第20話 世の中には言わなくて良い事がいっぱいある。
この男、遺跡を発見し、研究を続けているという、ブリング・ベディヴという名の何処かの教授らしい。 偶然発見したこの遺跡を自分の手で調べる使命があると思い込んでいる。
「それであのベディヴさん。 遺跡の探索をしていたのなら、それなりに道は知っていますよね? この先どの位続いてい居るんでしょうか?」
「君ぃ、私の事は教授と呼びたまえ! それに私はこの先の事はさっぱり知らん。 あのでか物を回避して此処まで来れたのは、もう奇跡と言っても良いだろう。 この先は人が踏み込んでいない未知の領域であるぞ。」
「おい教授さん、案内も出来ねぇのなら、アンタ此処でで待ってろよ。 俺等が魔物を退治してからゆっくり調べりゃ良いじゃねぇか。 こっちには色々足手纏いが多いんだからよぉ。」
確かにそうだ、エルは疲れて力を使い果たし、ノアさんは戦力外、それにもう一人増えたとなると、護るのも大変になる。 そして俺はそれを護らないといけないので結構忙しいのだ。
「そんな事が出来るものか! この遺跡の謎を解き明かすのは、全て私が初めだと決まっておるのだ! 例え護衛であろうとも、私より先に行く事は許さん!」
凄く面倒臭い人だなぁ。 ちょっと先に入ったぐらいで如何なる訳でもないだろうに。 逆に罠に掛かって命を落としたらどうするんだろう。 そんな事になって、俺達の所為にされても困るんだけど。
「行くぞ者共、私に付いて来るが良い!」
「おいちょっと、勝手に行くな、おいコラ!」
止めるのも聞かず、勝手に進みだす教授に、それににしょうがなくついて行く俺達。 次の部屋の前に到着すると、教授がその扉をバンと開いた。 その途端に、教授へと小さな虫の魔物が数匹襲い掛かった。
「うおおおおおおおおおお、この魔物達は何だ! この私に襲い掛かって来たぞおおおおおおお! このスペシャルスーツが何故!・・・・・な、無いじゃないか!」
「ああ、今頃気付いたのか? まあさっき脱がしたしなぁ。 おいフレーレ、助けてやれ。」
「分かったわー。」
魔物はフレーレにより即座に殲滅された。 あれだけ襲われたというのに、教授は怯む事なく部屋の中を調べている。 壁から床、天井にまで一通り自分の手で触って、その感触を確かめている。 とても丁重に、ゆっくりと。
・・・・・な、長い。 もうそろそろ十分ぐらい経つ。 終わるのを待ち続けている俺達だが、こんな事を待っていては一ヶ月あっても時間が足りない。 俺は小さい声で隊長に相談し始めた。
(隊長隊長、こんなの待ってたら負け確定でしょう。 まあ俺としては負けるのはどうでも良いんですが、何日も閉じこもる食料なんてありませんよ? 今の内に別の部屋を見ときましょうよ。)
(だな。 じゃあお前とフレーレは先行して敵を倒しとけ。 この教授が向かう前に殲滅しとくんだぞ。)
(ええ?! 俺が行くんですか? めんどくさいから俺が三人を護ってますよ。 だから隊長行って来てください。 のんびり待ってますから。)
(お前もちったぁ働けよ! それにお前じゃ多数を相手に三人を護れないだろうが。 まあ諦めて行って来いや。)
物凄く可能性は低いけど、あの教授が万が一隠し通路でも見つけて、魔物でも出てきたら、そんな事もあるのかもしれないな。 でもあの教授に見つかったら怒り出すだろう、そちらの都合ばかりを優先させる訳にもいかないし、どうせ隊長に反論しても無駄だ。 それで納得しておこう。
(う~ん仕方ない、じゃあ行って来ます。)
ノアさんはその話を聞いていたというのに、俺達の方には付いては来なかった。 もしかしたら隊長を見張れと言われていたのかもしれない。
そして俺はフレーレと一緒に先の部屋を探索し始めた。 一つ二つと小さな部屋を片付け、六つ目の部屋。 その部屋は今までの部屋とは様子が違っている。 大きな扉は開け放たれ、中からは嫌な湿気が立ち昇っていた。
その部屋の奥。 一体の巨大な蛙が後を向いて座り込んでいた。 横幅だけでも五メートルはある化け物サイズだ。 あれが目的の一体だろう。
天井の高さも戦える広さも十分過ぎる程にある。 あの蛙までの距離、約百メートル程か。 相手はまだ此方に気づいてはいないし、これは先制攻撃のチャンス!
