皇女編17話 進むべきは茨の道、切り開くは意志の刃
………カナタのリリス語りは本当に長かった。
出世に目が眩んだ父親と、お酒に溺れた母親の間に生まれた毒舌天才少女。
意地っぱりだけど優しくて、可愛げがないけど可愛くて、素直じゃないけど好意は隠さない、不思議な女の子らしい。
「リリスちゃんに会ってみたいような会いたくないような……」
ボクなんかボロクソに言われちゃいそうだよ。あ!クソなんて言葉をまた使っちゃった。
カナタの影響で品がなくなってきちゃったかな?
「トリッキーというかエキセントリックというか……付き合える人を選ぶのは確かだな。リリス自身も付き合う人を選んでる。」
「ローエングリン伯爵にお孫さんがいるって話は聞いていたけど、そんな事になってたなんて……」
「リリスの爺様は世界的数学者って話だったけど、会った事はないのか?」
「世界的変人でも有名な方だったから。孤高を好む伯爵は宮廷や晩餐会の類には一切出席されませんでした。一度その事を陛下に咎められたみたいだけど「馬鹿を相手に無意味な時間を使うほど人生は長くない。」と
「………リリスの毒舌は爺様譲りか。皇帝や貴族連中に嫌われてなきゃ仮にも伯爵令嬢が研究所送りになんかならねえわな。」
「………リリスちゃんが人体実験の被験者だったのは本当なの?」
機構軍がそんな非人道的な行為に手を染めてるなんて信じたくない。
「本当さ。オレ達が救出したんだから間違いない。他にも沢山の子供達がモルモットにされてたよ。」
ウソだって思いたい。………でも、カナタがウソをついてるとも思えない。
「ごめんなさい。ボク、なんて言ったらいいのか………」
「ローゼに責任はないし、同盟軍も似たようなコトをやってる。どっちもどっちさ。」
カナタの声からは強い嫌悪感が感じられる。カナタは機構軍だけじゃなく同盟軍の上層部も嫌いみたいだ。
「………父上は実験の事をご存知なのかな? ご存知ないなら……」
「国に帰っても沈黙を守れ。知らん振りしてろよ?」
「どうして!子供を実験台に使うなんて許せないよ!」
「そうだな。だがローゼにどうにか出来るとは思えない。かえって身の危険を招くだけだ。人体実験のコトは話すべきじゃなかったな。」
「そんな事ない!ボクがどうにかしてみせる!」
カナタは厳しい顔でボクに忠告する。
「ローゼ………考えるだけなら自由だ。でもな、言葉にしちまったら責任が生じる。立場のある人間は特にそうだ。だから滅多なコトを言うもんじゃない。今のは聞かなかったコトにしておく。」
「どうして!聞いてよ!ボクは……」
「やめろよ!期待しちまうだろ!オレだってどうにかしたいんだよ!リリスや、研究所に捕まってた子達みたいな悲劇は終わりにしたいんだ!だけどな、ローゼの親父さんが実験の黒幕だったってコトさえありえるんだぞ!少なくとも実験を黙認してるのだけは間違いないとオレは思ってる。」
そうかもしれない。それでもボクは………
「ボクに期待して!スティンローゼ・リングヴォルトに期待してよ!やってみせるから!この戦争も悲劇も、ボクが終わりにしてみせる!」
カナタは真剣な眼差しでボクを見つめる。
目は逸らさない。諦めないのがボクの取り柄、まだやってもいない内から諦める事はしないから!
