争奪編10話 臨時党大会
「念真強度が伸び続けている件について、カナタの納豆菌はなんと言っている?」
「隠し通すのは無理だと言ってます、司令。」
「だろうな。だが公表するにせよ、限定的にしておくべきだろうな。」
「イスカ様、限定に意味がありますかな? 嘆かわしい話ですが、我が軍の情報管理体制では周知の事実になりかねませんぞ。」
「ああ、もうそこはやむを得ん。カナタ、おまえは嫌がるだろうが……」
「わかってます。一度は研究所に行かないといけませんね。問題は帰ってこれるかどうかですが………」
オレは念真強度が上昇する特異体質の唯一のサンプルだ。研究所に行ったはいいが、そのまま監禁される恐れがある。
「研究所には私も同行する。拘束も監禁も許しはせんから安心しろ。」
「なにもイスカ様が直々にお出向きにならずとも。ワシが同行すればよいのでは?」
「いや、上層部のバカ共が何をしでかすか分かったものではない。カナタはもうアスラ部隊の主戦力の一人だ。断じてモルモットになどさせん。」
ホントこういう時には司令は頼もしいよ。
「研究所行きの件は了解です。小隊編成を済ませ次第、日程を組んで下さい。」
「わかった。カナタは今日付で准尉に昇進、これが新しい階級章だ。」
例によってぞんざいに階級章を投げ渡される。
「どうも。これでオレも将校ですか。」
「将校になった以上は将校会議に出席せねばならなくなるぞ。アスラ部隊ではほとんど行われていないがな。」
「佐官になったら佐官級会議もありそうですね。」
「あるさ。だから皆、佐官になりたがらんのだ。困った連中だよ、まったく。」
「はい? マリカさん達が大尉なのって会議がイヤだからなんですか!?」
「ああ。他の部隊の教練に行って、偉いさんと会議をするのをイヤがってな。カナタもそのクチになりそうだが。」
まあガーデンでは昇進するより戦果を上げた方がよっぽど金になるしなぁ。
「オレも会議は嫌いですよ。意味のない会議は特にね。」
「業績の上がらん会社ほど会議の回数は多いらしいぞ。下がってよし。」
オレは敬礼して書斎から退出した。
司令室を後にし、他の雑用や訓練を済ませた頃には、もう日がずいぶん傾いてきていた。
そろそろ部屋に帰るか。
兵舎棟の649号室から
昨夜は我が家の定番、リリス特製うるカレーだった。
やっぱりというか、しれっと顔のラセンさんも食べに来ちゃったけど。
「ただいま~。今日の晩メシはなにかなぁ?」
「回鍋肉と手作り餃子。お酒は老酒を用意してみたわ。あ、もちろん餃子にはビールだろうけど。」
どこまで出来たコなんでしょ!これで10歳なんですぜ!
「ひゃっほ~!餃子だ餃子だ、回鍋肉だ~♪」
「はいはい、子供みたいにはしゃがないの。もうすぐ出来上がるから、先にシャワーでも浴びてきたら?」
オレはルンタッタとスキップしながらバスルームでシャワーを浴びる。
着替えて部屋に戻ると、卓袱台の上には食のパラダイスが広がっていた!
「おおっ!焼きだけじゃなく揚げ餃子と水餃子もある!」
「バリエーションはつけないとね。さ、晩ご飯にしましょ。」
オレはバリエーションに富んだ餃子でビールを飲み、回鍋肉で老酒も楽しむ。
「あんまり飲み過ぎない方がいいんじゃない? 今夜は「おっぱいマニアフェス」があるんでしょ?」
うぐっ!餃子が喉に詰まったぜ。
「………なんで知ってんの?」
「私に秘密を持とうなんて10万光年早いわよ。」
「リリスさん、光年は……」
「時間じゃなくて距離の単位でしょ、知ってるわ。准尉に合わせて会話のレベルを落としたつもりなんだけど、落としすぎたみたいね。原始人よりちょい上のレベルって合わせにくいわねえ。」
「だれが原始人だ。だが知られていようが、止められようが、臨時党大会にオレは行く。行かねばならんのだ!」
「別に止めないわよ。バカが集まってバカな事をするのにマトモに関わり合うなんて、それこそバカみたいでしょ?」
至極ごもっともな意見です。
22:00時までもう少し。オレは部屋を出て強行偵察任務のマニュアル通り、抜き足、差し足、忍び足で08区画1番倉庫の裏口に到達する。
そして裏口のドアを軽くノックすると、中から低い声で問いかけられた。
「……陥没乳首とはなんぞや?」
「巨乳にのみ許されし特権。レア乳首の極み。」
オレが淀みなく答えると、静かにドアが開かれる。
倉庫の中にはかなりの数の同志達がいた。その数、50は下るまい。
世におっぱいの信奉者は多しといえど、ここまで勢力を伸張させていたとは!
