争奪編38話 地獄への誘い
「ぼっ、僕をアスラ部隊にですか!あの……少尉殿、今日は
間借りしているオフィスに呼び出されたビーチャム三等兵は開口一番、疑義を呈してきた。
こっちの世界にもあったんだな、エイプリルフールって。
反応に関しては予想通りだ。辺境基地のみそっかすが同盟最強の精鋭部隊からスカウトされりゃそうなるわな。
しょぼくれた基地司令には先に話をつけておいたが、どうぞ持ってってくれって感じだったし。
「少尉に昇進は決まってるが、まだ准尉だ。ま、呼び名なんざどうでもいいか。本題に入るぞ。この度、アスラ部隊でリサイクル事業に着手するコトになってね。辺境で燻ってる兵士を再生させて、スターダムに押し上げようって企画さ。キミは栄えある第1号ってワケ。」
元12号のオレは、リサイクル事業の第1号にそう言ってみた。
「………え、えっと。ジョークなのか本気なのかわからなくて困惑してます。」
「ジョークだ。笑え。」
「笑いって強要されるものではないと愚考する次第なんですけどぉ……」
頑張って笑おうとするが、強ばった表情になるビーチャム三等兵。
馬鹿馬鹿しい寸劇を見るに見かねた
「ビーチャム三等兵、スカウトの話は本当です。隊長、おふざけが過ぎますよ。」
「このノリについてこれるか試したんだよ。真面目に戦争やってる軍人さんだとガーデンじゃ持たないだろ?」
この程度のジョークなんて可愛いもんだ。ガーデンには
「軍隊としてどうかとは思いますが、否定出来ないのが悲しい現実ですね。もう少し真面目にやってください。」
「戦争なんて真面目にやれる方が人間としちゃどうかしてる。壊すな、殺すな、って当たり前の倫理の真逆をやって褒められる稼業なんだから。ま、つかみはオッケーとしてだ。ビーチャム三等兵……長いな。もうビーチャムって呼ぶぞ。ビーチャムはアスラ部隊に来る気はあるか?」
「僕なんかが同盟最強の精鋭部隊に配属されても、お役には……」
「立たないのはわかってる。現時点ではな。だがビーチャムには才能がある。この基地のボンクラ共は誰一人気付かなかった才能がな。」
「僕に才能!? ほ、本当ですか?」
「オレはエイプリルフールにしかウソは言わない主義だ。」
「それがウソなのは僕にもわかります。」
胡散臭げな目でオレを見るビーチャム。フッ、鋭いじゃないか。
「なかなかの洞察力だと思わないか、シオン?」
オレは肘掛け椅子にふんぞり返って、傍らに立つシオンを
「言わずもがなでしょってツッコまないといけませんか?」
ボケたんだからツッコミは入れてくれ。でないと寂しいだろ?
「少し真面目に話をするか。いきなり実戦に出ろとかいう話じゃない。足手まといだし、葬式代の無駄だからな。モノになるまではガーデンで
「…………」
「今すぐ返事をしろと言うワケじゃない。2~3日考えて……」
「行きます!アスラ部隊では大金が稼げるんですよね!」
「戦果を上げて生き残ればな。だが、ロクに敵襲もない辺境基地とはワケが違うぞ? 一歩踏み外せば地獄の釜へ真っ逆さま。いや、踏み外さずとも血の池地獄を彷徨うコトにはなるだろうよ。ホントにわかってるか?」
「はい!孤児の僕には失うモノはなにもありません!」
「………あるさ。」
「少尉殿、僕には家族も友人もいません。お金もないし基地ではみそっかす、名誉も財産もないんです。」
「だが生きている。命は大事に使え。オレの部下になる以上、無駄死はさせんし許さん。わかったか?」
「サー!イエッサー!」
「ではビーチャムはオレ達と共にガーデンへ向かう。出発は2日後だ。それまでに荷造りを済ませておけ。以上、行ってよし!」
望外の申し出を受諾したビーチャムは敬礼して、部屋を退出した。
「………悪魔と契約したってコトがわかってるのかねえ、アイツ。」
「今はわからずとも、ガーデンに着けばイヤでも思い知ります。……体で、ね。」
ウチは奈落へ落ちてきた堕天使共の巣窟だからな。だが綺麗な世界で暮らし、穢れを知らぬ者は、なにも為し得ない。
キンバリー・ビーチャム、おまえは悪魔になれるかな?
新入りを発掘出来たはいいが、ブロッサムベリー基地には他にめぼしい兵士はいなかった。
「新人一人じゃ成果としちゃ乏しすぎるな。この近隣に基地はあったか?」
人間データバンクに検索をかけてみると、明快なお答えが返ってくる。
「車で半日の距離に似たような規模の基地があるわね。通信の中継基地だけど。」
「まがりなりにも通信の保持任務に従事しているのなら、ここより練度はマシかもしれませんね。行ってみますか?」
提案するシオンの腕をナツメが取って、鼻唄混じりにはしゃぎだす。
「行こ行こ、みんなでピクニック~♪」
行ってみるか。めぼしい兵士がいたら、司令に剛腕を振るってもらえばいいだけだし。
ブロッサムベリーで四人乗りの軍用車両を借りて、目的地であるシャインサーフェイス通信基地へ向かう。
早朝に出発したが距離からすれば、早く着いても昼は回るハズだ。なのでバスケットにはサンドイッチを詰めてある。
荒廃した大地に転がるトランプルウィードか。世界中が西部劇の舞台みたいだな。
それだけ緑に乏しい星だってコトなんだけど。
この赤茶けた惑星を大気圏外から眺める攻撃衛星群はどんな気持ちなんだろう……
……バカなコトを考えるのはヤメて、今を楽しむか。
目的地であるサーフェイス通信基地近郊は、この地方で一番緑豊かな土地らしいから森林浴でも出来るだろう。ピクニックにはうってつけの場所だ。
「リリス、サンドイッチにマスタードはたっぷり塗ってくれた?」
「塗ったけど、味を壊さない範囲でよ。ナツメに合わせると私達が食べられるシロモノじゃなくなるから。」
「え~!たっぷりがよかったのに!」
「シャラップ!文句があるなら自分で作んなさいよ!」
後部座席で仲良く喧嘩する年少組。年長組のオレは助手席、ハンドルはシオンが握る。
「
「はい、今では珍しい綺麗な湖があるそうです。ニジマスが釣れるみたいですよ?」
「釣り竿を持ってくりゃよかったな。」
「積んでます。もちろんルアーも。」
シオンもピクニックを満喫するつもりらしい。
「フッ、ついにオレの釣りの腕前を披露する時がきたようだな!」
「少尉、釣りが出来るの? ちょっと意外だわ。」
「おいおい、リリス。娯楽区画のゲーセンにあるバスハンターのハイスコアを見たコトがないのか? 1位から10位まで全部「Kanata!」で埋まってるはずだぜ?」
「……ゲームの話じゃない。感心して損したわ。」
「……しかもそのゲームって不人気。たぶんカナタしかやってない。」
うっさい。それでもランカーはランカーなの!
不真面目軍人のオレ達は基地へ向かう前に湖に向かい、ピクニックを楽しむコトにした。
リリス曰く、「仕事はいつでも出来るが、遊びは今しか出来ない。」
ナツメ曰く、「仕事は誰かがやってくれるが、遊びは自分でやるしかない。」
シオン曰く、「たまには息抜きも必要。」
なのだそうだ。いくらオレが仕事がしたくても、みんながこれじゃどうしようもない。
観念してピクニックを楽しむとしよう。わ~い♪
「シオン、ちょっと止めて!」
湖近くの灌木の森に入り、しばらく走った時に、リリスが運転席に身を乗り出してストップをかける。
「どうかしたの?」
「ちょっとバックバック。」
シオンは言われる通りに車をバックさせる。リリスは車を降りて野草を観察する。
「やっぱりアマリリスだ。ガーデンに持って帰って植えてみよっと!」
「……花が咲いてないのにわかるの?」
ナツメ、そんなの聞くコトじゃない。リリスは覚えるつもりで見たモノは即座に暗記出来るんだから。
「植物図鑑は読んだから。ナツメ、手伝ってくれる?」
「オッケー。」
「慎重にね。根を痛めたら台無しだから。この森にはまだ綺麗な野花が群生してるかもしれないわね。」
シオンは車両を降りて釣り竿を取り出す。
「じゃあ私と隊長は先に湖に行って釣りでもしてるわ。ナツメは
「うん。リリスと森で植物採集してから湖に行く。おっきいニジマスを釣っといてね?」
「自称釣り名人がいるから大丈夫だと思うわ。」
「自称じゃないところを見せてやる!シオン、男と男の勝負の時間だ!」
「期待してます。匹数と大物部門で勝負しましょう。それと私は男じゃありません。」
最後にしっかりツッコミを入れてくれるあたり、出来た副長さんです。
オレとシオンは釣り竿片手に森林浴がてら、森を散策する。
そして森を抜けるとキラキラと陽光を映し出す巨大湖がオレ達を待っていた。
なるほどね。この湖にあやかって、基地の名前が
「荒廃した世界だけど、まだこんな自然が残ってるんだなぁ。」
「綺麗ですね。心が洗われるようです。」
この風景だけ見てると、世界中で戦争やってるとは思えないよな。
いつか純粋にこんな風景を楽しめる日がくればいいんだが。
オレとシオンは勝負を始めるべく、水辺近くまで歩く。
「先客がいますね。釣れてるのかしら?」
シオンの言うとおり、水辺の岩に腰掛けたフード付コートの釣り人がいる。
長い足の歩を早めたシオンは、釣り人の背中に声をかけた。
「釣れていますか?」
……フード付コート? いや、これは軍用の装甲コートじゃないか? サーフェイス通信基地の軍人だろうか?
「………サッパリだな。
この声はどこかで聞いたような………!!……SNC作戦の時だ!………ま、まさかコイツは!!
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