戦役編20話 フェチシズムの宴
シュリとホタルの説教タイムは持ち時間一時間づつで、前後半の二時間に渡って続いた。
もちろん双方に加勢もありだ。右左から絶え間なく襲ってくるお小言の恐怖をオレは存分に味わった。
鳳凰幻魔拳を1ダースほど食らったような精神状態にされたオレは、刀を杖代わりにしてなんとか自室へ辿り着く。
模様替え機能を使ったオレの自室は畳敷きだが、本畳ではなく琉球畳になっている。こっちじゃ琉球畳とは言わないんだろうけど。
琉球畳ってのは半畳分の大きさで、
空いた足元は掘り
「おかえり、変態少尉。」
「フェチシズムの権化が帰ってきたの。」
「…………」
シオンさん、お願いですからなにか喋って。罵倒される方がまだマシです。
「ま、待ってくれ!これには語るも涙、聞くも涙の深い深いワケがあってだな……」
「不快不快ワケ、ですか?」
シオンさんの絶対零度の視線は久しぶりっすね。出逢った頃を思い出します!
「うまい!山田くん、シオンさんに座布団1枚……」
「ナツメ、座布団を敷いて。」
「あいあ~い。」
「座布団1枚、用意しました。座ってください。」
「え、え~と、あのですね……」
「………座って。」
声も目も据わってるシオンさんに逆らえば死ぬ。オレのカンがそう告げてる。
「はい!ただいま!」
オレは無駄な抵抗は諦め、無条件降伏を選択した。
無条件降伏を選んだコトは正解だったみたいだ。
ひたすら謝り倒すコト10分、無事にシオンさんのお怒りは解けた。
リリスとナツメに至っては「オレが変態なのは織り込み済み」という理由で、怒ってさえいなかった。
「オレの言動行動ってそんなに変態的かなぁ?」
「言葉は正確に使いなさいよ、少尉。「的」はいらないわ。」
「カナタは「変態そのもの」って言うべきなの。」
はいはい、そーでやんすか。
「カナタがお説教されてる間に、シズルの事は姉さんに報告しておいた。」
そっか。シズルさんのコトはマリカさんには報告しとかなきゃだよな。下着で頭がいっぱいで失念してたぜ。
「ナツメ、二人にも話したのか?」
「話したけど、マズかった?」
「いんや、手間が省けた。シオン、リリス、どう思う?」
「隊長のトラブル体質には限度がないという事実に驚愕しました。」
「正妻として言わせてもらえば、行く先々で女を引っ掛けてくるのはいい加減にして欲しいわね。」
「真面目な意見を聞きたいんですけどぉ……」
ナツメに意見を聞かないのは差別しているワケじゃない。ナツメは皆に報告した時点で自分の仕事は終わったとばかりに、ラセンさんオススメの激辛カレー煎餅をはみはみしている。
そう、ナツメはな~んも気にしちゃいないし、考える気もないのだ。
「隊長が八熾宗家の生き残りだという事自体が初耳でした。副長として寂しい限りです。」
「ごめんごめん。まさかこんなコトになるなんて思ってもみなかったからさ。」
「シオン、少尉が「オレは高貴な生まれでござい~」なんて自分語りするような人間じゃないのはわかってるでしょ。そこんとこで文句を言うのはどうかと思うわ。」
「……そうね。真面目に意見を言わせてもらえば、隊長は八熾一族をまとめてあげるべきです。血統に価値を見出す人間は存在しますし、それを全否定する気にはなれません。重視されるのが血統だけに、余人を以て代え難し、という事情もありますから。」
「ちょっと意外だわ。シオンってわりかし守旧派だったのね。」
リリス、それには事情があるんだ。
「シオンのお婆ちゃんは茶道の家元の娘だったんだよ。だから結婚する時は大変だったんだってさ。家元の家系だからこそ、皆が団結して支える。そういう事例を経験してるから、血統にこだわる人達の気持ちも理解出来るんだ。」
「はえ? じゃあシオンって茶道の家元の孫なの?」
ナツメが顎を炬燵の上に乗っけたまま、シオンを上目遣いで眺める。やっぱ意外だったか。
「ええ。漢字で書けば紫音・イグナチェフよ。グランマが付けてくれた名前なの。」
「むう。艶やかおっぱいなのはクォーターだからかぁ。」
つ、艶やかおっぱいなんですか!シオンさん!
「ナ、ナツメ!それマジで!マジでなの!?」
「マジマジ。一緒にお風呂に入った時に揉みしだきまくったから間違いないの。」
な、なんて羨ましい!
