皇女編20話 ボク達は生きている
森でタッシェと出逢ってから、3日が経過した。
その間に何度か変異生物に襲われたけど、カナタは魔境の森に巣くう猛獣達をモノともしなかった。
ずっと傍にいてボクとタッシェを守り、戦ってくれた。ボク達を庇ったせいで手傷も負った。
本当にありがとう。なんとかカナタの献身に報いる事って出来ないかな。
………出来る。この森じゃ足手まといだけど、生きて帰ったらボクはボクの戦いを始めるんだ。
カナタとボクの共通の願い。それは「この戦争を終わらせる事」なんだから。
そんなボク達はまだ生きてる。そして明日も生き延びるんだ。
その間、カナタといろんな話をした。
本来敵同士のボク達だから、仲間の情報にはウソをついて構わないって約束をしてから。
本当はボクの自慢の騎士、アシェスやクエスターがどんなに強いかを語って聞かせたい。
カナタもアスラ部隊の仲間達がどれほど頼りになるか語りたいだろうな。
でも………出来ない。
カナタが線引きしたように、ボクとカナタの間には超えてはいけないラインがあるのだ。
今日も森の探索だ。生きる為には食べなきゃいけない。
「ムカゴが生えてるな。ってコトは自然薯もあるか。」
「ムカゴ? 自然薯?」
「自然薯ってのは山芋だよ。ムカゴはその肉芽、どっちも食べられる。」
「よく知ってるね。カナタって山育ちなの?」
「違うよ。けど爺ちゃんが自然薯好きでね。ガキだったオレをピクニックがてら山へ連れてってくれたんだ。」
よかった。カナタは両親にはいい感情を持ってないみたいだけど、お爺様は好きみたいだ。
「いいお爺様だね。お元気なの?」
「いや、鬼籍に入った。………オレの命を未来に繋ぐ為に。」
「………ごめんなさい。聞いちゃいけな……」
「いいんだ。自慢の爺ちゃんでね。ちょっとばかり
カナタはポンポンとボクの頭を叩く。
もう!だからちっちゃいコ扱いはやめてってば!
「じゃあカナタはお爺ちゃん似なんだ。カナタも面白いもんね!」
「褒められてる気がしないのは気のせいか? 一応ムカゴと自然薯を取って帰るか。でも芋はなあ、地中の毒性をため込みやすいってのが………」
「米も缶詰も残り僅か、山芋と芋の芽ならボクもタッシェも食べられるし、取って帰ろうよ。」
「
「うん。だからボクもサバイバルご飯に挑戦してみるね!」
「わかった。じゃあムカゴを集めてくれ。オレは自然薯を掘る。」
ボクとタッシェはツタから生えてる芋の芽を集め、カナタはナイフで芋掘りを開始した。
一カ所生えてた以上は他にもあるはずとボク達は自然薯を探し回り、当面の食料を確保出来た。
「よし、十分だ。日が暮れる前に帰ろう。」
山芋とムカゴがいっぱい詰まったリュックを背負ったカナタの隣を歩いて、冒険からの帰路につく。
洞窟に帰ってからは料理の時間だ。
「どうやって食べるの?」
「ムカゴは塩茹でにする。幸い塩はあるんでね。」
正確には塩しかない、だよね?
「オッケー。茹でるだけならボクにも出来そう。お芋は?」
「シンプルに焼き芋。こっちは塩もいらない。自然な甘さが出るから。」
ボクは飯盒でムカゴの塩茹でを作り、カナタは山芋を枝に刺して焼き芋を作る。
出来上がったムカゴの塩茹でと焼き芋から、いい匂いがしてきたよ!
「オレが先に食べる。ローゼとタッシェはオレがいいと言ってからな?」
毒味をさせるのは申し訳ないけど、カナタと違ってボクは毒を無効化出来ない。
同盟軍にはアンチポイズンなんてアプリがあるんだね、羨ましい。
「………よし、大丈夫。食べていいよ。」
カナタは食べてた焼き芋を半分に割ってボクとタッシェに渡してくれる。
お腹が空いてたボクは山芋を、カナタに倣って手掴みで食べてみた。
手掴みでごはんを食べるなんて生まれて初めてだよ。
ん~、甘い。甘味に飢えてたボクに山芋の甘さは堪えられない甘露さだ。
「タッシェ、お芋は美味しいね。」
「キキッ♪」
カナタは自分が毒味を済ませた焼き芋しかボク達に渡さなかった。その気遣いと優しさに頭が下がるよ。
メインの山芋の後は、おやつの塩茹でムカゴを食べながらお喋りを楽しむ。
カナタは話し上手で話題はバラエティーに富み、時折混ぜる冗談も面白い。……ちょっと下品な冗談もあるけど。
でもずっと聞いてたいな、カナタのお喋りを。
タッシェはムカゴが気に入ったみたいで、脇目も振らずに齧り付いてる。
お喋りを切り上げたカナタは明日のお弁当用だと言って、別の梱包のムカゴを取り出して塩茹でしながら毒味を始めた。
そっか、ムカゴを取った場所で別々に梱包してたのは、抜き取り検査の要領で毒味する為だったんだね。
カナタってエッチだけど、本当に優しいな。
たぶん、ボクにだからじゃなくて………誰にでもそうするんだろうけど。
そしてまた日が登り、朝がやってくる。
タッシェと一緒に溜めた雨水で顔を洗い、カナタに話しかける。
「そろそろ捜査隊がボク達を見つけてくれないかな?」
「あと2、3日の辛抱だ。オレの計算じゃ………」
「計算じゃ、なに?」
カナタは口の前で人差し指を立てる。
(どうしたの?)
