第十三章 激闘編 両軍の繰り広げる激闘の中、剣狼は猛り吠える

激闘編1話 退役後の夢 (妄想成分高め)



ギンテツにペンダントを託した翌日、目覚めたオレは整備中の不知火の自室から出て、ドッグに併設されている食堂へ向かう。


傷付いた装甲板を取り替え、破損した箇所の溶接作業に勤しむ整備クルー達が手を上げて挨拶してくれたので、敬礼を返しながら歩く。


今夜には次の戦地に向かって出撃する予定だ。街に出るなら午前中なんだが……やめておこう。


どうせまたトラブルに巻き込まれるのがオチだ。いくらオレが懲りない男でも、さすがに学習する。




簡素な作りだが広さは十分の食堂で、プラスチックトレイに朝食を盛ってゆく。


お、ケチャップギトギトのナポリタンがあるじゃないか。あからさまな人工着色の真っ赤なウィンナーが具材だってのもポイントが高い。これはキープしとかないと。


家事万能で料理上手のリリスでも、このノスタルジックなお味は出せまい。


なにせ安い食材で安っぽく作るのが秘訣の料理だからな。腕が上達するほど、見向きもされなくなってゆく悲しい料理なのだ。


……この戦争を生き残って、無事に退役出来たら喫茶店でもやろうかな。鉄板焼きナポリタンを名物にしてさ。


こっちの世界にもナポリタなんて都市があったし、ナポリタンって命名しても不自然じゃない。


ま、日本の鉄板焼きナポリタンは、ナポリから来たイタリア人が見たら、??ってなる代物らしいけど。


喫茶店かぁ、ホントにいいかもな。リリスは会計も出来るし、料理も上手い。シオンも料理は得意って言ってたしな。笑顔の可愛いナツメがウェイトレスで……うわ、スゲえ見たい。ナツメのウェイトレス姿。


いやいや、勝手に3人娘の退役後の予定まで決めちゃダメだって!


わかっちゃいるけど、妄想逞しいオレの納豆菌の暴走は止まらない。


いっそのコト、メイドカフェなんて……オレは天才か!シオン、ナツメ、リリスでメイドカフェなんかやったら、繁盛するに決まってるじゃん!


………ちょっと待て。じゃあオレはなにすんだ?


料理も会計も無理、じゃあウェイター? アホか、ナツメに運ばせろってモノを投げられるわ!オレだったら狼眼喰らわすわ!


……しかし……美人三姉妹がいる喫茶店? どこかでそんなの見たような……


それキャッツアイじゃねえか!!あの三人にパパのコレクションでも集めさせるつもりかよ!


だいたいな、犬鳴署の皆さんよ、キャッツアイのターゲットがハインツコレクションに偏ってるコトは見え見えじゃねえか!なんでハインツ関係をもっと徹底的に洗ってみないんだよ!おまえのコトだ、内海刑事!!


……はぁはぁ……でも内海俊夫って格好いいよな。記憶喪失になった恋人と再会して、また恋が出来る、とか言えるか、普通? どんだけ男前なんだよ。恋人が自分との思い出も含めて記憶を喪ってたら……オレにおなじコトが言えるか? 言えるワケねえ。……そもそも恋人がいねえんだけどよ。


「カナタはん、妄想タイムは終わりはりましたん?」


「妄想の始まりから終わりまで、起承転結みたいに見てとれるって、ある意味才能だと思うわ。そう思わない、シュリ?」


「うん。ハタから見てると滑稽な一人芝居にしか見えないけど。」


妄想タイムの弱点は周囲が見えなくなるコトにあるらしいな。


「……人生とは、脚本なきお芝居なんだよ。オレ達は与えられた役割を演じる無名役者にして主役、と言ったところさ。」


「格好ええ事わはってるつもりかもしれまへんけど、Oh my god you know、としか言えまへんえ?」


「オーマイゴッドユーノウ? コトネ、僕には意味がわからないんだけど?」


「シュリ、コトネは「おまえが言うな」って言いたいのよ。」


我が意を得たりと微笑むコトネ。アスラ部隊にゃ性悪女しかいねえらしい。




パイプ椅子に腰掛け、4人で朝食を取るコトにした。


「コトネって声真似だけじゃなくて剣術も達人だったんだね。ビックリしたよ。」


「インセクターを通して見ていたけど、覇式舞踊を舞ってるみたいに華麗な動きだったわ。円を舞うような闘法だったから円舞曲って言うべきかしら。」


シュリは王の平原キングスマット会戦でコトネと肩を並べて戦ったらしい。司令が引っ張ってくるぐらいだからそれなりに使うだろうと思ってたけど、シュリを驚かせるレベルの使い手だったか。


それにしても円を舞うような闘法、か。たぶんコトネは……


「コトネは円流を使うんだな。」


「円流? カナタ、それってどんな流派なの?」


彼女に蘊蓄うんちくを垂れるのは彼氏の仕事だと、シュリが説明を始める。


朽木白円くちきびゃくえんが創始したと言われる古流剣法だよ。円の動きを体現する事を重視し、弧を描く払い技にも特徴がある。」


「反面、突き技はあまり使わない。開祖白円曰く、「円こそ人、人こそ円なり。角面かどめを落とし、技と心を鍛錬する先に、理合りあいの道は開かるる」だとさ。」


「シュリはんもカナタはんも勉強家でなにより。こう見えてもウチ、円流の皆伝は認可されてますんよ。」


「弟子入りさえも難しいって言われてる円流の皆伝は凄いね。でも突き技を軽視するのはどうかなぁ? 火隠流忍術では突き技は重要視されてるよ。ナツメがよく使ってる鎖抜きを見ても、その有用性はわかると思うけど。」


