戦役編6話 腕は良くてもオツムが悪い



オレは艦橋へ躍り込むと同時に念真障壁を最大威力で展開し、雨あられと浴びせられる銃弾を凌ぐ。


チッ、ブリッジクルーの敵さん達はまるきり木偶の坊ってワケじゃないな。


射撃を一点に集中してきやがった。このままじゃ障壁が持たない。


普通なら斜めに逸らして対処するんだが、後続が密集してる以上、それは出来ない。


だが対抗策はなくはないんだぜ? 


イッカクさんがやってるような高度な練気は無理でも、近いコトなら出来るハズだ。


射撃をまとめられてる一点に念真力を集中、飽和するまで力を注ぎ込め!


……よし!念真力が飽和した!力点を中心に僅かな空間の歪みが生じてる!


死神ほどの範囲も厚みもないが、念真重力壁を形成出来た。


空間の歪みが弾道を歪め、威力を減衰させる。トッドさんみたいに歪みすら計算に入れて射撃出来る技術でもない限り、念真重力壁は射撃じゃ破れない。


そして銃にも欠点はある。弾切れを起こすって重大な欠点がな!


飛んでくる弾丸が低調になった。弾切れを起こしたな?


指を咥えてリロードさせてやるほど、オレはお人好しじゃないんだぜ!


オレは散開してるブリッジクルーに対し、目に付く端から狼眼をお見舞いする。


ほとんどのクルーは抵抗も出来ず、艦橋に悲鳴と血飛沫が上がった。


指揮シートを遮蔽に取って射撃してくる立派なお帽子のあの男が艦長と見た!


オレは艦橋を見渡す高段にある指揮シートを目指してを疾走する。


阻止しようと立ち塞がった士官二人は抜刀一閃、二人まとめて斬り伏せた。


艦長は銃と遮蔽を捨て、腰のサーベルを抜いてオレと対峙する。


「堂々たる艦隊戦で雌雄を決しようとやってきたというのに……野蛮人共め。船乗りの誇りはないのか?」


敵船に乗り込んで拿捕するってのは、古式ゆかしい船乗りの戦法だと思うがね? 誇りとは無縁だろうけど。


「あるかよ、ンなもん。だいたいな、なんでオレらがおまえの流儀に合わせて戦わなきゃなんねえんだ?」


「戦場とは正々堂々、軍人と軍人の誇りをぶつけ合う場だ!貴様に言っても分かるまいがな!」


アホくせえ。何言ってんだ、このオッサン。


「オッサン、頭が悪いのか? 戦場ってのは強いヤツが勝ち、弱いヤツが負ける。ただそれだけの場なんだよ。」


「誇りの意味も解さぬか!ゴロツキめが!」


「あっそ。ま、薔薇園にはゴロツキしかいないのは認めるがね。正々堂々と負けるより姑息に勝つのがオレらの流儀だ。」


「姑息な勝利になんの意味がある!」


どうもこのオッサンとはとことん価値観が合わないらしい。


「価値観が違うのはわかった。で、部下を見捨てるのが軍人の誇りとやらか? 降伏しろ、無駄な殺しは嫌いだ。」


開かれた血路を走って艦橋に乗り込んできたリック達は、抵抗するクルー達を血祭りに上げている。


オレと口論なんかしてる場合か、指揮官だったら部下の心配をしろよ。


「栄えある機構軍軍人は降伏などせん!賊軍に降るなど死に勝る恥辱だ!」


「そうかい。だったら無駄な死人を出さない為に、おまえに死んでもらうしかねえな!」


「かかってこい!鼠賊めが!」


賊軍とか鼠賊とか大仰な物言いが好きなオッサンだな。


………だが大仰なのは物言いだけじゃなさそうだ。構えに隙がない。コイツ、かなり「使う」な。


「遠慮なくいくぜっ!せいっ!」


姑息に脛払いを繰り出してみたが軽く跳躍して躱され、代わりに上段からの振り下ろしが返ってきた。


返す刀でサーベルを受け、左脚で蹴りを入れてみたが、右脚を上げて受けられる。


何合か打ち合ってみたが、切り崩せない。年季の入った手練れだな。


過去にやり合ったヤツの中では、「強欲」オルセンに似てるか。


「減らず口を叩くだけの事はあるな、剣狼!」


「大口を叩くだけのコトはあるな、オッサン!」


「オッサンではない!我が名は「追い風テイルウィンド」ウィンザース、貴様がこの世で最後に聞く名よ!」


「追風」ウィンザース……思い出した。確か異名兵士名鑑ソルジャーカタログにあった名だ。


「なるほど、アンタが「追風」か。オツムの出来が悪い割には、いい腕をしている。惜しいな、バカでさえなければ、もっと上にいけただろうに……」


「誰がバカだ!士官学校は次席で卒業しておるわ!」


首席じゃなくて次席ってのが、この男らしいな。いいトコまでいくんだが、あと一つが足りない。


司令みたいに首席卒業の完璧超人と相対するよか1000倍マシだが。


「学校のお勉強のコトなんざ言ってねえよ。この状況で意味のない戦いをやらかすバカをバカと言わないでなんて言えばいいんだ? たとえオレに勝てたとしたって犬死にするだけだろうが!」


「機構軍軍人たる者は敗北=死であるべきだ!死より恥を恐れるのが武人というものだろう。」


「ご立派なコトで。」


アンタ個人がそういう美学なのはいいがな、そんな美学を押し付けられて死ぬ人間は堪ったもんじゃない。


「艦長!その心意気は軍人の鑑ですが、もう無理です!降伏しましょう!」


艦長と同じ金モールの付いた軍服を着用している男が叫んだ。


たぶんこの部隊の副長だろう、リックに壁際まで追い詰められて青息吐息だ。


「降伏など認めん!死ぬまで戦え!」


「おい、金モール!とち狂った上官に構わず、サッサと部下を降伏させろ!パーム条約に従って捕虜として扱うコトは約束する。早くしないと全員死ぬぞ!」


「わ、わかった!みんな武器を捨てろ!」


金モールがそう呼びかけると、抵抗していたブリッジクルー達は次々と武器を捨てて降伏した。


「貴様らぁ!それでも機構軍軍人か!全員、銃殺刑が待っていると思え!」


「上官の薫陶が行き届いたいい部下達だな。」


「黙れ!手始めに……こうしてくれるわ!!」


ウィンザースの左手の前に風が渦巻き、突き出された掌と共に烈風が金モールを襲う!


マズイ!金モールを拘束しようとしてるリックまで巻き添えを喰らっちまう!


「リックよけろ!」


勘のいいリックはオレが叫ぶ前にダイブして烈風を躱し、事なきを得る。


金モールは……下腹部に直撃を喰らい、内臓を撒き散らしながら膝から崩れ落ちた。


「思い知ったか、腑抜けめが!」


「……どうして殺した? この状況なら降伏は至極真っ当な判断だ。」


「問題あるか? 部下の生殺与奪権は上官として当然の権利だろう?」


「ならオレも生殺与奪権を行使する。おまえはここで……死ね。」


「死ぬのは貴様だ、剣狼!」


繰り出される風の刃をオレはサイドに跳んで躱し、神威兵装オーバードライブシステムを起動する。


コイツは経験に裏打ちされた高い技量を持ち、オルセンと違って念真強度も高い。だがオルセンの方が強敵だった。


オルセンには狡猾さがあり、それは闘法にも遺憾なく発揮されていたからだ。


それに比べてウィンザースは真っ向勝負しか知らないし、出来ない。


部下に制裁を加える為に切り札を見せちまうなんて、オルセンなら絶対にやらないだろう。


だから神威兵装を起動させれば………地力で押し勝てる!


「こっ、このパワーは!!」


今まで受けれていた斬撃に押し込まれるコトにウィンザースは戸惑ったようだが、オレの切り札は神威兵装だけじゃないんだぜ?


受ける腕をサイコキネシスで封じて妨害もする。


サイコキネシスに抵抗する為に念真力を腕に集中させれば、狼眼を使う。


狼眼への抵抗に念真力を割けば、またサイコキネシス、そして力任せの連撃だ!


「こ、こんな若僧相手に……この俺が防戦一方だと!」


考える頭はないヤツだが、考えるいとまも与えない。


追い詰められたウィンザースのやるコトは一つ、至近距離から自傷覚悟の烈風だ。


「よかろう!腕一本、くれてや……」


ここだ!力重視から技重視にギアチェンジ!


狙い澄ました斬撃で、烈風が生じてる腕を肘から斬って捨てる。


「グアアァァ!!……き、貴様ぁ!」


「……なにをくれるって? 残った腕のコトか!」


オレは力と怒りに任せた一撃で、もう片方の腕も斬り落としてやった。


「ぬおぉぉぉぉ!!」


「これでバンザイも出来ねえな? ま、降伏する気はないみたいだから問題ないか。」


それでも蹴りを繰り出してくるあたり、執念だけはあるようだ。


蹴り足も斬撃で斬り払い、一本足になったウィンザースを蹴り転がして、自決しようと舌を出した口に軍靴のつま先をねじ込む。


前歯が全部折れて床に飛び散ったが、知ったことじゃない。


「~~~!!!」


「自決などさせない。おまえは捕虜だ。武人の誇りとやらが許すまいと、生きて虜囚の辱めを受けろ。意味もなく部下を殺した外道の名誉などドブに捨ててやる。」


トンカチが武骨な指を器用に使い、猿轡をかませて、手足に止血帯を巻いてくれた。


「近年まれに見るクソ野郎ッスね。今年の「ベスト、オブ、ヤな奴」はコイツで決まりッス。」


そこは「ワースト、オブ、ヤな奴」じゃないか?


「こういう信念バカがいるから戦争が終わらない。安全地帯から命令だけ出したい輩にとっちゃ最高のカモだ。」


研究バカの博士と同レベルの始末の悪さだ。さすがの機構軍クォリティだぜ。


「ご苦労だった。ちょっとばかり名のある程度では、もうカナタの相手にはならんな。」


ラセンさんがオレの肩を叩いてねぎらってくれたんだけど、実力ではなく装備の力で勝ったようなものなので素直に喜べない。


「戦術アプリを使ったゴリ押しですけどね。死神の言葉を借りれば「特殊兵装も実力のうち」らしいですけど。」


「それは事実だろう? あらゆるリソースを使って勝利を模索するのが実戦というものだ。」


ラセンさんがそう言ってくれるなら、それでいいや。




敵艦隊の旗艦は制圧した。算を乱した敵艦隊はもう敵じゃない。後は消化試合だな。


………緒戦に完勝か、いい流れだ。




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