争奪編11話 ウソから始まる恋もある



正面ゲートをこじ開けようとする凜誠と、そうはさせじと抵抗する党員達。


風紀を維持しようとする者達と、愛に生きようとする者達の真剣勝負が繰り広げられる。


………さすがは我らの宿敵凜誠、長くは持ちそうにないな。


だがブツを回収し、逃げにかかるまで時間を稼がねば!


「ゲートを破られるのは時間の問題ですね。ここはオレが……」


「いや、同志カナタは幹事長だ。検挙されんのはマズかろうよ。ここは俺に任せな。」


長槍を構えたイカ頭巾、同志バクラがゲート前に立った。


「俺も付き合おう。だが凜誠相手に近接戦となると、チト分が悪ィな。やるだけやってみっか。」


義手をカキンと鳴らして同志カーチスが同志バクラの隣に立つ。


「オイチャンは検挙されちまうとカカァが怖えなぁ。つーか、食堂が休業になっちまうよ。」


………磯吉さんも同志でしたか。確かにおマチさんは怖そうですね。


「幹事長は後顧に憂いがある同志達を連れて裏口から脱出しろ!だが凜誠の事だ、手勢を伏せてあんぞ!」


「同志バクラ達はどうやって離脱するんですか!」


「どうにでもするさ。………くるぞ!」


同志バクラの警告の直後に正面ゲートが破られ、シグレさんを先頭に凜誠の隊員達が倉庫内に踏み込んできた!


「来やがったな!ここは引き受けた!先に行け!」 


「任せました!ご武運を!」


オレは涙を堪えて同志達を率い、裏口から脱出を図る。


踏み込んできた凜誠の隊員達の前に、おっぱい革新党最強の男が仁王立ちになる。


おっぱいの為にかぶく男の前に歩み出るは、我らの宿敵凜誠、その局長である壬生シグレ!


「貴様バクラだな? やはりというか案の定というか………槍念和尚に代わって灸を据えてやろう!」


「やってみやがれ!やれるモンならな!」


「局長が手を汚すような下郎ではありません。ここは我々が!」


「乳の良さもわからんヒヨッコ共が俺をどうにかしようってのか? 笑わせんな!」


バクラさんは群がる隊員達を槍で薙ぎ払い、豪勇無双の暴れっぷりを見せる!


ラチがあかないと見たシグレさんが一騎打ちでバクラさんを仕留めにかかった!


シグレさんは鏡水次元流を極めた女剣客、だがバクラさんも鬼道院流豪槍術を極めた豪の者、互いに譲らず火花を散らす。


「加勢するぜ!」


同志の危機を救うべく、カーチスさんがバクラさんの援護に回り、2対1でシグレさんを押さえ込みに回った。


シグレさんが危うしと見たアブミさんは助太刀に回るのでなく……上着に手をかけ、かなりキワドイところまで胸をはだけた!


「うひょっ!いいモン持ってんじゃ……」  「ヒュウ♪ アブミって着痩せするタイプ……」


「隙あり!とりゃあ!!せい!!」


シグレさんの振り下ろしの一撃がバクラさんの脳天を直撃、返す刀がカーチスさんの金的にも命中する!


「がふっ!お、おのれ………おっぱいをオトリに使うとは………卑怯なり………」


「はがっ!………キンタマはよせよ………キンタマは………」


前のめりに倒れたバクラさんとカーチスさんを踏んづけ、シグレさん達は一斉検挙を開始する。


バクラさんとカーチスさんの尊い自己犠牲で稼がれた時間を使い、オレ達は裏口から外へ出たのだが………


「お待ちしておりました。」


………くっ。やっぱり伏せ勢がいたか。だがアスナさんだけなのが、まだ救いだ。


たぶんヒサメさんは鳥玄の厨房、お子様のサクヤはもう寝ちゃったんだろうな。


「お覚悟!たぁ!」


アスナさんの鋭い剣先をオレは辛うじて受け止める。


こんだけ使えるのに支援に回りたいとか、よしましょうよ! 十分イケてますって!


後方から迫るシグレさんとアブミさん、前方にはアスナさんかよ。


まさに前門の虎、後門の狼だな。どうしよう?


よし、ここは………得意の囁き戦術に活路を見出そう!


オレはアスナさんと剣戟を交わしながら、そっと囁く。


「アスナさん、ラセンさんの事、どう思います?」


「何事があろうと泰然自若、立派なお方ですわ。こんなおバカな集まりにも参加されませんし。」


あれは泰然自若って言うより究極のマイペースって言うべきですけどね。


そしてラセンさんの愛の全てはカレーに捧げられている、だからおっぱいに興味がないだけです。


「ラセンさんがアスナさんの事を褒めてました。」


「えっ? ラセンさんが何か仰っていたのですか?」


「アスナさんはよく出来た女性だって。ひょっとして気があるのかも?」


「えっ!?」


前半はホントで、後半はウソだ。ウソの極意はウソで塗り固めるコトじゃない、ホントのコトにウソを混ぜ込むコトにある。


「隙あり!」


オレは棒立ちになったアスナさんの剣を弾き飛ばすコトに成功した!


あれ? 剣を弾かれてもアスナさんは棒立ちのまんまだぞ?


よくわかんないけど、とにかく好機到来! ズラかるのは今だ!


オレ達は棒立ちのアスナさんの脇をすり抜け、無事逃亡に成功した。


危ないトコだったぜ。




凜誠の魔の手を逃れたオレは、なんとか自室に戻って来た。


リリスさんは雪風を枕に読書していた手を止めて口を開いた。


「お帰り、バカな集会は楽しめた?」 「バウ!(おかえり!)」


「大いに。だが途中で凜誠のガサが入ってね。這々の体で脱出するハメになったよ。」


「もう嗅ぎ付けられたの。これから抗争が激しくなりそうね。」


だろうな。しかし弾圧に負けるワケにはいかない。ましてやオレは幹事長なんだし。


「摘発を逃れる方策を考えながら、一杯飲んで寝るよ。」


ベッドはリリスと雪風に取られちまってるし、ソファーで寝るか。


リリスがサイコキネシスで冷蔵庫からグラスと氷、ツマミのサラミソーセージをサイドテーブルに用意してくれる。


「サンキュ、気が効くね。」


オレはテーブルの上に置いてあるウィスキーをグラスに注ぎ、これから始まる抗争への対策を考えながら寝酒を飲むコトにした。




「バウバウ!」


雪風にパジャマを引っ張られて目を覚ます。


摘発を逃れる方法を考えていたら、いつの間にか眠ってしまったらしい。


「おはよう、雪風。ジョギングに行くけど、一緒にいくかい?」


「バウ!」


オレは朝に弱いリリスを起こさないように着替え、日課のジョギングに出掛ける。


ガーデンを1周してから中庭でストレッチや演武といったメニューをこなし、部屋に戻る。


自室の卓袱台の上にオレと雪風の朝メシが準備してあった。


リリスは大好きな二度寝を決め込んだようだ。こうなると昼まで起きないんだよなぁ。


朝メシを食べ終えた雪風は、ベットに上がってリリスの隣に寝転んだ。


雪風も二度寝する気らしい。リリスに毒されてきてんなぁ。


「じゃあ雪風、お留守番よろ。」


「……バウ………zzz」


さて、オレは小隊のメンバーとフォーメーションの打ち合わせに行くか。




食堂の片隅にはシオン、ウォッカ、リムセがオレを待っていた。


「カナタ、遅いのです!」 「おはようございます、隊長。」 「カナタ、リリスはどうしたんだ?」


「まだ寝てるよ。リリスが二度寝を決め込んだら昼まで起きない。」


「やれやれ、働く時とダラける時のギャップが激しい小娘だよなぁ。」


「そこがいいトコだ。リムセはオレの小隊配属でいいんだな?」


「カナタは稼がせてくれそうですから、異存はないのです。」


「よし、じゃあ始めようか。」


オレは基本連係を入力したメモリーチップを全員に渡し、めいめいの戦術タブレットにデータ入力してもらう。




「う~ん、この場合はリムセはシオンと入れ替わった方がいいと思うのです。」


タブレットでフォーメーションを変化させていたリムセが意見を言うと、シオンが質問する。


「リムセは中距離攻撃が出来るの?」


「出来る。ブーメランの名手だ。もちろん脳波誘導システムも搭載してる。」


「だがよ、体の影からブーメランを投げるなら、壁役はガタイのデカい俺のが良くないか? シオンも体格はあるけどよ。」


「………私はイワンみたいに厚みがある体じゃありません!」


シオンさん、結構乙女なんですね。


「シオンは氷結系のパイロキ使いなのです。足を凍らせて止めてくれれば前から排撃拳、後ろからブーメランで挟撃出来るのです。」


「いい手だわ。そうしましょう。リムセは頭がいいのね。」


「エッヘンなのです!」


いい手だが、少し手を加える必要があるかな。


「シオン、その場合に繰り出すのはアッパーがいい。」


「アッパーですか?………ああ、なるほど。」


「どういう意味なのです?」


「足を止めても屈まれて躱されるとマズイでしょう?」


「あ、確かに!シオンにブーメランが当たっちゃうのです!」


「だから屈ませないようにアッパーで体を起こさせるのよ。」


「そういうコトだ。同時攻撃にもこだわらない方がいい。シオンの体の影からリムセがブーメランを投げる。シオンが足を凍らせて、アッパーで体を起こさせた直後に背後からブーメランが襲う、これが理想だ。ブーメランが背中に刺さりさえすれば、後はどうとでも出来るからな。」


「タイミングはしっかり練習しないといけませんね。」


「そうだな。次は練度がまあまあの多数の敵に対処するケースを検討しよう。この場合はオレがトップの位置、狼眼で敵を始末する。だが練度がまあまあなら狼眼から逃れたり耐えたりするヤツもいるだろう。」


「狼眼を逃れた敵には私が遠距離、リムセが中距離から飛び道具で対処ですね。」


「狼眼でダメージを受けたヤツを優先でな。練度がまあまあなら指揮官は狼眼では倒せないかもしれない。」


「指揮官はガード屋のオレがブロックすべきかな。」


「そこは場合によりけりだ。オレが指揮官を押さえにかかって、ウォッカは狼眼から逃れた奴が後衛のシオンやリムセに行くのをブロックすべきかもしれない。」


「そこいらは小隊長さんの判断に任せるぜ。」


「やってるねえ。1,1小隊。」


ナツメを連れたマリカさんに声をかけられたので、全員で起立して敬礼する。


「マリカさん。1,1小隊ってオレ達ですか?」


「そうだ。特殊遊撃小隊コンマワン、それがおまえ達のセクションだ。」


「特殊遊撃小隊、ですか。」


「ああ、隊にこだわらず、必要に応じてその都度配属する。場合によっては他の部隊にもな。」


「クリスタルウィドウ以外にもですか?」


「そうだ。あくまでクリスタルウィドウ所属だから、極力よその部隊への応援はさせない方針だが、凜誠だけには行ってやんな。」


マリカさんとシグレさんの間でそういう話になったみたいだな。


「凜誠への応援なら異存はありません。……でも羅候だけは勘弁してください。」


オレは羅候の幹部とは気が合うんだけど、あの殺されてでも殺すってノリにはついてけそうにない。


「正直だねえ。心配しなくてもあんな死にたがり共にカナタを預けたりしないよ。それと歓迎会の幹事も任せたからな。」


「は? 歓迎会の幹事ですか?」


「シオンの歓迎会だよ。カナタの時もやっただろ?」


そういやそんなイベントもあったねえ。ウォッカに喧嘩を売られたあの歓迎会かぁ。


「拝命しました。シオンの歓迎会の幹事を務めさせて頂きます!」


「頼んだよ。」


「………もう行こ。朝からバカの顔を見るの飽きた。」




えらく機嫌が悪いなぁ。ナツメも低血圧かぁ?



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