懊悩編11話 魔法少女は略せば魔女
※前回に引き続きリリス視点のお話です。
目覚めのいい朝、とは言いがたい。
だけど私の気分にお構いなく朝はやってくるし、世界は回る。
当たり前ね、私の為に世界は存在してる訳じゃない。
この歪んだ世界が誰の為に存在してるのかは聞いてみたいけれど。聞く相手がいれば、ね。
もし聞く相手がいるなら神かしら。でも私は神を信じない。
もし神とやらが存在するなら、こんな歪んだ世界になってるはずもない。
存在していても、歪んでいく世界になにも出来ないのなら無力この上もない。
そんな無力な存在を神とは呼べない、あえて放置しているならそんな無慈悲な存在は神ではない。
信じる者は救われる、ね。裏を返せば信じる者しか救わないって事でしょ。
信じて欲しけりゃケチくさい事言ってないでまず救いなさいよ、シミッタレね。
こんなヒネた考えの私が神を信じる日はこないだろう。
………朝から愚にもつかない事を考えるのはやめよう。
まずは起き抜けの重たい頭をシャッキリさせないとね。
朝に弱い私にとって目覚ましのシャワーは必須だ、ゆっくり浴びよう。
私はアイドリングに時間がかかるのだ。
シャワーを浴びながら、いつものように鏡の前でキメポーズの練習をする。我ながら決まってるわね。
バスルームの鏡には、全裸でキメポーズをとった美の化身の姿が
うん、このキメポーズの練習はもういいかな。そろそろ新しいバージョンも考えないと。
ワンパターンじゃ
キメポーズの練習も終わったし、バスルームから出て着替えをすませる。
珈琲を入れようかと思ったけれど気が変わった。
准尉と一緒にカフェテリアに出掛けよう、それからイスカの書類仕事の手伝いね。
私は2枚のドアと廊下を挟んだ准尉の部屋にノックもしないで入り込んだ。
准尉はまだ眠っていた。サイドテーブルには残量が半分のウィスキーボトルとショットグラス。
呆れた、私が帰った後もまだ飲んでたのね。すき焼きを食べながらビールを6本も飲んだ癖に大した酒豪じゃないの。
………違うか、お酒に逃げたのね。
私は准尉をそっと揺すって起こしてみる。
「…………おう、リリスかぁ。」
「アルコール臭いわよ、准尉。」
「…………まだ酒が残ってる、呑む蔵くんを起動させないとな。リリス、悪いけどアスピリンと水を取ってくれないか。」
「准尉は今日は休みでしょ。寝とけばいいんじゃない?」
「そうもいかない、シュリに話を聞かないといけないし………」
「それだけどね、シュリとホタルの心の壁の出現時期は確認する必要ないんじゃない? 准尉がシグレに探りを入れれば答えが分かるんだから。」
「…………そりゃそうか。シグレさんから遠回しに「誰にも漏らすな。」と警告された時点でクロが確定、警告されなきゃシロで杞憂。細かな時系列の確認は必要ないな。」
「でしょ。クロでも准尉が誰にも漏らさないつもりなら、もうこれ以上あれこれ探りを入れるのはかえって危険よ。納豆菌を培養してるのは准尉だけとは限らないわ。」
「ああ、特にシュリに壁を感じた時期を聞くのは危険かもな。シュリだけがホタルとの間に心の壁を感じてるんだ。その時期が決闘の時期と重なってるコトに気付いたら、シュリもおんなじ答えに到るかもしれない。」
「ええ、全ての手掛かりをシュリも持ってんのよ。シュリは頭が固いけど頭そのものは明晰だから。」
シュリが朴念仁でなければ真相に辿り着いていても不思議じゃないのだ。
「確かに危険だな。分かった、シグレさんからの警告の有無だけで判断しよう。」
「じゃあ准尉は今日はもうなにもせずに寝るのね。休日だからシグレとの訓練もないでしょ?」
「いや、だけど………」
「うっさい!こんなにお酒を飲むぐらい准尉の心は疲弊してんの!今、准尉に必要なのは休養よ。とにかく今日はなにも考えずにゴロゴロしてなさい!」
「ハイハイ、分かりゃんした。」
「いい? 余計な事は考えないのよ? それからお酒も控える!特別に私の事だけは考えるのを許可してあげるわ。それは余計な事じゃないから。むしろ必須、心の栄養よ。さぁ、妄想の中で私の肢体をしたいように、心おきなく蹂躙なさい。」
「肢体をしたいようにとか、下手なシャレだな。オレは10歳児の体を蹂躙するような変態じゃねえよ。」
「ええ、准尉は変態じゃないわ。ド変態よ。でも准尉がとてつもないド変態であろうと私は気にしないわ。」
「…………たまにはフォローしようって気にならないのかね、リリス君?」
「フォローしてるじゃない。准尉が並の女ならドン引きしそうな変態的プレイが好みでも、応えてあげるって言ってんだから。」
「おまえさー、そうやって散々オレを煽るけどさぁ、オレがホントにロリに目覚めちまったらどうすんのよ?」
「ここまで煽っといて、いざ准尉がロリに覚醒したからって逃げたりしないわ。望むところよ、ドンとかかってらっしゃい!」
そう宣言してから私は胸を張った。そしてその胸の前で両腕を交差させてから、指先で作った銃を天にかざす。シャキーン!
