第一話 ~魔法エブリパ少女始めました~4/4
「……おわっちゃったよ?」
「終わっちゃったね」
「どうなるの?」
「勝率パーセントで勝ってるからえりちゃんの勝ちだよ」
「やったー!」
宇宙で最も公正なゲームであるエブリパーティは二位以下の順位をあがりまでのマス数だけでなく、手持ちのルーレットやメダル量などの多岐に渡る条件を組み合わせて算出される勝率パーセントによって決められる。今回の場合はどりーむによるあがりが約束されたエブリ子の勝率が福のエブリパ仮面を大きく上回っていた。
「負けた……おいらが……? 誰よりもエブリパーティにeスポーツしてきたこのおいらが……!?」
己の信念を懸けた勝負に敗北し、呆然と呟く福のエブリパ仮面。その手のひらからXbox360ワイヤレスコントローラーが滑り落ち、堅い音を立てて地面を跳ねた。
「福のエブリパーティ仮面の闇の神力が弱まっていく――今だ、えりちゃん!」
「うん!」
「輝いて、マイ・メモリーユニット!」
Xbox360互換コントローラー形態だった杖の形を戻し、ポニーテールの結び目を支えるXbox360専用メモリーユニット(64MB)を杖の石突きにセットする魔法エブリパ少女。
装着と同時に翡翠の明りを点したメモリーユニットの光が杖の内部を伝って先端の宝玉へと注がれ、増幅するように強い輝きを放ち始める。
少女のほどけて広がった長くつややかなライトグリーンの髪が杖の先端から巻き起こる力の渦に踊り、CMの最後にXbox360ロゴが表示される時のように輪を描いた。
やがて全ての神力が宝玉へと注ぎ込まれた時、杖の先端が形を変え、砲を思わせる形態へと変化する。
「うんしょっ!」
Xbox360互換コントローラー形態と並ぶ杖に秘められたもう一つの姿――神力昇華形態へと形を変えたそれをしっかりと握り、エブリ子が二つのトリガーに指を掛ける。
左手のトリガーを引いて力を溜め、右手のトリガーを構える。それは多くのXbox360ユーザーにとって、箸を持つよりも馴染み深い動作だった。
そして宝玉の光が最大に達した瞬間、魔法エブリパ少女の右指が引き絞られる。
「――ももこびーーーーーーーーーむっっっっっっ!!」
砲の先端から撃ち出されるらせんを描く巨大な
「ぐぁぁぁぁぁでやんすぅぅぅぅぅ!!」
身体を倍するほどの大きさの閃光を両手で押し留めようとする福のエブリパ仮面。しかし勢いは止まず、やがてその身体が徐々に光のなかへとほどけていく。
「~~~~っ! 嫌でやんすっ! こんな場所で終わりたくないでやんすっ! ここで終わったら、おいらの……おいらのエブリパーティに懸けた人生はなんだったんでやんすか!?」
悲鳴のように福のエブリパ仮面が己の心の叫びをさらけ出す。その言葉を聞いたエブリ子が、何かを思うように口を開いた。
「おじさん、いっぱいボタン押したんだよね」
「そうでやんす! おいらは勝つために! ただ勝つために、Aボタンを!」
「……楽しく、なかったの?」
それはきっと、素朴な疑問だった。
少女の問いには深い意味も理由の色もなく、だからこそその言葉が、最後の瞬間になって福のエブリパ仮面に届いたのだろう。
「……ああ、そうでやんす……」
目押しを破られてからずっと苦しみの気配を纏っていた福のエブリパ仮面の言葉に、安らぎの色が混じる。
「おいらにも……おいらにもただルーレットを止める喜びが、確かに――」
そして福のエブリパーティ仮面は光のなかへ消え去った。
後に残ったのは、プロフ部分だけが空白の【○2歳。 トキメキプロフ手帳】だけ――。
閃光が消えると共に杖に装着されていたXbox360専用メモリーユニット(64MB)が排出され、再びエブリ子の身体を緑の光が包む。
僅かな時間と共に光が消えると、エブリ子の姿は魔法エブリパ少女となる前の【こずえ】とおそろいの格好に戻り、杖もまた再構成され元のXbox360ワイヤレスコントローラーの形を取り戻していた。
「やったねえりちゃん……きみはあの最強のエブリパリスト、福のエブリパーティ仮面を倒したんだ!」
感動にも似た震えを声に乗せ、ウサギがエブリ子の起こした奇跡を褒め称える。
しかしウサギの喜びとは裏腹にエブリ子は目をパチパチとさせた後、ウサギを両手で掴みブンブンと振り回した。
「ねえ! いまのまぶしいビームなに!? 変なおじさん、死んじゃったの!?」
「だだだ大丈夫ぶぶぶ。彼はきみの放った神力の奔流でこの世界に居るための力を失って、本来彼がいるべき世界に帰っただけだよ」
「よく分かんないよ!」
「プ○キュアビームで悪い心が良くなっておうちに帰った」
「分かった! 良かった! あんしんした!」
ウサギを振り回すのをやめ、ほっと笑みをこぼすエブリ子。
