第八章 争奪編 帰還した兵士を待っていたのは訳あり女達の争奪戦!?

争奪編1話 狼の帰還



オレは赤茶けた荒野を歩く。共に歩く者は誰もいない。


荒れ果てた大地だけど、魔女の森に比べれば天国だよなぁ。変異生物がいねえんだから。


かわりにタトゥーを入れたモヒカン共が出るかもしれんけど、オレとしては待ってましただ。


なんせロードギャングはバイクに乗ってると相場が決まってるからな。倒して足を手に入れたい。


小高い丘を見つけたので登ってみる。別に眺望を楽しもうって訳じゃない。


無線を使うには高い場所の方がいいからだ。


準備も出来たし、三回目のチャレンジいってみますかね。


元の世界には三度目の正直って言葉もあったしな。………いや、二度ある事は三度あるって言葉もあったか。


どっちなんだよ、ハッキリしやがれ! イラつくなぁ、もう!


やり場のない怒りは石ころにぶつけよう。景気よく蹴っ飛ばしてから無線を操作する。


「……こちらタランチュラ、スパイダーズネスト応答せよ。こちらタランチュラ、スパイダーズネスト応答せよ………」


………二度ある事は三度あるの方か。オレってホントにツイてねえなぁ。


「………タラ……チュ………聞こえ………」


やったぜ!オレは歓喜に震えながら周波数を微調整する。


「こちらタランチュラ!スパイダーズネスト応答せよ!」


「スパイダーズネストだ!無事かカナタ!」


マリカさん、コードネームコードネーム! 名前を呼んじゃマズイですって!


「無事です!生きてます!」


「無線を使ってるって事は森の外だな!大まかな位置でいい!すぐに教えろ!」


「森を出てから徒歩で約2時間、北西に河川と全長1キロ程度の池が見えます。オレは池を見下ろす丘の上です!」


「よし!神速でかっ飛ばすからそこを動くな!」


ひゃっほい、街まで歩かずに済んだ。ガーデンに帰れるぜ~!




丘の上で発煙筒を焚いて待つこと30分、待ちに待ったヘリの姿が遠目に見えて、みるみる近づいてくる。


ここですよ~!ここ~!


オレは小躍りしながら両手をヘリに向かってブンブン振った。


華麗に着陸したヘリからは、赤い軍服の弾丸が飛び出してきた!


弾丸だけどおっぱいはロケットの上官は、オレを抱きしめて頭をクシャクシャとかき回す。


「やっぱり生きてやがったな、この野郎!簡単にくたばるタマじゃないよねえ!アタイの部下なんだからさ!」


すごい力で締め付けられて苦しいんだけど、おっぱいに締め付けられて死ぬなら本望かな?


「もう!一番乗りは私だって言ったのに!どきなさいよ、私が准尉とハグするの!」


雪風先輩に腰掛けたリリスさん登場ですか。おまえが来てない訳ないよな。


「すまんすまん。この能天気でムカつくツラを見たらヘッドロックをかけたくなってね。」


九死に一生を得た部下を、もうちょっと労ろうって気になりませんかね?


「准尉、まずごめんなさいって言いなさい!」


だから疲労困憊のオレを労ってくれよぉ。なんでイジメんのさ。イジメ、カッコ悪いぞ!


「心配かけたのは悪かったけどさ。不可抗力みたいなもんなんだって。」


スチャッと雪風先輩から降りたリリスは、ビシッとオレに人差し指を突き付けながら尋問タイムに入る。


「そこじゃないわ。准尉はヘリが落ちる時に何を思った?」


………え、え~と………リリスが一緒じゃなくて………


「私を巻き込まなくてよかったって思ったでしょ!違う?」


かなわねえなあ、この天才ちびっ子には。


オレ限定だけど、サトリの能力も持ってんのか。インテリチートがすぎねえか?


