争奪編40話 不都合な現実
オレがツイてないのか、死神がツイてないのか、どっちもツイてないのかは分からないが、この場に居合わせちまった以上、力で優劣をつけるしかないのが兵士の定めだ。
「まいったねえ。全然当たんねえときたか。おヌシ、出来るな?」
生傷が増えてきた死神から、ありがたくもないお褒めの言葉を授かる。
いや、オレが出来るって言うよかなぁ………
「アンタが出来なさすぎなんだよ。いくらパワフルでも当たんなきゃ意味ねえし、どんだけタフネスでも無限に喰らい続けるワケにはいかないんだぜ?」
「そこをなんとかしようと通信教育で……」
「そのネタはもう飽きたって言っただろ!しつっこいぜ!」
死神はオレの斬撃をギリギリで躱し……いや、躱し切れずに浅手を負いながら反撃してくる。
「ジョークは畳みかけろ、と師匠に言われてるんだ。笑えないジョークも千回言えば、そのうちウケるってな!」
素人丸出しの斬撃を躱し、反撃するが、またしても浅手。異常な反応速度だけで深手を避けやがる。
「オレの師匠は空気を読めって言ってたぜ!このあたりを氷河期にするつもりかよ!」
「いいねえ。一度生きてるマンモスを見てみたいと思ってたんだ。」
「じゃあ絶滅したマンモスがいる地獄へ送ってやるよ!死にさらせ!」
「おっとっと!生きてるマンモスが見たいって言っただろ。俺は幽霊は苦手なんだ。」
身に迫る斬舞を、武雷で受ける死神。噛み合う白刃が火花を散らす。
「髑髏マスクの死神の癖に幽霊が苦手とか笑わせんな!ギャグで言ってんのかよ!」
「苦手なもんは苦手なんだ。人間は殺せるが、幽霊は殺せないからな。」
「オレに殺されても化けて出るなよ。しっかし
「毎朝ミルクをたっぷりかけたシリアルを食べろ。青汁も忘れんな。」
「オレは朝メシは米派なんだ、ご生憎様!」
バカ丸出しのやりとりをしながら、命のやりとりをするオレと死神。
馬鹿馬鹿しいにも程があるが、お互い命が懸かってる。
ラチがあかないとみた死神は、おそらく切り札であろうパイロキネシス攻撃を織り交ぜてきた。
火力はたいしたモンだ。推定念真強度300万nって諜報部の予想は当たってたらしい。
だが精度がまるでなってない、「業火」の異名を持つラセンさんの芸に比べれば、児戯に等しいぜ!
けどいくら精度が悪くても、念真強度300万nものパイロキネシスを完全に防ぐコトは不可能で、オレは軽い火傷を負った。
深手だけ負わなきゃいい、それにだいぶ慣れてきた。1対1で集中してれば、致命傷は喰らわない!
「なあ死神さんよ。マジで降伏してくんねえ? 殺すのは惜しいよ、そのお寒いジョークのセンスは。」
「通信教育ネタが気に入ったかい?」
「ああ。是非ともその持ちネタで、炎の渦の代わりに笑いの渦を巻き起こしてみちゃどうだい? 収容所の捕虜達は
「御免被る。剣狼こそ降伏しろ。今なら三食昼寝付き、食後には美人士官にデザートワインを届けさせてやってもいい。」
サービス満点だな、ありがとよ。だが美人士官だけじゃ不足だね!
「巨乳か貧乳かも選ばせてくれるのか?」
「先に答えを言ってやろう。巨乳と並乳と貧乳のローテーションがいいんだろ?」
「よくわかったな!」
読み良すぎだろ。エスパーかよ!
「………俺ならそうするからな。」
………なんで敵なのかねえ。なんだかコイツを気に入ってきたぜ。
オレは若干火傷を負ってるが大したコトはない。だが死神は浅手とはいえ傷多数、出血も止まらなくなってきたようだ。勝敗はもう見えたな。
念真強度300万nの分厚い念真障壁がなければ、とっくに死神は死んでいただろう。
(……隊長……無事ですか?)
シオンの意識が戻った!
(無事だよ。シオンは大丈夫だよな?)
(はい、まだ立てませんが、命に関わる事はありません。私は頑丈ですから。)
本当に大丈夫そうだ。シオンが無事ならコイツを殺す意味がなくなった。………いや、出来れば殺したくないな。
「死神、ジョーク抜きのマジ話だ。降伏してくれ。勝負はもう見えただろ?」
死神は決して弱くない。直撃を避けられる速さと技術、それに凶悪なパイロキネシス攻撃を防御可能な念真強度も持ち合わせるオレとの相性が最悪だったってだけだ。
躱すのが苦手なパワータイプ、リックやウォッカなら一撃必倒の攻撃の前に轟沈していただろう。
いや、コイツの桁外れの
「………頃合いではあるな。剣狼、投降しろ。これが最後の忠告だ。」
頭はいいはずなのに状況が見えてないのか?
いや、援軍が近くに来てるのか!………違うな。援軍が来てるんなら投降する振りをしたっていい。
オレに勝てないのは、もう分かってるはずなのに………何を考えてる?
