出撃編4話 サービスタイムは短くて




戦艦不知火は不毛な荒野を砂埃を立てて進んでいく。


行軍2日目だけど街や村は一つも見かけなかった。


元の世界じゃ考えられないよな。


砂漠のど真ん中ならともかく、大陸の平原部で人家が一つもないなんてさ。




衛星が制御不能になった影響で上空からレーダーで監視される事がない。


拠点近くの監視レーダーか、索敵網に引っかからない限りは、敵の勢力圏に大型兵器が接近可能だ。


キッドナップ作戦は機構軍の索敵網ギリギリまで陸上戦艦で近づき、そこからは索敵網をかいくぐりながら小型車両で研究所に向かう。


強襲後は子供達と奪取した「ディアボロスX」を持って脱出、陸上戦艦と合流してローズガーデンに帰投する。


そういうシナリオだ。




日が完全に傾き、夜のとばりが姿を見せ始めた頃に召集がかかって格納庫へと移動する。


格納庫の入り口前にウォッカが立っていた。


「カナタ、気をつけろよ。初仕事にゃちょっとハードな作戦だ。肉体的にも精神的にもな。」


無問題ノープロブレムさ。もう無茶振りにはなれっこでね。」


修羅場なら研究所で経験済みだ。あの時と違って仲間がいる分、今のがマシさ。


「作戦参加は初めてのヒヨッコが吹かしやがる。ついて行ってやりてえが、俺は不知火でお留守番だ。」


ああ、ウォッカ達重量級は不知火のガードの為に参加してたのか。


「大丈夫。それより不知火をしっかり守ってくれよ。こっちが上手くやっても不知火ナシじゃガーデンに帰れないからさ。」


一端いっぱしの口ききやがる。心配すんな、こっちは上手くやる。………カナタ、死ぬなよ。」


「ウォッカもね。それじゃ、もう行くよ。」


オレはウォッカと拳を突き合わせてから格納庫に入った。


格納庫には指揮車両と索敵車両が1両ずつ、何台もの軍用バギーやバイクがスタンバイしていた。


アクセルさんがオレに気付いてやってくる。


「いよいよだな同志、覚悟は完了したか?」


「この期に及んでビビったりしませんよ。」


「ならいい、同志はオレと一緒に指揮車両に搭乗だ。さ、乗った乗った。」


指揮車両は大きめの装甲車のような形状をしている。


開いたハッチから搭乗する。


ナツメがいる。相変わらずの無表情。


オレはナツメの顔を見ないように離れた場所に座った。




しばらく待機していると、マリカさんがゴロツキ達を引き連れて指揮車両に乗り込んできた。


コンソールパネルでラセンさんと会話する。


「ラセン、アタイ達を降ろしたら合流予定地点へ向かえ。途中で不測の事態が発生した場合の対処は全ておまえに任せる。」


「了解、マリカ様、どうぞご無事で。」


「アタイを殺すなんざ死神でも無理だ。アクセル、出せ!」


「イエス、マム!」


オレ達は不知火から出発し、研究所へと向かう。


人でなし共に鉄槌を下す為に。




不知火を出てから4時間程たった。


敵に遭遇することもなく、ここまでは順調だ。


運転席のアクセルさんが振り向いて報告する。


「マム、予定地点に到着。」


「おう。さて、パーティーの時間だ。野郎共、いくぞ!」


肩を鳴らしたゴロツキ達は立ち上がってマリカさんに続く。


「アクセル!敵さんに遭遇したら信号弾を上げて逃げ回ってな。アタイ達が戻るまでは離れすぎんなよ!」


アクセルさんが笑って答える。


「イエス、マム!逃げ回るのは得意中の得意であります!」


「自慢するような事じゃないだろ。戻ってきた時はガキ連れだ。キャンディーと綿アメでも準備してな。」


ここからは徒歩で移動だ。マリカさんを先頭にゴロツキ達は行軍する。


月のない夜だが奇襲には都合がいい。


もっとも相手もバイオメタル兵だ。闇の中でも目は利くかも知れない。


油断はできないな。




この世界には珍しい大きな樹木に囲まれた森の中に研究所はあった。


酸素供給連盟の施設の回りは大抵森で囲まれているらしい。


この研究所も偽装の為にそれに倣ったのだろう。


外観はオレのいた研究所と驚く程似ている。


どこの世界も研究所の外観なんて変わり映えしないだけかも知れないが。


唯一の違いは建造物から巨大なダクトの様なものが沢山突き出ている事か。


あれが酸素供給機だろう。


建物の中身が生体兵器研究所なら偽装のハリボテの可能性もあるな。


研究所の回りは高い塀で囲まれ、見張り塔が四隅にある。


眼球に搭載されているズーム機能で観察してみる。


見張り塔には兵士が2人、銃を肩から下げて警戒にあたっていた。


「見張り塔がありますね。兵士もいる。」


マリカさんは素っ気なく答える。


「どんな施設にも見張り塔はあるし、塔には兵士がいる。当たり前だ。」


「どうするんです?」


「南西側の角の見張り塔を沈黙させる。そこから突入だ。」


狙撃でもするのかな?


「ナツメ!出番だ。」


ナツメが無言で頷くとゴロツキ達は慌てて、そっぽ向いたり目隠ししたり。


?? なにが始まるってんだよ。


ナツメは無言で軍服の上全部をガバッと脱ぎ捨てる。


!!! 思った通りの美乳が露わになる。乳輪は少し小さめで色は………


美乳様に釘付けになったオレの両目をマリカさんは手で遮る。


「おっと、カナタは初めてだったね。サービスタイムはお終いだよ。」


「マリカさん、もうちょっと!もうちょっとだけ!」


「もう見てもいいぞ。見れるもんならな。」


オレは美乳様を拝むべく目を凝らしたが、そこには誰もいない。


いや、いる。なんだこれは。………そうだ。プレデターが使ってたヤツだ。


鏡面迷彩ミラーステルスだ。ナツメがインストしてる戦術アプリさ。」


ぐうぅ、ナツメは素っ裸だろうに背景と同化してるんじゃどうしようもない。


風を切る音だけが聞こえてナツメは見張り塔に向かっていく。姿は見えないけど。


「背景同化とか凄いアプリですね。」


「その分、念真容量を食うし、起動させてる間の念真力の消費も激しい。だがこういう任務には役に立つ。」


「マリカさんは入れてないんですか?」


「アタイの乳を拝みたいだけだろ、カナタは?」


「それもありますけど、滅茶苦茶使えそうなアプリじゃないですか。」


「便利だが万能じゃない。性能の高いバイオメタル兵なら戦闘起動すればサーモスキャン機能が働く。透明化のアドバンテージは奇襲するまでで、戦闘での優位性はそこまででもない。」


「そっか。サーモセンサーは誤魔化せないのか。戦闘起動すればほとんど無力化しますよね。」


見張り塔の兵士はまだ戦闘起動していないはずだ。常時戦闘起動していれば肝心な戦闘時に念真力が枯渇してしまう。


「何よりアタイはコソコソするのは好きじゃない。」


「………マリカさん、忍者ですよね。」


そんな話をしている間にナツメは見張り塔の中の兵士2人を沈黙させた。


首をへし折って、だけど。


そして窓から手だけ出して合図してくる。


「いくぞ、カナタ。ナツメにいいモン拝ませてもらったんだ。見物料代わりにナツメの服はおまえが持ってきな。」


オレは地面に落ちてるナツメの軍服を掴んでマリカさんの後に続いた。


ナツメは見張り塔からロープを下ろしてくれる。


ナツメの服を肩にかけてロープを掴んでよじ登る。


もっともロープを使ってるのは、オレやゲンさん達5名ほどだけで、他の隊員達は念真障壁を皿形に形成し、それを足場に跳んで塀を越す。


オレが以前いた研究所からの脱出に考えた方法は、アサルトニンジャの十八番オハコだったか。


見張り塔の監視小屋に辿り着き、ナツメに服を渡す。


感謝の言葉を期待したが、ナツメは相変わらずの無言で、さっさと服を着る。


ありがとうぐらい言ってもいいんじゃない?


「カナタ、早くマリカ様のところへ行くんじゃ。退路はワシらが確保しておくからの。」


ゲンさんに促され、塀をワイヤーで降りようとしたのだが、ナツメに体を掴まれた。


「ナツメ!なにすんだよ!」


ナツメはオレになにも言わせず、オレを小脇に抱えて見張り塔から跳び降りた。


うぉい!10メートルはあんだぞ!いくらなんでも2人分の衝撃はヤバイだろ!


ナツメは落下の途中で鉤爪を投げて、塀を蹴りながら着地。


ご丁寧に着地の寸前にオレから手を離してくれたので、オレは格好良く顔から地面に着地できた。


鼻の頭がジンジンする。文句を言ってやりたいが、今は急いでマリカさん達の後を追わないと。


オレがマリカさん達に合流した時には、正面ゲートの兵士達は既にお亡くなりになっていた。


「もう気付かれたろう。研究所内に突入する。カナタ、アタイの後ろについてきな!」


「イエス、マム!」


オレ達は研究所内に突入した。マリカさんの足は速い。オレ達に合わせて速度は控えてくれてるんだろうけど、それでもついて行くのが精一杯だ。


「カナタ、アタイと約束したな。殺れると。」


「はい。」


躊躇ためらうな、躊躇えば死ぬ。」


「躊躇いません。マリカさんのおっぱいを拝んでないのに死ねませんから。」


「じゃ、アタイが乳を見せない限りはカナタは死なないって事だね。いい事を聞いたよ。」


「そんなぁ!」


なんたる失言、なんたる墓穴。不死身の兵士じゃなくていいから、マリカさんのおっぱいを拝みたい!


「しょうがないおっぱい小僧だね。じゃあカナタがこの作戦を生き残ったら………いい事を教えてやるよ。」


「いい事? なにを教えてくれるんですか?」


マリカさんは一瞬オレの方を振り向き、ウィンクしながら言った。


「アタイの乳輪の色。」




ぜってー死なねえ!例え首が胴から離れても死なねえぞ!色んな意味で漲ってきたぜー!



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