最終話 ~祭りの後の夢~2/4

「きゃうっ……!」

 敗北の衝撃に吹き飛ばされるエブリ子。その勢いにXbox360専用メモリーユニット(64MB)が髪から外れ床を転がる。

 力の源を失ったエブリ子の身体から変身が解除され、手を離れた杖もまたXbox360ワイヤレスコントローラーへと形を戻していた。

「えりちゃんっ……!」

 すぐさまつよくんがXbox360専用メモリーユニット(64MB)を拾い上げようとするが、その動きを予測していたかのように赤のエブリパ仮面が先んじてそれをすくい上げる。

「悲しい話ですね。いくら光の神力をその身に宿せど、その程度の実力しか持たぬのでは話にならない。貴方はこの少女に何を教えていたのですか?」

「やめろっ! えりちゃんに手を出すな!!」

 エブリ子へと歩み寄る赤のエブリパ仮面との間に割って入り、エブリ子を庇うようにつよくんが革命家の面と向かい合う。

「赤のエブリパーティ仮面、分かっているのか! きみがこうしてこの世界に留まり続ける限り世界の歪みは大きくなり続ける! そうしたら、いつか必ずこの世界そのものに致命的な影響をもたらしてしまうんだぞ!!」

「確かに貴方の言うとおりかもしれません。私が此処に在ることでこのエブリパ世界は滅びへと向かっているのかもしれない……だが、それがなんだというのです?」

「なっ……!?」

 予想を遥かに越えた回答につよくんが絶句する。

「全てのゲームが神ゲーであるという条理。その真実を遍く人類に知らしめることと比べれば、地球ほしの終わりが少々早まることなど誤差に過ぎません。少なくとも、私にとっては」

 赤のエブリパ仮面は事も無げに世界の価値より自身の思想が勝ると言い切った。

 狂気と呼ぶのは簡単だ。けれど、そんな矮小化した言葉で括るにはあまりにも強い、救世主メシアの如き響きがそこにはあった。

「世界が滅びてでも果たすべき願いがある。だからこそ我々はこの世界に来たのです……もっとも、貴方はそうではなかったようですがね」

 そこまで語った後、赤のエブリパ仮面はエブリ子を見据え、初めて彼女に対して話しかける。

「少女よ。貴女はなんのために戦っているのです」

「わたしは、AKAKINさんを……最後の『えぶりぱーてぃかめん』を倒して、世界を守らないと……」

「なるほど、そういう事ですか」

 つよくん初めて会った日に伝えられた戦うべき理由をそのまま口にしたエブリ子に、赤のエブリパ仮面が憐れみを込めて告げる。

「少女よ。貴女は大きな勘違いをしている。貴女が○イクロソフト得分利オフィスで出会った兄のエブリパーティ仮面は、エブリパーティ仮面であってエブリパーティ仮面ではありません。そうでしょう、『4番目につよいやつ』よ」

「……ああ」

「ふぇ……?」

 言葉の意味が分からず戸惑うエブリ子に、つよくんが抑揚のない声で説明する。

「えりちゃん。あの兄のエブリパーティ仮面は、本物の兄のエブリパーティ仮面じゃあなかったんだ。あれは言うなれば、この世界にたどり着けなかった彼の想いの亡霊。本物のエブリパーティ仮面達がこのエブリパ世界に留まり続けている影響から生まれた世界の歪みが実体化したものだったんだ……」

「えっ、えっと、どういうこと……?」

「つまりこういうことです。貴女が4人のエブリパーティ仮面の内の一人だとだと思っていた者はその数に含まれていない……つまり福、禅、兄、そして私以外に、この世界にはもう一人エブリパーティ仮面が存在するのです」

「で、でもつよくん言ってたもん! あとひとりだって……!?」

 そこまで口にして、エブリ子は思い出す。兄のエブリパーティ仮面を倒した後の彼との会話を。


『これで、あとひとりなんだよね……』

『あ、うん……きみは3人のエブリパーティ仮面を倒したんだ』


 微妙に違和感を覚えた受け答え。だからこそ心の内に引っかかり続けていた。

 つよくんは、赤のエブリパ仮面が最後のエブリパーティ仮面だとは言っていない……! 

