addictive

韮崎旭

addictive

食品衛生管理者。朝の予感の中で吐き気を予測している。吐くかものを食べるか、水を飲むかするべき。食品衛生学の中で眠る、退行のゆりかごは、ささやかな心音でもって現世を呪い、来世を奪う。吐くか、ものを食べるか、水分を摂るべき。だがしかし、君の手のひらに居座る愉悦は、奇形的な未遂でもって災禍をなさない。予言するだろう、習癖に従えば、船着き場にも内陸部にも、衰退は等しいと。

吐くにせよ、食品衛生にせよ、肝心なのは電解質。一人称の癒着では決してない。でも、吐くべきなのかもしれない。世界は有害で満ち溢れていると口にする自身から有害であるからして、厭世思想はいつも通り天啓。光に満ちた窓のさき、デイケアなどでの勤務に当たっては、有資格者の待遇の問題の改善が必要である。ともあれ、吐くべきなのか?

どうせ胃液くらいしか吐くものがないが、それでも規則正し韻律は問いかける、「お前は人間でありたいか?」

動作の予備には償却を備えておきたい。教唆の恣意には、茜がよく似合う。どれだけ今を嫌おうと、いもしない視界足りないの!

不安感の減退と覚醒作用は、互いを阻害し、代償にして、食いつぶし、しまいには手に負えない依存を形作る。薬剤で管理された明るい生活。もう10年も抗ヒスタミン薬を飲み続けているが、最近無断で断薬した。不快だった。眠気が。クロルプロマジンには制吐作用、弱い抗ヒスタミン作用、鎮静作用などがある。植物図鑑の図解のように、私は私を解剖し、余った死体をもてあそぶ。壁にかける。暇つぶし。血で書いたものは戯言だ。


手根骨に、せいぜい見とれるがいいよ、日常生活が困難な、偏執にとらわれているふりをして、偏執が私の栄養だ。食事は害悪だし、食品衛生の基礎知識を持たない人間が食事をすることはもっと害悪だし、生活は害悪だし、思考は体に悪いし、人間の身体的作用は、人間の精神をえてして害する。

賢い読者諸兄はお気づきだろうが、コカインを常用している探偵だけが好きだったと、そこには書かれていた。


知らないメロディがなる、停車駅で待つ終わりを、どうせまた一人になるのは、知っているんだ、知らなメロディもすぐに聞き飽きる、初めから全部知っていたのさ、価値なんてない、意義なんてない。

あなたの夢見た私はいない、どうして?ねえどうして?気づかなかったのはうそ、気づいていたのは二人とも。

大嫌いなラブソング、唾棄して重ねて行き場もない。耳鳴りに似た白昼夢、さよなら、さよなら言い飽きてきて、大嫌いなラブソング、無内容で自覚未満。

どこにも行けない私だったからあなたに忘却を求めていたのだ。アヘンのような夢は冷めないで時間を捨て去って消えてしまいたい!

どこにも行けないのは私だけであなたはきっと目を覚ます、麻酔のような倦怠に飲まれて動けないままさめていくのだろう。

知らないメロディ、二度はない路線、死のうかなんて言えるはずがない、失ったはずの道徳を拾い集めてまた一人、「探すのはあなたじゃない。」


(料理が下手なんですが、でも料理する必要があるのかわからないし、そもそも食べる必要はあるんですが、経管栄養ではなぜいけないのか?これほどまでに人体を管理したがる人間がいる以上、経管栄養は好ましい。

どこにも行けない私だったから退廃的に救われたいのだ。モルヒネの虹は見えないの?ねえ誰もいない空疎に向かい問う。)


どこにも行けないままでいるのは私だけなの知っていたんだ音楽にすがって、声を殺して虚像になった世界を眺めて、

どこでもいらないあなたがない世界置いて行かれた私は死骸、いいえもとから、この骨膜に刻まれた呪い私が刻んだ。

どこへも行けない私を見つけてどうか鬼籍へとつれさって欲しい苦い夏はとうに終わった、夢見るだけの意欲も残ってはいないや。

奪って、なくして、突き落として?なくさないために死にたいの。


独り言だけの恋愛小説は高度な妄想と区別がつかないという。私はフライパンにオリーブオイルをひきながら、明け方の空に染められる憂愁の行方を醒めた目で眺めている。そうだ、霊廟を観光するんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

addictive 韮崎旭 @nakaimaizumi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る