8話 『童子切家の情報屋』
去っていく二人を視線で追いかけていると、いつの間にか僕の横に遠い目をした桜が立っていた。
やっぱり会社に用事あるっていうのは嘘だったか。 僕達を覗き見ていたのだろう。
「さっきの男の人──」
「やばいだろ」
「やばいね」
桜と歩きながら近場の飲食店に入り、一息つき今日会った出来事を話してみた。
彼女がどんな風に感じたのか、それが知りたかった。
桜は僕と視点が違う為に、僕の思いもよらない切り口で話を解釈して咀嚼し、理解するのでこういう時間が楽しかったりする。
「なるほどね。あの茶髪の女の子は義理の妹だった、と。彼女に対する印象に関しては、凛とほぼ一緒。あの怯え方は普通じゃない。普段からあの男に乱暴に扱われてるんだと思う」
「やっぱりそうだよな……」
「それはそれとして、二つ大事な事を忘れてるよ。謎の路地裏の殺人。それから『数珠丸』。彼女とは会ったんだよね? しかもアクナシアの時の影武者の」
「うん、それがどうした?」
「その人、名前を言ってたんだよね?」
「ああ、数珠丸叫(じゃずまる さけび)だったかな」
あいつは厄介だ。今後どう動くのか分からない。完全に手を引くとは言っていたが、『私個人』は手を引く、依頼で同乗していたといっていた。
と言う事は依頼主がいると言う事だ。
桜が何やらスマホを弄りだし、耳にあてがった。
「ちょっと聞いてみる。路地裏の事件のヒントになれるかもしれない。少しの間話さないでいて」
何に聞くんだよ。誰に聞くんだよ。
「あ、もしもし。うん、聞きたい事あるんだけど……数珠丸叫って知ってる? え、いくら?……もう少し何とかならない? んー……情報ランクは?」
うっわ気になるわー、何だよ情報ランクって。僕、桜の事まだ全然知れてないじゃん。
彼女が飲み物をストローで掻き混ぜながら通話するのをただ見つめる僕。
「それなら、まあ……分かった。それで良いよ。…………うん。…………そんで?…………いやその情報は要らない。分かったーはいーまたねー」
ふぅ、と一呼吸置いてから桜が飲み物を口にした。
「数珠丸叫の情報を手に入れました。褒めて」
頭をこちらに寄越すので、撫でてやった。こういう所、可愛いよなー。
「誰と電話してたんだ?」
無粋な詮索だが、させてくれ。
「ほら、こないだ話した『童子切家』の情報屋」
「あー何かそういえば知り合いがいるって言ってたな」
桜が僕の耳に顔を寄せてくる。そして小声で話しかけてきた。
「──数珠丸叫。性別女、年齢十九歳、血液型AB、身長百六十センチ、体重47キロ。スリーサイズ……はいいとして、『数珠丸家』の序列は九位。固有能力までは流石に分かんないって。脅威度はCランク。路地裏の事件は残念ながら知らないってさ」
「いや、十分だ。奴の序列が分かったのは大きい」
【天花五家】『数珠丸』序列第九位か。
今の僕でも何とかギリギリ勝てるレベルかもしれない。
『大典太』の序列三位相手には奇策で、序列一位には相性で勝ってるからな……正直今の自分がどの程度戦えるのかが分からない。
「って、脅威度って何?」
「ガクッ」
コントの様に桜がズッコケた。
「どうしたの桜」
「キミ……本当に【天花五家】? 脅威度を知らないとか、ヤバイよ」
「え、ヤバイの? 僕馬鹿拗らせてる? 何か恥ずかしい」
よく分からないけど、常識だったらしい。
「脅威度ってのは言葉の通りだよ。その個人がどの程度の脅威を持っているのかっていう意味。これ知らないと、敵と対峙した時に逃げるか戦うか、その選択を間違えて大変な事になるよ。そういう意味の、ヤバイね。序列以外にもそういうランク付けをする風潮が裏世界にはあるの」
因みにと彼女は続ける。
「キミの家でこの間会った鞘歌さん。彼女は最高ランクの脅威度S」
「マジかよ……僕家族にゴジラでも居るのかよ」
「凛の元のランクはB−だったけど……今はA+くらいは行ってるんじゃないかな。『大典太』の一位と三位を潰したって情報、結構あちこちに広がってるから」
数珠丸は僕の脅威度を知っていたのだろう。だから僕と徹底的に敵対関係に成りたがらないんだ。
「それってだれが決定付けてんだよ」
「さあ? 【五大財閥】の人達とかじゃない? あの人達は自分のリスク管理に関しては本当に徹底してるからね。今度また『情報屋』に聞いてみるよ。それとも一度会ってみる? 彼、序列なしのほぼ一般人だから問題ないと思うよ。『情報屋』やってるくらいだし、本家に愛着も無いんじゃないかな」
「んー考えておくよ。……あ!」
「どしたの?」
「刀、車の中に忘れてきた事に今気づいた。まさか盗まれるなんて事はないが一応、取りに帰りたい」
「んじゃ、今日はこの辺りにしておこうよ。路地裏の殺人と数珠丸の関係性だけど、少し引っかかる。凛たちを追ってた理由も正直現段階では分からないし。少し考えてみるから何か分かったらすぐ連絡するね」
M1にも桜にも分からない、とすれば《咒い》絡みである可能性が高いな。
喫茶店を出てEOSへ戻り、無事刀を手にした僕は、竹刀袋にそれをしまい、足早に桜の元へ戻った。
「悪いが車は廃車同然だ。帰りはタクシーでいいか?」
「いいよ。でかどんだけ派手なレースしたの……」
「具体的に言うと、ドアがない」
「この人は全く、もう……」
心配半分、呆れ半分、という表情だった。
その後適当にタクシーを捕まえ、二人で乗り込み桜の家の前で彼女を下ろし、三日月家まで走り出した。
タクシーを降りて正門扉を開けようとした瞬間、上から声がした。
「お帰り、坊や。今日も派手にやらかしてくれたそうじゃないか」
門の上に女が座っていた。
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