争奪編33話 覚悟は出来てるな?
ブリーフィングの終わった大作戦室に、コンマワン、ツー小隊だけが残っていた。
オレが残るように言ったからだ。
「兄貴、まだブリーフィングがあんのかい?」
「ブリーフィングってワケじゃないが、一応聞いておくコトがある。リック、オレの命令でヒトが殺せるか?」
「たりめえだろ。俺は兵士なんだぜ。」
なに言ってんだとばかりにリックは鼻をこすって、そう答える。
「ウスラ、トンカチ、おまえらはどうだ?」
「リックさんと同じさ。」 「腕がなるッスよ!」
ウスラもトンカチも実戦を経験してる、問題ない。だが……
「……ノゾミは?」
「………やれます!」
迷いを断ち切るかのように、ノゾミは力強く宣言した。
「ノゾミ、おまえはオペレーターとしてガーデンに来た。なまじ戦えるモンだから実戦部隊に配属されちまったが、本当に殺せるか? 「戦える」コトと「殺せる」コトは全く違うんだぞ?」
「やれます!私は殺れる!信じてください!」
「わかった。これ以上聞くのはノゾミの決意を侮辱するコトになる。信じよう。」
「ありがとうございます!」
「ノゾミ、ヒトを殺したコトはあるか?」
「……ありません。でも殺れますから!」
「信じると言っただろ、疑ってるワケじゃない。人殺しのコツを教えておこうと思ってな。」
「……正義の為の戦いを人殺しと呼ぶのは違和感があります。」
違和感、か。同感だよ。
同盟軍の戦いはかつては正義だったかもしれんが……今の体たらくを正義と言われても違和感がある。
「戦場では正義なんざ信じるな。ンなモンはクソの役にも立ちゃしねえ。いいか、ノゾミ。戦場で信じていいのは
「イエッサー!」
「殺すコツは簡単だ。躊躇うな、殺らなきゃ殺られる。シンプルだろ?」
「はい!躊躇いません!私と仲間の為に!」
オレはコンマワン、ツーの面子を見回した。皆、ノゾミの覚悟に納得したようだな。
確認の時間は済んだ。次はお楽しみの時間だ。
「じゃあ皆で出撃前の景気づけに娯楽区画に繰り出すとしよう。」
「ひゃっほう!当然、気前のいい兄貴の奢りだよな!」
「気前がいいのはオレじゃない、太っ腹の司令から寸志を貰ってるのさ。司令から出されるオーダーは厳しいが、見返りも十分だ。ここでは戦果を上げて生き残りさえすれば、一財産築けるぜ?」
「夢がある話ッス!」 「ハイリスクハイリターンですかい。そうじゃなきゃな。」
ウスラとトンカチのモチベーションも上がったみたいだ。金の力は偉大なり。
「景気づけは若いのだけで楽しみな。オッサンは帰って寝るから。」
「ウォッカも行こ。仲間外れ、よくない。」
ナツメがウォッカのぶっとい腕を掴んだが、ウォッカは申し訳なさそうな顔で、
「……スマン。実は今日は飲み屋の姉ちゃんの誕生日で……」
気を使って損したとばかりにナツメは背伸びして、スケベ中年の額に渾身のデコピンをかました。
「リムセがウォッカのプレゼント選びに付き合ってあげるのです!」
「いいのか? 女の子の意見は聞きたいとこだから、ありがたいんだがよ。」
「ど~せカナタ達は飲みに行くのです。飲めない飲み会なんてつまんないのです。」
リムセ、魂胆は見え透いてるぞ。飲酒に寛容なウォッカなら飲ませてくれる、そう思ってるだろ。
ま、今夜は見逃してやるか。オレはウォッカのポケットにそっと寸志の札束を差し込んだ。
飲み屋の姉ちゃんに贈るプレゼントを買いに行った
「さて、コンマワン、ツー小隊対抗のボーリング大会といくか。負けた方には楽しい罰ゲームを用意してある。締めてかかれよ?」
「兄貴、4人の合計スコアで争うのかい?」
「いや、それぞれのチームでペアを組む。2チームの2ゲームのスコアの合計で勝負さ。チームワークが試されるぜ?」
「いいんッスか? コンマワンには
「そんぐらいのハンディがないと勝負になんないでしょ。かかってきなさい。」
親指を下に向けて挑発するリリスに、トンカチが親指で首をかき切る動作で応戦し、勝負は始まった。
コンマワンはオレとリリス、シオンとナツメがコンビ。
コンマツーはリックとノゾミ、ウスラとトンカチがコンビだ。
勝負は白熱した。オレがあらかたピンを倒し、器用なリリスがスペアメイクする。
力がないからストライクを取れないリリスだが、持ち前の器用さで安定感は抜群だ。
シオン、ナツメチームも戦略は同じ、パワーのあるシオンがストライクを狙い、器用なナツメがスペアメイクする。
コンマツーのリック、ノゾミコンビも同じ戦略だった。ノゾミはやっぱり器用で、リックを上手にフォローしてる。
意外な伏兵だったのがウスラだ。カーブボールが投げられる手練れで、ストライクを連発する。だが相方のトンカチが穴でスペアメイクすら出来ない。
「トンカチ、また足を引っ張んのかよ!いくら俺でも全部ストライクは無理なんだ。スペアメイクぐらいしやがれ!」