「で、でもそれじゃあ、最後のおじさん……えぶりぱーてぃかめんは、どこにいるの……!?」

「それは……」

 エブリ子の困惑の問いかけに言い澱むつよくん。そこに赤のエブリパ仮面が割って入った。

「貴方が隠し続けるなら、代わりに私が答えましょうか――貴方の正体を」

「……っ!?」

 その言葉につよくんが驚愕する。

「少女よ。不思議に思ったことはありませんか。我々がこの世界を脅かす者とするなら、その者達と戦う力を与えた運命の授け手はいったい何者なのか」

「赤のエブリパーティ仮面! やめるんだ……!」

 つよくんの必死の静止の声を受け流し、赤のエブリパ仮面が一点を指し示す。

「彼こそが貴女の探し求めていた最後のエブリパーティ仮面。あの日、全ての世界線を超えた果てで戦い、そしてこの世界に到った4人のエブリパーティ仮面の一人なのですよ」

「えっ……?」

 少女が思考停止したように赤のエブリパ仮面の指差した先――つよくんを見た。

「つよくんが……えぶりぱーてぃかめん……そんな、だって……おかしいよ、そんなの……」

 エブリ子がつよくんにすがるように手を伸ばす。その姿を見ることなく、つよくんが背を向けたまま口を開く。

「……ごめんね、えりちゃん。ぼくに勇気がないばかりに、こんな形できみに真実を伝えることになって」

 そう言って彼は振り返り、自らの口ではっきりと少女に告げた。

 己の本当の名と、その宿業を。


「ぼくの名は『4番目につよいエブリパーティ仮面』。闇の神力に染まり、エブリパーティの道を違えた倒されるべき悪のひとり――それがぼくなんだ、えりちゃん」




 かつて一つの戦いがあった。

 【第五回エブリパーティ全平行世界大会】。それは全ての平行世界から集った修羅のエブリパリスト達が己の信念を懸けしのぎを削った戦争の名。

 力に劣った者、愛に見放された者、志半ばで潰えた者、それらの者達の屍を踏み越える者。

 その果てに生き残った最後の4人の手で行われた最終決戦は、しかし【あがり】の文字を見ることなく中断されてしまう。

 数十億に数十億を掛けた可能性の果てにこの場所に集った彼等エブリパリストの強い想いは、奇跡を起こすに十分過ぎるほどのものだった。

 その熱量は戦いのなかで重なり、膨張し、遂には新たな平行世界を観測するまでに到った。

 エブリパーティが64億1千万本売れ、全ての争いに終止符を打ったこの世界――エブリパ世界線を。




「そうして気づいた時にはぼく達の前にエブリパーティの画面はなく、この世界が広がっていたんだ。まるで、なにかに導かれるように……」

 つよくんの語る物語を赤のエブリパ仮面もまた頷き追従する。

「誰が平行世界の頂点なのかという問いは棚上げされましたが、もはやそんなことはどうでもよかったのです。初週641本という呪いの数字が累計64億1千万本という祝福の数字に変わり、志半ばに潰えたゲームリ○ブリックが任○堂の時価総額を上回り、岡○吉起社長が億単位の借金をモ○ストで返済することなく辣腕を振るい、なによりT○KIOが五人いるこの世界なら、必ずや全ての低評価とされたゲーム達を神ゲーとして受け入れる事が出来る。私達はそう確信し、行動を始めたのです――彼以外は」

「ぼくは……ぼくは彼等を止めようとしたんだ。たしかにこの世界はぼく達の理想を描いたような世界だったけれど、でもここはぼく達の世界じゃない。願いは、自分の住む世界で叶えなければいけないものだって、信じてたから……」

 ここまで淡々と言葉を紡いできたつよくんの声に、震えるような嗚咽が混じった。

「でも、ぼくでは止められなかった……ぼくが弱かったから……ぼくの力だけでは、エブリパーティ仮面達に敵わなかったから……!」

 あの平行世界の頂点の座を懸けて行われた最後のエブリパーティでも、彼だけが完全な後れを取っていた。

 目押し、ミニゲーム、運命力。どこを切っても他のエブリパーティ仮面を上回る力を持ち得ない、悲しいほどの実力差。

 世界が滅びてでも叶えたいカルマの如き願いを持ち得ぬままその場所に立った彼には、そこが限界だったのだ。

「だから、ぼくはずっと待っていたんだ。彼等の闇の神力に対抗できる、輝くような神力を持つ人がぼくの前に現れるのを。そしてその時が来たらその子の力になれるよう、肉体を捨てこのメモリーユニットに神力だけを封じこめたんだ……」