同志アクセルのスカウティング技術は本物だぜ。
「同志カナタ、よく来たな。」
「同志アクセル!これだけの党員がいれば……おっぱい革新党は天下を取れますよ!」
「おっぱいの力で世界を変える、我々の志はまだ道半ば。これは始まりに過ぎない………」
カッケー!マジでカッコイイです、同志アクセル!
「さあ同志、このマスクを装着するのだ。」
オレは同志アクセルに宗十郎頭巾、俗に言うイカ頭巾を手渡された。
時代劇の悪徳奉行御用達のあの頭巾だ。
「なぜ頭巾を?」
「この場は俗世の地位や階級に左右されず、おっぱいの探求を極める場。忌憚なくおっぱい談義に興じ、花咲かせるには頭巾を着用した方が良い。」
「なるほど!おっぱいの前には皆平等!それでこそおっぱい革新党であります!」
「党であるからには一応役職は存在するが、あくまでおっぱい道を極めんが為の世話役に過ぎない。その役職を今夜決めよう。ジークおっぱい!」
「ジークおっぱい!」
同志アクセルはコンテナの上に立ち、演説を始める。
「同志諸君!よくぞ集ってくれた。今夜は全党員を召集した初の党大会である!ジークおっぱい!!」
「ジークおっぱい!!」 「おっぱいに栄光あれ!!」 「凜誠なにするものぞ!!」
イカ頭巾を被った党員達が同志アクセルに呼応し、雄叫びを上げる。
「このおっぱい革新党は俺が暫定党首を勤めてきたが、今宵、正式な党首を決めようと思う!我こそと思う者はあるか!」
誰も答えない。そう、皆わかっているのだ。
栄えあるおっぱい革新党の初代党首に誰が相応しいかは、自明の理であると。
「では同志達よ!誰がおっぱい革新党の初代党首に相応しいだろうか?」
「同志アクセル!!」
イカ頭巾達は一斉に声を上げ、拍手が巻き起こる。
同志アクセルは壇上で大きく頷き、右腕を胸の前で水平に構える。
「満場一致で推された以上、不肖の身ながら党首を勤めてさせて頂こう!党首として同志諸君に告ぐ。汝、おっぱいを愛せ!おっぱい革新党員に必要な資質はそれのみである!」
歓声と拍手とクラッカーで祝福され、ここに初代おっぱい革新党党首が誕生した。
「では党首として幹事長を任命する。同志カナタ、壇上へ!」
ええ!オレが幹事長!? いくら結党メンバーでも力不足じゃないかなぁ?
いや、若輩の身であろうと、おっぱいを愛する気持ちが本物であればいいのだ!
オレは決意を胸にコンテナによじ登る。
「同志カナタは俺と共におっぱい革新党を結成した真のおっぱいマニア、資質に不足はない!幹事長、挨拶を。」
「指名を受け、幹事長を勤めさせて頂きます!みなさん、おっぱいは世界を救います。さぁ、心ゆくまでおっぱいを
こうして全党員を集めた
党員達は秘蔵のコレクションを見せ合いながら、おっぱい談義に花を咲かせる。
コレクションのトレードも盛んに行われているようだ。
大型スクリーンに各々が持ってきた秘蔵の映像などが写しだされ、倉庫内は熱狂に包まれる。
持参してきたキャンギャルの映像は好評を博し、オレは幹事長として大いに面目を施せた。
記念すべき船出の日だが、すでに火種が見え隠れし始めている。
当たり前だが党員達にも好みがあるのだ。大きく分類すれば巨乳派と貧乳派に二分出来るが、形状やシチュエーションなどで、さらに細分化される。
どんな組織もある程度の規模になれば、派閥が出来るのは仕方がないのだ。
オレはというとガーデンに来た頃はロケットおっぱい至上主義者だったが現在は転向し、美しきおっぱい全てを愛するおっぱい博愛主義派にカテゴライズされる。
そうか、同志アクセルがオレを幹事長に任命したのは、オレが巨乳派でも貧乳派でもないからってのもあるな。
党を仕切る幹事長が特定派閥に肩入れしたんじゃ、党は瓦解しちまう。
おっぱいが世界を救うその日まで、オレは党に無私の献身をせねばなるまい。
宴もたけなわとなってきた時に異変は起こった。
倉庫の上部通路で哨戒にあたっていたイカ頭巾が党員達に警告する!
「複数の人影が倉庫に接近中!」
もう嗅ぎ付けられたか! 凜誠め、やる!
「ブツを回収し、撤退準備!我々はここで終わる訳にはいかんのだ!」
同志アクセルの指示に従い、党員達は撤収準備を開始する!
倉庫の正面ゲートから
「凜誠局長、壬生シグレだ!ここで不埒な会合が行われている疑いがある!御用改めだ、ゲートを開けよ!」
くぅ、局長自らお出ましかよ!おっぱい革新党は波乱の船出だな。
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