いた。
「手土産に調子がイマイチのハンヴィーをくれてやりました。毎回手ブラじゃ可哀想ですから。」
「死人怪我人が出なきゃいい。ポンコツハンヴィーぐらいで油断が買えるなら妥当な値だろう。」
「敵さんは間断なく襲い来る奇襲に、オレ達が心身共に疲弊してるとでも思ってるんだろうなぁ。」
「カナタ、近視眼のバカは目の前しか見ない。間近で見れば若木も巨木もおなじに見えるだろ? 少し離れてみないと全体像は見えないのさ。」
「なるほど、勉強になります。」
自分というフィルターを通して物事を見る以上、フィルターの性能を把握しとかなきゃいけない。
シグレさんも言ってた。まずすべき事は、己を知る事だ、って。
「リリス、テレパス通信でコマンドリーダーをやんな。ホタルの複眼で集めた戦術情報をアタックチームに伝達、いいね!」
「はいはい。いたいけな子供なんだけどね、私。」
ブツブツ言いながらホタルと一緒に指揮車両に乗り込むリリス。
いたいけとはよく言うぜ。イタイ気な子供じゃないか? ま、痛い子っぷりがラブリーなんだけどさ。
「コンマ中隊、準備はいいな!」
「イエッサー!」
オレに向かって一斉に敬礼するコンマ中隊のメンバー達。
「リックはノゾミ、ウスラはトンカチ、ナツメはリムセと組め。シオンはウォッカと組んで指揮車両護衛チームの援護だ。」
「カナタは一人で動くの?
単独行動ならナツメだけどな。オレにも相方はいるんだ。
「いや、オレも
「じ、自分がですか!」
「そうだ。自信がないならリリスと一緒に指揮車……」
「やれます!自分はやれますから!」
「ならよし。行くぞ!」
出撃ハッチが開かれ、水晶の蜘蛛達は狩り場へと散ってゆく。
(シオン、ナツメを軸に網を組んでくれ。それぞれの組の距離が離れすぎないように連携を保つんだ。網にほつれが出そうならシュリ隊にバックアップを要請。シュリには作戦前に頼んである。状況が急変したらオレに連絡、いいな?)
(了解。隊長は
(ああ、ビーチャムの力を見ておきたい。)
訓練でいい動きが出来ても、実戦で出来なきゃ意味はない。野球でいうブルペンエースはアスラ部隊じゃ、即、戦力外なんだから。無駄に死なせない為にも修羅場でどれだけ殺れるか、見極めておかないと。
「ビーチャム、こっちだ。」
「はいっ!」
ビーチャムを背後に連れて市街地を数ブロック移動し、ターゲットの近くまでやってきた。
倒壊したビルの影で、左腕に巻いた小型戦術タブの位置情報を確認。気分はプレデターだな。
事前の索敵情報では、あの廃ビルの二階に8人の敵兵がいるはず。
……8人、ちょっと多いか。いや、この程度の修羅場を抜けられないようじゃ、ビーチャムはアスラ部隊でやっていけない。
(ビーチャム、二階の窓だ。見えるな?)
(はい、見張りがいますね。)
(見張りはオレが潰す。だがビルの一階に駆け込むまで、一度は狙撃がくるぞ。オレの真後ろをついて来い。)
(イエッサー!)
(そこからはシチュエーションD、ケース2だ。)
(はい。屋内戦、多対一、人質ナシ、全員殲滅、……手段は問わず。了解!)
うん、面構えはいいぞ。期待してるからな!
ビーチャムの顔の前で指を立て、カウントをとる。3,2,1,ゴー!
オレとビーチャムは遮蔽から飛び出して、全速力で駆ける。
指揮官として部下を守る為に全力を尽くす。だけど戦場では己の力と覚悟が足りない者は……死ぬ。例外はない!
だからキンバリー・ビーチャム………戦って生き残れ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます