戦役編24話 暗殺屋ギンテツ
「少尉ってホントに面倒事に事欠かないわね。退屈しのぎで少尉にくっついてきたけど、イベント満載で食傷気味よ。少しペースを落とさない?」
「天才頭脳を駆使してペースダウンの方法を考えてみてくれ。」
タクシー乗り場へ歩きながらそんな会話をしていると、またしてもトラブルに出くわした。
タクシー待ちをしている人達に割り込むガラの悪い連中、始末に悪いコトに機構軍の軍服を着てやがる。
(どうするの?)
(一般人に絡んでんなら見過ごしには出来ないが、順番待ちへの割り込みだからな。放っておくさ。)
(こういうのって、腹立つんだけど!)
(オレもだよ。でもトラブルは起こしたくない。前科が多すぎなんでね。)
……オレのささやかな願いを神様は聞く気がないらしい。
割り込みを咎めた青年に、チンピラ軍人達が絡み出したのだ。
「く、苦しい。手を離してくれ。」
「離してください、だろう!軍人に対する敬意ってもんがないのかテメエは!」
(少尉、一般人に絡んでるなら見過ごしには出来ない、だったわね?)
(そういうコトだ。いくぞ。)
至極真っ当な指摘をしただけのお兄さんの胸ぐらを掴み上げてんじゃねえぞ、チンピラが!
「そこまでそこまで。そのお兄さんの言う通りだろ? ちゃんと列に並びなよ。」
「ああん、なんだテメエ!俺達を誰だと思ってやがんだぁ?」
「少尉、コイツなんて言ってるの? 私、チンピラ語はわかんないから翻訳してくれない?」
辞書の存在する言語を全てマスターした超マルチリンガルのリリスと言えど、辞書のないチンピラ語は専門外らしい。
「リリス、チンピラ語じゃなくてゴキブリ語じゃないかな?」
「2億年も前からこの星にへばり付いてる先輩だったのね。失礼♪」
チンピラ軍人のただでさえ低そうな沸点は、あっさり限界に達したようだ。
「お呼びじゃねえんだ、同盟のボンクラが!死にたくなきゃあすっこんでろ!俺が今まで何人の兵士を殺ってきたか知ってるか? 18人よ、18人!」
「兄貴は売り出し中のホープなんだぜ!」 「アタシだって、もう10人は殺ってるんだよ? ビビったかい?」
チンピラ軍人三人組か。……チンピラ軍人三連星、機構軍バージョンかな?
こんなヤツらはどうとでも出来るが、ここは中立都市だ。怪我はさせない方がいいな。
「あらあら、パーとビッチを合わせても、たった28人じゃない。累計したって前の作戦で少尉が殺した数にも足んないわ。」
……オレはどれだけ人を殺してきたかを数えてない。嫌気が差すだけだからだ。
「あれ? あ、兄貴、コイツの軍服……アスラ部隊なんじゃね?」
グッジョブだ、チンピラ2号。名前にビビってくれれば手間が省ける。
「アスラ部隊だからなんだってんだぁ? そんなもんにビビる俺様じゃねえ!」
「名を上げる好機じゃないのさ。やっちまおうよ。」
機構軍の三連星もやっぱりチンピラまがいかよ。……女がいるから三連星じゃないな。
「おう。アスラ部隊をブチのめしたとなりゃ箔が付くってもんだ。」
やれやれ。猿顔の2号みたいに名前にビビってくれよ、面倒だな。ん、猿顔の2号?
「やめとけよ、頭がパーマン。悪いコトは言わんからブービーとパー子を連れてさっさと消えろ。それから今度街に出る時は頭脳労働担当のパーやんも連れてこい。」
「なに訳のわからねえ事抜かしてやがる!切り刻まれてえか!」
光り物を抜きやがったか。しょうがねえなぁ。
頭がパーマンは右、左と高速でナイフを持ち替えながら威嚇してくる。
「ヘッヘッヘッ、オレのナイフ捌きは部隊一って言われてるんだぜ?」
アホか。おまえのナイフ捌きなんかバイパーさんに比べりゃガキの遊びだ。
そのバイパーさんが言うには、「ナイフの高速持ち替えなんか雑魚しかやらねえ」らしいぜ?
実際そうだよな。得物を手放してどうすんだよ!
オレが蹴り上げたナイフをリリスがサイコキネシスで側溝に飛ばしていっちょ上がり、と。
「誰のナイフ捌きが部隊一だって? えらいレベルの低い部隊にいるんだな。ひょっとして部隊ってのは幼稚園のコトか?」
「保育園なんじゃない? 頭の出来から考えても。」
パーマンの影でパー子がホルスターに手を伸ばした!チッ、怪我させんのは仕方がねえな!