「………ああ、そんな事を考えたよ。」


「そこが許せない!私が一緒だったらもっと楽勝で帰ってこれてたの!わかった? わかったら………はい、ごめんなさいって大声で!」


「ごめんなさい!てへっ♪」


「………ホントに心配したんだからね!………ホントに………バカぁ!」


あ~あ~泣かないで。おまえの涙が一番堪えるんだから。


リリスを慰めるように、雪風が頬の涙をペロペロしてから挨拶してくれる。


「バウ!(おかえり!)」  「おかえりって言ってるわ。」


「ただいま、雪風先輩。お疲れさまっす!」


「バウワウ!バウ!(出番なかった。残念!)」  「出番がなくて残念って言ってる。」


「そんな事ないさ。森で耐えてれば雪風先輩が必ず見つけてくれるって信じてたんだ。希望をもてるって事はスゲえ力になるんだぜ?」


「バウ!バウバウ!(うん!ガーデンに帰ろ!)」  「死ねよ、このビチグゾ野郎だって。」


「嘘つくんじゃねえ!」 「ガウゥ!(そうだよ!)」


オレと雪風の抗議をしれっと顔でスルーしやがった。ラセン流奥義を極めてやがるな、小娘!


「ハハハッ。相変わらずの夫婦漫才っぷりだけどよ、そろそろ帰んねえか?」


同志アクセルがヘリの窓から顔を出して笑った。


「おっぱいぱい、超過勤務お疲れ様です、同志。」


「超過勤務手当の請求書はカナタに回していいかい?」


「ヒンクリー准将に送ってください。准将に頼まれたお仕事遂行中の事故なんで。」


オレが通信を送った無線機を見たマリカさんは疑問に思ったらしく、事情を聞いてくる。


「カナタ、これは機構軍の無線機みたいだが奪ったのか?」


「もらったんです。事情はヘリの中で話しますよ。語るも涙、聞くも涙の苦労話がありまして。」


「またトラブルかい? おまえって奴は本当にトラブルばっかり起こすねえ………」


オレはトラブルが嫌いだけど、トラブルはオレを大好きってのは、身に染みてわかりましたよ。





「なあカナタ。おまえはどんだけツイてないんだ? 照京にいってお祓いしてもらった方がいいぞ?」


ヘリの中でオレから事情を説明されたマリカさんは、可哀想なモノを見る目で忠告してくれる。


「捨てられた子犬を見るような目で見ないでもらえます?」


可哀想なモノを見る目は、まだいい方かもしれない。


こっちのやぶにらみのちびっ子の目からは怒りを………いや殺意を感じる。


「私がこんなに心配してたってのに、准尉は森でお姫様とイチャついてた訳よね!………どんなお仕置きをすればいいのかしら? 手始めに准尉の秘密コレクションを掲示板に張り出して……」


「やめれ!せっかくガーデンに帰れるのに、いきなり引っ越す羽目になんだろうが!」


「引っ越しレベルの恥ずかしいブツを隠してんのかい? しょうがない小僧だ。」


紐パンライダーとかノーブラデニムとかが載ったエロ本を他人様に見られたくありませんって!


