争奪編45話 アニキングって流行ってんの?



死神との遭遇から2週間、ようやくリリスの傷が癒え、オレ達は快気祝いの宴を鳥玄で開くコトにした。


リトルマムの愛称を持つリリスがガーデンの人気者なのはわかってたけど、その人気はオレが思っていた以上だった。


なんせ毎日毎日、見舞客が引きも切らず、やむなくヒビキ先生が面会を抽選制にしたぐらいだから。


それでも退院するまでに花屋と果物屋が開けそうなぐらいお見舞いの品が病室に届いたんだけどな。


そんな毒舌アイドルリリスさんの快気祝いには、コンマワン、ツーの面々に加え、めでたく第一回「おまえらさっさと結婚しろコンテスト」で優勝を飾ったシュリとホタル、それになんでかコトネまで参加してきた。


「それじゃあよ。リリスの快気を祝ってかんぱ~い!」


幹事を買って出たリックが乾杯の音頭をとり、酒宴が幕を開ける。


座敷席を二つ借り切って繋げた会場で、オレ達は乾杯の後に飲んで食って喋り始めた。


「シュリさんとホタルさんはいいとして、どうして琴鳥まで座っているのかしら?」


シオンが突き出しのひねポンをツマミに生中をぐい飲みするコトネを横目で見る。


苦手意識は相変わらずみたいだ。


「琴鳥じゃなくてコトネで結構ですえ? ウチら「お友達」やないですん?」


「………いったいいつから友達に………あ、シュリさん、ホタルさん、ご結婚おめでとうございます。」


「シオンさん、まだ結婚はしてませんから!」 「そ、そうだよ!気が早いって!」


……ほう。告る前に結納の品や引き出物を考え始めたクセに、なにを言うかこの男は。


「ふふ、冗談です。冗談。」


「ジョーク好きはカナタだけで十分だよ。それから僕とホタルに「さん」は要らないよ。聞けば同い年らしいじゃないか。」


「では私にも「さん」は要りません。お二人は生まれた日まで同じの幼馴染みなんですってね。」


「そうなの。シュリは頭が硬くて融通が利かないけどよろしくね、シオン。」


「頭が硬くて融通が利かないは余計だ!」


「ご心配なく。ウチの隊長は性格が軽くて融通が利きすぎで困ってますので。」


「性格が軽くて悪かったね!」


なんでオレに飛び火させんだよ!


「はい、焼き鳥盛り合わせ、お待ちどお。追加のオーダーはありますか?」


皆は欠食児童みたいに一斉にオーダーを頼みまくり、キワミさんは大量のオーダーを聖徳太子のように聞き分け、電子伝票に記録していく。


もうキワミさんの手際のよさも見慣れてきちまって、驚きゃしねえけどさ。




オレはいつものように悪代官大吟醸、シュリも愛飲する名奉行大吟醸を手に談笑する。


「そうか、宝刀武雷は死神の手に渡っていたのか………」


「ああ、確か至宝刀の一振りなんだって? 他にはどんな刀があるんだ?」


シュリは杯片手に刀剣講座を開いてくれる。


「絶滅しかくれない、が有名どころだね。」


「絶滅しかくれない?」


「絶一文字、滅一文字、屍一文字、紅一文字、の事だよ。」


「なる、頭文字をとって絶滅しかくれない、か。絶一文字は司令、紅一文字はマリカさんの差料だったな。シュリの紅蓮正宗は?」


「至宝刀ですがそれが?」


シュリは眼鏡をキラリと光らせながらドヤ顔になる。


「はいはい、自慢したいのはわかったよ。紅蓮正宗は元はマリカさんの差料だもんな、そりゃそうだわ。」


「でもカナタの宝刀斬舞だって相当な名刀だよ。」


「ああ、わかってる。前にシュリ先生が言っただろ、人間同様、刀にも個性があるって。念真力を纏いやすい特性のある宝刀斬舞はオレ向きの刀だ。」


「宝刀斬舞は武雷を模して打たれた刀、特性も似ているはず………死神に武雷は………」


「鬼に金棒、だろうよ。………厄介だな。」


いい装備も実力のうちなんだが………異常な念真力の死神と、念真力のノリがいい宝刀武雷。最悪の組み合わせだぜ。ジョジョで例えればセッコとチョコラータだな。


「せっかくの酒席で深刻顔しないの。死神の戦闘能力を掴んだだけで収穫じゃない。はい、どうぞ。」


ホタルに酌をしてもらえる日がくるとはな。感無量だ。


「文字通り命懸けだったけどね。はい、ご返杯。」


酒は結構強いらしいホタルはくいっと杯を飲み干してから、紙袋を渡してくれる。


「これ、約束の品ね。」


「あんがと!開けてみていい?」


「どうぞどうぞ。ヒビキ先生からサイズのデータはもらったからピッタリのはずよ。」


オレは紙袋を開けてラメシャツを取り出した。パッと見でも分かるきめ細かい裁縫の逸品、格好いい狼のエンブレムが胸と両肩に縫い込まれている。


「カ、カッケー!さっそく着てみよっと!」


オレは地味シャツを脱いで、ラメシャツを着てみた。そんで立ちあがって一回転し、ファッションモデルみたいにポーズを決めてみる。


下唇に人差し指を当てたリリスが微妙な表情と声で、


「シャツの出来は抜群なんだけど、なんっていうのかなぁ……」


隣に座っていたナツメがボソッと呟く。


「……ドサ回りしてる売れない演歌歌手みたい。」


遠慮なく笑い転げるゴロツキ共。悪かったな、売れない演歌歌手みたいで!