「うるせえッス!取りこぼしをチマチマ拾うなんて性に合わないッス!俺が最初に投げて、ストライクを取ってやるッスよ!」
「スペアメイクもろくに出来ねえウスノロが何言ってんだ!おまえが最初にガーターをやらかしたら、オレが全部倒してもスペアになっちまうだろ!」
仲間割れの窮地に立ち上がったのは小隊長のリックだった。
俺の背中を見ていろとばかりにストライクを量産し、奮戦する。
リックの奮闘の甲斐があって、僅差と言えど1ゲーム目はコンマツーが総合点でリードしていた。
「さすがリックさんは頼りになるッス!」 「ああ、トンカチとは大違いだ。」
掴み合いを始めようとするウスラトンカチコンビの間にノゾミが割って入る。
「仲間割れはヤメてください!リードは僅差なんです!後半のゲームでひっくり返されないよう奮起しましょう!はい、円陣組んで!」
スポ根マンガには絶対いるよな。頑張り系の女子マネージャーが。
「コンマツー、ファイ!!」×4
体育会系らしく円陣を組んで掛け声を上げるコンマツー小隊を冷ややかな目で眺めるリリス。
「准尉、そろそろかしらね?」
「そうだな。気力じゃどうにもならない戦力差を思い知らせてやるとしようか。」
「ヘッ、兄貴。今まで手を抜いたとでも言いたいのかい?」
「それなりに投げ込んでる俺の目からみても、隊長はパワーと器用さでなんとかしてるだけ。ボーリングそのものは、さほどやっちゃいないでしょう?」
「いい観察眼だ、ウスラ。だが技量を上げるなんて言ってない。」
オレがパチンと指を鳴らすと、ボーリング場のバイトが布をかけたワゴンを押しながら現れる。
オレはワゴンの傍に立ち、ドヤ顔で布を取り払った!
布の下に隠されていたのは真紅と漆黒、二色のマイボールだった。
「マ、マイボールだとぉ!い、いつの間に!」
驚愕のあまり額から大粒の汗を流したウスラが戦慄する。
「マイボールがどうしたって言うんだ!大事なのは腕よ、腕!」
リックは腕をまくって力こぶを誇示し、持ち前の負けん気で仲間達を鼓舞する。
「そうです!卑怯な手になんか屈しません!」 「逆に燃えてきたッスよ!」
フッ、これだからド素人は困るな。戦局が決定的に変わったコトを理解してない。
……いや、経験者のウスラだけは分かっているようだな。
「フフフ、ウスラだけはわかってるみたいね、准尉。」
リリスはボールとお揃いの漆黒のリストガードを装着しながら悪い顔で笑う。
「そのようだな。リック達は
オレも悪い顔で微笑み、真紅のリストガードを装着した。
「知らぬが仏、そんな諺もあったわね。」
第二の
「な、なんだかとってもバカにされてます!ウスラさん、マイボールだとそんなに違うものなんですか?」
ノゾミの問いに諦観の笑みを浮かべたウスラが自嘲気味に答える。
「……やればわかる。俺とした事が迂闊だった。よく見りゃ隊長とリリスは貸しシューズを履いてねえ。マイシューズを履いてる時点で罠に気付くべきだったんだ……」
フッ、抜かったな、ウスラよ。気付いたところでもう遅いわ!
「ちっきしょう!兄貴のストライク率が跳ね上がったぞ!マイボールに変えただけで、ここまで違うのか!」
「リックさん、ハウスボールとマイボールは材質が違うんだ。材質が違えば反発係数も変わる。反発係数が上がればストライク率も上がる。当然の帰結さ。」
焦るリックにウスラは淡々と答えた。
「たまにミスってもリリスちゃんのスペアメイク率も上がってます!って言うか100%成功させてますよぉ!」
「マイボールは指穴を開ける位置も深さもオーダーメイド、だから正確性も増す。それも当然の帰結。」
悲鳴を上げるノゾミに、また淡々と答えるウスラ。……心が折れたか。
「隊長、お遊びに大人げなくありませんか?」
気の毒になってきたらしいシオンが、気遣わしげな顔で控え目に非難してくる。
「なにを言う。たかがお遊び、されどお遊び。いい大人が大人げない? 違うね、いい大人だからこそ、お遊びに全力なのさ!」
シャキーンとキメ顔でキメポーズをキメるオレに、ボソッとツッコミが入る。
「……カナタ、カッコつけてるつもりなんだろうけど、カッコよくないから。むしろカッコ悪いし。」
ナツメも理解出来ないか。フッ、勝利とは孤独なモンだぜ。
「気持ちいいわねえ。圧倒的戦力差で弱者を蹂躙する快感。やみつきになりそう。」
やはりオレの理解者はリリスのようだな。
こうして道具の差でコンマワンチームはコンマツーチームを下し、勝利した。
「……むなしい勝利だわ。」
憮然とした表情で呟くシオン、だがオレは知っている。
シオンがゲームの途中で、ちゃっかりマイボールのカタログをポケットに入れたのを。
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