皇女編15話 ローゼのどきどきタイム
肌寒さを感じて目を覚ます。
どのくらい眠っていたんだろう。時計機能を起動させてみた。23:45分か。
まだ二時間も眠ってないや。寝直そうっと。
ボクが瞼を閉じて寝直そうとした時に、背後から音がした。
ここにはボクとカナタしかいない。どうしたんだろ?
カナタは立ち上がったみたいだ、トイレかな?
でも足音はゆっくりとコッチに近づいてくる。
………!!……か、考えてみたらカナタと二人っきりなんだ!
い、今は真夜中………カナタは男でボクは女………と、いう事は………ま、まさか!
でもでも!カナタは部隊では紳士で通ってるって言ってたし!
あ!自分で自分の事を紳士なんて言ってる男は断じて紳士じゃないってアシェスが言ってたっけ!
男はみんな狼だって昔から言うけど………カナタの異名って剣狼だし!
足音はすぐそばまで来てる。横向きに寝てるボクの背後にカナタがいるよぉ!
鼓動が高鳴ってる、ドキドキ言ってるのが聞こえそう!
どうしようどうしよう!? ボクにカナタを撥ねのけるなんて無理に決まってるよぉ!
頭の中と瞼の中の眼球をグルグル回してるボクに覆いかぶさってきたのは………軍用コートだった。
去っていく足音、それからカチャリと刀を立てた音の後、静寂が戻った。
………バカバカ!ボクのバカ!なに邪推してるの!コートをかけてくれただけじゃない!
うう、ボクってエッチな娘だったのかなぁ………
ごめんね、カナタ。疑っちゃって。軍用コートはちょっと重いけどあったかいよ。
………ありがとう。優しいんだね。
心の中で謝ってから感謝して、ボクは寝直す事にした。
6:00時に目覚ましアプリで目を覚ます。
「おはようローゼ。お目覚めかい?」
「うん。おはようカナタ。コートをかけてくれたんだね、ありがとう。」
今気付いたフリをしておこっと。いいよね、このぐらいのウソは。
ボクは軍用コートをカナタに手渡す。
「ちょっと寒そうだったからな。オレは体温の維持はアプリで出来るから。」
「そんなアプリがあるんだ!」
カナタは軍用コートを羽織ってから人差し指を立てて、
「ナイショだぜ? 新開発のアプリらしいからな。」
「わかった。ナイショにしとくね♪」
「そうだ。昨日、煮沸した水で腕を拭いてみたんだが、メディカルアプリの診断結果は問題ナシだった。ローゼは免疫機能の高い5世代型か?」
「うん、じゃあ体を拭いていいんだね!」
「ああ、オレは外に出てるよ。終わったら呼んでくれ。ついでにトイレを済ませとく。」
「………覗いちゃダメだからね?」
「Bカップに届かないおっぱいを見ても仕方がない。」
あるから!ギリギリだけどBはあるから!でもサイズを教えたくない!
生まれて初めて歯ぎしりしてみたボクを尻目にカナタは洞窟の外へ出ていった。
侍女の手を借りずに服を脱ぐのは気楽でいい。帰ったらもう着替えは一人でやろっと。
焚き火があっても全裸だと肌寒い。風邪でも引いたらここでは命取りだ。手早く体を拭かないと!
スカートを裂いた布をタオルにして体を拭く。
散々タオル代わりに裂いちゃったから、ロングスカートがずいぶん短くなっちゃってるよ。
ミニスカートになっちゃう前に捜索隊が来てくれるといいんだけど。
!!……脱いだスカートの上に……紐みたいなモノが……
「きゃああぁぁ~!」
「どうした!」
慌てて戻ってきたカナタにボクは抱きついた!
「へ、ヘビが!!」
ボクは目を瞑って、ヘビのいたところを指差した。
は、はやくどうにかして!オバケも苦手だけどヘビはもっと苦手なんだから!
「………ヘビね。いや、この森にいるヘビだ。油断は出来ないか。……あ、逃げた。」
「逃げた? もういない? 大丈夫なんだね?」
「もう洞窟から出ていったよ。………そ、それより……」
「それよりなに? まだなにかいるの!」
「え、え~と。その、なんと言いますか………」
………ボクって今………一糸まとわぬ………ハダカだった!
「きゃああ!目を瞑って!バカぁ!エッチ!」
「……エッチって。ローゼが悲鳴を上げたから飛んできたんですがな。」
そうなんだけど!それはそれ、これはこれだよ!!
「………もう目を開けていいよ。」
「はいよ。いいパンチでした。」
パンチじゃないでしょ。平手打ちです。
「………見たよね?」
「見てない。」
ウソだ。目が泳いでる。泳ぐのをやめたら酸欠で死んじゃうマグロみたいに!
「正直に言えば許します。全部………見ちゃったよね?」
「………全部は見てない。」
「ほらぁ!見てるんじゃない!どこを見たの!どこなの!」
「首を絞めたら喋れないから!おっぱいを見ました、ごめんなさい!」
「エッチエッチ!どこが紳士なの!」
首を絞める代わりにポカポカと胸板を叩くボクにエッチなカナタは抗議してくる。
「いや、今のは事故みたいなモンだろ!どうしろっつーんだよ!」
「他には見てない? 正直に言いなさい!お尻のホクロも見ちゃった?」
「え? お尻にホクロなんてなかっ……あ!」
「やっぱりぃ!!お尻も見てるんじゃない!」
「誘導尋問はずっこいぞ!」
「引っ掛かる方が悪い!もうもう!信じらんない!カナタのエッチ!」
ふえぇ、ボクのハダカ……見られちゃったよぅ。
それから小一時間かけて
その結果、なかった事にしよう、という結論に至った。他にどうしようもないからだ。
「ホントのホントに誰にも言っちゃダメだからね!」
「言いませんて。ローゼに仕える騎士達のデッドリストに載りたくない。」
「火急かつ、完全に記憶から消去もする事!わかった?」
「ヤー。ユアマジェスティ!」
我が主君かぁ。ホントにそうだったら良かったのに。
どうしてボク達は敵同士なんだろ。神サマってイジワルだよ。
「うん、苦しゅうない。それでカナタ、今日はどうするの?」
「ローゼが起きる前に食料と水の計算をしてみた。どっちも心もとない。」
「ど、どうしよう。」
「綺麗とまでは言えなくても、少しはマシな水源があると思う。マシな水源の近くでなら、マシな食料も調達出来るかもしれない。化外みたいな森だけど、化外で生きてる人間だっているんだから。」
「そうだね。」
「基本戦略としては手持ちの水と食料がある間に、食料と水を確保出来そうな場所を探す、だ。」
「………ボクがいなければ………カナタ一人ならこの森を走破して脱出出来るんじゃない?」
カナタはサバイバルナイフの柄に付いてるコンパスをボクに見せてくれる。
コンパスの針は独楽みたいにクルクル回っていた。
「この有り様だからな。走破しようとしても道に迷うのが関の山さ。」
「だったら夜空の星を道標にすれば……」
「変異生物が活性化する夜に行動するのはリスクが高い。いよいよとなればローゼを抱えて走破を試みるが、あくまで最後の手段だ。前に言っただろ、捜索のエキスパートが仲間にいるって。彼女が来てくれるのを待つのが成算が高いんだ。」
「彼女って事は女性なんだ。その捜索のエキスパートって。」
「女性というか……ま、信頼出来る仲間なのは間違いない。能力だけじゃなくな。」
言ってる意味がよくわかんないけど、カナタは仲間が自分を発見してくれる事に確信があるのはわかった。
今はその言葉を信じるしかない。
「食えそうな果実でも探しに探索に行こう。」
「わかった。しっかり守ってよ。頼りにしてるんだからね!」
カナタとボクは森の中に食料探索に出掛ける事にした。
お昼まで森を探索したけど、いくつか果実を見つけたぐらいで、はかばかしい収穫はなかった。
「あ!お水忘れてきちゃった。」
「しょうがないな。ほら。」
カナタが水筒を手渡してくれたので、ありがたく受け取って飲む。
疲れた体に水が染み渡っていくような感じがして、少し元気が出てきたよ。
「ありがと。」
カナタに水筒を返して気が付いた。これ、カナタの水筒だよね。
って事は………間接キス!?
「どうした? 赤くなって。まさか風邪でも引いたんじゃないだろうな?」
「そ、そうじゃなくて………」
「どこか悪いなら正直に言ってくれ。具合が悪いのを隠したって状況は変わらないんだ。」
「………え~と。カ、カナタの水筒だなって思っただけで………」
「オレの水筒がどうかした………」
カナタも気付いたらしい。赤くなった顔を見られたくないみたいで、そっぽを向いちゃった。
ちょっと可愛いかも。
「そ、そろそろ拠点へ帰るぞ。」
「まだ12:00だよ。探索はもういいの? お昼を食べてから出直すって事?」
「いや、雲行きが怪しいから探索はここまでだ。降ってくるかもな、ツイてるぞ。」
「ツイてる? この状況で雨はあんまり嬉しくないよ。」
「まともな水を手に入れるチャンスだ。帰って雨水を集める準備をしよう。」
そういう事か。汚染された森の湧き水より、雨水の方が良さそうだもんね。
拠点へ歩き出したカナタの後にくっついて歩く。
大きな背中って訳じゃないけど……頼もしい背中だ。
カナタがエッチなのか純情なのかはわかんないけど、頼りになるのは確かなんだよね♪
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