皇女編16話 怖くてエッチな守護騎士様
拠点へ戻ったカナタは寝床に敷いていたパラシュートの布地を、洞窟外に斜めに張って雨水を受けるように仕掛けを作る。
「そうやって雨水を集めるんだぁ。手際がいいんだね。」
「工作兵の友達がいてね。教えてもらったんだ。アイツならもっと上手くやるんだろうけど。」
「有能なんだね、そのお友達って。」
「ああ。真面目過ぎるのが玉に瑕だけどな。」
「真面目なのっていい事だと思うけど?」
「四六時中お小言を聞かされるんだぞ? 楽しいか?」
理解した。アシェスみたいな人なんだね。
「なんとなくわかった。ボクにもお小言係がいるから。」
「そうなのか。でも普段はうっとうしくてしょうがないって思うのに、こういう状況だと……」
「うん、生きて帰ってまたお小言を聞きたいって思うよね。」
生きて帰ったらアシェスのお小言地獄が待ってるんだろうなぁ。
言わぬ事ではありません!だから慰問は中止して下さいとあれほど………そんな感じでたっぷりお小言を聞かされそう。
アシェスやクエスターはたぶん、いや絶対ボクを探してくれてるに違いない。
アデル兄様の為に戦線を支えるよりも、ボクを探す事を選んでくれる事をボクは知っている。
だから生き残る。なにがあっても。
自分ではなにも出来なくてカナタに頼るだけっていうのは歯痒いし口惜しいけど、それがボクの今の実力であり、現実なんだ。
「よし、これでいい。雨が降ってくれるコトを祈ろう。」
ボク達は洞窟の中で体を休め、雨を待つ事にした。
洞窟の中でボクは誘拐された事情をカナタに話した。
会話ぐらいしか出来る事はないし、会話には話題が必要だったから。………ううん、カナタにサビーナの話を聞いて欲しいんだ。
ボクの事情を聞き終えてもカナタはさほど表情を変えなかった。
「そりゃまたえらい八つ当たりをされたもんだな。愚兄賢弟って言葉があるけど、まさにそんな感じか。」
「八つ当たり、かな?」
「ローゼはまったく無関係じゃん。もしローゼの兄貴がサビーナの言うとおりに横恋慕した挙げ句、彼氏を謀殺するようなクズだったら復讐にもなってない。そういう輩は自分のコトしか考えてないからな。自分の所業のとばっちりが妹にいっても、痛痒なんざ感じないさ。」
「アデル兄様がそんな人だとは考えたくないけど、サビーナがウソを言ってるとも思えないんだよね。」
「ああ、じゃなきゃそんな暴挙に出るワケがない。少なくとも彼女がローゼの兄貴の仕業だと判断する
「………」
「ローゼが気にする必要はない。無関係の人間を復讐に巻き込んだ時点で彼女は
「………ボクはカナタみたいにドライになれないよ。そんな事情があるなら話してくれれば良かったのに。」
「ああ、そうすべきだったろうよ。巻き戻してやり直しがきけば人生は楽だろうがな、生憎そうはいかないのさ。彼女は選択を2度も誤った。ローゼに事情を話すか、暴挙を思い
ケジメ、か。もしサビーナの言った事が事実だったとすれば………ボクはどうすればいいんだろう?
洞窟の外から雨音が聞こえてきた。雨音は洞窟内に悲しい音色を響かせる。
サビーナの悲しい過去、ボクの為に命を失ったヘルガとパウラ、たくさんの騎士達の死を悼む涙のように。
「涙雨、かね。この世界じゃトゼンさんみたいな人でなしになりきるのが正しい生き方なのかもしれないな。」
そうだ!カナタはアスラ部隊の隊員。って事はあの「人斬り」トゼンの仲間なんだ!
「………あんな人が仲間なの?」
命の恩人に対して失礼かもしれないけど、呟いた言葉から刺を隠せない。
「トゼンさんを知ってるのか?」
「慰問先の基地を襲撃してきた部隊っていうのはアスラ部隊の4番隊だから。」
「………羅候に襲撃されてよく生きてたなあ。」
「騎士達が命懸けで食い止めてくれたから。後、トゼンさんは殺すのに夢中になってボクの事を失念してたんじゃないかってサビーナが言ってた。」
「………なにやってんだよ、あん人は。」
「あんな人を殺すのを楽しんでる人が!カナタの言う
「そこはちょっと誤解してるな。トゼンさん達は殺すのを楽しんでるんじゃなくて………ま、結果としてはおんなじか。……!!………ここにいてくれ。間違っても外に出てくるな。」
なによ!逃げる気!………4番隊はボクの大切な騎士達を、ゴミみたいに斬り殺したんだよ!