辺りを見回すと空を覆っていた闇の雲はすでに消え去り、自作福袋にやられ意識を失っていた人々が目を覚ましつつあった。
「これで、みんな大丈夫なんだよね」
「そうだよ。きみがみんなの神力を……ゲームを楽しむ心を救ったんだ」
彼女の勇気がこの街を守った。けれど、まだ終わりではない。
「最初に言ったけど、この世界に来たエブリパーティ仮面は4人いるんだ。残る3人も倒さないと、世界を救う事は出来ない」
「今日みたいなことが、あと3回あるの?」
「うん。……きみには大変な迷惑を掛けることになるけど、どうかそれまで……」
「いいよ!」
言いにくそうに喋るウサギの言葉を遮り、エブリ子が笑う。
「ちょっと怖かったけど、プ○キュアみたいで楽しかったもん!」
「えりちゃん……ありがとう」
「うん、うさぎさんも……あっ」
ふと大切な事を思い出したようにエブリ子が声を上げる。
「そういえば、うさぎさんのお名前は?」
「ああ、そういえばまだ名乗っていなかったね」
一度言葉を切り、やや間を置いてウサギが口を開く。
「改まって名乗ると恥ずかしいんだけど……『4番目につよいやつ』って言うんだ」
「よんばんめにつよいやつ?」
「うん、言いにくいだろうから適当に略してくれていいよ」
「じゃあよんくん!」
「ごめんヨンくんだけはなしで」
「えー? じゃあ……つよくん!」
「つよくん……うん、良い呼び名だ。ありがとう」
ウサギ改めつよくんが噛み締めるように呟き、言葉を続ける。
「それじゃあ、これからもよろしく。えりちゃん」
「うん、いっしょにがんばろね、つよくん!」
エブリ子が差し出した手に、つよくんが短い足で触れて応える。
魔法エブリパ少女の戦いは、こうして幕を開けたのだ――。
場所は変わり、どこかのビルの最上階。
豪奢な調度品と煌びやかな装飾に包まれた広大な空間のなか、カメラの前に立ち弁舌を振るう人影があった。
顔に最も有名な革命家の面を被り、右手に健全すぎるアメコミ原作プラグ&プレイゲーム機のコントローラーを、左手に清らかな表情を浮かべた青髪の美少女フィギュアを抱えた男。その背後の360インチ相当プロジェクションモニターには低解像度で描かれた銀河が映し出され、大量の星々が輝きを放っていた。
「――そこでもう一度始まりを思い返して頂きたいのです。最初の街がどこにあるのか分からない、なるほどいかにも卑劣なるク○ゲー論者達が言い出しそうな口当たりの良い非難です。けれどここまでの話を聞いた皆様ならお分かり頂けるでしょう。『幸せは探しても見つからず、しかし我々のすぐ側にある』。かの有名な童話を持ち出すまでもなく幸福の在処とは道徳において、そして文学において人間の生における普遍的なテーマとして描かれてきました。ならば本作の街が目に見えぬ状態で開始地点の近くにあることの意味も自ずと明らかとなるのではないでしょうか。すなわち本作はビデオゲーム史において最も早く文学的見地に到達しその世界観を遍く人々に正しく垣間見せた、時代を代表する思索的作品であることが――」
その異様な出で立ちからは想像も付かぬほどのイケメンボイスで訥々と語られる言葉は、カメラの先の360万人を超える視聴者に向けられたもの。
もう3時間以上も彼はこうして語り続けていた。まるでそれが自らに課した終生の使命であるとでも言うように。
「――さて時間です。それではみなさんにとってこのゲーム、神ゲーでしょうか。それとも良ゲーでしょうか。判断を願います」
その瞬間、コメント欄が秒間数千の速度で流れ出す。その言葉一つ一つに、あらゆる言語での『神ゲー』を表す単語が含まれていた。
コメントの速度が落ち始めたタイミングを見計らい男が両手を広げ、厳かな気配を漂わせながら口を開く。
「民主的評決に基づき、『ほしをみ○ひと』、此処に神ゲーと認定されました」
人々の願いを代弁するかのように言葉を紡ぐその姿は、神託を告げる巫師にも似ていた。
「真なる楽園への道がまた一つ築かれたのです」
再びコメント欄が滝の如き速度で流れだす。
配信開始から僅か半年の内に瞬間同時視聴者数641万人を数え、世界で最も影響力のある5人のエブリパリストにも選ばれた偉大なるY○utuber。ゲームカタログを神ゲーWikiに変えた英雄。数々の偉業で知られるその仮面の男の正体を知る者は居ない。
けれど、もしこの場につよくんが居たならばその男の事をこう呼んだだろう――『赤のエブリパーティ仮面』と。
「――くっくっく、相変わらず貴方のその低評価ゲームに懸ける情熱。拙僧頭が下がる思いですよ」
赤のエブリパ仮面が配信終了すると同時、その空間に突如新たなる人物が現れた。
頭にマク○ナルドの紙袋を被り、座禅の姿勢で宙を浮遊するおっさん。
もしこの場につよくんが居たならばヨ○テレポートと共に現れたそのおっさんの事をこう呼んだだろう――『禅のエブリパーティ仮面』と。
