争奪編8話 教訓、約款は隅々まで読もう
元の世界の情けない姿を思い出してブルーになってても仕方がない。
終わった事をグダグダ考えんのはオレの悪い癖だぜ。
あの時あ~してればこ~してればなんて、後からだったらいくらでも言えるんだよ。
先のコトなんざわかんねえから、過去に戻ってやり直しも出来ねえから、みんな苦労してるんだっちゅうの!
そうだ!こういう時は癒し系の優しいお姉さんに慰めてもらおう!
え~と、ガーデンと照京の時差はと、大丈夫だ。電話して問題ない。
ミコト様にお電話してみよっと!
「あら、カナタさん。薔薇園に帰投されたのですね。」
「ええ、魔女の森で遭難してたんで連絡が遅れました♪」
「魔女の森!よ、よく無事で!いったいどうしてあの魔境で遭難なんて………」
軽いノリで報告してみたんだけど、やっぱ驚かせちゃったか。
「色々ありまして。でも大丈夫、この通り無事ですから。」
「そ、それならば良いのですが。………ラビアンローズデパートではテロ事件に巻き込まれたそうですし………カナタさん、私がお祓いしてあげますから、早めに照京へいらっしゃい。」
ミコト様はやっぱ巫女さんですか、「ミコト」だけに。……ヤベエ、ジョニーさんの駄洒落癖が感染したかな。
「皆にそう言われたんで、休暇が取れたら照京へ行きますよ。ミコト様から頂いた数々の贈り物のおかげで災難を乗り切れました、ありがとうございます。」
「役に立ったのならなによりです。そういえばカナタさん、アニキングの最新話を見ましたか?」
「帰ってすぐに見ましたよ。ベタな展開ですが、王道っちゃ王道ですよね。」
「私は予想もしませんでしたわ。まさか倒したはずのシボーンの首領が生きていて、しかもアニキングの父君だったとは………」
「メタボーンのボスを前に大ピンチのアニキングを助けにやってくるってのも熱い展開ですよねえ。オレが思うに、今後の展開は………」
オレとミコト様はアニキングの話で盛り上がった。
いっけね、ミコト様はやんごとない身分なんだ。あまり雑談で時間を取らせちゃいけないよな。
「それじゃあ、そろそろお暇します。ミコト様の執務の邪魔をしちゃいけませんから。」
「ご機嫌よう、カナタさん。また連絡して下さいね。」
心の養分補給完了。オレも仕事に戻ろう。
電話ついでにペンデ社のモモチさんにも連絡を取ろう。
プロトグリフィンを実戦で使ってみて、いくつか改良して欲しいトコが見つかったんだよな。
要点をメモにまとめて、モモチさんに連絡しよう。改良ポイントは全部で4つあるのか。
オレはペンデ社に連絡して、モモチさんに改良ポイントについて説明した。
「了解です。改良ポイント2と4については既に着手を開始しています。」
「え? どうして……」
「カナタさん、私はプロです。製品を提供して終わりではプロの仕事ではありません。さらなる性能の向上を図ってこそプロです。」
切れ者ですね、モモチさん。
「ペンデ社のオファーを受けてよかったですよ。モモチさんから見てなにか意見はありますか?」
「適合率がそこまで上昇したという事なら、改良ポイント5を提案しますね。」
「ポイント5って?」
「貫通力をあげるカスタマイズが有用だと思います。むろん反動も大きくなりますが、今のカナタさんの腕力なら反動が増しても支えきれるはず。」
「なるほど。それ、やってみてください。」
「了解です。グリフィンカスタムが完成し次第、ガーデンに送りますから。それと今から画像データを送信しますので確認して下さいね。」
画像データ? グリフィンカスタムの設計図かな? でもそれって送信すんのは危険じゃないか?
………「牙を持たなきゃ男じゃないぜ。命を託せる相棒を貴方に。byペンデュラム」
………二丁目拳銃を構えてキメ顔してるオレの写真に、そんなキャッチコピーが添えられている。
「ちょ!? モモチさん!なにこれ!」
「なにこれと言われましても。グリフィンの販促ポスターに決まってますが?」
「やめてください、こっ恥ずかしい!いつこんな写真を撮ったんですか!」
「ウチで射撃練習をされた時です。あ、少し加工も加えていますが、そこはご容赦を。広告業界ではよくある事なので。」
「いやいや、こんなの武器屋に張り出されたら、ゴロツキ共のからかいのタネになっちゃうって話です!販促ポスターにオレの写真を使うなんて聞いてない、聞いてないよ、モモチさん!」
「カナタさん、老婆心ながら契約書の約款は隅々まで読まれる事をオススメします。商品の販促に関するカナタさんの肖像権はペンデ社が管理する、と書いてありますよ?」
ビジネスライクな笑顔を浮かべるモモチさん。は、はかられたぁ!