「…………」

 エブリ子は俯いたまま一言も発さず、彼等の言葉を聞いていた。

 あまりにも壮大で、あまりにも複雑な、彼等の成り立ち。その正確な意味は殆ど分からずとも、せめて大枠だけでも理解しようと耳を澄ませて。

 そして、少しの時間を置いて少女が口を開く。

「ねえ、つよくん。わたし、ずっとつよくんに聞きたいことがあったの」

「……なんだい?」

 どんな言葉がぶつけられてもいいという覚悟を決め、つよくんが問い返す。

 けれど少女の問いかけは、彼の予想していた物とは異なる物だった。


「どうして、わたしだったの?」

 これまでのエブリパーティ仮面達を送還する間際に行ったものと同じ、素朴な問いかけ。その問いに、つよくんが一瞬言葉を詰まらせる。

「きみが……きみだけが、全てのエブリパーティ仮面に打ち勝つための可能性を秘めていたからだ」

「でもわたし、AKAKINさんに負けちゃったよ……?」

「――いいや」

 泣きそうな色をにじませる少女の声を察したつよくんが、力強く首を振る。

「きみを裏切ったぼくの言葉にはなんの価値もないかもしれない……それでも、きみは赤のエブリパーティ仮面に打ち勝つ力を持っているってぼくは思っている……今もそう信じているんだ、えりちゃん」

「…………そっか」

 それだけを呟いて、エブリ子は立ち上がった。

 もうその手に魔法エブリパ少女の証たるメモリーユニットはないのに、それでも毅然と赤のエブリパーティ仮面を見据えて。

「なら、わたしはつよくんを信じる」

 自らに向けられた目線の意味を察し、赤のエブリパーティ仮面は静かに告げる。

「良いのですか、魔法エブリパ少女よ。貴女にこれまで嘘を吐き利用した者の願いのままに戦って」

「分かんないよ。わたし、頭よくないから……AKAKINさんが言ってることも、つよくんが言ってることも、全然分かんない」

 どこまでもまっすぐに、エブリ子は自分のなかにある想いを包み隠さず言葉にする。それが自分の生き方であると告げるように。

「それでも、なにもかもが正しくて、そこから一つだけを選ばなきゃいけないんだとしたら――わたしはつよくんを選ぶ!」

「えりちゃん……」

 そして付け加えるようにして、一番単純な気持ちを告白する。

「それに、おじさん達とエブリパーティするの、すっごく楽しかったもん!」

 純粋にゲームを遊ぶことを心待ちにする少女の言葉。その煌めきに、赤のエブリパ仮面が仮面の奥で目を細めた。

「少女……いいえ、エブリ子よ。貴女の決断は美しい。私は貴女のその心の在り方を本当に素晴らしい物だと考えています」

 少女を称えつつも、赤のエブリパ仮面は己の言葉に暗く重たい意思を滲ませる。

「ですがそう決断した以上……私は、私の障害となり得る芽を今この場で摘み取らねばならない」

「……!? えりちゃん、気を付けて!!」

「ご安心を。いずれ神ゲーの意味を知るべき無辜の少女を消し去ったりはしません」

 そこまで言って、赤のエブリパーティ仮面がその手に握っていた清らかな表情を浮かべた青髪の美少女フィギュアを前へ突きだした。

「はあああああああああぁぁぁ!!」

 膨大な闇の神力が赤のエブリパ仮面の身体を通して青髪のフィギュアへと流れ込み、その清らかな表情が般若のものへと変わっていく。

 その眼が捉えているのは、無防備に宙に浮かぶ黒いウサギの如き物体。

「まさか、これはももこビームと同じ……!?」

 つよくんの驚愕に対する回答代わりに、赤のエブリパ仮面が宣告する。

「4番目につよいエブリパーティ仮面。貴方には他の者達と同じように、あるべき世界に還って頂きましょう」

 フィギュアを持たぬ手が、コントローラのスイッチを押した。

「――モ○コスビーーーーーム!!」

 叫びと同時、赤のエブリパ仮面の肩に乗せられた美少女フィギュアの瞳から深淵の如き闇がつよくんに向けて放たれる。

「あぶないつよくんっ!!」

 その闇がつよくんに触れるより早く、別の力が彼の身体を大きく突き飛ばした。

「えりちゃんっ!?」

 大切な相棒をかばい、己を呑み込むほどの大きさに広がった闇の前に身を投げ出したエブリ子。

 その身体が暗黒の奔流に呑み込まれ――。




『ゲームリ○ブリック第三新本社ビル』最上階。

 豪奢な調度品と煌びやかな装飾に包まれた広大な空間の一角に、虚無を映し出すような闇が漂っていた。

「――悲しい話です」

 赤のエブリパ仮面が呟く。ほんの一瞬前まで少女がいた場所には、もはや漆黒の闇しか存在しなかった。

「なんの咎もなかった少女を私は闇に染めてしまった……全ては貴方から始まった事ですよ、4番目につよいエブリパーティ仮面よ」

 つよくんの本来の名を口にし、彼を糾弾する赤のエブリパ仮面。その言葉には確かな義憤があった。

「いくら強い神力とオススメRPGの名を持つといえど、所詮はただゲームが好きなだけの弱き少女。あのような幼き乙女をかどわかして、私を止められるとでも思っていたのですか。貴方は」

「………………ははっ」

 沈黙を続けていたつよくんが、急に笑い声を上げた。

 それは戦う術を失った諦観でも、少女の結末に対する悔恨でもない。

 己の勝利を欠片も疑わぬ男に対する嘲笑だった。

「……なにがおかしいのです。貴方のせいで、少女はこのような結末を迎えたというのに」

 赤のエブリパ仮面の苛立つような追求を無視し、つよくんが口を開く。

「赤のエブリパーティ仮面。確かにえりちゃんはそんなに強くない。目押しは出来ないし、運も悪いし、ミニゲームではよくCPUに負ける。ゲームが好きで、ゲームが下手な、どこにでも居る普通の女の子だ」

 でも、と。

「きみは一番大切なことが分かっていない」

 そう言ってつよくんが赤のエブリパ仮面の方を振り向く。

「彼女になにを教えたかと聞いたな。ぼくは彼女になにも教えていない……ぼくがえりちゃんに教えられることなんてなにもないからだ」

 つよくんの瞳が赤のエブリパ仮面の仮面の奥にある人間の姿を映し出す。

 手段と目的を違え、己の野望にゲームを利用しようとした愚かなる者。同じくその罪を負う者として、確信を持って謳う。

「『ただゲームが好きなだけ』で居られなくなったぼく達では彼女になにも教えられやしない。教えられるべきはぼくの方であり、そしてきみの方だ――赤のエブリパーティ仮面!!」

 その叫びと同時、エブリ子の居た場所をたゆたう闇の海から光が放たれる。

「何っ!?」

 赤のエブリパ仮面の驚愕の声が響いた時には、既に闇はかき消えていた。

 そして、世界の中心に立つのは――。

「AKAKINさん――ううん、おじさん!」

 全身にを纏ったエブリ子が叫ぶ。

「わたしのゲームを好きな気持ちを、ばかにしないで!!」

「ぐっ……!?」

 エブリ子の身体から放たれる衝撃波の如き波動に、無意識のうちに後ずさる赤のエブリパ仮面。

 少女から発される神力は生身でありながら変身していた時を大きく上回っていた。

 そしてその意味をようやっと赤のエブリパ仮面は察知する。

「そんな、馬鹿な……その姿、私の神力を取り込んだというのですか!?」

 少女が全身に纏った黒き光。それは赤のエブリパ仮面が放った闇の神力であり、同時に今では彼女自身の物となった『光の闇の神力』だった。

 少女の復活を確信していたようにつよくんが言葉を紡ぐ。

「神力とはゲームを楽しむ心の在り方そのもの。そして彼女の誰よりもゲームを楽しむ心は、ぼく達の堕ちた神力さえも自分の楽しさに染められる! だからきみじゃなきゃいけなかったんだ、えりちゃん!」

 そう言ってエブリ子の変化に意識を奪われていた赤のエブリパ仮面の手からXbox360専用メモリーユニット(64MB)を取り戻し、つよくんが少女の手のひらの上に乗る。

「さあ、ぼくの神力の全てを託す! 今のきみならこの力を使いこなせるはずだ――えりちゃん!」

「何を!? そんなことをすれば、貴方は……!!」

 敵であるはずの赤のエブリパ仮面から放たれた静止の言葉を振り払うように、つよくんの身体から黒い霧――これまで出会ったエブリパ仮面が放っていたものと同質の神力が溢れ、その全てがXbox360専用メモリーユニット(64MB)へと注ぎ込まれていく。

