争奪編9話 修羅丸さんは仕事がしたい
剣銃小町を後にしたオレは二丁目拳銃の練習をするべく、射撃演習場に向かった。
演習場には先客がいた。金髪先生ことトッドさんと、女任侠ウロコさんだ。
「よ、カナタ。サンピンから聞いたんだけど、魔女の森からのお帰りらしいね。」
ウロコさんはハンドガンの扱いも上手いみたいだ。標的の急所に弾痕が集中してる。
「………ええ、羅候のとばっちりで。」
「アタシらのとばっちり? なんのコトだい?」
「トボケないでください。ローゼ姫の略取任務です。そこから脱出したヘリと魔女の森上空で鉢合わせして、サバイバルツアーが始まったんですから!」
「ああ、あれね。文句はトゼンのバカに言いなよ。そもそも羅候に略取任務なんかあてがうのが間違ってる。たまたま近場にいたのがアタシらだったから、そこは仕方ないかもしれないけどね。」
「あのバカ、また殺し合いに夢中になって本来の目的を忘れたのか。ウロコも苦労が絶えないねえ。俺んトコに来るか?」
ウロコさんの射撃を眺めていたトッドさんがチャラい口調で勧誘する。
「断る。女グセが悪くないだけトゼンのがマシだ。人斬りバカと助平バカなら前者を選ぶね。」
「ツレないねえ。カナタも射撃練習に来たんだろ? 俺が見ててやっから撃ってみな。」
アスラ部隊一の銃捌きのトッドさんに見てもらえるのは有難い。
オレはプロトグリフィンを二丁抜きして標的を狙い撃つ。
弾切れと同時に弾倉を捨てて、さっき買った弾倉ケースから弾倉をサイコキネシスで操作し、リロードしてみる。
「カナタは二丁拳銃を使う事にしたんだねえ。サイコキネシス保有者の特権は使っとくべきだろうね。」
「だが特権の使い方が甘え。やり方を教えてやる。」
トッドさんは椅子から立ち上がって二丁抜きする。トッドさんも念動力使いなのか。
「いいか。念動力使いのリロードってのはこうやるんだ。」
トッドさんは二丁拳銃で別々の標的を正確に撃ち抜き、サイコキネシスで弾倉を4つ宙に浮かせる。
オレとの違いはリロードの全部をサイコキネシスでやるんじゃなく、宙に固定した弾倉を銃底で叩くようにリロードした事だ。
そうか。宙に浮かして、そっからは手でやった方が早いんだ。
「わかったか? 銃撃オンリーで戦う時は、予備弾倉をあらかじめ宙に貼り付けとくのがセオリーだ。」
「理解しました。それと別々の標的を撃つ練習もした方がいいんですね?」
「そうだ。二丁拳銃の最大のメリットは複数の敵への同時対応にある。さらに高度な技として、同じ場所に連続で撃ち込んで念真障壁を抜くってのもあるが、カナタの場合は障壁の硬い敵には邪眼か刀で対応した方がいいだろう。」
「カナタはアンタみたいに非力なモヤシ男じゃないもんねえ。」
「色男、金と力はなかりけりっていうからな。これも美しく生まれついた定めさ。」
ウロコさんの皮肉を、トッドさんは自慢の金髪を撫でつけながら受け流す。
………染めた金髪なんだけど、自慢しちゃいけないってルールはないもんな。
「ウロコさんはトッドさんに射撃を見てもらわなくていいんですか?」
「アタシはこのニセ金髪に習う事なんかありゃしないよ。」
ニセ金髪って言っちゃったよ!
「じゃあトッドさんはなんで演習場に? マメに練習するタイプには見えませんが?」
笑って答えないトッドさんの代わりに、好感度ゼロの声でウロコさんが教えてくれる。
「コイツはカモを待ってんのさ。」
「カモ?」
「他の隊の若い女性兵士が練習に来るだろ? で、射撃のアドバイスをするフリをして、ナンパするのがコイツの日課なのさ。」
「銃の扱いを教えるついでに、大人の世界も教えてるだけさ。サービスだよ、サービス。」
………ガーデンに来たばかりのシオンとコトネに注意しとこう。
あれ? 羽音と共に一羽の白鷹が入り口から入ってきたぞ。
「ピィー!」
修羅丸じゃないか。どうしたんだろ?
「ピィー!ピィ!」
ベンチの背もたれに止まった修羅丸はなにか伝えたいみたいだ。
「修羅丸、なにか言いたいみたいだけど、アタシらはアニマルエンパは持ってないんだよ。」
修羅丸は足輪をコンコンと嘴で叩く。足輪を見ろってコトか?
オレは足輪を調べてみる。仕掛けがあるな、ここを引けばいいのかな?