「死神、状況を考えろ。アンタの闘法はオレとの相性が最悪の上に盤面は終盤、オレがスティールメイトをかけてて、あと一手でチェックメイトなんだぜ? 死神って呼ばれてても、死にたいワケじゃないんだろ?」
「さほど惜しい命じゃないが、ここを死に場所にする気はない。見届けたい事があるんでな。………剣狼、どうしても投降する気はないのか?」
クドい男なのは畳みかけるジョークでわかってるが、場を弁えない降伏勧告にはイラッとくるぜ!
「あるワケないだろ!同盟なんざどうなってもいいが、こっち側に捨てられない仲間がいるんだ!」
「……そうか。そうだろうな。………残念だ。」
死神は本当に残念そうに、そう呟いた。
人間が人間である限り、真に客観的な立場に立つ事は出来ない。人間とは主観的立場に立つが故に人間なのだから。
もし完全な客観性を持つ存在がいるとすれば、それは人ではなく神と呼ばれるだろう。
だが、人間も心の持ち様で客観的立場に
波平、おまえもオレの子ならば、自分を他人事のように見る目を育てろ。
それはきっと、見えない財産としておまえを助けてくれるだろう。
中学の時に聞いた親父の説教を思い出す。……なんだってこんな時に!
わかってる。ヒトは事実ではなく、自分の信じたいモノを信じる生き物なんだ。
「願望にすがるな。現実を直視して、気にそぐわなければ現実を変えろ。」
親父はオレにそう教えてくれた。今思えば、親父から教わった最後の教訓。
その言葉を、オレは守れていなかったらしい。
偉そうなコトを偉そうに言ったクソ親父自身が、客観的に物事を見れていたかは定かじゃないが………
死神の周囲の空間が歪んで見える。目の錯覚じゃない。
強い
圧倒的、いや圧倒的なんて言葉じゃ生易しいほどの念真力の奔流が死神の周囲に生じていく。
オレの足元に落ちていた枯れ葉が発火し、燃え尽きた。
死神の周囲の小石達が宙に浮き上がり、粉々になってゆく。
大地を鳴動させるかのような念真力を纏う超人の姿がそこにあった。
………なんのコトはない。死神は
死に鯖のようだった瞳に力が宿る。………なんて目だ。まるで人食い虎のような……猛獣の目。
瞳に浮かぶ十字架のような紋様はなんなんだ? コイツ!まさか邪眼系能力者なのか!?
どんな能力を持っている!? クソッタレ、ゴールラインまで追い詰めたつもりが、気付けば自軍のゴールラインの前じゃねえか!
………覚悟を決めろ。たぶん、いや絶対、この男が今まで出会った敵の中じゃ最強だ。
(リリス、ナツメ!ここには来るな!)
(え? どういう事なの、少尉!) (カナタ!もう見えてるから!)
オレに返事をする余裕はなかった。死神の放ってきた念真重力破を躱すのに手一杯だったから。
ウソだろ!念真重力破を放つのは、イッカクさんでさえタメと予備動作が必要なんだ!
それを予備動作もタメもなしで連発してくるなんて!
イッカクさんに比べれば精度は
離れてたら話にならない。距離を詰めないと!
念真重力破をかいくぐって死神に接近、斬撃を繰り出すが、厚みをさらに増した念真障壁、いや念真重力壁に阻まれる。
イッカクさんが言ってたな、念真重力破は念真球に飽和するまで念真力を注ぎ込んで完成するって。
死神が錬気の達人とは思えない。……だったら、素でやれてるってコトなのか?
どんだけ念真力が高いんだよ!300万nどころじゃねえだろ!
そして繰り出される雷と炎を纏った斬撃!
ド素人が無造作に刀を振ってるだけなのに! 至宝刀から噴き出すような念真力が、あまりにも膨大すぎて……躱しきれない!
雷と炎を纏ったランダムに形状変化する鋭利な鈍器………無茶苦茶な表現だがそう表現するしかない。
一気に劣勢に立たされたオレは、起死回生を狙って至近距離から狼眼を放ってみたがダメだった。
ロックは出来るけど、凄まじい念真力であっという間にロックを引き剥がされる。
これじゃ有効打どころか駆け引きにも使えない。……ったく、どうすりゃいいんだよ!
「……狼の目、か。強力な武器だが俺には通じん。少なくとも現時点ではな。」
……さっきまでの軽さはどこに行ったんだよ。重量級らしく口調に重みを増してみましたってか?
「一つだけ聞きたいんだけど……アンタさ、念真強度が1000万nある……とか言わないよな?」
「よく分かったな。確かそんな数値だったはずだ。」
……だと思ったよ。やっぱバッファローマンかビグザムだよな、どう見ても。
どうやら夢幻一刀流の最終奥義しか、コイツに通じる技はなさそうだ。
問題は二つ、まず前提条件の
もう一つ、こっちの方が問題だな。刀身に力を込めるのにかなりの時間が必要で、今のオレでは静止状態で全神経を刀身に集中する必要がある。早い話、魔貫光殺砲みたいな代物なんだ。
………ダメだ。コイツは馬鹿じゃない。仮に狼眼の
くそぉ!夢幻刃・終焉は諸刃の剣だが一撃必殺、完成してればオレの全てを賭ける価値がある技なのに!
ないものねだりはもうやめろ!……後悔するのは後だ。
残酷だろうが不都合だろうが、まず現実を認めよう。そうしなければ始まらない。
………今のオレじゃ死神には勝てない。それが現実なんだ。なら、どう切り抜ける?
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