 その闇が晴れた時、少女の手にはつよくんもメモリーユニットもなく、代わりに一つの物体がそこにあった。

 少女の手のひらを覆うほどの大きさの薄い箱のような物体。どこかメモリーユニットに似た雰囲気を持つその周辺機器を見て赤のエブリパ仮面が叫ぶ。

「まさか、それは――『Xbox360Sハードディスク(250GB)』!?」

 Xbox360専用メモリーユニット(64MB)のおよそ4000倍の容量パワーを秘めたそれを掲げ、エブリ子は謳う。

 これまでに幾度も叫んだ、彼と少女を繋ぐ絆の象徴を。




「クロス――ハイデフィニション!!」

 言葉と共に胸に当てたXbox360Sハードディスク(250GB)から渦巻くように広がる幾本もの緑色の光がエブリ子の身体を包み、その光のなかに着ていた衣服が溶けていく。

 そしてT○KIOの『D○!Do!Do!』のテンポに乗せて宙に浮いた少女の小さくも柔らかいマイクロソフトなボディに新たな衣装――白ではなく黒を基調とした装束がパァァン☆パァァン☆とSE付きで実体化していく。

 ライトグリーンの長髪をたなびかせ輝く黒色プレミアムリキッドカラーの光沢を纏ったその姿はまさしく2010年6月24日に発売された、本体が小さくなりHDDと無線LANが内蔵され消費電力も大幅に改善した上に大型ファンの搭載で静音性の向上までもを達成し喝采を浴びた新型Xbox『Xbox360S』初期生産分の輝きそのものだった。

 さらにXbox360ワイヤレスコントローラーが一つではなく二つの物体に再構成され、分裂したXboxガイド《シイタケ》ボタンを元にした輝く宝玉がそれぞれにはめ込まれる。

 一つはこれまでとは細部の意匠が異なる杖の先端に、そしてもう一つは翼を生やしたカメラの如き物体の中心へ。

 レンズを常に少女へと向けながら周囲を自在に飛び回るその新たな力が、Xbox360Sと同時に発売されジェスチャーや音声入力にまで対応した体感ゲームという新たなトレンドの普及に貢献しのちに第二のローンチを達成したとまで言われたテレビゲーム周辺機器史上最大の成功作『Kinect』の権能を具現化したものである事は言うまでもない。

 そして杖を手に宙を舞うKinectを従えた少女が、新たなる己の誕生を告げる。


「――黒き箱の名の下、ヴァルハラの栄光をここに! 魔法エブリパ少女里見エブリ子、ジャンプイン!」




「――っ!」

 変身を終えた瞬間、エブリ子の心にこれまで感じたこともないような鈍く切ない痛みが走った。

 それは自分と繋がったつよくんから流れ込んだ、彼の苦悩がもたらすもの。

 ゲームを愛するが故にゲームとの距離を見失い、いつしか何を楽しんでいたのかも分からぬまま暗闇へ落ちてしまった絶望の記憶。

 けれど、数々のエブリパ仮面と戦った今のエブリ子には、自分にはまだ分からないその複雑な感情の海もまた、彼等のゲームに対する大きな『好き』の気持ちから生まれたものなんだと察することが出来た。

 ならばきっと、この痛みも悪いことじゃないんだと少女は思った。

 喜びだけではない数多の苦しみをも内包し、それでもなおゲームを愛し信ずる気持ちが、その全てをゲームを楽しむ力に変えていく。

 それこそが、里見エブリ子という少女の持つ最大の魔法だった。

「行こう、えりちゃん。これが最後の戦いだ」

 翼を纏ったKinectからつよくんの声が響く。

 姿は見えずとも自分の一番近くに寄り添ってくれている。その確信が少女の足を前へと進ませる。

「うん――!」

 新たな姿と力を手に、二人はもっとも有名な革命家の仮面を纏った男と対峙する。

「良いでしょう。どれほどの神力を纏おうと、貴女と私ではエブリパリストとしての位階が異なる。その差をもう一度その身にお教えしましょう」

「そんなの、やってみなきゃ分かんないもん!」

 叫びと共に少女が大きく腕を振りかぶって画面を指差すと、KINEKTの輝きが少女の動きを感知しマップが選択される。

「1マッチ2CPU&ゴールファースト、【チャペルへGO】レディー!」

 エブリ子の宣言と共に、最後のエブリパーティが始まった――。

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