「………本気か? とてつもない茨の道だって分かってるんだろうな?」
「うん、わかってる。ボクは見つけたんだ。自分のすべき事、与えられた役割を。でもそれを成すのは
「話し合いで解決するような話じゃないぞ?」
「だったら実力で解決するまでだよ。話の通じない相手に話し合いをするのは救いようのない馬鹿、なんでしょ?」
「ああ。間尺に合わねえコトは合わさせる、場合によっては力ずくで。オレがこの歪んだ世界で生きると決めた時に定めたルールだ。」
「いいルールだね。誰かの助けがないと生きていけないボクのルールは、差し伸べられた手は掴む。差し伸べてくれないなら
カナタはこの世界の現実を知る現実主義者だ。その助言はきっとボクの行動の指針になるはず。
「さっきも言った通りだ。当面は知らぬふりをしておくコト。サメがウヨウヨいる海で溺れた人間を助けたければ、まず救命ボートを手に入れないといけない。闇雲に海に飛び出せば自分もサメの餌になるだけだ。」
「まずは力をつけろ、だね?」
「そうだ。平時だろうが乱世だろうが、口先だけの正義漢ほど役に立たない存在はない。まず、信用出来る味方を増やせ。あくどいヤツにはあくどい手を使ってもいいから実力を備えろ、全てはそれからだ。」
「うん。ボクは………強くなるね。」
「………オレにアドバイス出来るのはここまでだ。ここまででも立派な利敵行為だぜ。有能な敵を作ろうとしてんだからな。」
ボクが………有能?
「カナタにおんぶに抱っこしてもらってるボクが有能な訳ないでしょ。」
「この森ではな。ローゼには………なんてーかな、人望かな。カリスマ性があるよ。個と個の対決ならローゼより上はいくらでもいるだろう。でも集団を率いる個としては稀有、オレはそう思う。兵の将より将の将、そんな言葉があったな。」
なんだか凄く褒められてるみたいでくすぐったい。
「だが線引きはしておこう。」
「線引き?」
「この森を出たらオレとローゼはあくまで敵ってコトだ。ローゼは鳳凰の雛だと思うが、鳳凰だろうが雛は雛。現状をすぐにどうにか出来るはずもない。オレは目の前に立ちはだかる者に容赦はしない。それが帝国の兵だろうとな。だから戦い続けるうちにローゼの大切な誰かをオレは殺すかもしれない。」
………もう殺しかけたんだけどね。
「オレにも守りたい人がいる。守りたい、じゃないな。共に生きたい、か。だから戦場では相手の事情は斟酌しない。手前勝手な勝手を通す。だから………約束してくれ、ローゼも容赦しないと。」
最前線で戦い続ける兵士のカナタには、割り切りが重要みたいだ。
殺し合うのはお互い様、そう割り振らないと戦えない。
要領が良くて弁も立つけど、根っこは不器用なんだね、カナタは。
「わかりました。森を出たら私達は敵、戦場で相まみえたら死力を尽くして戦いましょう。約束です。」
「鳳凰の片鱗を見せてもらったよ。………これで心に
心にシミは残さない、それもカナタのルールなんだろう。
でも気付いてる? ボクの心にはシミが残っちゃってるんだよ?
カナタと戦いたくなんかないんだよ? いつか………いつか気付いてね。
雨が上がったのを確認したカナタは、もう一度森へ行こうと言い出した。
「地面がぬかるんでて危なくない? もうじき日が落ちそうだし。」
「用はすぐ済む。さっき出掛けた時にいいものを見つけたんだ。」
「わかった。ちゃんとエスコートしてね。軍用ブーツを履いてるカナタと違って、ボクの靴はただの革靴なんだから。」
カナタはおどけた顔でボクに手を差し出した。
………手を繋いで歩くって事?
「差し出された手は掴むのがローゼのルールじゃなかったか?」
そ、そうだけど………なんだか恥ずかしいよ。ボクは一呼吸置いてから、思い切って差し出された手を掴む。
固い手だ、でもちょっと暖かい。クエスターの手と似てる。
「可愛いお姫様とお手々繋いでお散歩とはオレも出世したもんだ。」
ボクが可愛い!? はわわ!か、顔が赤く………
「可愛いじゃなくて綺麗って言って欲しいんだけど?」
強がりを言って誤魔化したボクに、カナタはビミョーな視線とおどけた口調で言った。
「5年後に期待するよ。」
………見てなさい、すっごく綺麗になってビックリさせてあげるから!
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