「カナタ、まだ話の途中……」
カナタはボクの言葉を意に介さず、立ち上がって出口へ向かう。
「話は後だ。お客さんをお出迎えしないとな。」
「お客さん?」
「雨宿りしたいのはオレ達だけじゃないってコトだ。」
カナタは刀を抜きながら、冷たく言い放つ。
もうボクにも聞こえてきた、森に巣くう獣の唸り声が。
ここで待っていろって言われたけど、外に出よう。感じ取った思念が気のせいじゃなかったら………
洞窟の外ではカナタが巨大な変異熊と相対していた。
チラリと後ろを見たカナタが乾いた目でボクを咎める。
「出るなと言ったぞ?」
中に戻るよう目で促すカナタの僅かな隙を見逃さず、変異熊はカナタに突進してくる。
自分の倍ほどの大きさがある変異熊の突進にも、カナタは動じない。
突然、ブフォォと悲しげな唸り声を上げて、変異熊は地面に突っ伏した。
カナタの邪眼に捉えられたのだ。睨んだだけで生物を殺す………なんて恐ろしい力なんだろう。
「やるもんだ。咄嗟に目を切って逃れやがったか。野生のカンってヤツは侮れねえな。」
カナタは刀をチャキっと構えながら変異熊に近付く。
そして大上段に構えながら、
「悪く思うな。………そりゃ無理か。じゃ、地獄で待ってな!」
「待って!殺さないで!」
カナタは変異熊の首を刎ねる寸前で刀を止めた。
「なぜ止める。」
黄金の瞳を爛々と輝かすカナタの顔は怖かった。カナタもあのアスラ部隊の隊員なんだって心底実感する。
でも………
「ボクに話をさせて。」
「話? アニマルエンパシーを持ってるのか? でもバイオメタル化されてない動物には……」
「この森の生き物は普通じゃないから。やるだけやってみる!」
ボクは精神を集中させて変異熊さんに思念を飛ばす。
(お願い、逃げて。逃げないと………殺されちゃうよ?)
(………グルル………)
やっぱり太刀風みたいに明確なイメージを捉えられない。でも………怯えてるのはわかった。
(大丈夫、殺させないから!しばらくすればボク達はいなくなるから。それまでここには近づいちゃダメだよ?)
(…………)
そっか。やっぱりこの変異熊さんは………
(お母さんでしょ!生きなきゃダメだよ。さあ行って。行くの!!)
変異熊さんは弱々しく立ち上がり、ノロノロと森の方へ去っていく。
「………説得成功か。けどな、出てこられちゃ邪魔なん……」
「ごめんね。でも………見て。」
ボクが指差す先を見たカナタは肩をすくめた。
そこには心配そうに母熊を見ている小熊の姿があった。小熊なのに可愛くはないけど。
「猛獣でも子供の間は可愛いもんなんだが、お世辞にも可愛いとは言えないな。魔女の森クォリティってか。」
「そうだね。ボクならあの小熊にでも殺されちゃいそう。」
変異熊の親子は連れ添って森の奥へと消えていく。
「変異生物と言えど親子愛ってあるんだなぁ。………子を捨てるコトもある人間よかよっぽど情に厚いぜ。」
なんとも表現しずらい顔でカナタは呟いた。
でも少し寂しげな目とやるせない声………嫌いな親父って言ってたけど、カナタは親に捨てられたんだろうか?
「あんがとな、ローゼ。気分の悪い思いをせずに済んだぜ。」
普通の、いや……優しい目に戻ったカナタはボクの頭を撫でてくれる。
もう!褒めてくれるのは嬉しいんだけど、ちっちゃいコみたいな扱いしないでよ!
「ボクはこれでも16歳の淑女なんだけど!」
「悪ィ悪ィ、ついクセでね。超ワガママだけど超気の合う悪魔で天使な天才チビッコといつも一緒だからさ。」
「なにそれ? 聞きたい聞きたい!」
「オレがリリス語りを始めると長いぞ。そのうち「我が最愛のリリエス・ローエングリン」ってタイトルで本を書こうと思ってるんだ。」
どれだけそのチビッコちゃんの事が好きなの? ひょ、ひょっとしてカナタって………
「あ!ロリコンじゃねーから!オレはむしろ巨乳好きだから!いや最近、皿形おっぱいの魅力にも気付いて揺れ動く心を制御しかねてる自分に……」
慌てちゃって可愛いなぁ。さっきまでの怖い顔とは別人だよ。
「カナタがエッチなのはよくわかったよ。長話に付き合ってあげる、雨が止むまで、ね♪」
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