とっておきのキメポーズをキメ顔でキメてみたわよ!毎朝10分の練習の成果を見よ!見て見て!
准尉はいささかゲッソリした顔で私を眺めながら嘆息した。
「……………オレももうヤバイトコまで来ちまってるみたいだなぁ…………不覚にもカワイイって思っちまった。…………なんでこうなった?」
ふっ、毎朝10分の練習を欠かさなかった私のキメポーズに隙はないわ!
「どう、これでいつでも使い魔っぽいネコか妖精が魔法少女になってよってスカウトに来ても大丈夫でしょ?」
「……………魔法少女…………略せば魔女……………」
「そこが言葉の不思議なトコよね。魔女って言えば怖いけど、魔女少女や魔女ッ娘って言えば急にラブリーでキュートな存在に変わるもの。」
「そうだな。不思議って言えば女を魔女って言うのに、男を魔男とは言わないのも言葉の不思議さだよな。」
「魔男じゃ間男を連想しちゃうからじゃない?」
准尉はポンと手を打ち、納得の表情を浮かべた。
「なるほど、そんな深いワケがあったのか!」
「別に深くはないと思うけど。あと付け加えるだけで急にエッチな響きになる魔法の言葉もあるのよ?」
「ナニナニ!教えて教えて!」
准尉は身を乗り出して聞いてくる。食いつきすぎでしょ。どんだけエロスに飢えてんのよ。
「それは……」
「それはそれは? 焦らすなよぅ!」
「美人、よ。」
「美人? どういうコト? Why?」
「例えば教師って言えばお堅いイメージでしょ。でも美人教師って言えばどう?」
「うおぉ、急に教えて先生的なエロさが
「女医じゃなくて美人女医、はどうかしら?」
「イケないトコを触診されてえ~!」
「秘書じゃなくて美人秘書とか?」
「アフター5にオフィスラブって最高ですやん!」
「かように頭に美人、と付けるだけでかなりの言葉をエロく変換可能なのよ。」
「リリスさんは言葉の天才です!このマジカルワードを学会に発表すれば、センセーショナルな風が吹き荒れますぜ!」
鼻息荒く准尉は断言した。ホントにノリがいいわね。
「これは蛇足だけど、女子アナってナチュラルにイヤラしい言葉だと思わない?」
「思います!だって女子のアナっすよ!」
「リリス先生の言葉学の授業は今日はこれまで。予習復習はしっかりね。」
「次回の開講が楽しみだ~。」
言葉学の授業を終えた私は兵舎棟を出て口笛を吹く。
口笛は白い疾風雪ちゃん召喚の呪文だ。
すぐにやってくる純白の忍犬、いつものように足になってもらう。
准尉と一緒にカフェテリアに行くつもりだったけど予定変更、雪ちゃんと女子会だ。
「雪ちゃん、司令棟に行く前にカフェテリアでお茶していきましょ。」
「バウ!(わかった!)」
雪ちゃんの疾風の足は、あっという間に私をカフェテリア「ガリンペイロ」の前まで連れてきてくれた。
ここは路上にもテーブル席があるので雪ちゃんと一緒にお茶を楽しめるのだ。
私が席に座るとすぐにウェイターがやってきて注文を聞いてくれる。
「いらっしゃいませ、
「ええ、私はいつもの。それから雪ちゃんにパンケーキとミルクを。」
「かしこまりました。」
運ばれてくるパンケーキとミルク。ここには雪ちゃん専用の皿を用意してもらっているから安心だ。
雪ちゃんは
続いて私の注文の品がテーブルに置かれた。私はいつものようにカフェモカと生チョコだ。
頭脳労働の前に脳に糖分を補給しておかないとね。
「雪ちゃん、パンケーキはおいしい?」
「バウ!(うん!)」
尻尾を振りながらパンケーキを食べる雪ちゃんは幸せそうだ。
「仕事が終わったら昨日約束した軍鶏の焼き鳥を食べさせてあげるからね。」
「バウワウ!バウ?(軍鶏っておいしいの?)」
「ふつーのニワトリより弾力があるわね。野趣あふれる感じな味かな? 訓練でもして待っててね?」
「バウワウ!(まってる!)」
雪ちゃんは尻尾をピンと立ててそう答えた。
犬と会話してるっぽい私をウェイターが不思議そうな顔で見ている。
う~ん、この微妙なニュアンスは私にしか分からないみたいね。
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