コクピットの同志アクセルが呆れ顔のマリカさんに報告を入れる。


「マリカさん、ラセン副長から伝達事項あり。他の隊は全隊が不知火に帰投したそうです。」


「そうか、アタイらが着艦するまで動かず待機しろって言っといてくれ。」


「みんなでオレを探してくれてたんですか?」


「当たり前だろ。一番隊は全員出張ってる。他の隊のゴロツキにも志願者がいたが遠慮させた。魔女の森で人捜しとなると、雪風だけが頼りだからね。」


「気持ちはありがたく受け取っておきますよ。帰ったら心配かけた皆にお礼を言わなきゃな。」


「感謝の気持ちはカタチで要求されんじゃないのかい? あっちこっちに借りを作るのがカナタの趣味になってきたみたいだねえ。」


………貸借対照表の借り入れ欄が怖えコトになってそうだなぁ。




20分後にヘリは不知火に着艦した。


ヘリポートから梯子はしごを降りて艦内に入る。梯子下の兵士溜まりにはシュリ達が出迎えに来てくれていた。


「カナタ!無事なんだな!」


「シュリ、足はちゃんと付いてるだろ。着替えてないから靴下がスゲえ匂う足だけどな。」


シュリは言葉では答えず、オレの肩を荒っぽく叩いて微笑んだ。


心底安堵したシュリの笑顔を見て、かけた心配の大きさを実感する。


心配かけちまったな、友よ。………すまん。


「まあ一杯飲れよ。魔女の森じゃ禁酒してたんだろ?」


ウォッカが冷えた缶ビールを手渡してくれたんで、遠慮なく一気に煽る。


「五臓六腑に染み渡るたぁ、このコトを言うんだな!!生きてて良かったぜ。」


シュリが小言を言いたそうな顔をしてるけど、今だけは我慢してくれるらしい。


「………カナタはゴキブリより生き汚いと思う。」


兵士溜まりから通路に繋がるドアに背中を預けたナツメが、可愛げのない顔で可愛げのない台詞を口にする。


「ナツメ、こういう時ぐらい素直に喜んでくれないか?」


「………カナタが生きてて嬉しい。」


おお!そ、その言葉が聞きたかっ……


「リグリットで派手に散財したから、今月はピンチ。香典出さずに済んだ。」


「ナ~ツ~メ~!九死に一生を得て生還したツキのない男に、そりゃあんまりじゃないか?」


ウォッカが意味ありげな目でナツメを見ながら、


「カナタの乗ったヘリが魔女の森に墜落したらしいって一報が入った時に、真っ先に救出に行こうって言い出したのは誰だっけな?」


ちょっと赤くなったナツメはウォッカの尻を勢いよく蹴り上げ、ドアを開けて廊下へ出ていっちまった。


ウォッカが右手で尻を擦りながら、左手でオレの背中を叩いて促す。


「お~イテ。ナツメの奴、おもいっきりケツを蹴り上げやがって。さ、艦橋ブリッジに行こう。みんな待ってるぜ。」


「ああ、ホントみんなに心配かけちまったみたいだ。」


「………ホタルにも礼を言っとけよ。」


「え? ウォッカ、ホタルがどうかしたのか?」


オレの疑問にシュリが答えてくれる。


「ホタルはステルス車両で森へ入って、インセクターでカナタを探すって作戦を提案したんだ。僕も意外だったけどね。」


そっか。雪風の嗅覚だけをアテにしてたけど、多数のインセクターを同時起動出来るホタルがオレを見つけてくれるってコトもあり得たんだ。


でもホタルがオレを探してくれるなんて思ってもみなかったからなぁ。


「シュリ、意外ってのは聞き捨てならないね。ホタルは何があろうと窮地の仲間を見捨てたりしない。そんな事はおまえの方が分かってるはずだろ?」


「そうでした。すみません、マリカ様。」


「カナタは先にシャワーを浴びてきな。皆が歓喜の抱擁をするにしては臭すぎる。」


オレもローゼに倣って身繕いしとくべきだったか。


「雪風、オレってそんなに匂う?」


「バウ!バウワウ!(うん!クチャい!)」 「汚物を食って下痢腹からひり出たクソみたいな臭いがするって。」


そこの銀髪小娘、嘘つくんじゃねえ!


とりあえずシャワーを浴びて着替えてから艦橋に参上するとしよう。





不知火のシャワールームで服を脱いだオレは、ドッグタグの代わりに胸板で輝く金のペンダントに気が付いた。


………しまった。ローゼのペンダントを返し忘れてんじゃん!


マズったなぁ。返しに行く訳にはいかないし………


これ純金製だよなぁ。剣のレリーフも凝ってるし、きっと高価な代物だぞ。


貴重品っぽいだけに差出人不明で送り返すってのも盗難が怖い。


しゃあないか。もし会うことがあれば返そう。


………オレとローゼは会うコトがない方がお互いのためなんだが。





オレは仲間の為なら帝国の騎士だって殺すしかないし、殺すべきなのは分かってる。


でも、もしオレの剣が原因で、あのドジっ娘だけど健気なお姫様を死に追いやってしまったら………


オレは一生後悔するだろうな。………なにが心に紙魚シミは残さないだ。




ホント現実ってのはままなんなくて、イヤになっちまうぜ。



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