「………テメエら………」


「兄貴!こんなトコで狼眼を使うなあ!殺意を覚えるほどムカついたのかよ!」


ったりまえだろ!誰だってアタマにくるわ!


「カナタはん、せっかくですし一曲歌いはったらどないですん?」


コトネが余計なコトをいい、どこに隠してたのか、小琴を取り出す。


「オ、オレはカラオケは苦手で。マイクもないし。」


オレの背後からそっと差し出されるカラオケマイク。


「……キワミさん、小さな親切余計なお世話って言葉知ってます?」


キワミさんはなにも答えずマイクをオレの手に握らせ、空の皿とジョッキを回収し、去っていった。


「うったっえ♪あ、それ、うったっえ♪」


悪ノリが好きな連中にやんややんやと囃し立てられ、退路を断たれる。参ったな、この世界の曲なんてロクに知らねえってのに。


オレはやむを得ず、筋肉重装甲アニキングのオープニングテーマ「唸れ!上腕二頭筋!」を熱唱するハメになった。


「よっし!次は俺が第二期オープニングの「走れ!下腿三頭筋!」を歌うぜ!アキレス剣の曲ならたいてい歌えるんだ。」


リックがそう言ってマイクを取る。


アキレス剣ってのは主にアニメの暑苦しい主題歌を歌ってる歌手だ。


元の世界の串田アキラさんみたいな声で、オレは超気に入ってる。


「き~たえ鍛えた鋼のか~ら~だ~♪ let’s go、アニキ!アニキ~ング♪」


リックは歌が上手いな。少し野太い声が曲にも合ってる。だがガチで野太い声のウォッカには及ばんな。


意外な特技を披露し終えたリックはビーチャムにマイクを渡す。


「ほれ、つぎは新入りの番だ。ビーチャムだっけ? 歌ってみろよ。」


「ぼっ、僕がですか!」


「おう、僕がだよ。口がついてるんだから歌えんだろ?」


………僕……ボクか。ローゼのヤツ、元気にしてるかなぁ?


「じゃ、じゃあ、せっかくだから……キンバリー・ビーチャム、「恋する大胸筋♡」を歌います!」


それってアニキングのエンディングテーマじゃねえか!


………コアな層にしかウケない作品だって思ってたけど……ひょっとして人気なのか、アニキングって?




飲んで騒いで歌った楽しい宴がお開きになった後、オレはリリスを背負って兵舎棟へ向かう。


「本当にしょうがないコ。いつの間にか私達の目を盗んでお酒を飲むなんて。隊長、私がリリスを背負いますから。」


「いいよ。リリスは軽いし、背負ってるうちに入らない。」


「……重くて悪うございました。」


シオンはプイッと唇を尖らせた。こんなところに地雷があったか……


どうやらオレは私生活でも地雷原にいるらしい。


「シオンはおっぱいが重いから仕方ないの。口惜しかったらちっぱいになったら?」


「好きで大きくなったんじゃありません!こらナツメ!触らないの!」


ナツメは他人様のおっぱいを触るのが好きらしい。オレも大好きだけど、機会に恵まれないなぁ。


「ね、カナタ。次に会った時には死神にリベンジしてやろうね!」


「もちろんだ、と言いたいがヤツは怪物だ。今のオレ達じゃ返り討ちだろう。」


「はい、今は。でも……隊長なら死神にだって勝てる日がきます。私はそう信じてますから。」


「だよ!カナタならきっと勝てる!」


正直言えばあの怪物とは二度と戦いたくない。だが……オレ達の行く道に立ちはだかるなら排除するまでだ。


「シオンやナツメが信じてくれるなら出来そうな気がしてきたよ。」


だから目指そう、もっと高みを。オレは完全適合者に必ずなる。ヤツとまともに戦う為に必要なコトだからやるしかないんだ。


それにヤツに通じる技が火事場の馬鹿力で出せた終焉だけじゃ話にならない。基本能力を底上げしないと。


別に死神に恨みはない。だから無理に戦おうとも、殺そうとも思わない。


だが死神や、死神に匹敵する雄敵相手に勝負出来る力は必要だ。この世界じゃ弱者はなにも為し得ず、何も守れない。


世界のルールがそうだってんなら仕方ねえ、流儀に合わせてやるさ。


あの惨敗はその為の糧、あらゆる経験を力に変えてやる。




オレは夜空に輝く月を見上げ、心に誓う。誰の庇護も受けずに生き抜く力を手に入れる、と。




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