「隊長!いやらしい顔はやめてください!」
「ねえねえシオン。本畳じゃないけど畳もあるし、お茶を点じてみてくれない? 出来るんでしょ?」
リリスは卓下のボタンを押して、電磁調理器をスタンバイさせた。
「グランマに習ったから、出来なくはないけれど……」
「茶道に興味はないけど、美味しい抹茶には興味あるの。」
甘え上手のナツメさんがゴロゴロとシオンにしなだれかかる。
「そうね。久しぶりに点ててみようかしら。隊長、抹茶を取ってきます。」
「わかった。お湯を沸かしておくよ。リリス、冷蔵庫につるかめ屋の栗羊羹がある。切り分けてくれ。」
「オッケー。」
「リリスリリス!私には栗がいっぱい入ったトコ頂戴!」
「はいはい、わかってるわよ。」
こうした話の流れでシオン主催のお茶会が開催される運びになった。
「粗茶ですがどうぞ……」
「結構なお手前で……」
簡単な茶道の基本を教えてもらったオレ達は、見よう見まねで茶道の作法っぽく抹茶を飲む。
「ナツメ、一気飲みはやめなさい。それがNGなのはオレでも知ってる。」
「美味しいから仕方ないの。シオン、お代わり。」
「しょうがないわね。はい、どうぞ。」
「ありがと~。和服も似合ってるね。」
シオンは気分を出す為なのか、和服に着替えて戻ってきたのだ。無論、似合っている。
……あれ? 和服は和服でいいんだ。
「和服って由来はなんだったっけ?」
「和の心を体現した装束だから和服。少尉は覇人のクセにそんな事も知らない訳?」
「そうだったそうだった。シオン、ホントに似合ってるよ。」
少し顔を赤くしたシオンは照れくさそうに微笑んだ。
やっぱ金髪碧眼の外人さんが和服を着こなしてる姿って萌えるよなぁ。
「ボン、キュッ、ボンだと和服は着辛いはずなんだけど………ははぁん、腰にタオルを巻いたわね? 巨乳デカ尻の着こなし術と見た!」
なぁリリス。素直に褒めたらあかんの? なんでおまえはなんでもかんでも
「し、知りません!それよりさっきの話だけど、リリスはどう思うの?」
「八熾一族の話? 放っときゃいいと思うわ。なんで少尉がそんな懐古主義者達に振り回されなきゃなんない訳?」
「そうは言うけどな、放っときゃ機構軍に走りかねないんだぞ?」
「シズルって人は中隊長並に
ナツメがそう言うとリリスは考え込んだ。戦闘におけるナツメの眼力には一目置いているのだ。
「ナツメがそう言うならそうなんでしょうね。マリカに頼んで業炎の街に預けるのがいいんじゃない?」
「そうだな。問題は照京のガリュウ総帥はいい顔をしないだろうってコトか。猜疑心の強い独裁者にとっては反乱予備軍にしか見えないだろう。」
「反旗を翻される覚えもある話です。隊長、そこは司令に話をつけてもらうしかないように思いますが?」
「それしかないな。また貸借対照表の貸し付け欄が増えちまうが……」
「そんなの踏み倒せばいいのよ。バカ正直に返そうなんて思わないでいいの。だいたいイスカの貸し付け方なんて悪徳高利貸しのそれなんだから!」
「おいおい、リリスさん……」
「少尉、いい事を教えたげるわ。お金なんてね、借りた者勝ちなのよ。返ってこなくて困るのは貸し主の方。そうでしょ?」
そりゃそうかもしんないけどさぁ。
「……おまえのメンタルってマグナムスチールで出来てるよな?」
「偏屈なお祖父様と欲深の父親にアル中の母親を持てば鋼のメンタルにもなるでしょ!私が深窓のお嬢様だったら、とっくに発狂してるわよ!」
………確かに。
「……ふふっ、私達って事情は違えど、似た者同士なのでしょうね。」
シオンがしみじみと呟き、ナツメが頷く。
「うん。だから傷を舐め合って生きていこ?」
「はん!私はゴメンよ、そんな生き方!」
「ほほう、そんな意地を張りますか? ナツメ、ガチの舐め合いをみせてやろうぜ?」
「オッケー、いっかいリリスを舐め回してみたかったの!」
オレがリリスをがっしりホールドすると、ナツメがリリスのほっぺに舌を近付ける。
「ちょっ!!マジでやめなさいってば!少尉にナツメ、なに考えてるのよ!」
「うふふ、美味しそう。……いただきま~す。」
「いただきますじゃない!……やんっ♡ こ、こらぁ!雪ちゃんみたいにペロペロしないでぇ!ああん♡ 耳たぶ噛むのはナシぃ!」
「隊長、ナツメ!変態行為はやめてください!」
この期に及んでまだ優等生ぶるか!おしおきだな!
「よしナツメ。オレがリリスを舐める!シオンにかかれ!」
「イエッサー!」
「ひゃあ♡ ナ、ナツメ!やめなさい!いやぁん♡」
うひょお!和服がはだけていい感じだぁ♡ いいぞぉ、ナツメ。いけいけゴーゴー♪
おっと、見惚れてないでオレもリリスさんをペロペロしないとな。
オレとナツメのフェチシズムの力をみせてやるぜ。覚悟しろぉ♪
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