「この世に低評価なゲームなんて存在しませんよ。創る者、創られし物、遊ぶ人。その全てが尊く比類なき面白さを秘めている事をまだ知らぬ者が居るだけのことです」
「これは失敬。拙僧など信ずる
「ただ一つの事柄を極めるというのもまた尊き行いでしょう。その点では『兄のエブリパーティ仮面』も惜しい方でした」
「彼は己の研鑽だけを求めた修羅。拙僧達のようなあるべき理想の布教を目指す者とは相容れぬ男でしたからな」
かつて戦い、そして散った男の名を口にする二人。だが彼らは別に思い出話に花を咲かせるような関係ではない。むしろいずれは互いの思想を懸けて雌雄を決さねばならぬ間柄だった。
「それでなんの御用でしょうか。今のところ我々は相互不干渉という約束でしたが」
「くく、それがなかなか面白い事が起きていましてな。世情に疎いそなたのため拙僧がわざわざ足を運んで差し上げたのですよ」
そう言って禅のエブリパ仮面が指を鳴らすと、低解像度の銀河を映し出していたモニターがエブリ子と福のエブリパ仮面の戦いの様子を映した映像に切り替わった。
「福のエブリパーティ仮面がエブリパ少女を名乗る者に破れ、送還されたのです」
画面のなかでエブリ子がももこびーむを放ち、福のエブリパ仮面が昇華される様が流れる。
「これは……一体何者なのですか、この少女は」
「もう調べは付いておりますぞ。名前は里見エブリ子。生い立ちに関しては、まさしく『いたって普通の小学四年生』と呼ぶに相応しいものでした」
いつの間にか禅のエブリパ仮面の手元にある数十枚に及ぶコピー用紙。その中身はエブリ子自身も知らないあんな事やこんな事まで書かれた彼女にまつわる詳細な資料だった。
「ですが福のエブリパーティ仮面は純粋な技術においては我々のなかでも最強のエブリパリストでした。その彼に打ち勝ったとなれば……」
「ええ、ええ、どうやら側に居るマスコットの如き者が少女の恐るべき神力の礎となっている様子。まさに王道たる魔法少女というわけですな……くっくっく……」
モニタの映像が巻き戻され、つよくんの姿を映した場面で一時停止する。
「ふむ……何らかの抑止力のような存在か、あるいは『彼』との繋がりが……」
モニタをじっと睨み、あり得る可能性を黙考する赤のエブリパ仮面。そこに禅のエブリパ仮面が口を挟む。
「しかしCPUに【あがられる】小娘ごときに敗れるとは福のエブリパーティ仮面の戦術もたかがしれておりましたな。所詮はただ強いだけの信念浅き男。完全目押しなどという『ただのテクニック』に堕ちたもの一つで【あがれる】ほどエブリパーティは甘くなかったということですかな」
嘲笑の色の混じった禅のエブリパ仮面の言葉に赤のエブリパ仮面が反応する。
「それはどうでしょうか」
「と、言うと?」
「【どりーむ】の勝率は6分の5。そして残り6分の1はスタートに戻るという最悪の出目。この状況においてはCPUが勝利することこそ『もっとも勝ちに繋がる可能性』だった……そうとも言えるのでは?」
その言葉に紙袋の奥で禅のエブリパ仮面の眼光が鋭く光った。
「ほほう……CPUが勝利した事こそ、まさに件のエブリパ少女の神力の証明であると?」
「そこまでは言いませんが……」
禅のエブリパ仮面の言葉を曖昧に否定しながらプロジェクターの電源を落とし、赤のエブリパ仮面が部屋の窓を開け放つ。
「わたしはただ、その少女が『
『ゲームリ○ブリック第三新本社ビル』。得分利区を、そして世界を代表する641階建ての超々々高層建築の頂点から眼下を見下ろす男。
その瞳には、遙か雲の下に居るはずの純粋なる神力を持つ少女の姿がはっきりと映っていた。
つづく
次回予告:
「
「さあ休む時間はありませんよ。まだ261文字も残っているのですから……!」
「ええっ! つよくん『ドラッ○ーのくさやきう』知らないの!?」
「ラ○ちゃんです」
「気を引き締めてえりちゃん! 禅のエブリパーティ仮面はあんな見た目だけどエブリ涅槃に到るために『L○N Video Art』で般若心経を全文写経したほどの修羅のエブリパリストだ!」
「1マッチ2CPU&ゴールファースト、【スーパーへGO】レディー!」
次回第二話、『L○N Video アー党の決斗!』。
いつも心に
参考文献:
福袋だよ! カワチ家全員集合!!配信アーカイブ 6/6
https://youtu.be/oLBl_8wRZD8?t=10m44s
第253回 福袋開封配信(但し中身は自分でつめる1
http://www.nicovideo.jp/watch/sm28726437
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます