争奪編30話 コンマツー小隊VS剣狼



昨夜は鬼女と化したシオンに一時間もお説教されてしまった。


お説教よりもずっと正座してたのがキツかったなぁ。


足を崩そうとしたら怖い顔で睨まれたんで、崩そうにも崩せなかったのだ。


そんなオレは唯一のオアシスである食堂で今日の日替わり定食、鯛飯とニシン蕎麦をいただきながら、小隊最年長のウォッカにグチをこぼしてみた。


「そりゃカナタが悪い。シオンは尽くしたがりだが、ヤキモチ焼きでもある。シオンの前で他の女とイチャつけば、下手すりゃ命で対価を払うハメになるぜ?」


超特大ビーフボウルをかき込みながら、コンマワンのまとめ役であるウォッカはそうのたまった。


「オレの周りはなんで怖い女ばっかりなんだろう? いや、女ってのはすべからく怖いモンなのかもしれんけどさ。」


「リムセとノゾミはそうでもないだろ?」


「そうかねえ。怖い顔を隠してるダケなのかもよ? そのノゾミだけど、どんな感じだ?」


オレがアタッカータイプのリックとウスラトンカチの教練をやって、シューターのノゾミはウォッカとシオンに任せてみたのだ。


シオンはライフル、ウォッカはサブマシンガンの扱いに長けているから適任のハズだよな。


「まあまあだ。ハンドガンからライフルまで、どれもそこそこ扱える。これと言って特筆すべき得意火器がないのは問題だが。」


よく言えばプチ万能、悪く言えば器用貧乏。キワミさんの言った通りか。


「視界の広さはありそうか?」


「ある方だ。だがシオンほどじゃない。狙撃手は難しいと思うぜ。」


シオンと比べちゃ気の毒だよ。シオンはガーデン屈指の狙撃手なんだから。


「なら強みを活かさせる方針でいこう。」


「カナタ、なんでも出来るがこれと言った強みがないってのが問題なんじゃないか。」


「いや、なんでも出来る、は強みなんだ。戦闘とは相対的なモノ、相手より上回る部分で勝負すればいいだけの話さ。なんでも出来る器用さは、相手によってやり方を変えられるって強み、オレが昼からそのあたりを教えておこう。」


「カナタは前向きな悲観主義者だな。」


矛盾してんぞ、その言葉。……そうでもないか。最悪の結果を避けながら、最良の結果を求めるってんなら、そういう気質でいいはずだ。


「10人の優等生と、10人のキワモノが戦うとする。普通に考えれば優等生が有利なように思えるが、戦場は普通じゃない。キワモノ共が互いのピーキーな個性を活かすすべを心得ていれば、キワモノが勝つんだ。さらにいいのはキワモノのフォローが出来る万能型の優等生が混じってるコト、シオンとノゾミにはそれを期待したいんだ。」


「キワモノの自覚があるのはいい事だ。だがカナタ自身は万能型を目指すんだよ。指揮官は万能型のがいいに決まってんだから。一芸バカでもトゼンぐらい突出すればそれなりにやってけんだけどね。」


いつの間にか傍に来ていたマリカさんが、定食のトレイをテーブルに置きながらそう言った。


「やってみますよ。ブリーフィングは19:00からでしたっけ?」


「カナタは15:00に小作戦室に来い。今後は作戦検討にも加わってもらう。リリスもだ。」


「イエス、マム。」


15:00から作戦検討ならあまり時間がない。コンマツーが実戦で使えるかどうか試しておこう。




屋外演習場ではリックにウスラトンカチ、それにノゾミを加えたコンマツー小隊が待機していた。


オレの姿を見ると全員が姿勢を正し、敬礼する。


「コンマツー、集合しております、サー!」


「リック、固い物言いはしなくていい。さてノゾミとちゃんと顔を合わせるのは初めてだったな。」


「イエッサー。仲居竹ノゾミ伍長です。よろしくお願いします!」


姉妹だけあって、仲居竹極バイトマスターによく似た顔立ちをしてる。


「教練はシオンとウォッカに任せていたが、器用なのが取り柄なようだな?」


「軍学校では万能の天才扱いだったみたいだけど、薔薇園ここではただの器用貧乏よ、と副長シオンさんに釘を刺されました。」


シオンらしい釘の刺し方だな。だが事実でもある。


「ただの器用貧乏で終わるか、部隊に欠かせないキープレイヤーになるかはノゾミ次第だ。リック、宿題は出来てるな?」


「おうよ!俺ら四人で兄貴を倒せってんだろ? やってやらぁ!」


「なら始めるか。距離20m、遭遇戦だ。」


オレがそう言うとコンマツーは距離を取り、隊形を整え合図を待つ。




「準備オーケー。兄貴、開始の合図をしてくれ。」


「もう始まってる。手並みを見せてもらおう。」


リックがトップ、左右をウスラトンカチが固め、後方にノゾミか。


予想通りだがそれでいい。こんなところで奇をてらってちゃ話にならない。


「いくぜぇ!」


ダッシュで距離を詰め、ポールアームで連続突きを繰り出してくるリック。


オレは右、左、とステップを踏んで穂先を躱す。


リックがオレを引き付けてる間に、右にソードブレイカーを構えたウスラ、左にウォーハンマーを構えたトンカチが回り込んでくる。


なかなかいいぞ。研究所に行ってる間に成長したようだ。


ここはあえて罠に嵌まってやるか。さあ包囲は完成したぞ、どう出る?


やはり三位一体の同時攻撃か!……だが、甘い!完全な同時攻撃になってないぞ!


オレは攻撃速度の遅いトンカチのウォーハンマーをかい潜って下腹に蹴りを入れ、包囲を崩す。


追撃してきたウスラのソードブレイカーは刀で受け、リックの穂先は小脇で挟んで、狼眼で反撃する。


「ぐぅ!ノゾミ!」


「お任せ!」


サイドに回っていたノゾミが中距離からマシンガンを浴びせようとした瞬間に、オレは小脇に挟んだポールアームごとリックを振り回して盾にしてやった。


「そんなぁ!」 「あいててて!」 「ノゾミ!味方リックさんを撃ってどうすんだ!」


盾にされたリックはペイント弾の雨を背中に喰らって、一丁上がり。


動揺したウスラの脛を払って二丁上がり、と。


転倒から立ちあがって攻撃してきたトンカチを1対1ワンオンワンで仕留め、ハットトリック完成。友軍誤射フレンドリーファイアをやらかしたノゾミは立ちすくんで動けない、か。


「ゲームオーバーだ。それともオレと1対1をやってみるか、ノゾミ?」


「……いえ、やるまでもありません。」


うなだれたノゾミとは対照的に、リックは負けても意気軒昂だった。


「クッソォ、イケると思ったのによぉ。やっぱ兄貴は強えや。」


ペイント弾で背中が真っ赤に染まった軍服を脱ぎ捨て、地団太を踏んで口惜しがる。


「発想は悪くない。格上には連携で対応するのが正解だ。だがもっと連携に磨きをかけろ。特にウォーハンマーは攻撃速度が遅い。そのあたりを考えに入れてなかったのが敗因だ。」


「そっかぁ。同時に仕掛けりゃ同時攻撃になるってもんじゃないんだな。」


鉄灰色の髪をかきむしって反省するリック。うん、やっぱり隊長向きの性格してるぞ。


落ち込む前に反省し、次に活かす。生きてる限りは終わりじゃないって分かってるみたいだ。


「そういうコトだ。それとパワーを過信しすぎるな。体格で劣っていようと浸透率の高さで、おまえを上回るパワーの兵士は存在する。様子見の攻撃で相手の力量を観察しろ。仕掛けるのはそれからだ。」


真剣な表情で頷くリック。今はそのひたむきさがあれば合格だ。


「ウスラ、戦場ではプラン通りにいかないなんてザラにある。思惑が外れても動揺するな。どう立て直すかを考えるんだ。」


「イエッサー、ボス!」


「トンカチ、連携攻撃の時には必殺の威力なんざいらないぞ。必要なのは威力よりも鋭さ、仕留めるのはおまえでなくてもいいんだ。」


「イエッサー!大振りは控えるッス!」


「ノゾミ、射撃武器は引き金を引いたら止められない。もっと瞬間の判断を磨け。シオンならリックが振り回された瞬間に指を止めていたぞ。」


「はい!」


「まだある。友軍誤射をやらかしてショックなのはわかるが、竦んで動けなくなってどうする!後悔するのは後でやれ!生き残らなきゃ後悔も出来んぞ!」


「イエッサー!」


ノゾミの長所、相手を上回る点で勝負出来る点を認識させるのはまだ早いな。今後の課題にしておくべきだろう。


掛け算を覚えるのは、足し算引き算を覚えてからだ。


「19:00より大作戦室でブリーフィングがある!遅れずに集合しろ、解散!」


コンマツーの四人は敬礼し、演習場から去っていく。


「リックさん、俺、ハラが減ったッス!」 


「トンカチはすぐハラを減らすなぁ。よし、これから食堂で反省会な!」


「リックさん、トンカチは得物を変えた方がよかないか? コイツがトロいから負けたんだし。」


「うっせえッス!俺がハンマー好きなの知ってるっしょ!」


「トンカチさん、連携攻撃の時は短く持ってシャープに振ればいいと思うよ。」


「ノゾミちゃんはいい事言うッス!ケーキを奢っちゃうッスよ!」


「やった♪」


コンマツーもなかなかいいチームだ。即戦力になってくれるだろう。


さて、オレも小作戦室に行くか。どんな作戦かは知らないが、無茶振りにはもう慣れた。


無論、無茶振りでないにこしたコトはないんだが。




タイミング的に死神相手の陽動作戦かもしれない。だったら発案したオレは戦果を上げないとな。






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