だがパー子はホルスターから銃を抜けなかった。背後から音もなく忍び寄ってきていた男が腕を押さえたからだ。
「なにしやがんだい!」
「それは俺の台詞だ。街中でチャカ振り回すとか正気か、おい?」
「テメエも機構軍の軍人だろ!同盟の犬の肩を持つ気か!」
パー子の腕を押さえた奴も機構軍の軍服を着用していた。かなり着崩してはいたが。
「コイツは犬じゃなくて狼らしいぞ? おまえらみたいな雑魚は
「誰が雑魚じゃコラァ!」
着崩れ軍人はパーマンのパンチを開いた拳で受け止めて、握り潰す。ゴキゴキッと骨の砕ける音にギャラリーは顔を
「まだやるか? 中立都市でのいざこざは御法度だが、身内の喧嘩はそうでもない。」
拳をグシャグシャに潰されて、全部の指が変な方向に曲がったパーマンは戦意を喪失したようだ。
危なっかしい足取りで、転がるようにタクシー乗り場から逃げていく。その背中を慌てて追いかける取り巻き二人。
パーマンチーム御一行のご退場~。逃げ帰ってからバードマンに教育し直してもらえ。
「ギンテツ、覚えてやがれ!このままじゃ済まさねえからな!」
遠くに離れてから遠吠えかよ。どこまで負け犬なんだか。……ん? 今、ギンテツって呼んだな。
「おまえらみたいな雑魚助など一々覚えていられるか。弱い阿呆は早死にするだけだ。」
「助かったよ、
「……俺を知ってるのか、剣狼?」
「さっきのアホ共と違って、異名兵士名鑑は読んでるからな。」
「そうか。ヤクザ上がりの俺が言うのもなんだが、近頃の兵士はヤクザ以下だな。」
「社会のゴミにゴミ扱いされたんじゃ、アイツらも立つ瀬がないわね。」
どこにいようと誰にだろうと、毒を吐いちゃうちびっ子だなぁ。困ったもんだ。
「よせ、リリス。おかげで面倒を起こさずに済んだんだ。毒を吐かずに礼を言うべきなんだぞ。」
「礼などいらん。
「……古き良き任侠道ってヤツか。今時流行らんぜ?」
「堅気に危害が及びそうになったから、手を出したのは剣狼もだろう。」
「堅気うんぬん以前に、オレはああいう手合いが二番目に嫌いでね。」
「一番はなんなんだ?」
「意識高い系のラーメン屋。」
「ああ、「チャーシュー麺一つ」って頼んだら、「注文はこっちが聞いてからにして!」とかキレる奴だな。」
いるいる。そんな感じで職人気質を勘違いしてる店主って。
「そうだ。それでラーメンを食いながら、連れとお喋りしてたら……」
「……怒り出す。「こちとら精魂込めてラーメン作ってんだ!食べるのに集中出来ねえなら出てってくれ!」なんて青筋立てながら怒鳴り散らしそうだな。」
そうそう。コイツ、秀麗な顔立ちのイケメンのクセに、結構ノリがいいな。
「お冷やを頼んだら、「水はセルフサービス」って書いてある張り紙を、ネギを切ってる包丁で差し示すってのもあるわね。」
「そんなのに会ったら迷わず殺す。たとえ
暗殺屋の異名を持つこの男なら、マジで殺りかねないな。
「半殺しで止めとけ。ラーメン屋に半チャンセットはつきものだろ?」
「愛想だって味のウチだ。どんなラーメン作りの名人でも、客を罵倒する権利はない。客商売を舐めてる輩には行儀を教える必要がある。
「少尉、あそこにラーメンの屋台が出てるわ。ラーメン話なんかしてたから、無性に食べたくなっちゃった。匂いからしていい仕事してる屋台よ。行きましょ。」
「いいねえ。」
「おい待て。先に見つけたのは俺だぞ。」
「匂いに気付いただけでしょ!先に見つけたのは私!」
「一緒に食えばいいだけだろ。奢ってやるよ、ギンテツさん?……アンタの次の台詞は「敵の施しは受けん」だ。」
「敵の施しは受け……ハッ!」
……ジョセフごっこに付き合ってくれるコイツって、実はいいヤツなんじゃね?
「施しじゃない。さっきの件はオレの中では借りなんだ。だから今、借りを返しておきたい。でないと……」
「おまえの次の台詞は「戦場で会った時に心置きなく殺り合えない」だ。」
「戦場で会った時に……ハッ!……なんてな、わかってるじゃねえか。そういうコトだ。」
ジョセフごっこが気に入ったみたいだな、コイツも。
「……ゴチになるか。貸し借りナシで殺り合う為にな。言っておくが……」
「馴れ合うつもりはない、だろ? オレもそうさ。」
「決まりね。」
こうして呉越同舟が成立し、オレ達はラーメン屋台の暖簾をくぐる。
ヤクザ上がりの異名兵士、「暗殺屋」ギンテツ、か。………敵と酌み交わす酒も面白そうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます