出撃編5話 命より重い約束



マリカさんが先陣を切って研究所内を進む1番隊のゴロツキ達。



広い通路に警備兵達が現れる。


自動小銃が連射されるが念真障壁を展開し防御する。


オレ達は距離を詰め、そして白兵戦が始まる。



マリカさんは敵兵3人に襲いかかる。


1人目は銃から剣に得物を持ち変える事も出来ずに切り伏せられた。


返す刀で2人目も両断、3人目はマリカさんの首を狙って水平に剣を振るったが、斬撃をしゃがんで躱し、体を回転させて念真撃を纏った回し蹴りを見舞う。


ゴキンと音を立てて首が折れ曲がる。


あれが本気の必殺アネキックか。


スゲえ威力だ、入隊テストの時にアレを食らってたら即死じゃなくても医療ポッド送りだったな。



オレの目の前にも敵兵が立ちはだかる。


互いに障壁を展開し、刀と剣が交錯する。


オレの斬撃は敵兵の障壁を破壊し、敵兵の斬撃はオレの障壁に弾かれる。


距離を取った敵兵の顔に汗が浮かぶ。


冷や汗か油汗かは分からないが、動揺が顔に出るようじゃ半人前だぜ。


今、コイツの耳には死神の足音が木霊こだましてるんだろう。


歳はオレと変わらないか、ちょい上ぐらいだろう。


配属されたての新兵だろうか?



オレは作戦前夜にマリカさんと約束した。



…………その約束はオマエの命より重いんだ。


オレは刀に纏わせた念真撃の出力をリミットオーバーまで増幅させる。


まだ念真撃のコントロールは巧みとは言えないが、目一杯アクセルを吹かす事は出来るようになってる。


オレは距離を詰め、斜め上から斬撃を振り下ろす。


敵兵は再形成した障壁で受けたが、オレの斬撃は障壁ごと敵兵の体を切り裂いた。


敵兵は苦悶の表情を浮かべたまま絶命し、膝をつき、うつ伏せに倒れた。



オレの口から言い訳めいた台詞がこぼれる。


「オマエが悪い、戦う意志を持ってオレの前に立ったオマエが悪いんだ!」


その後、さらに2人の命を奪った。もう言い訳はしなかった。





マリカさんが生かしておいた敵兵の胸ぐらを掴んで持ち上げ尋問する。


「ガキ共はどこにいる? 猶予は3秒だ。3、2、……」


「モルモットは地下室と実験室にいる。左手の通路から地下室。右手の通路から実験室に行ける。」


「あんがとよ、それじゃ………死ね!」


マリカさんの愛刀、紅一文字が胸に突き刺さり命を奪う。


マリカさんはゴミでも捨てるみたいに死体を投げ捨てた。


馬鹿なヤツだ、モルモットなんて言わなきゃ死なずに済んだろうに。


「ナツメとホタル達は地下室に向かえ!アタイとシュリ達は実験室に向かう。カナタもアタイとこい。」


「イエス、マム!」




右手の通路を進み実験室とおぼしき扉の前に到着。


「シュリ!指向性爆薬のセット、急げ!」


シュリ達は装備パックから爆薬を取り出し扉にセットする。


マリカさんの合図でオレ達は少し離れ、シュリが起爆させる。


人間が通れるぐらいの穴が空いたので順次突入する。


中はオレのいた施設の実験室とそっくりで調整用ポッドが10個ばかりある。


中にいるのは、白い実験服を着せられた子供達。


子供の一人と目が合った。



………焦点が定まってない目、半開きの口。



思わず目を背けた。


覚悟はしていたけど現実を目の前にすると、心が折れそうになる。


「シュリ!ポッドを叩き割れ!」


シュリ達は手早くポッドに粘着テープを貼ると、ハンマーでポッドのガラスを叩き割り始める。


マリカさんが人差し指を耳に当てる。ホタルからの通信だろう。


「そうか、わかった。そっちの子らは無事なんだな。その子達を連れて先に脱出しろ。ヤバイ奴が出たらナツメに相手させな。」


「マリカ様、ポッドの破壊完了しました。この子達、命は無事です。」


………無事ね。シュリの表情も暗いな。


「………置いていく。」


シュリが珍しくマリカさんに意見する。


「子供達の命が優先だったのでは?」


「地下室の子供達の数が30人だった。実験前で怯えちゃいるが、正常な状態だと。」


「………予定より10人オーバー。ここにいる子供達も10人。仕方ありませんね。予定通りに………」


そうさ、仕方ない。お荷物を抱えるのにも限度がある。


マリカさんの判断は正しい。それは理解できる。



でもオレが吐いた台詞は真逆だった。


「マリカさん、この子供達も連れて行きましょう。精神が回復する可能性だってある。」


「カナタは黙ってろよ!僕やマリカ様が平気だとでも思ってるのか? 僕だって出来るものなら連れて行きたいさ!」


「シュリ、おまえもこの子達を連れていきたいのか?」


「それは………連れていきたいです。カナタの言うように回復の可能性だってあるのだし。」


「………カナタ、シュリ、自分の言葉に責任を取れ。シュリ達はこの子達を連れてホタル達と合流。必ず全員無事で脱出しろ。カナタ、予定以上に救出に人員を割いて人手がない。アタイと2人で「ディアボロスX」の捜索と奪取をやるぞ。ついてこい。」


オレとシュリは顔を見合わせてから唱和した。


「イエス、マム!」





オレとマリカさんは実験室を出る。


マリカさんは迷いなく進んでいく。


「マリカさん、どこに向かってるんですか?」


「上の階さ、大抵、機密ってのは一番深いとこか、一番高いとこにあるってのが相場だろ。」


「地下室は実験前の子供達がいたから上ですか。シンプルな消去法ですね。」


「それに予想より警備が薄かった。つまり本当に大事なモンの所に兵隊を集中させてるんじゃないかと思うね。」


「そこに二人で飛び込む訳ですか。スリル満点ですね。」


「スリルも娯楽の一つだろ。人生は楽しまなくちゃね。」


そんな会話をしてる内にエレベーターホールに着いた。


警備兵が2人いたがオレとマリカさんで一人ずつ始末する。


オレ達はエレベーターに乗り込み最上階の5階に向かう。


「エレベーターを出る前に派手なお出迎えが来そうですね。」


マリカさんは煙草に火を付けながら答える。


「こなきゃバカだろ。」


「どうするんです。天井を破って上でやり過ごしますか?」


「面倒だね、もっとシンプルにいく。カナタ、アタイにもっと体を寄せな。」


遠慮なくマリカさんに体を寄せる。役得役得。


「乳に顔を寄せろとは言ってない。」


ちぇ、もうちょっとだったのに。


マリカさんは扉の前に体全体をカバーする念真障壁を展開する。


ポーンと音がして5階に到着。たちまち響く銃声。お約束だな。


だがマリカさんの展開した障壁は無数の銃弾にも耐えている。


マリカさんは煙草を吐き捨てるとオレに言った。


「いくよ、カナタ!」


「アイアイ、ボス!」


マリカさんが疾風の様に兵士達に襲いかかる。


オレも障壁を形成して後に続く。


敵兵は8人、オレのパートは3人だな。



マリカさんの刀が炎を纏う、切られた兵士の体が発火する。


念真撃?いや炎の発生するギミックが仕込まれてるのか?


そこでオレは金髪先生トッドさんの言葉を思い出した。



念真能力には希少能力というものがあるが、おいおい分かる。



多分それだ。超能力には発火能力、パイロキネシスというのがあったはず。


マリカさんは希少能力の保有者でもあったんだ。



マリカさんは5人と戦いながらオレへのフォローもしてくれたので、なんとか3人を倒す事が出来た。


それでもオレは無傷という訳にはいかず、特に左上腕の傷は結構深い。


オレが止血パッチを傷口に貼っている間にマリカさんが敵兵の尋問を行う。


ディアボロスXは6階の最深部で研究されていて、そこには専用エレベーターでしか上がれないようだ。


専用エレベーター前にはゲートもあるらしい。


「そこに一番出来るヤツがいると考えるべきだね。楽しくなってきたな、カナタ。」


そこまでエンジョイ出来ませんよ。いよいよボス登場か。


オレとマリカさんはゲートに向かった。


途中でマリカさんは昆虫型の超小型ドローンを飛ばして、通路の先を偵察する。


「ゲート前が広いエントランスになってて団体さんがお待ちかねだよ。21名か。ブラックジャックだね。」


「オレ達に※保険インシュアランスはかけられますかね?」 


「保険はアタイらにもあいつらにもナシ、さ。命をチップに勝負といこうじゃないか。一人だけ偉そうな制服のヤツがいる。隊長だろう。ソイツを押さえてな。勝たなくていい。周りも気にすんな。アタイが雑魚の始末を終えるまで生きてろよ。」


「入隊する時に言った通り、オレは無様に生き残りますよ。」


オレ達はエントランスに突撃する。向こうもハナから白兵戦の構えだ。


オレは警備隊長に向かう。念真障壁を両手に形成。


マリカさん相手にやったダブルシールド戦法だ。


オレの生き汚さを見せてやるぜ!



隊長は今までのヤツとは格が違っていた。推定中量級。


念真強度はオレが上、スピードは互角、パワーとテクニックはヤツが上か。


ちょいと分が悪いね。


周りは一切気にしない。


オレを始末しようと背後から来るヤツはマリカさんの餌食になるだけだ。


オレはオーバーリミット上等で念真能力を使う。パワー差はこれで補う。


相手より上回っている所を活用する。勝負の鉄則だ。


それにオレには決定的に有利な所がある。


オレは死ななきゃいいが、コイツはさっさとオレを倒して、数の利がある間にマリカさんと戦いたいのだ。


さて、囁き戦術いくか。


「もうアンタ詰んでるぜ? オレを倒したってマリカさんはオレの10倍強いんだ。」


オレの背後に回った兵士を両断したマリカさんが言う。


「10倍? 100倍だよ!」


「だってさ、逃げても笑わないぜ?」


「黙れ!ここが貴様らの墓場だ!」


よしよし、怒れ、焦れ。


勝負を早く決めたくて攻撃が大振りになってるぜ。


こうなると格下でもジャイアントキリングのチャンスは生まれる。


盾を正面に構え、左手のシールドをもう1枚形成。外側の盾は大きく、内側の盾は小さく、だ。


ぶっつけ本番だが上手くやれた。意外と本番に強い男だったかオレ。


2枚の盾だがよく観察しない限り正面からは1枚に見えるハズ。


焦ってるコイツなら引っかかる可能性は高い。


よし、突きがきた。外側の盾が破壊される。そのまま突き込んで来るが内側の盾で受ける。


しかし全部オレの目論見通りにはいかなかった。


剣先に念真撃を集中させた隊長の突きは内側のシールドも破壊し、オレの前腕に刺さったのだ。


だが、腕一本を引き換えに得物は封じた。


今度はオレの渾身の突きを食らえ!


雄叫びを上げながら繰り出したオレの渾身の突きは障壁を破壊して胸部を貫通した。


隊長はカハッっと吐血しながら仰向けに倒れた。




ジャイアントキリング成功だぜ。マリカさん、オレはやりましたよ!



※ブラックジャックではインシュアランスというルールを採用している場合があります。


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