争奪編35話 蹂躙する狼



刀を抜いたオレにゴロツキ共が続き、戦闘の幕が上がる。


ウ~ウ~とサイレンが鳴り、夜の荒野をサーチライトが照らし出す。


「兄貴!見張り塔に狙撃手がいる!」


「構うな!じきに死ぬ!」


オレが言い終える前に、額を撃ち抜かれた狙撃手は見張り塔から転落した。


撃ち上げで立射だろうが、シオンの魔弾からは逃れられない。


シオンは次々とカウンタースナイプを決め、オレ達の前進を援護する。


そして鉄条網を刀で切り裂き、基地に侵入したオレ達の前に敵兵が一個中隊、立ち塞がった。


「隊長!敵はこちらの倍はいます!どうしますか!」


ノゾミの緊張した声、無理ないか。初任務だもんな。


「慌てんな、1対2の戦力差なんてオレらにはないも同然。むしろチョロすぎてアクビが出そうだ。」


「でも!」


「ウォッカの後ろに隠れてろ!撃ってくるぞ!」


敵の一斉掃射、だがマグナムスチールの分厚い盾を構えたウォッカがノゾミを守る。


オレは念真障壁でマシンガンの弾丸を弾きながら前進、距離を詰める。


「殺すつもりで撃ってきた以上、覚悟はしてもらう!」


オレは視界に捉えた敵兵に容赦なく狼眼を喰らわせる。


精鋭とは程遠い敵兵達は、目や耳から血を吹き出しながら絶命していく。


20人からいた敵兵達のうち、生き残ったのは半分もいない。


「すっげえ!これが兄貴の狼眼か!俺もいいとこ見せねえとな!」


生き残りの敵兵達に向かって、リックをトップにコンマツー小隊が突進する。


完全に浮き足立った兵士など、異名兵士ネームドソルジャーリックの敵ではない。


瞬く間にポールアームが血に染まり、次々と地面に倒れ伏していく。


ウスラとトンカチも蹂躙に加わり、後方から支援射撃を行ったノゾミもキルマークを記録した。


「逃げてんじゃねえ!それでもキンタマついてんのか!」


背中を向けて逃げようとした最後の兵士をウスラが切り伏せ、この戦闘はケリがついた。


「……フォローする必要もなかった。」 「同じくです!」


ナツメが退屈そうに腕を回し、リムセは下唇を尖らせる。


「ここからが本番だ。基地の連中に脳味噌があれば、地の利を生かして不意討ちアンブッシュをかけてくるぞ。全員、油断するな!」


オレが先頭に立って残敵の掃討を開始する。


反対側から奇襲をかけたラセンさんからリリス経由でテレパス通信が入る。


念真力オバケのリリスがいれば、こういう芸当も可能なのだ。


(カナタか。こっちは一個中隊を壊滅させた。そっちの状況は?)


(同じです。残敵の掃討を開始しました。)


(わかった。予定通り基地中央で合流しよう。不意打ちに注意しろ。)


(了解。警戒してるオレを不意打ちするのは無理なんですけどね。)


(頼もしいな。幸運を祈る。)


不意打ちされない自信があるのは強がりじゃない。


自信の根拠は使えないと思っていた零式の基本機能、バイオセンサーだ。


こういう短期決戦なら、敵兵が潜んでいそうな場所でセンサーを使えばいい。


念真力をバカ食いするが、この任務は短期決戦で、任務完了すれば基地に帰投するだけ。だったらなんの問題もない。


オレは危険そうな場所でバイオセンサーを使って敵兵を察知し、仲間と協力して各個撃破していく。


……この壁の向こうに3人、待ち構えているな。オレはハンドサインでリックとナツメを呼び寄せ、得物を構えさせる。オレも含めた3人で構えた得物、そして位置を微調整させた。


オレが頷くと同時に3人で攻撃、得物は壁を貫通し、三つの悲鳴が上がった。


ゆっくり壁から引き抜いた愛刀の先端は鮮血に染まっていた。


「隊長は気配で敵のいる位置がわかるんですね。すごいです!」


シオンが過大評価して褒めてくれるが、オレの実力じゃない。装備の力なんだな、これが。


「そうだって言いたいんだけどね。科学の力なんだよ、残念ながら。」


おっと、またラセンさんから通信だ。


(カナタ、掃討は終わったか?)


(ええ、後は中央兵舎だけですね。)


(生き残りは中央兵舎に集結し、立て籠もってる。)


(ここまで予定通りだと張り合いがないですね。逃亡兵はどうなりました?)


