0話 終わりの灯火へ
学校というのはつくづく奇妙な場所だと思う。同じ服装、同じ机を行儀よく同じ方向に向けて一人の人間の話を聞く。
もし今の教育システムを全く知らない人間がこの光景を見たら、きっと奇怪に思うに違いない。これは、あれだ。誇大解釈すれば普通の人間から見た怪しい新興宗教みたいなもんだ。
そんな事を考えながら視線を下に落としてみる。丈の長い紺色のスカートが目に入った。可愛いという感覚が自分には良く分からんが、この学園の生徒以外が手に入れるのは相当困難なものらしい。その手のブツを扱うアングラサイトなんかでも滅多に出回らないらしい。
それもそのはず、この学園は日本中から金持ちの子供を集めて教育をしているイかれた学校なのだ。
イかれているのは思想だけじゃない。校舎もまるで洋画に出てくるさも、金持ちが好きそうな豪奢な洋館だ。食堂の飯も美味い。
イかれてるイかれてないは兎も角として、これだけ恵まれている環境に身を置いてるのに、アイツは何が気に入らないんだか。金を貰っている身なのでその辺は立ち入らないが。
教師の言葉も程々に黒板に書かれた文字列をノートへ書いておく。内容はさっぱりだが、これも仕事だ。
そうしている内に終業の鐘が鳴り、教師がテスト範囲がどうのこうのと御高説を賜って退室した。
「はぁ……」
溜息しか出ない。
一人の少女が自分の前に立っていることに気が付いた。
「一緒に帰らない?」
満面の笑顔。
断る理由もないし、断れる立場にないので仕方なしにそれに応じる事にする。
「いいですよ」
「もう!同い年に敬語なんて使う必要ないじゃない!」
確かにその通りだ。
厳密に言えば違うのだが。
「あーうん、じゃあ、いいよ」
「やった!私達、もう友達って事でいいよね?」
「そうなるね」
後でアイツにキチッと報告しなければいけない。勝手に友達を作るな、と言われること必至だ。
「私、行きたい所あるんだけど、良い?」
少女は本当に楽しそうに話す。
目を閉じて、数秒考える。
そして結論を出した。
「私でよければ」
初対面はこんな感じだったと思う。
それからは放課後よく一緒に買い物に出掛けた。人生初めてのカラオケ、プリクラ、ボウリング。
この時、彼女に起きている事態に気づいてあげられたなら、こんな事にはならなかっただろう。
俺はこんな事をする事もなかった。
──彼女が、『神崎梨乃』が自殺してしまう、なんて事が起きなければ。
これは俺が主役の物語。
これはあいつが主役の物語。
さあ、舞台の幕を開けよう。
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