仕掛けを操作したら足輪の中には紙片が入っていた。
……なになに……「カナタへ。すぐに司令室へ出頭しろ。」ですか。
「司令がお呼びみたいですんで行ってきます。」
「ハンディコムで呼び出しゃいいのに、司令もなに考えてんだか。いい女だけど時々意味不明な事をするよな。」
呆れるトッドさんにウロコさんが冷たく言い放つ。
「少なくともアンタよりは為になる事を考えてるよ。ニセ金髪を生やした空っぽ頭よりはさ。」
ウロコさんは容赦ないなぁ。
オレが演習場を出ようと歩きだすと、修羅丸が肩に止まった。
「じゃあ司令のトコへいこうか、修羅丸。」
「ピィ!」
オレもアニマルエンパが欲しいなぁ。誰かアプリを開発してくれないかねえ。
「カナタです。入ってよろしいですか?」 「ピィ!」
「入れ。」
オレが司令室に入ると修羅丸は羽ばたき、主の腕に止まって甘えた鳴き声をあげる。
「ピィピィ!」
「よしよし、ご苦労だった。さぁササミだぞ。」
「ピィ♡」
仲睦ましいのはよきコトですが………
「なんだってわざわざ修羅丸を使いに? ハンディコムで済む話でしょう?」
「修羅丸が「お仕事したい!」と言うのでな。マリカとヒビキの報告書を読んだ。書斎へ入れ。」
司令も愛鷹の修羅丸には甘いらしい。
書斎にはボーリング爺もいて、密談に加わる。
「カナタ!なぜローゼ姫の身柄を確保せなんだ!貴様は利敵行為が多すぎじゃぞ!」
「無茶言わないで下さい!森のヌシとやり合ったダメージ抱えて、手練れのアサルトニンジャと忍犬を相手しろってんですか?」
「ぐむぅ。じゃ、じゃがな………」
「カナタ、正直に答えろ。仮にニンジャと忍犬がいなかったとしよう、その場合はローゼ姫の身柄を確保していたのか?」
「………たられば話に意味はありません。」
「そうかな? この場合はたられば話ではなく、仮定の検討だ。意味がないとは言わさん!仮説を立てて考察し、行動を決める。おまえはそうしてきたはずだが?」
ボーリング爺と違って司令の追及は容赦ない。……取り繕うウソは司令には通じまい。
「たぶん、………見逃したと思います。」
「やはりか。おまえは有能だが、どうにも扱いが難しい兵士だな。」
「イスカ様、コヤツは兵士として甘すぎますぞ!」
「だがそこがいい所だとも言える。カナタ、今回の件は不問にするが、私が命じたら姫様だろうが神様だろうが略取してくるんだ。いいな?」
「………はい。」
「もう一つ聞こう。報告書にあったアサルトニンジャのキカとやらは、優れた聴力を持っているのだな?」
キカちゃんのコトは報告したくなかったが、あのコが桁外れの聴力を持っている以上はやむを得ない。
警告しておかないと、同盟軍の軍事機密がダダ漏れになる恐れがある。
「………はい。キカって名前で優れた、いや、人外レベルの聴力を持っています。」
「………カナタ、リグリットで出逢った少女はハイティーンという報告だったが、実際はキカだったのではないのか?」
「………そうです。」
怒鳴りかけたクランド中佐を手で制し、司令は質問を続ける。
「なぜ庇った?」
「その時はそこまでの脅威と捉えていませんでした。超聴覚に気付いたのは魔女の森でです。」
独断で利敵行為を働いたオレに、司令は諭すように言葉をかけてくる。
「カナタ、おまえは確かに考える頭がある。だがいつも正解を導き出すとは限らない。わかるな?」
「はい、オレの考えが甘かったです。今後は何事も司令に報告し、判断を仰ぎます。これがキカと太刀風の画像です。」
オレは腕時計で隠し撮りした画像データを司令に渡す。
「うむ、よくやった。さっそく情報部に送って警戒させよう。クランド、功と罪でチャラだ。文句はないな?」
「ハッ、コヤツが有能なのはワシも認めています。不承不承ですが。」
画像データを中佐に渡した司令は、思い出したように手をポンと叩き、
「おっと、話の順序が前後した。………カナタ、よく帰ってきた。ご苦労だったな。」
そう言って笑顔でオレの肩に手を置いてくれた。この司令の笑顔で森での苦労も報われるってモンだよ。
「ありがとうございます!」
「クランドもグチグチ言ってるが、カナタの救出の為に手を尽くしたのだぞ?」
へえ、意外だな。
「クランド中佐もありがとうございます。」
「勘違いするな。おまえに限らずゴロツキの尻拭いがワシの仕事じゃ。」
へーへー、そーですか。素直じゃないお爺ちゃんだよ。
「さて、魔女の森の件はこれでいいとして、もう一つの問題がある。」
司令が思案顔で煙草を咥え、中佐が火を点ける。
オレの念真強度が伸び続けてる件か。確かに問題だよな。
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