(数名が基地外に逃亡したがシュリ達が始末した。)


(了解、中央兵舎に向かいます。)


さて、オーラスだな。




中央兵舎近くの遮蔽物に隠れ、ラセン隊は散開配置している。


オレ達が近づくと中央兵舎からまばらな射撃が飛んできたが、ウォッカがガードし、オレ達はラセンさんがいる大型車両の陰に到達した。


「ご苦労、俺とカナタで最初に二個中隊潰した。その後9人始末。カナタはどうだ?」


「11人ですね。ってコトは立て籠もってるのは兵士20人と整備兵と給仕兵士で20人、合計40人ですか。基地司令は?」


「マリカ様が始末した。どう出てくるかな、立て籠もってる連中は。」


「降伏勧告はしたんですか?」


「一応な。だが返答がない。」


「……妙だな。基地司令は死んだ。だったら降伏してきそうなモンだが。なにかすがよすがでもあるのかな?」


「増援待ちって事かもしれんぞ。いや、通信施設を壊され、ここは辺境。増援のセンはないな。降伏か抗戦か、話し合っているがまとまらないといったところだろう。」


「ですね。おっ、入り口を見てください。白旗上げたヤツが出て……」


白旗を上げた将校服を着た若者は入り口から出てきた瞬間に、トマトみたいに頭が破裂した。


首ナシ死体がゆっくり倒れ、将校の頭を粉砕した凶器、宙を舞った投擲用戦槌スローイングハンマーが吸い込まれるように屋内へ戻っていく。


「なるほど、理由がわかりましたね。」


「そうだな。死んだ将校は降伏したかった。だが一人デキるヤツがいて、残存兵を掌握してる。」


「おおかた腕は立つが素行に問題があって、辺境基地に飛ばされてきてたんでしょう。」


「そんなところだろうな。さて、どうする剣狼カナタ?」


「問答無用で将校を殺すヤツだ。ヒトをヒトとも思ってないでしょう。そういう輩はプライドが高いのが相場。挑発すれば一騎打ちに応じるかもしれません。」


「それにはエサも必要じゃないか?」


「猛獣を罠にかけるのにエサは必要でしょう。」


「任せていいか?」


「安んじてお任せあれ。」


オレがそう答えるとラセンさんは部隊を下がらせた。


部隊が下がると同時にマリカさんからのテレパス通信を受信する。


(カナタ、ラセンから報告を受けた。思うようにやってみな。ケツはアタイが拭ってやる。)


(了解、負けそうになったら助けてください。)


(情けない事を言うんじゃない。虚勢でも問題ありませんぐらい言ってみせろ。)


(相手がどんなヤツかわかりませんからね。保険は掛けておきたいんです。)


慎重屋ビビリのオレは鉄板の保険を掛けてから、中央兵舎に一人で近づく。狙撃されたが首を捻って躱し、中に向かって呼びかける。


「無駄弾丸使いなさんな。そんなヘボい狙撃じゃオレは仕留められない。中にデキるヤツがいるんだろ? 出てこいよ、一騎打ちと洒落込もうぜ?」


オレがこいこいと手招きすると、中から野太い声が返ってきた。


「一騎打ちに応じるメリットがねえだろ、ドテカボチャ!」


確かにパンプキンヘッドの仮装をしてるがね。


「メリットを提供すればいいのか? じゃあご要望に応えてメリットを提供しよう。オレが奇襲部隊のリーダーでね、約束してやるよ。オレに勝ったら部隊は引き揚げさせる。指揮官のオレが倒されたんじゃ喧嘩にゃならねえ。これならコッチにもソッチにもメリットがあるだろ?」


「テメエが約束を守る保証がどこにある!」


話を聞く気はある、か。ここはおだてて話に乗らせよう。


「おまえも部隊のエースならわかりそうなもんだが? エースが倒された部隊がどうなるかってコトぐらいはな。」


「…………」


考えてる考えてる。おだてておだてて、最後に落としてやろう。頭に血を登らせてくれよ?


「オレを殺せばアンタは基地を救った救世主だ。さっきの手並みを見た感じじゃ、こんな辺境で燻ってる男じゃあるまい? 異名の一つや二つは持ってる兵士と見たんだがオレの見込み違いか?」


オレはポンと手を打ち、大袈裟なゼスチャーで演技を続ける。


「ああ!悪かった悪かった。怖いんだよな? 基地を半壊状態に追い込んだオレが怖いってのはわかる、よ~くわかるよ。そんなタマ無し野郎と一騎打ちなんざしてもしょうがねえ。兵舎の中でガタガタ震えて縮こまってろ!ロケットランチャーの弾をありったけブチ込んで火葬してやるからよ!」


そう言ってオレが右手を上げて合図する振りをすると、入り口から巨大な戦槌をぶら下げた大柄な男が姿を見せた。


「お出ましか。名を聞いておこうか?」


「ディック・デイビス様だ。人呼んで「戦象エレファント」D・D。」


エレファントD・D? 異名兵士名鑑ソルジャーカタログで見たな。……確かレギオンの4番隊にいたハズだ。


「レギオン4番隊のD・Dか?」


「元、な。あんなクソ共の集まりには見切りをつけた。貴様は何者だ?」


見切りをつけた、ねえ。額面通りには受け取れねえな。


「オレはパンプキンマン、この世の悪を撲滅する為に天界から遣わされた正義超人だ。かかってこいよ、肥溜めからも弾かれた正真正銘のクソ野郎。」


「ふざけやがって!カボチャみてえに頭をかち割ってやらぁ。」


狙撃手がいないコトを確認したD・Dは入り口からダッシュして、一直線に距離を詰めてくる。


前面に特化した念真障壁を展開、ダッシュしながら周囲も確認する、か。


人でなしでプライドも高いが、バカじゃないな。かなりの修羅場をくぐってるヤツだ。




楽な任務だと思ってたけど、やっぱすんなりと終わっちゃくれねえみたいだな。




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