「………もう刷っちゃってるんですよね?」
「もちろん。今後もペンデ社の商品の宣伝にご協力お願いしますね。それでは。」
やり手のビジネスマンに一杯食わされたオレは、呆然とパソコンの画面を眺めるしかなかった。
ハッ!呆けてる場合じゃない!剣銃小町のおマチさんに頼んで、ポスターを貼るのを阻止しないと。
ガーデン内であんなモノを貼られたら、ゴロツキ共のからかい地獄が待ってんぞ!
………時、既に遅しか。剣銃小町の店内にはデカデカとキメ顔ポスターが貼られていた。
「あ~ら、カナタちゃん!いらっしゃい、魔女の森では大変だったみたいだねえ。でもあの魔境からちゃんと生きて帰ってくるだなんて、オバチャン感心したよ。」
「心配かけてすみません。それでおマチさん、あのポスターなんだけど………」
「アングルも光線の加減も絶妙、いい男に写ってるねえ。これでカナタちゃんも立派な
やり手のビジネスマンに一杯食わされた後は、やり手の
「おマチさん。工作用カーボン糸の1番を2ケース欲しいんだ。在庫あるかな?」
「あら、シュリちゃんじゃないの。カーボン糸の1番なら在庫があるから、倉庫から持ってくるわね。ちょいと待ってておくれ。」
「ありがとう。カナタも買い物………プッ……な、なんだよ、そのポスター!ククッ……アハハハッ!」
「………笑うな。ヒトの不幸を笑うんじゃねえ!」
「ペンデ社と専属契約したのかい? 約款はよく読んだ?」
「次からはよく読む。まさかこんな罰ゲームが待ってたとは………」
「亭主も大笑いしてたけど、シュリちゃんも傑作だと思うだろう? はい、カーボン糸の1番。」
………確信犯ですか、おマチさん。
「ありがとう。でも実際、グリフィンっていい銃なの?」
「いい銃だよ。高性能の割に癖がなくて扱いやすいんだ。新兵のファーストチョイスに最適で、カスタマイズパーツで改良すればベテランでも使える逸品さね。欠点はお値段がお高目って事かねえ。」
「恥をかいた甲斐はあったか。おマチさん、連装式の弾倉ケースはある? 看板に偽りがないように二丁拳銃を実戦でも使うコトにしたんだ。」
二丁拳銃は元の世界じゃ映画かマンガの世界だけの話だけど、この世界では有用な戦法だ。
両手が塞がって弾倉交換が出来ないって欠点は問題ない。サイコキネシスを使えばいいだけの話だ。
「あいよ。装甲コートの内側に吊り下げられる連装式弾倉ケース。5つの弾倉を収納出来るコレがオススメだねえ。」
おマチさんはショーケースから弾倉ケースを取り出して見せてくれる。
「いいね。それ2個ちょうだい。」
「まいどあり~。そうそうカナタちゃんとシュリちゃんに耳よりな話があるんだよ? 聞きたい聞きたい? 聞きたいよねえ?」
(………カナタ。これ、聞かなきゃいけない流れっぽいね。)
(………そうらしい。ホントに耳よりな話だといいけど。)
テレパス通信で密談するオレ達はそっちのけで、おマチさんのマシンガントークが始まった。
「ウチの店で新サービスを始めたのさね!なんと、その名も「精子保存サービス」だよ!司令の立ち上げたコールドスリープ会社と提携してね、独身兵士の精子を保存しとこうってサービスなのさね!戦場ではなにが起こるかわかんないよねえ? 大事な大事なタマキンちゃんを負傷する事だってあるかもだよ? いやいや、男子最大の急所である金的は一番狙われる部位さね。万一そんな事態になっても、このサービスに加入しておけば子孫を残す事が可能っていうんだから入らない手はないよねえ? 今ならサービス開始記念で加入特典も盛り沢山!なんと………」
………縁起でもねえサービスを始めたもんだ。有用っちゃ有用なのかもしれんけど、オレには必要ない。
オレはシュリをデコイに、そ~っと退避を開始して、無事に店外に脱出した。
いつの間にかオレの姿が消えたコトに気付いたシュリが、店内からオレを非難する目でなにか言おうとしたが、おマチさんにガッチリ首根っこを掴まれてしまった。
許せ友よ。オレは殺されてもタマキンだけは死守する。だって痛そうだもん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます