戦役編13話 無法鎌VS剣狼
「いくぜ、バイケン!」
「かかってこい、若僧!」
バイケンはオレの斬撃をガッチリと鎖で受け止め、鎌を素早く振って反撃してくる。
五の太刀・啄木鳥で鎌を弾いて一の太刀・平蜘蛛に繋いだが、バイケンは飛び退って躱すと同時に分銅を投げつけてきた。
これを刀で受けちゃダメだ。ヤツの狙いは刀を鎖で絡め取るコトにある。
オレはバク転して分銅を躱した。双方、後退したので距離が開く。……おそらくバイケンの狙い通りに。
遠距離の戦いなら、得物が鎖の自分に分がある。そう踏んでいるのだろう。
距離を取ったまま、しばしの睨み合いが続く。……考えろ。コイツをどう崩せばいい?
ダブルモヒカンも鎖が得物だったが、バイケンの鎖の扱いは格段に上だ。
おそらくバイケンが教えたんだろうが、ダブルモヒカンは筋のいい弟子ではなかったってコトだろう。
見るからに頭と要領の悪そうなヤツだったし。
「お見合いしにきたのか、剣狼?」
「嫁みたいなのがもういてな。見合いの必要はない。」
サイコキネシスでバイケンの顔めがけて砂を飛ばし、突進する。
そこから何合か打ち合ってみたが、やはり切り崩せない。思った以上に出来るな!
襲い来る分銅に目を奪われがちだが、風刃流の怖さは鎖を自在に操る汎用性の高さにあると見た。
攻撃に牽制、腕に巻き付けて盾にも使うし、隙を見せれば締め技にも使ってくる。
間合いが近ければ鎌、離れれば分銅、ならば中間距離ならと試みてみたが、バイケンは鎖の長さを調節して対応してくる。
……正直、付け入る隙がねえな。最強の弟子だったと豪語するだけのコトはある。
「お館様、助太刀いたします!」
ヒャッハーを片付けたシズルさんが駆け寄ってくるが、手で制した。
「一騎打ちだ、手出し無用!」
「見栄を張ってねえで助太刀してもらったらどうだ? 分が悪かろう?」
本気で言ってねえだろ、それ。助太刀してもらっちゃマズいから、オレに見栄を張らせたいんだよな?
「探りを入れてただけだ。そろそろ本気でいくか。」
「全力を出して及ばなかった奴ほど、これから本気を出すって言うもんだぜ?」
それには同意する。けどな、まれに例外が存在するってのを教えてやるよ!
「グッ!……その目は邪眼か!」
超反応で鎌で防御するあたり、やはり手練れだな。それでも……警戒はせざるを得まい?
目を見ず、足の位置を頼りに分銅で攻撃してくるあたり、場数も踏んでる。
足の動きを頼りにするならこうだ!オレは跳躍して、空中からバイケンに襲いかかった。
オレを見ざるを得なくなったバイケンに狼眼を放つが鎌で防御される。だがこれで鎌は封じたぞ!
片手で打ち下ろした鷹爪撃は腕に巻いた鎖でガードされた、そこまでは想定通り。
すぐさましゃがんで、あらかじめ抜いておいた左手の脇差しで、バイケンの右足の甲を地面に深く縫い付ける。
バイケンも避けようとはしたのだが、反応が遅れた。刺しにいくと同時にサイコキネシスで地面に足を固定しておいたからだ。
しゃがんだオレの頭上から振り下ろされた鎌は後転して躱し、そのまま立ち上がって対峙する。
足を縫い付けられても慌てて抜きにはかからないか、……だろうなとは思っていたが。
バイケンは油断なく鎖鎌を構えながら、ニヤリと笑う。
「当てが外れたか?」
「まあね。機動を封じただけでよしとしておくさ。」
「ここからの詰めが難しいんだぞ? 後学の参考に聞いておこう。今のはなんという技だ?」
「六の太刀・破型、
「返礼に俺も見せてやろう。風刃流・
ヒュンと牽制の分銅が飛んできたが、半歩下がって躱す。
波が引くように戻った鎖が巻き付いたのは、足に突き刺した脇差しの柄にだった。
「フンッ!」
巻き付けた鎖ごと、脇差しを引き抜くバイケン。……やるな、隙を見せずに影縫いから脱出しやがった。
その時、睨み合うオレ達の背後で行われている戦いに動きがあった。
「キャアアァァ!!」 「貴様よくも!」
穂先で串刺しにした半裸の死体を無造作に投げ捨てながら、リックは生き残った姉ちゃんを威嚇する。
「俺にMっ気はないんでな。鞭でシバかれんのにゃもう飽きたんだよ!」
2対1でもリックが優勢だったのに、タイマンで勝負になるワケもない。
残った半裸の姉ちゃんもあっという間にリックに追い詰められていく。
「バイケン様!助けて!」
「……諦めてそこで死ね。二人がかりで勝てないおまえらが悪い。」
「そんな!」
「悪党の最後なんざそんなもんよ!往生しろや!」
リックのポールアームの先端に装備されているハンマーが額を叩き割り、女は悲鳴を上げるコトも出来ずに即死。糸の切れた人形みたいに仰向けに倒れた。
はべらしてた女二人の亡骸を一瞥したバイケンは独りごちる。
「………結局のところ人間は独り、独りなのさ。弱いから負けて死ぬ。強ければ生き、全てを思いのままに出来る。違うか、剣狼?」
「強ければ生き、弱ければ死ぬのが戦場。そこは同感だ。だが強ければ全てを思いのままにしていい、という点には同意出来ない。おまえが孤高を気取るのは勝手だが、肩を寄せ合って生きてる人達だっている。自制なき強者など、ただの害悪だ。」
「なら害獣を駆除して見せたらどうだ?」
「やらいでか。真っ当な人間を踏みにじってきた報いを、オレの刃で受けさせてやろう。」
バイケンは180ないぐらいのタッパだが、体の厚みはオレの倍ほどある。
見かけ倒しじゃなきゃタフだろう。だが一撃で決める。
オレは八相に構え、さらに腰を落とす。夢幻一刀流、
対するバイケンは左手で鎌を持ち、右手で鎖を回転させて相手を幻惑する風刃流の基本の構えをとった。
……緊張が極限にまで高まる。ここが分水嶺だとお互いにわかっているから。
………バイケンが動いた!シグレさんから習った極限の集中のお陰で、バイケンの動きがスローモーションのように……見える!ヤツの狙う技もだ!
分銅を投げて鎖を背後に回し、前から鎌、後ろから鎖の同時攻撃、実に対応しずらい技だが……
「死ねえ!剣狼!」
飛んでくる分銅を首を捻って躱し、地を摺るように溜めた力を一気に解放する。
燕のように低く跳んだオレは刃と一体になり、一陣の風の如くバイケンの脇を駆け抜けていた。
彫像のように立ったままのバイケンは、少し間を置いて口を開く。
「………今の技は?」
「……五の太刀、
「鎖が戻る前に攻撃してきやがるとは驚いたぜ。………最後に聞かせてくれ。………なぜ流派と名を名乗った?」
「おまえの生き方、考え方には全く同意出来ないし軽蔑する。だがおまえが積み重ねてきた研鑽にだけは敬意を払ってもいい。そう思ったからだ。」
「………変わった野郎だぜ。………だが………見……事………だ………」
最後の言葉を絞り出した口からつつっと血が流れ、バイケンの膝が折れた。
そしてそのまま前のめりに倒れ、動かなくなる。
勝負を見届けたシズルさんが静かに寄ってきて、慰めるように声をかけてくれる。
「……お見事でした、お館様。」
「……馬鹿なヤツだ。これほどの腕がありながら……」
オレは刃に付いた血糊を振り払ってから納刀する。
「恐ろしい使い手でした。ロードギャングにこれほどの手練れがいようとは。……村へ帰りましょう。」
「野ざらしが相応のヤツらだと思うが、葬ってやろう。バイケン達に殺された人達には恨まれるかもしれないけど……」
「恨まれるでしょうね。ですが、良い事かと思います。」
白狼衆に手伝ってもらってバイケン達の遺体を渓谷に葬り、オレ達は村へ戻った。
村へ戻ったオレはナツメとリックを休ませ、朝日が顔を出すまでシズルさんに夢幻一刀流を習うコトにした。
今までは秘伝書で独学してきたけど、人間に教えてもらえる機会があるなら活かすべきだからな。
屋敷の庭でオレの型を見てもらい、シズルさんに模範演武をしてもらっていると、あっという間に時間が過ぎる。
「本当に独学なのですか? 独学にしては驚くほど基礎がしっかりしていますが……」
内緒だけど小学生の6年間、爺ちゃんに習ってたからね。基礎だけは時間をかけて修練してるんだ。
「そうかな。」
「分家に伝えられた技は全てお見せしました。基礎が出来ていて、技によっては私より完成度が高いとは……お館様は天才です。さすがは宗家のお血筋。」
「徹夜で付き合ってもらって悪かったね。でも任務があるから仕方なかったんだ。」
「任務の事ですが、シズルもお供
「ダメだ。またバイケンみたいなヤツが出たらどうする? 村をしっかり守るのがシズルさんの役目だよ。」
「しかしお館様に万一の事があれば……」
「戦場で死ぬならオレもそこまでの男。八熾の再興に協力するなんて夢のまた夢だ。」
「協力する、は省いていただいてよろしいのですよ?」
当主うんぬんは継続審議にするって言ったでしょー!
「と、とにかく、戦役が終わって落ち着けば、必ず戻ってくるから!それまでは大人しく待つ、いいね!」
「やむを得ません。目的地までは白狼衆に送らせますので。」
「いいよ。湿地帯を抜けるまでで。」
「我らはこのあたりの地理に精通しております。地図にない抜け道なども知っておりますが?」
「……目的地までの道案内をお願い出来ますでしょうか?」
「お館様の命とあらば喜んで。白狼衆もさぞ張り切る事でしょう。」
苦渋の決断を下したオレに、今日イチの笑顔で微笑むシズルさん。
………マズい。既成事実という名の瓦礫で、どんどん外堀が埋められていく………
う、内堀だけは死守するんだからね!負けないもん!
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