入隊編7話 陸上戦艦不知火
オレは食堂を出て格納庫に向かった。
陸上戦艦不知火、その勇姿を拝見するために。
格納区画は巨大だった。東京ドーム何個分とかそんな感じで表現する大きさだ。
9つの大隊があって、それぞれに陸上戦艦があるとしたら、戦艦9隻が入るスペースがあるはずだもんな。
そりゃ巨大にもなる。
格納区画1が1番隊の倉庫のはずだ。
目的地はすぐ見つかり、オレはオイルの匂いが漂う倉庫に入った。
陸上戦艦不知火はすぐ見つかった。なんせ巨体だもの。
想像してたより無骨な印象だった。
戦艦は海上にあるもののイメージしかなかったけど、不知火は地上を進むんだもんな、そりゃ元の世界の戦艦とは形は違うのが当然か。
原子力のないこの世界でどうやってこんな戦艦を動かしているんだろう?
足回りは想像通りで巨大なキャタピラが両サイドについている。
マリカさんのイメージに合わせたんだろう、不知火は真紅にカラーリングされている。
そして戦艦らしく巨大な主砲といくつかの副砲、ガトリングガン等が武骨な輝きを放つ。
流石はマリカさんの乗艦、強そうだ。いや、強いに違いない。
「なかなかの勇姿だろ?」
声をかけてきたのはアクセルさんだった。
「スゴいですね、圧倒されました。」
「この不知火はアレス重工製の最新鋭陸上戦艦なんだ。半年前にロールアウトされて1番隊に配備された。つーか司令が剛腕振るってブン取ってきたって話がホントのトコらしいがね。前の業炎もいい船だったが、女房と畳は新しい方がいいってのは、確かイズルハの格言だったな。」
「司令の剛腕は味方としてはスゲー頼もしいですよね。」
敵に回すなんて想像したくもねえよ。睨まれただけで殺されそうだ。
「司令はタチアナと違って、おっぱいだけに栄養がいった訳じゃねえからな。」
「でもタチアナさんはスゴい巨乳、いや爆乳ですよ。あんな女性と仲がいいアクセルさんが羨ましいです。」
「カナタよ、おまえはまだまだおっぱい道にかけては未熟だな。いいか? 大事な事だから教えてやるぞ。」
「なんです?」
アクセルさんは悟りを開いた高僧のような厳かな口調でこう言った。
物事と同様におっぱいにも適正な大きさというものがある、と。
オレはまた一つおっぱい道の高みに近づいた……ワケねーよ!
「アクセルさん、世の中には大きいことはいいことだって言葉もあるんですよ!」
「バッカ野郎!そりゃ真ん中の足はデカい方がいいだろうがな!おっぱいにはおっぱい黄金比ってもんがあるんだよ!」
「おっぱい黄金比って言葉はアクセルさんの脳内にしかないでしょ!至高にして究極はロケットおっぱいですけど、そうでなくとも、おっぱいはおっぱいです!爆乳には爆乳にしかない良さもあるんです!」
「じゃあ貧乳はどうなんだよ?」
「貧乳であろうと美乳の持ち主はいます。オレは全ての美しきおっぱいを愛する男です!」
「言うじゃないかカナタ、それでこそ、おぱっ!」
高速で飛んできたレンチがアクセルさんの後頭部を直撃した。
そして作業ツナギの胸部ボタンの限界に挑戦する女、タチアナさんが現れる。
「アンタら真っ昼間からエロスな世界を格納庫に持ち込むんじゃないよ!」
後頭部を両手で押さえたアクセルさんが怒鳴った。
「タチアナ、オメエ大概にしろ!スパナやレンチを凶器にすんな!」
「私が殺人罪で告訴されても、陪審員は全員私の味方なんじゃない? それどころか感謝状ぐらい貰えるかもね。カナタもエロスな世界の住人なのに関してはもう手遅れっぽいけど、出来るだけ無害な有害物質になんなさいよ?」
「タチアナさん、無害な有害物質って言葉は矛盾してますよ。清純派AV女優とおんなじです。」
「ハハハッ、確かに清純な女がAV女優にゃならねえよな!」
アクセルさんはツボにハマったみたいで笑い転げてる。
タチアナさんはため息をつきながら、
「おんなじねえ。……一人殺すのも二人殺すのもおんなじって言うわね。」
オレとアクセルさんは全力ダッシュで逃げ出した。
「タチアナのヤツ、爆乳のくせにエロスワールドに理解がねえな。」
「至極まっとうな反応とも言えますけどね。いいんですかアクセルさん。作業の途中だったんでしょ?」