鎖抜き、ナツメの得意技だ。鎖骨を縫うように心臓を突き刺す、一撃必殺の殺し技。


抜群の跳躍力を持つナツメと特に相性がいい。


「軽視してるんやありまへんえ。使うべき時に使うだけなんどす。非力な者でも威力の出せる突き技だけに、そこへ至る道筋を工夫すべし、が円流の教えなんどす。」


「なるほど、安易に突き技に頼るな、か。勉強になるな。今度、僕とホタルにも教えてくれないか? コトネの円流を。」


「ウチの円流はまだ他人様に教えるような大層なもんやおまへんよ。でも円流を学びたいなら今どすえ? ウチのお師匠っしょはんが来やはって……」


「コトネ、免許皆伝の意味は知っているだろう? いつまでも門弟気分が抜けないようじゃ困るよ。」


にこやかに笑いながら、リンドウ中佐はトレイをテーブルの上に置いた。


「お師匠はん!もう、朝ご飯を済ませてから挨拶に行こ思とったんに!」


「失礼するよ。私は照京軍中佐、竜胆左内だ。コトネは私の弟子でね。君は「蟲使いインセクトマスター」の灯火少尉、それから君が……」


「僕に異名はありません、空蝉修理ノ助と言います、リンドウ中佐。」


「……だが芸はある。違うかな?」


さすがは円流の師範、異名のあるなしには惑わされないか。


「どうでしょう? ご想像にお任せします。」


シュリ、眼鏡キラーンはやめろ、眼鏡キラーンは。芸を持ってますって教えちゃってるかんな、それで。


「お師匠はん、悪目立ちが過ぎはるから、もうご存知やと思いますけど……」


「カナタ君の事は知ってるよ。昨夜、市街区で会ったからね。」


「それやとお師匠はんもトラブルに巻き込まれはったんちゃいますのん?」


「トラブルに巻き込まれたのはリンドウ中佐と別れた後だよ!」


悲しくなるのはわかってたが、生まれながらのツッコミ体質で思わずツッコんでしまう。


「……やっぱりトラブルには巻き込まれはったんね……」


……ホントに悲しくなってきた。……話題を変えよう。


「リンドウ中佐、よくコトネを手放す気になりましたね。円流の免許皆伝に、替えの利かない特技まで持ってる異名兵士を。」


リンドウ中佐はオレの質問には答えず、黙ったまま目玉焼きに醤油をかけて原型を留めなくなるまでグッチャグチャにかき回す。


これは……地雷を踏んだみたいだ。そーだよな、普通に考えりゃコトネを手放す訳がない。


ドジと地雷を踏んだオレに、女二人が4つの目で非難の視線を送ってきた。てへっ、メンゴメンゴ♪


「中佐、そこまでかき回すなら目玉焼きではなく、スクランブルエッグを取ってくれば良かったのでは……」


空気読め、友よ。中佐はイラついてんだよ。こめかみがピキピキしてんのが見えないのかよ。


おまえだってリリス相手にしょっちゅうやってる仕草じゃねえか。


「………好きで………好きでコトネを手放したとでも思うのかい………可愛い弟子で、数少ない頼りになる戦力、殺伐とした隊内を癒してくれる琴の音色、皆の前で披露してくれる舞踊は明日への糧、……そんな……そんなこだまコトネを手放したい訳がないだろう!!」


あ~あ、爆発しちゃったよ。戦犯はオレじゃなくてシュリだかんね。


「……あの、リンドウ中佐。うちの司令は少し強引なところがあって……」


菩薩キャラのホタルがなんとかフォローしようとするが、いかなる守備の名手であろうと、場外ホームランはキャッチ出来ない。


「少し!? アスラ部隊と我々では、少しの意味合いが違うのかな!ほとんど恫喝、いや脅迫されてコトネを持っていかれたんだ!天神様も何をお考えなのか!あんなアマ……コホン、女性を財閥の総帥として産まれさせるだなんて!」


この世界じゃ天照大御神あまてらすおおみかみではなく、天照神アマテラスなんだよね。最高神ではなく、あまねく大地を照らす光の神様で、大神の一柱って位置付け。もちろん照京では一番崇められている神様だ。リンドウ中佐に天照神の加護はなかったみたいだけど……


「お師匠はん、アマテラス様も気まぐれを起こしはる事もありますよって。女性神であらせられる事ですし……」


女性だから気まぐれでもいいとかいうのはどうかなぁ。……いや、オッケーだ。気まぐれはナツメのチャームポイントだもんな。


「……コトネ、気まぐれに翻弄された私の立場はどうなる?」


「現実はあんじょういかへんもんどす。お師匠はん、やくたいもない事を言わはらんで、おきばりやす。」


「通訳しとこう。「現実はままならないものです。師匠、無益な事を言っていないで、頑張りましょう」だ。」


「カナタ君!通訳なんていらないから!ここにいるのは全員覇人じゃないか!」


わかってますとも。よしんば方言がわかんなくても、翻訳アプリもありますし。




じゃあなんで翻訳したかってーとですね、切れ者がキレる姿を見たかったんです。メンゴメンゴ♪



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