争奪編36話 戦象VSパンプキンマン
一直線にダッシュしてきたD・Dは大振りの一撃を見舞ってくる。
挨拶代わりの一撃をしゃがんで躱し、一の太刀、平蜘蛛で脛を狙う。
D・Dは分厚いマグナムスチールで出来た脛当てで受け、お返しとばかりに戦槌を振り下ろしてきた。
オレは後ろに跳んで距離を取る。空振りした戦槌は地面を穿ち、砂煙をあげていた。
……なかなかのパワーだ。
「フン、チョコマカ躱すのは上手いみてえだな。だがネズミがどう足掻こうと象を倒す事は出来ん。」
「おまえがホントに象ならな。象より顔が不細工なのは認めてやるが。」
「ぶっ殺す!」
こめかみに血管を浮かせて激昂するD・D。
だが威勢のいい台詞とは裏腹に、オレの速さに対応するタメに戦槌を短く持ち替えた。
そしてさっきとは打って変わって素早い連撃を繰り出してくる。やっぱり熟練兵は厄介だぜ。
「怒るなよ、不細工なのは事実だろ? 象なら象らしくパオーンって吠えてみたらどうだ?」
立て続けの連撃を躱しながら、おちょくってみる。
「楽には死なさんぞ! いたぶり殺した後で
「怖い怖い。
こんな洒落でもジョニーさんなら笑ってくれるんだろうけど。
オレは連撃を捌きながらテレパス通信を飛ばす。
(トンカチ、見とけよ。コイツの闘法はおまえの参考になるからな。)
(ウッス!大兄貴は余裕なんスね。)
見た目ほど余裕があるワケじゃないがな。だがコイツよりパワフルで速い連撃は、もう経験済みだ。
アビー姉さんに比べれば一枚も二枚も落ちる攻撃が怖いモンかよ!
五の太刀、啄木鳥で攻撃を逸らせ、返しの斬撃をいれる。
浅くヒットした斬撃はD・Dの胸を切り裂き、鮮血をほとばしらせた。D・Dは後退し、距離を取る。
「……やるな。そろそろ本気で相手をしてやろう。」
D・Dは腰に吊り下げていた
身を
!!……後方から風切り音!
オレは慌てて側転してD・Dから離れた。
弧を描いて戻ってきた投擲用戦槌がD・Dのグローブみたいな手に収まる。
「……脳波誘導武器か。かなりの精度、しかもクソ重い戦槌でその芸当が可能とはな。」
ジェット噴射機能付きの投擲用戦槌か。だが投降しようとした将校を殺すのに使ったのはマズかったな。
事前に見てなきゃ、ちょいとヤバかった。
「一つなら躱せたようだが、二つならどうかな?」
D・Dは二つの投擲用戦槌を投げてから、ダッシュしてくる!
前方からD・D、左右から投擲用戦槌の挟み撃ち!これがコイツの必殺パターンか!
下がって躱すのが定石だが、コイツはそれを狙ってる。オレを兵舎の壁際に追い詰めたいだろうからな。
ならば!……左の戦槌は脇差しを抜いて受け、右の戦槌は刀で受けると見せておいて……
投擲用戦槌で両腕を使わせたところで自分が仕留める、それがこの戦法の
だから、右の戦槌はあえて受けない!歯を食いしばれ!
脇腹に戦槌が当たる寸前に
だが衝撃を殺しきれず、鈍い痛みが脇腹を襲う。すぐさまアドレナリンコントロールで痛みを殺し、神威兵装(オーバードライブ)|システムを起動!
右脇腹に戦槌がヒットしても怯まず、超速で反撃されるとは思わなかったろ?
渾身の力で振り抜かれた宝刀は、D・Dの丸太のような右腕を切り落としていた。
「ぐあぁぁぁ!きっさまぁ!」
残った左腕でオレの首を締めにくるが、脇差しを突き刺して力ずくで引き剥がす。
神威兵装モードのオレは、パワーでもおまえより上なんだぜ!
パワー負けするなんて思いもよらなかったんだろう、動転したD・Dは反応が遅れた。
その隙を見逃してやるほどオレはお人好しじゃない。
D・Dが念真障壁を展開する前に、オレの刀が分厚い胸板を刺し貫いていた。
戦象と呼ばれた男は信じられないって顔で、吐血しながら負け台詞も吐き出す。
「……そ、そん…な………バカな。………オレ様が……こんな……チビに……負け…た……だとぅ………」
オレが土手っ腹を蹴って刀を引き抜くと大量の鮮血が飛び散り、戦象の巨体は仰向けに倒れた。
「最初の敗北が最後の敗北、戦場じゃよくあるコトだ。あばよ、D・D。」
……もう聞こえてちゃいないか。
異名兵士が戦意の拠り所だった残存兵達は、その拠り所を失い、降伏勧告に応じた。
オレ達は残存兵を拘束し、作戦終了時刻通りに迎えに来たヘリの
切り落とされた戦象の右腕を筆代わりに使い、書道が趣味のラセンさんが兵舎の壁にメッセージを残す。
待ってるぜ、死神、と。
任務を終えてヘリに乗り込む前にマリカさんに声をかけられる。
「ご苦労だった。今回のMVPはカナタだな。」
「MVPはマリカさんでしょう? 単独潜入で通信施設を破壊し、基地司令も討ち取った。」
「警戒網がザルの基地に忍び込んで、戦闘能力皆無の雑魚司令を討ち取ったなんざ大した功績じゃない。肋は大丈夫か?」
「少し痛みますが折れてはいません。すぐ治るでしょう。」
「だったら胸を張んな。今作戦でカナタは異名兵士「戦象」を討ち取り、最多殺傷数も記録した。ガーデンに帰投したら昇進させる。」
は? また昇進?
「早すぎますって。どんだけ駆け足で階段を登らせる気ですか!」
「シオンの為だ。諦めろ。」
「……ああ、そっか。隊長のオレが少尉にならないと、副長のシオンは准尉に昇進出来ないんだ。」
「そういう事だ。せっかく将校カリキュラムに合格したのに可哀想だろ?」
「……仕方ありませんね。」
「シケた顔すんな。昇進するんだから嬉しそうな顔をしたらどうなんだい?」
自分を棚に上げてよく言いますよ。
「聞いた話じゃ佐官級会議に出たくないなんて理由で、昇進を断ってる人達がいるらしいですね?」
「全員ヘリに乗り込んだな!中継基地へ向かうよ!」
マリカさんは強権を発動させて会話を打ち切った。ずっこいなぁ。
数時間後に中継基地であるブロッサムベリーに到着し、休息を取る。
捕らえた捕虜達を営倉に移し、食堂でガーデンとは比較にならない不味いご飯を頂く。
皆が黙々とオートミールをかき込んでいる。不味いメシは舌を鈍化させるらしく、会話も弾まない。
毒を吐くのがライフワークで、神の舌を持つ少女は、憤懣やるかたない顔で文句を言う。
「……クッソ不味いわね。言わせてもらえばドブ川の水で……」
「言わなくていいわ。みんな我慢してるのよ。」
「カナタ、姉さんから聞いたんだけど昇進するんだって?」
「ああ、ナツメも将校カリキュラムを受けたらどうだ? でないといつまでたっても曹長だぞ?」
「別に昇進したくないからいい。」
ナツメは優秀な兵士だけど、指揮官タイプじゃないからいいか。
ランボーみたいに一人の軍隊ってのがベストポジションなのは間違いないんだから。
「あら、そうなの。これでいよいよ
リリス、おまえはオレが昇進する度に階級をネタにするよな?
「オレを焼き殺す気か!少尉だ、少尉!」
「私の愛の炎で焼死するかもね。言っとくけど、浮気したら嫉妬の炎で焼き殺すから。」
どっちみち焼死する運命じゃねえか!……勘弁してくれよ。
「リリスはどこでも平常運転だなぁ。」 「カナタも大変ね。」
オートミールの載ったトレイを持って、シュリとホタルのバカップルがやってきた。
「聞いてくれよ、オレの苦労を……」
「マリカ様から聞いたよ。昇進だってね。とうとう階級でも並ばれちゃったなぁ。」
「それだけじゃなくて中隊長に就任するみたいよ。」
「……それは聞いてない。」
ホタルはオートミールを一口食べて顔をしかめた。やはりお口に合わないらしい。
「さっきマリカ様が作戦終了報告を司令にあげたの。それで指揮官適正に問題がないなら、カナタに中隊を指揮させろって司令が仰ってたから、決まりなんじゃない?」
「……オレの意志はいずこに?」
「不満なら司令に刃向かってみれば?」
そんな怖いコト出来るか!それにホタル、なんでそんなに嬉しそうなんだよ!
「カナタを別の隊の中隊長に任命するって事なのかい?」
シュリの問いにホタルは首を振る。
「司令はコンマ中隊は
それで逃げてきたのかよ。
「助っ人部隊の助っ人要員とか、便利屋扱いにも程があるわねえ。」
リリスがスプーンを放り投げて椅子に反っくり返る。
「……カナタはいい男だから仕方ない。」
おっ、ナツメさん。嬉しいコト言ってくれるじゃない!
「……ナツメ、いい男はおっぱいおっぱいなんて言わないわ。」
そりゃホタルの
「……カナタはいい男なの!」
こ、こんなにもナツメに庇ってもらえるだなんて!今日はなんていい日なんだ!
「……どうでも、が付くけど……」
………どうでも……いい男? どうでもいい男ってコトかぁ!
「ナツメ!オレの感動を返せ!この感動泥棒め!」
ナツメは悪戯っぽく笑って舌を出し、脱兎の如く逃げ出した。
「クスクス、捕まえてみればぁ?」
「待ちやがれ!この悪戯天使がぁ!」
いくら可愛くても許さねえぞ!とっ捕まえてお尻ペンペンの刑だ!
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