非常時だからカナタとテレパス通信の回線を繋いでおいて良かった。
(洞窟外に気配がする。)
(また猛獣?)
(そうらしい。様子を見てくる。)
(わかった。気をつけて。)
外に出て行くカナタの背中を見守るしか出来ないのが、本当に歯痒い。
ボクがもっと強ければカナタの力になれるのに………
しばらくするとカナタからテレパス通信が飛んできた!
(ローゼ!絶対洞窟から出るな!)
緊迫した感情まで感じとれる!非常事態なんだ!
(どうしたの!猛獣の群れ!?)
(いや!一匹だが並みの獣じゃない!だが黒狼犬がどうしてこんなところに!)
黒狼犬!ま、まさか………
(カナタ!その犬絶対に殺しちゃダメ!!)
ボクは全力で出口にダッシュする!
朝日が眩しい洞窟外の広場では剣狼と黒狼犬が対峙していた!
「ガウ!!(姫様!!)」
やっぱり太刀風!!
「カナタ!このコは救助にきてくれたの!ボクの友達だよ!」
「なにぃ!?」
「ガルルル!(ご無事か!)」
(大丈夫だよ。太刀風、この人はボクを助けてくれたの!)
「ガウ!ガルル!(なんと!まことか!)」
(だから落ち着いて。ね?)
「ガウ!(承知!)ガルル……ガルル、ガウ!(拙者は犬ゆえ……キカちゃんを待ち申す!)」
キカちゃんを待つ!?
そう思った瞬間に、こっちに向かって風のように疾走してくる小さな影が見えた。
黒い軍用スーツに猿面を被ったツインテール!キカちゃんだぁ!
両手にクナイを構えたキカちゃんがカナタと向き合う。
「キカちゃん、だよな? 久しぶりって言っていいのか?」
「……………」
「え!カナタもキカちゃんを知ってるの!」
「以前にちょっとね。面で顔を隠しても、そのツインテールで分かるから。」
キカちゃんはゆっくりと猿面を頭の上にあげた。
怖い……いや、無表情な顔。あの愛らしいキカちゃんの兵士の顔ってこんなに無機質なんだ。
能面みたいに表情を変えずにキカちゃんが口を開く。
「ローゼ様、助けにきたよ。」
「うん。キカちゃんもカナタも武器を収めて。」
だけどどちらも武器を収めない。手練れの兵士同士、牽制しあってる。
ボクはキカちゃんとカナタの間に立って説得する。
「ほら、これでお互いに攻撃できないでしょ? 武器を収めて。………お願いだから!!」
カナタが納刀するとキカちゃんもクナイを収めた。
よ、よかった。ここでカナタとキカちゃんが殺し合うなんてそれこそ悪夢だよ。
「キカちゃんはとってもお利口さんだから分かるよね? ボクが今まで生き残れたのはカナタが助けてくれたからだって。」
「うん。ローゼ様、早く森を出よ?」
「カナタも一緒にね? いいでしょ? ボクのお願いをキカちゃんは聞いてくれるよね?」
キカちゃんは困った顔で返事をしてくる。
「連れて出ていいのはローゼ様だけだって兄ちゃんに言われてる。カナタを連れてっていいか、キカには判断出来ない。」
そっか、キカちゃんは忠実に命令に従うタイプの兵士なんだ。
この森じゃ外からの指示を受けられないから、困ってるんだね。
「大丈夫!ボクからちゃんと説明するから!」
「キカ、兄ちゃんに怒られない?」
「キカちゃんに怒ったりしたらボクが怒ってあげる!絶対に庇ってあげるから!」
「わかった。カナタは今は敵じゃない。それも間違いない?」
「うん。だよね、カナタ。」
カナタは頷いて、鞘ごと刀を太刀風の前に投げる。
太刀風が咥えた刀をキカちゃんの前に持ってきたけど、キカちゃんは刀をカナタに投げ返した。
「いいのか?」
「この森は猛獣だらけで危ないから。自分の身は自分で守って欲しい。」
「わかった。まだ日が昇ったところだ。早速森から出よう。その黒狼犬についていけばいいんだな?」
キカちゃんはコクリと頷いた。
「太刀風は出口が分かるんだね!」
「ガウ!(お任せあれ!)」
ボクの問いかけに太刀風は自信満々で頷いてくれる。
きゃ!ボクは抜いた刀を口に咥えたカナタに抱っこされちゃった!
「な、なんで抱っこ?」
カナタは刀を地面に刺して答えた。
「ローゼにこの悪路を長く走るのは無理だ。オレが抱えていく。」
キカちゃんが返事をしながら首をかしげる。
「わかった。あれ? ローゼ様、胸ポケットになにかいるよ?」
「キキッ!」
ボクの上着のポケットからタッシェが顔を出してご挨拶する。
「かわいい!ねえねえ、このコはなんておなまえ?」
「タッシェって言うの。仲良くしてね?」
「キカだよ!仲良くしようね♪」
「キキッ♪」
微笑ましい光景に毒気を抜かれたらしいカナタは、気を取り直して表情を引き締めた。
「自己紹介も済んだみたいだし出発しよう。森を抜けるまでの水と食料はあるか?」
「うん。ルートの途中に隠してある。太刀風、行こ。」
キカちゃんに促された太刀風は、森に向かって走り出した。
まさかキカちゃんと太刀風が助けにきてくれるなんて。トーマ少佐が動いてくれたに違いない。
必ず生きて森を出て、お礼を言わないとね!
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