第二話 ~L○N Video アー党の決斗!~1/3
国立T○KIO記念館。それは『○船』を軽く上回る宇宙最大のヒットナンバー『D○!Do!Do!』の5000兆再生を記念して立てられた地上五階建ての聖域である。
得分利区屈指の観光名所としても知られるこの場所には、T○KIOが実際に使用していた物から彼らにまつわる公式非公式問わないグッズの数々、更には設立に際し目玉展示物として新たに作られた彼らを題材とした絵画の数々と彼らを模して作られた等身大仏像が収蔵されている。
平日でも人がごった返すほどの人気を有す世界を代表するミュージアム。だがその建物にの地下でこの半年なにが行われているのかを知る者はいない。
記念館の地下に広がる空間。表向きには存在しない事になっているその場所の一段高くなった所に、異様な風体の男が居た。
頭にマ○ドナルドの袋を被り、一切の乱れない座禅を保ちながら宙に浮くおっさん。『禅のエブリパーティ仮面』である。
驚くべきことに彼の浮く周囲には地上の記念館に飾られているはずの各メンバーの等身大仏像が並び、その背後には記念館最大の作品『T○KIOの晩餐』が飾られていた。
常設で展示されているこれらの国宝が実際にはレプリカであり、真作はその偉大すぎる価値を護るためこの地下空間内に保管されているという事実。これこそT○KIO記念館最大の暗部にして関係者の間で秘中の秘として扱われている真実だ。
そんな世界でも数人しか知るものの居ない空間に浮遊する禅のエブリパ仮面の下方、一人の少女が倒れていた。
「はぁっ……はぁっ……」
おそらくはエブリ子と同年代。同じくらいの背丈に、だいぶ異なる胸部の厚みを備えた少女。疲労からうっすらと紅潮した頬と、汗に濡れブラウスが張り付いた立体的な胸元からは年齢を一足飛びしたいかがわしさが醸し出されていた。
少女の前には年代物のブラウン管テレビとゲーム機に似た白い箱、そして白い箱から繋がったコントローラーが置かれ、その画面にはいくらか歪んだ線で書かれた一つの文字が映っていた。
『観』。それは大乗仏教の心髄を示す『般若波羅蜜多心経』、通称般若心経の最初の一文字である。
「素晴らしい……。これほど美しき『観』の字は未だ見た事がありません……やはり貴女の魂はL○N Video Art浄土に導かれている……!」
『L○N Video Art』。それこそかつて数々の映画原作ゲームを世に送り出し世界中の子ども達にその素晴らしさを伝えたL○N社が販売したお絵かきハードにして、禅のエブリパ仮面が信奉する
「どうして……どうして、こんなひどい事をするの……?」
あり得ざる空間に監禁され恐ろしく操作性の悪いジョイスティックと全削除しか付いてないお絵描きソフトで般若心経を写経させられる。そんな昨日まで想像だにしなかった環境に囚われた胸部豊かな少女が禅のエブリパ仮面に儚げな声で問いかける。
「分かりますとも。今はまだ
禅のエブリパ仮面が指を鳴らすと少女の周囲の扉が開き、そこから様々な紙袋を被った人々が現れる。
「
整列する軍人の如く禅のエブリパ仮面の前方で向かい合わせの列を作り片手を斜め上に伸ばす信徒達。彼等はみな禅のエブリパ仮面の手により強制的に
「いや……私、こんなのになりたくない……」
至極もっともな否定を口にする少女に、禅のエブリパ仮面が鷹揚な拍手を返す。
「我が御本尊を見てなお回心せざるその頑なな心もまた素晴らしい。しかし、修行を疎かにされては困りますなあ」
禅のエブリパ仮面が両手を上げると、少女の両肩を信徒達が掴み、再びブラウン管の前に座らせようとする。
「さあ休む時間はありませんよ。まだ261文字も残っているのですから……!」
「いやっ……! 助けて……助けて、えりちゃん……!」
再び少女の白く美しい手にコントローラーが握らされようとしたまさにその時、地下空間の隠しエレベーターの扉が開き、一人の少女と一匹の黒くて丸い生き物がその場に駆け付けた。
「どあちゃんっ!」
囚われの少女の名を呼びかけるのは、無論魔法エブリパ少女、里見エブリ子である。
「えりちゃん……?」
どあちゃんと呼ばれた少女が幻でも見るような表情でえりちゃんの名を呼び返す。その声色には驚きと共に恐れのようなものが含まれていた。
「えりちゃん……本当に、あなたなの? 私、あなたに『鉄○はク○ゲー』なんて、酷い事言ったのに……」
あの日大切な親友の気持ちを一方的に否定した自分の言葉を反芻し、声を震わせる胸部豊かな少女。その問いにえりちゃんは笑って答える。
「大丈夫! わたし分かってるもん! 本当はどあちゃん、パッドでステステ最風できるくらい○拳のことが大好きなんだって!」
その言葉がどれほどの救いとなっただろう。大きく目を見開いた少女は、やがてぽろぽろと涙を零しながらそっとまぶたを伏せる。
「ありがとう、えりちゃん……」
最後にそう呟き、少女は意識を失った。
「これはこれは。お待ちしておりましたぞ、エブリパ少女とその力の授け人よ」
上方から届く慇懃な言葉を聞き、エブリ子が禅のエブリパ仮面を見上げた。
「おじさんが、都市伝説の――」
「如何にもそのとおりですぞ。ようこそ我が『L○N Video アー党』が総本山、裏T○KIO記念館へ」
一瞬姿がかき消えたかと思った瞬間、エブリ子達と同じ高さに出現する禅のエブリパ仮面。その姿を認めると同時、つよくんが怒りの言葉を上げる。
「禅のエブリパーティ仮面! 君はどあちゃんがえりちゃんの親友だと知っていて彼女をここに誘拐したな!」
「肯定しましょう。福のエブリパーティ仮面が破れてからというもの貴女方が来る日を待ち望んでいたのですが、なかなか現れないものでしたからな。仕方なく拙僧から機会をお与えしてさし上げたのですぞ」
浴びせられた怒声を涼風の如く受け流し禅のエブリパ仮面が首肯する。そのあまりにも身勝手な発言にエブリ子がマ○ドナルドの袋を睨み付ける。
「よくもどあちゃんにひどいことを! ぜーったいに許さないんだから!」
滅多なことでは怒らない少女が強い感情を込めて叫び、キーホルダーのようにリュックに取り付けていたXbox360専用メモリーユニット(64MB)を握りしめた。
「クロス――ハイデフィニション!」
言葉と共にXbox360専用メモリーユニット(64MB)を握る手を掲げたエブリ子の身体をCMの最後にXbox360ロゴが表示される時に似た渦巻くように広がる幾本もの緑色の光が包み、その光のなかに着ていた衣服が溶けていく。
そしてT○KIOの『D○!Do!Do!』――2007年夏からXbox360のCMソングで使用された宇宙で最も有名な歌のテンポに乗せて宙に浮いた少女の
シルバーホワイトの衣装にライトグリーンのボニーテールが揺れるXbox360のイメージカラー通りのシルエットの完成と同時、少女のリュックから飛び出したXbox360ワイヤレスコントローラーが分解され少女の背と同じ長さのメカニカルな杖の形に再構成される。その先端に
そして杖を手にした少女が、新たなる己の誕生を告げる。
「白き箱の名のもと、ゼノンの英知をここに! 魔法エブリパ少女里見エブリ子、ジャンプイン!」
少女の変身を見届けた善のエブリパ仮面が感嘆の声を漏らした。
「なるほど、確かに凄まじき神力。これならば彼が破れたというのも分かりましょう……。ですが、それだけでは拙僧には届きませんぞ」
言って禅のエブリパ仮面が両手を上げると、再び紙袋の信徒達が列を成し、奇声と共に片手を上げた。
「
その情景はまさしく半年前から噂される都市伝説、『顔に紙袋を被り子どもの落書き以下の絵を崇める宗教団体』の姿そのものだった。
「気を付けてえりちゃん! この人たちは禅のエブリパーティ仮面に操られている!」
「操られるとは心外ですな! この者等は我が御本尊の威光に触れ真なる世界の在り方に到った者たち。己の過ちに気付き回心したその心を拙僧が導いているだけの事!」
つよくんの言葉が琴線に触れたように、初めて禅のエブリパ仮面の言葉に強い感情が乗る。
「かつて拙僧は一人の僧として現世に置ける一切衆生の苦を知るべくあらゆる低評価ゲームをプレイし、そしてL○N Video Artを用い般若心経を写経するなかで拙僧の内にあった
「そんなのどーでもいいからエブリパーティしよ!」
風説の流布の如き熱弁は小学四年生の退屈の前に容赦なく斬って捨てられた。
「……まあ致し方ありませんか。確かにうら若き少女には些か難解に過ぎたのも事実。ですが、これならいかがですかな――?」
「
禅のエブリパ仮面が合図を出すと、信徒の一人が一枚の古めかしい紙を手に現れ、恭しく奇声を上げ禅のエブリパ仮面へと手渡した。
「これこそが我が『L○N Video アー党』が誇るご本尊。かつては『こんなク○操作で絵が描けるか!』などと哀れな言葉を吐いた者達を残らず回心へと導いた作品――」
禅のエブリパ仮面がエブリ子とつよくんの前でその紙を開く。
そこにはいくつかの色の線を組み合わせて描かれた不格好な輪郭が写っていた。
「……なんだこれ?」
「ラ○ちゃんです」
「○ムちゃん!?」
「だっちゃ」
禅のエブリパ仮面のあまりにも予想外な言葉に、つよくんが衝撃を受けたようにのけぞる。
「た、確かにそう言われてしまえば、この線と形は長い青髪と黄色い角に見える……! L○N Video Artでこれはかなりうま……い……イ……イー……」
言葉が途中で途切れ、不自然に静止するつよくん。そして少しの時間をおいて、急に身体を何度も床に打ち付けだした。
「うわあああああああ!!」
「つよくん!? どうしたのつよくん!!」
慌ててエブリ子がつよくんを抱きしめると、その身体からは極度の震えが伝わって来た。
「えりちゃん! 今すぐそれから目を離すんだ! わけが分からないけどその絵には禅のエブリパーティ仮面の闇の神力が凝縮して込められている! それを絵として認めてしまったら、きみでも彼に意識を乗っ取られてしまうぞ!!」
「ええっ!?」
よく分からないけどなにやら大変な事が起こっていることだけは理解し、驚きの声を上げるエブリ子。その二人の会話を聞いた禅のエブリパ仮面が不敵に笑う。
「くっくっく、やはりただの謎生物ではないようですな。我がご本尊を一度はラ○ちゃんと認めながら、すんでの所で回心を思いとどまるとは……ですが、肝心のエブリパ少女の方はどうですかな?」
「えりちゃん! 大丈夫、きみくらいの年ならラ○ちゃんなんて知らないだろう!? そんなよく分かんないもの、否定してしまえばいいんだ!」
どあちゃんが洗脳されずに済んだのもおそらくはそれ。元ネタを知らなかったことで効果が薄れたからだと察したつよくんが必死に呼びかける。
しかしその助言も虚しく、少女もまた驚きの声を上げる。
「たしかにラ○ちゃんっぽい!」
「なんで知ってるの!?」
「おとーさんが好きなの!」
「親が世代!?」
予想外の方向からのいらない知識につよくんが悲鳴のような声を上げる。
「くーっくっくっく! どうやら勝負あったようですな! さあ魔法エブリパ少女よ! 友人の胸部厚き少女と共にL○N Video Art浄土を目指しましょうぞ!」
「諦めちゃ駄目だえりちゃん! きみまで頭に紙袋を被っていーとかうーとか言うだけの存在にされてしまったら、誰がどあちゃんを助けるんだ!」
少女を正気に戻さんとじたばたと暴れるつよくんをもう一度抱きしめ、しっかりと答えを返す。
「平気だよ、つよくん」
その力強い回答に、少女の回心を確信していた禅のエブリパーティ仮面が驚愕の声を漏らす。
「馬鹿な……貴女はこの御本尊をラ○ちゃんと認めてなお回心しないというのですか!?」
「え? だって……」
問い詰められたエブリ子が、ごく当たり前の事を言うように回答する。
「わたしなら、もっとじょーずな絵が描けるもん!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます