激闘編2話 ウソから出た実(まこと)


※作者より

投稿速度の早さから、お気付きの方の多かったでしょうが、この作品は他サイトで連載していたものに改修を加えたものです。今まで明記しなかった理由は、他サイトへ読者様を誘導するような事をしたくなかったからです。

この話で先行サイトに追いついたので、カミングアウトしました。

投稿速度を褒めてくださった方には申し訳ないです。それに暇な時に先の話を読みたかったとご立腹の方もおられるでしょうが、なにとぞご理解を。

まさかこんなに沢山の読者様に読んで頂けるとは思ってもおらず、特に投稿速度を褒めて頂く度に、事情を記すべきだと考えましたが、投稿前から決めていた方針は変えない事にしました。

ここまで書くのに1年4ヶ月かかっています。月あたり約19話、これが実際の投稿速度です。重ね重ね申し訳ない。詳しい経緯(言い訳)は近況ノートに書いておきます。







数多くいるであろう司令の被害者の一人となったリンドウ中佐は、食後の珈琲を飲んで落ち着きを取り戻し、オレ達との雑談に興じる。


「お師匠はん、ツバキはんは元気にしてはりますのん?」


「元気にしてるよ。あそこまで元気だと、悪い虫も寄りつかないだろう。」


ミコト様の護衛のツバキさんはリンドウ中佐の妹なんだよな。牛頭丸さんにも馬頭丸さんがいるし、いいよなぁ。


オレもお兄ちゃんって呼ばれてみてえ。リリスにそう呼ばれたコトはあるけど、ありゃ毒舌の一環みたいなもんだからな。なんの因果か、兄貴とか大兄貴とかって呼ばれてはいるんだけどさ。弟みたいな野郎共じゃなくて妹にしといてくれよ、神様。


嘆いても仕方ねえか。コトネの言う通り、人生ってのはあんじょういかへんもんどすわ。


「お師匠はん、わかりまへんえ? 蟲使いインセクトマスターにさえ、悪い虫が付いてしまうご時世どすさかい。」


シュリの紅茶にレモン汁を搾ってやってるホタルを、リンドウ中佐は意味ありげに眺めて笑った。


「フフッ、そうかもしれないね。」


「シュリは悪い虫じゃありませんから!」


「私はシュリ君の事だなんて言ってないよ?」


「……あの……その……私達は……」


おーおー赤くなりくさってまあ。


「ペアルックを着込んで言っても説得力がないなぁ。仲のよろしい事で。」


「からかうなよ!これはアスラ部隊の軍服だろ!」


「だが、裏地にお揃いの刺繍がある。」


「カナタ、見たのか!!」 「なんで知ってるの!!」


……あの、ハッタリだったんですけど……キミ達、もう結婚しちまえよ。


「羨ましいどすなぁ。ウチにもどっかにええ人いてへんやろか。おっぱいおっぱいとかわへん紳士が。」


立候補する前から釘を刺すな。痛いじゃないか。


「リンドウ中佐とかじゃダメなのか? 身分も腕前も確かな御仁だぞ?」


「ツバキはんとの対戦戦績は分が悪いんどす。ウチはまだ死にとうおまへんの。」


……ツバキさん、ブラコンだったのか。


「コトネ、妹はそこまで過激じゃないよ。兄想いの出来た妹ではあるけれどね。」


「お師匠はんの誕生日に手編みのマフラーを贈りはったやないですか。ぎょうさん手間をかけはった上に、縫い込まれた文言が……」


「待った!それは師弟の秘密にしておいてくれ!」


「よろしゅおす。袖の下次第どすけど。」


「……あのね、私はコトネの師匠だよね?」


「リンドウ中佐の弟子の教育に問題があったんじゃないですか?」


「カナタが言うなよ。シグレさんの弟子の中で一番の問題児じゃないか。」


シュリ君、わかってないね。師匠にとって、手間のかかる、バカな弟子ほど可愛いもんなんだ。


オレの言動行動は、シグレさんに可愛がってもらう為の深慮遠謀なのだよ。


あれ……あの二人……


オレの目に、妙に距離感の近いカレー教の教祖ラセンさんとアスナさんの姿が映った。


抜群のチームワークを誇る一番隊の三人は、速攻でヒソヒソ話に入る。


「なんだか妙に親しげじゃないか、あの二人?」


「昨日、カムランガムランの市街区を二人で歩いてるのを見たよ。ね、ホタル。」


「ええ、なんでもカレーの美味しいお店をアスナさんが案内してくれるのだってラセン副長は言ってたわ。」


つまりキミ達も二人で市街区に出掛けてたのね。まあ今は「しれっと参上、チャッカリマン」の話が重要だ。


「どう思うよ、二人の間に漂うあの空気。」


「いい雰囲気よね。」 「歳も近いし、これはひょっとして……」


「間違いのう、アスナはんはラセンはんをねろてはりますえ。ヒサメはんが言うてはったんよ。アスナはんはラセンはんみたいな殿方がタイプなんじゃないか、って。」


コイツぅ、恋バナと見るや電光石火で参加してきやがった。


「独身の私が言うのもなんだが、あれは恋する女の目だね。弟子の結婚式には皆勤賞の私の目に狂いはない。」


リンドウ中佐までヒソヒソ談義に参加してくる。……でも弟子の結婚式には皆勤賞ってちょっと悲しくないですか?


蟲使いインセクトマスター、昨日の逢瀬の様子を録画してないのか?」


「抜かりはないわ。二人がお店に入ったところから張り付かせておいた。」


「そんな事をしてたのか!ホタル、どうして僕には教えてくれなかったんだい?」


「後でシュリと二人で見ようと思って……」


「その上映会にはウチも寄させてもらいます。アスナはんはウチの直属の上官ですさかい、他人事ひとごととちゃいますし。」


野次馬根性を義務感に変換しやがった。コトネもガーデン向きの性格してやがんなぁ。


「そう言えば漁火いさりび中尉は火隠の宗主の血筋だったんじゃないか?」


リンドウ中佐のヒソヒソ声に、シュリがヒソヒソ声で応じる。


「よくご存じですね、中佐。ラセンさんは数代前の里長のご兄弟が創られた分家の主。遠縁ですが火隠の里長の血族なんです。」


そういやゲンさんがそんな事を言ってたな。実力もナンバー2だが、血筋もナンバー2なんだって。


「この間、みんなで火隠れの里に帰郷したでしょ。その時の事なんだけど、ラセン副長が帰るなり、お婆様達から早く身を固めてくれって矢の催促だったらしいわよ。マリカ様は聞く耳を持たないから、ラセン副長に火隠の血を受け継ぐ子を作って欲しいみたい。」


マリカさんはああだからなぁ。五月蝿い、の一言で話を終わらせそうだ。


「身につまされる話だね。竜胆家も年寄り連中が五月蝿いんだよ。御鏡家に次ぐ名門となったお家を絶やしてはならん、とか言ってね。」


名家は名家で大変なんだなぁ。………今、悪寒がしたけど。……き、気のせいだよな。


「お師匠はんはサッサと見合いでもしはったらよろしいんどす。どうせ一番大事なのは妹のツバキはんなんどすから、家柄目当ての政略結婚でないと、お新造しんぞはんが不憫やわ。」


コトネの爆弾発言を聞いたオレ達は、ドライアイスみたいに冷気を漂わせた視線をリンドウ中佐に送る。


シスコンの兄にブラコンの妹だぁ? そんな兄妹、横溝正史の小説にしかいないと思ってたぞ!


「違う違う!コトネ、人聞きの悪い事を言わないでくれ!」


「七夕の短冊に「妹が世界一幸せになりますように」って書きはったんは、どこのどなたはんどしたかなぁ?」


星座が違うのに織姫と彦星はあんのかよ。


「うぐっ!そ、そうだ!カナタ君に話があったんだ。い、行こうか!」


リンドウ中佐には便宜を図ってもらわなきゃいけないし、ここは助けとくか。


「そうですね。ホタル、「しれっと参上、チャッカリマン」の今後の動向には要注目だぜ?」


「任せて。いくらラセン副長でも、私の複眼からはのがれられないわ。」


オレとホタルは悪い顔で拳を合わせた。




リンドウ中佐の割り当てられた部屋に向かう途中、オレは照京軍の軍人達から好奇に警戒をブレンドされた視線をプレゼントされる。もちろんオレはラセン流奥義、しれっと顔で華麗にスルーしたけど。


部屋に到着し、椅子を勧められたので素直に腰を掛けた。手持ち無沙汰なので、テーブルの上で両手を組んで顎を乗せ、黙ってリンドウ中佐の言葉を待つ。


「すまないね。滅びたはずの八熾宗家の人間が生きていたとなれば、みな穏やかではいられないんだ。」


「一番穏やかではいられないお方から、新たな指示は出ましたか?」


「まだだ。だけど総帥が焦っている理由は分かった。カナタ君のボスはやり手だよ。「もう八熾一族を保護してしまった。私が責任を持って管理する故、八熾一族には手出し無用」そう言ってきていたらしい。」


「司令らしいやり方だ。承諾なしで既成事実を作ってしまって、強引に妥協させるつもりですね。」


「当然、総帥は気に入らないが、相手は財閥のオーナーで、同盟軍最強部隊を率いる、同盟創始者の娘。いつものように権力や武力でもみ潰せる相手じゃない。」


「それを知っての剛腕交渉ですよ。リンドウ中佐には悪いですけど、ガリュウ総帥とうちの司令じゃ役者が違います。」


「御門家の眷族としては無念だが、事実は認めざるをえないね。……ちょっと待ってくれ。本国から暗号通信が入った。なになに、「天掛カナタを秘密裏に処理する事は可能か」ときたか。返しの打電をしておくよ。「秘密裏には不可能。手段を問わず処理するのなら異名兵士30名を応援に寄越されたし。その場合、事の露見は不可避であると分析す」と。本国のお馬鹿さん達にも困ったものだね、ハハハッ。」


照京にはガリュウ総帥の機嫌を取る為なら、手段を選ばないバカが多いらしい。


「自分の暗殺計画を目撃した人間も珍しいでしょうね。」


「いい経験をしたね。私からのお願いなんだが、カナタ君には少し演技をお願いしたいんだ。」


「カメラ目線にならないようにやってみますよ。……父祖の地である照京に帰りたい。どうすればガリュウ総帥は我らの帰参を認めてくださるだろうか……こんな感じですか?」


「………カナタ君、本当に照京へ帰参してくれないか?」


「冗談はやめてくださいよ。悪ノリしただけじゃないですか。」


リンドウ中佐は真剣な眼差しで言葉を続ける。


「本気で言ってるんだ。カナタ君は察しがよくて腕も立つ。ミコト様の創る新たな照京に、流血は避けられない。悪弊を正すのに綺麗事だけでは済まない事は、カナタ君なら分かっているはずだ。」


「………」


悪弊に身を浸した者にとって、悪弊は悪弊ではない。親父の言う通り、既得権益を持つ者は利権を守る為ならなんでもやる。


「返事はいますぐでなくてもいい。でも、誰かがミコト様の刃にならなくてはいけないんだ。私はそうなるつもりだが、私だけでは不足だ。」


「………考えさせてください。少なくとも今は判断出来ない。」


「そうだろうね。だけど、カナタ君はミコト様に必要な力だ。ミコト様もそう仰っているし、私もそう思う。カナタ君に実際に会ってみて、期待は確信に変わったよ。」


「ありがとうございます。」




ミコト様の為の刃になれ、か。………爺ちゃん、オレはどうすればいい?



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