入隊編8話 認めよう。おまえがリアル18号であると!




目覚ましアプリが起動して目を覚ます。


昨日はアクセルさんにバイクを貰った。大事に使おう。


バイクの名前はビアンカにした。フローラとどっちにするか決められなくて、結局アミダで決めた。


ドラクエⅤやってた時は、そこで決められなくてクリアしてないんだよな。


オレは天掛カナタ。優柔不断な中軽量級バイオメタル兵士だ。




08:00時の食堂は混雑している。


ピークタイムの食事は個別の注文は出来なくて、バイキング形式の食事になる。


研究所ではいつもバイキングだったので、もう慣れてる。


せっせとトレイに食材を積んで空いている席を探す。


おっ、空席発見。急いで確保しよう。




オレの真向かいにはクールな感じの美少女が座っていた。


これは朝からツイてる、デジペーパーの占いも結構当たるんじゃん。


今日は素敵な出逢いがあるでしょう、か。ロマンスなら24時間歓迎のコンビニ野郎だぜ、オレは。


髪型はショートレイヤーだな、フフッ、入隊してからオレは女性の髪型を勉強しているのだ。


1番隊の女性隊員が髪型を変えた時に褒めて好感度アップを狙う為である。


タチアナさんはベリーショート、ホタルはグラディエーションボブ、司令はワンレンロング。


ちゃんと覚えたぜ。


しかしアスラ部隊って女性隊員は顔で選んでんじゃないだろうな?


いけないなあ、容姿で選んじゃあ。……全然OKであります、はい。


ホタルはオレと同じくらいの歳だと思ったけど、この薄幸系美少女はハイティーンじゃなかろうか。


おっぱいスカウター起動、推定Aカップ、皿形か。貧乳だがかなりの美乳とみた!


そこで胸の階級章と隊章に気が付いた。水晶の蜘蛛は1番隊の隊章だ。この美少女は曹長で同僚なのか?


普通は階級章が先なんだろうけど、オレにはおっぱいが最優先事項である。


解せんな、こんな美乳美少女がいれば、歓迎会の時にオレが気付かない訳がないのに。


タチアナさんにおっぱいスカウターを破壊されたからか?




よし、意を決してインファイトいくぞ!


さあゴングが鳴りました!ファイッ!


「あれ? キミ1番隊の隊員なの? オレは新入りの天掛カナタ……」


「……ウザイ。」 ジャブ×1


先制パンチ炸裂。けっこう効く。


「歓迎会の時にはいなかったよね? いや、いなかったからどうって訳じゃ……」


「……話しかけないで。」 ジャブ×2


まだだ、まだ終わらんよ!


「あの、キミ名前は?」


「……死ねば?」 ストレートがクリーンヒット!


……もう、ダメだ。


カーンカーンカーン。試合終了。タオルがリングに舞う。


……18号を攻略出来たクリリンさん、マジでパネエよ。


how to本でも書いてくれ。予約して買うからさ。




タオルを投げ込んだのはウォッカだった。


「カナタちょっとこい。」


「……うぃ。」


そしてウォッカはオレを食堂の隅まで引っ張ってきて、


「あの娘には構うな。」


「でもあの娘、1番隊の隊員ですよね。」


「ああ、あの娘は雪村ゆきむらナツメってんだが、ちょい訳ありでな。」


「ナツメちゃんね、メモメモっと。んで訳ありってのは?」


「アスラ部隊だけじゃなく、同盟軍でも結構有名な話なんだが、俺からは言えん。」


「ウォッカらしくなく歯切れが悪いね。あの娘、誰にでもあんな態度なの?」


「さっき程じゃないが、基本的に誰とも関わりを持たない。」


ボッチですか。オレの過去のお仲間ですね。過去じゃないかもだが。


「そんなんじゃ部隊内でも浮いちゃうでしょ?」


「浮いてるのとも違う。1番隊の皆はあの娘の事をとても大事に思ってんだ。距離をとってるのもあの娘の為だ。」


「ごめん、ウォッカが何言ってんだか訳が分からない。」


「詳しくはマリカさんにでも聞け。とにかくあの娘には関わるな。」


今日の20:00時にマリカさんに呼ばれてる。その時にでも聞いてみるか。


ナツメの事は気になるけど今日の予定を消化しよう。まずは射撃訓練だ。




射撃訓練は初めてだ。演習場に入るのもマリカさんに基地を案内されて以来だな。


静止した的を相手にマンイーターをぶっ放す。


ダーティーハリーもシティハンターも44口径を片手でぶっ放してたけど、実際には生身であれは無茶な行為らしい。


反動がデカくて狙いがズレる、次弾の狙いも付けにくい。


射撃の基本は両手撃ちである。元の世界では。


この世界ではシティハンター方式が常識。腕力が生身とは違うのだ。


なんでも44口径よりも口径がデカい銃まであるらしい。




慣れてきたので動的射撃に移る。


動的射撃には色々種類があるけどクレー射撃をやってみよう。


バシュっと皿が宙に飛ぶ。FCS作動!


なるほど、軌道を予測して狙う位置をサポートしてくれるのね。


サポートに従って撃ったら当たった。うん、便利便利。




今度は動くマネキン相手にFCSのオート射撃をやってみよう。


マネキンにロックオン、オート射撃スタート!


左手が勝手に動いてマネキンを射撃していく。オレはなにもしていない。


この機能は右手で目の前の敵とチャンバラやりながら、左手で離れた敵を射撃で倒すためのものだ。


実戦ではこういう状況もありえる。いざ尋常に勝負といかないのが戦場だ。


「いいFCS入れてるな。けどな、FCSを過信するな。そもそも達人級の腕前ならFCSより自分で狙った方が精度も高い。」


後ろを振り向くと鮮やかすぎる金髪でピアスのチャラっぽい男が立っていた。


「7番隊隊長の流星トッドさんですね?」


「オレの事はご存じか。有名人は辛いぜ。」


いえ、知りませんでした。でもその鮮やかすぎる金髪はどう見たって染めてますよね?


んで母艦にスケベ椅子なんて渾名つけられた事があるくらいのキンキラ好きってくれば予想もつきます。


「1番隊の新入り天掛カナタ伍長です、よろしく。」


「おう、7番隊隊長トッド・ランサム大尉だ。女性隊員にはハンサム大尉とも呼ばれているらしいがな。」


……ぜってー嘘だ。


「オレに何か御用ですか?」


「いんや、デートの時間まで暇なんで、アギトの甥っ子のツラでも拝んでみようかと思っただけだ。甥っ子っていうより兄弟だな。アギトが若返ったとしか思えんくらい似てやがる。」


いいカンしてるね。そうです、アギトが若返った姿がこれですよ。


「この基地はデートの場所にはこと欠きませんもんね。相手はマリカさんとか?」


もしそうだったらオレの殺すリストのトップに名前を書くからね。


デスノートが手に入ったら速攻で使うし。


「そうだと言いたいがマリカはツレなくてな。本当に素直じゃない女だぜ。」


「実に素直な答えなんじゃないですかね。」


「なんだ、おまえマリカに惚れてんのか?」


「オレはまだマリカさんに惚れる免許を持ってないんです。今、持ってるのは憧れ免許なんで。」


「マリカが面白い奴って言ってた通りだな。いいだろ、デートの時間まで俺が射撃の基礎を教えてやろう。」


「ありがとうございます、よろしく。」




そこから射撃について30分ほど教えてもらった。


トッドさんはハンドガンの扱いではアスラ部隊のナンバー1なのだそうだ。


それは嘘じゃなさそうだ。驚くほど正確でリロードも早い。淀みなく流れるように動く。


トッドさんの動きを真似てオレもやってみる。


「カナタ、引き金は引くんじゃない。絞るんだ。そういう感覚で撃ってみな。」


「はい、金髪先生!」


「なんだそりゃ?」


この世界には3年B組はないらしい。


そして一通りの基礎を教えてくれた後、煙草を吹かしながら銃の存在意義を教えてくれた。


「雑魚ならともかくデキるバイオメタルってのはタフだから鉛玉の2発や3発もらったところで無力化しねえ。そういう奴は強力な念真障壁も張れるから44口径でも弾けるしな。だから銃を軽んじる奴が多いんだが、要は使いようなんだよ。銃で対処可能な雑魚に無駄なカロリー使う必要はねえ。ちょいとデキる奴でもAP弾で何発か同じとこに当ててやれば障壁も貫通できる。」


「AP弾?」


「アーマーピアッシング、貫通力の高い弾丸だ。現状は念真能力を使った戦いが戦場のメインだが、メインディッシュを引き立てるオードブルを軽んじる様な店は、グルメガイドに載らないだろ?」


「なるほど。」


「新兵のカナタにそこまで求めるのは無理なオーダーかもしれんが、オードブルも大事だって事は忘れんな。今はFCS頼みでもいいが銃の腕も磨いとけ。金が入ったらいい銃を買うのもいい。」


「銃も買えるんですか?」


「ああ、浸透率を上げたりアプリをインストするばかりが強くなる方法じゃない。いい刀、いい銃を手にいれるってアプローチもある。大事なのはバランスだ。」


「さすが隊長となると言うことに含蓄がありますね。参考になります。」


マリカさんといいトッドさんといい、隊長ってのは面倒見がいいものらしい。


そっか、部下の面倒見が悪いのは良い隊長とは言えないよな。


「最後に素直なカナタ君にイイモノ見せてやろう。俺がなんで流星なんて呼ばれてるか、その由縁ゆえんをな。」


そういうとトッドさんは手のひらを上に向けて右手をあげる。


気円斬でも撃つつもりなのだろうか。


だったら「ナッパよけろっ!」って叫ばないと。


トッドさんの頭上に野球のボールぐらいの念真障球とでも呼ぶべきモノが沢山形成される。


いくつあるんだ? ひーふーみーよー、両手両足の指でも足りない。


トッドさんがマネキンを指さすと、障球群が一斉に尾を引いて飛んでいく。


雨あられと障球を食らったマネキンは、木っ端みじんに砕け散った。


気円斬じゃなくてペガサス流星拳だったか。なるほど、これが流星の由縁ね。


「念真能力には障射ってのがある。極めればこういう芸当も可能だ。」


「念真障射ですか。盾の形成と武器に纏わせる方法しか知りませんでした。」


「盾は障壁、武器に纏わせるのは障撃、飛ばすのは障射、共用語で言えばシールド、ストライク、シュートだ。厳密にはこれら3種に加えて希少念真能力があるが、それはおいおい分かるだろう。これらを状況に合わせて使えるようにしろよ。」


「はい!叔父の戦闘記録は見たんですが、障射は使ってませんでした。叔父は障射を使えなかったんですか?」


「仮にもアスラ部隊の元4番隊隊長が使えない訳ないだろ。アギトはデキる奴を相手にしか障射を使わなかっただけだ。」


「なるほど、奥の手って訳ですか。」


「そんな理由ならいいんだがな、アギトは自分の手で直接殺すのが好きだっただけだ。」


……やっぱりオリジナルの性格って最悪だよ。




その後すぐにブロンドの活発系美人さんが来てトッドさんと腕を組んでデートに向かった。


トッドさんは振り返らずに空いた手をヒラヒラとオレに向かって振ってくれた。


オレはトッドさんに一礼する。思わず正直な感想がこぼれる。



「……あの人、ホントにモテるんだ。」




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