「まーな、だが俺は本来リガーで操縦の方が本職なんだよ。天才だから整備も一流なんで手伝ってただけだ。リガーの仕事をするか。カナタ、バイクは乗れるか?」
「バイクは乗ったことないです。車はちょっとだけ乗りましたけど。」
「そりゃいけねえな。作戦でバギーとかを使う場合は、リガーチームの誰かが運転することがほとんどだけど、バイクは戦闘員単独ってケースが多い。時間があるなら今から教えてやるよ。」
「お願いします。」
「ちょっと待ってな、バイク取ってくる。先に中庭にいっててくれ。」
オレは先に中庭に行ってアクセルさんを待っている間、物思いに耽っていた。
どうせ下の名前で呼ばれることなんかないと思ってカナタって名乗ったけど、むしろ名字で呼ばれる事がないとは思わなかったな。
オレに親切な1番隊のみんなは、とってもフランクでグイグイくる。
人間関係ではアウトボクサーで、ジャブで測って距離を取ってきたオレにはギャップが激しい。
いや、決めたんだ。アウトボクシングはもうやめだ。
距離を詰めてインファイトする。
パンチをもらうしダウンもするだろうけど、オレはそう生きると決めたんだから。
オフロードバイクに乗ったアクセルさんが中庭にやってきた。
「待たせたな。」
「いえいえ、じゃあよろしくお願いします。」
こうしてオレはアクセルさんから、バイクの乗り方を習う事になった。
1時間ほどで一応は乗れるようにはなった。
この体はこういう事全般に向いているようだ。元の体とは運動神経の出来が違う。
しずかちゃんとジャイ子ぐらいの差があるね。
アクセルさんもオレは筋がいいと褒めてくれた。
その後でアクセルさんが曲乗りを見せてくれたんだけど、これは見応えがあった。
流石は本職。元の世界でもバイクの曲乗り大会があったけど、アクセルさんなら優勝狙えそうだ。
この体がいくら筋がよくても、こうはなれそうにないな。
「よっと。ざっとまあこんなもんだ。」
「お見事、流石に餅は餅屋ですね。」
「カナタは何屋なんだ?」
「……寂しがり屋かな。」
「じゃあ寂しくないようにこのバイクをやるよ。遊び相手になるだろ?」
「そんな!悪いですよ。」
「気にするな、おっぱい革新党の同志だろ。こいつは俺が暇つぶしに壊れたバイクの使えるパーツを集めて作ったもんだ。元手はかかっちゃいねえから遠慮すんな。」
ここは好意に甘えておこう。バイクの練習もしなきゃいけないんだし。
オレは敬礼しながらお礼を言った。
「では同志アクセル!有難く拝領させて頂きます!」
「うむ、おっぱいの未来は我々おっぱい革新党の躍進に懸かっている。健闘を期待する。」
ノリいいな~この人。
中庭から倉庫に戻る途中に陸上戦艦が一隻、ローズガーデンに接近してくるのが見えた。
警報も鳴らないしアクセルさんは平然としてるのだから、あれはアスラ部隊の陸上戦艦なんだろう。
「7番隊がお帰りか。整備を手伝ってやんなきゃだな。」
「あれが7番隊の陸上戦艦ですか? 所々にゴールドメタリックの装甲があしらってあって派手ですね。」
「最初は全部金ピカだったんだがな、基地の連中からスケベ椅子って渾名を拝命したんで塗り直したのさ。」
母艦にそんな渾名つけられたら塗り直すしかないよな。お気の毒。
「ああ、風俗店にありますよね、金ピカの椅子。みんな上手いこと言うなあ。」
「お、カナタは童貞じゃなくて素人童貞だったか?」
「その件につきましては黙秘権を行使します同志。あの艦はなんて名前なんです?」
「サジタリウス、「流星トッド」ことトッド・ランサム大尉の乗艦さ。」
「流星トッドですか。アスラ部隊の部隊長は全員異名持ちなんですね。」
「そりゃそうさ。強さと素行の悪さは同盟軍随一のアスラ部隊だぜ?」
「素行の悪さは司令のオレ様っぷりが空気感染したのかもしれないですね。」
「朱に交われば赤くなる、か。」
「青は藍より出でて藍より青し、かもしれません。」
「かくて我らアスラ部隊は札付きゴロツキの巣窟となりぬれば、だな。」
「完全に手遅れですよね。」
「ああ、開き直って楽しむべきだ。そう思うだろ、同志。」
もちろんオレは楽しむつもり満々である。
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