「フレーレ、攻撃を頼むよ。」
「ええ、まっかせてー。 よいッッッしょっと! ていッ!」
フレーレが床に転がっている少々大きな石を拾い、それを蛙目掛けて思いっきりぶん投げた。 かなりの速度で飛んで行ったそれは、蛙の背中にガンッと命中した。
それだけで倒せれば良かったのだが、蛙のヌメリで明後日の方向へ弾き飛んで行く。 たぶんダメージはそんなに無いだろう。 そしてその攻撃をくらった蛙が、俺達の方に振り向いた。
蛙なんてピョンピョン跳びはねるだけ、そう思っていた俺が甘かった。 その蛙が超スピードで前方に飛び跳ねたのだ。 一瞬で距離を詰められ、長い舌により俺は蛙に捕食された。
「うをおッ!」
「あー、バールが食べられたー!」
体内に取り込まれた俺だが、まだ死んではいない。 ただ、息が出来なくて不味い状況にある。 しかし慌てる事はない、俺の武器は常に手に握られている状態だ。 このまま突き破って脱出してやろう。
「直ぐに助けだしてあげるわー!」
その行動を起こす前に、俺はとんでもない目に遭わされる事になった。 フレーレが俺を助けようと? 蛙に打撃を与え始めたのだ。 その衝撃は蛙の体内を貫通し、俺の体に直撃している様に思える。
「フゴッ! グフッ! グフォオオオ!」
・・・・・まさかワザとか?! ワザとじゃないだろうな? いや今はそんな事よりも、もう俺の息がヤバイ。 急いで脱出しなければ!
腕を伸ばし蛙の口の端に手を伸ばすと、腕を縮める勢いで一気に口から飛び出した。 だがそれがとても不味かった。 蛙の攻撃だと思ったフレーレは、飛んできた俺の股間に、必殺のパンチをお見舞いしたのだ。 それがどんなものかは男なら分かるだろう。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
悶絶した俺は、もう地面をゴロゴロと転がるしかなかった。
「あ、ごめんねバール、後で謝るから待っててねー。」
フレーレが一人蛙へと立ち向かうのだが、俺はまだ転がり続けている。 まだこの痛みはニ、三分は収まらないだろう。 これはもう後で胸でも揉ませてもらうしかない! そうだ、結構酷い事されたし、交渉次第では行けるかもしれない! 良いって言ったら徹底的に揉んでやるからな!
俺が倒れて居る間に、フレーレが一人蛙と戦っていた。 打撃はあまり効果が無いと判断したフレーレは、攻撃を斬撃へと切り替えた。
「フッ! ハァッ!」
手刀と足撃は蛙の体を切り刻んでいく。 俺が立ち直るまでには、フレーレは相手を倒してしまった。 しかし俺の戦いはこれからだ! 俺にした落とし前を付けて貰わなくてはならない!
「フレーレ、俺が子供を作れなくなったらどうしてくれるんだ! 責任とって俺の子供を産んでくれ! だ、駄目なら胸でも、いや、キスだけでも良いんだ!」
「う~ん、あんまりタイプじゃないんだけどー、ちょっと可哀想だから、まあ良いわよー。」
な、何だと! これは棚ぼたじゃないか! あの体が俺のものに、これは最高じゃないか!
「じゃあバール、早速私を打ち倒してみなさい。 私を倒す事が出来たのなら、何をしたって構わないから! じゃあ、行くわよ!」
フレーレが気に入った相手に投げかける言葉だ。 勝てれば天国、負ければ地獄。 だが勝ち目が有るかと言えば、どうやったって勝てない。 まずスピードが違う。 攻撃力が圧倒的だ。 俺の防御力なんて無いに等しい。 防御が薄いかと言えばそんな事はなく、戦いに関してだけは物凄く頭が良い。 こんな相手に勝ち目なんてないぞ。
完全な戦闘体勢で俺に近づいて来るフレーレ。 俺に手加減なんてしてくれそうに無い。
「いや、そういう事じゃなくて、あくまでもお詫びとして欲しいのであって・・・・・いや、待って! ちょっと待って。 は、話を聞けええええええええええええええ・・・・・。」
「とりゃああああああああああ!」
「いやあああああああああああああああああ!」
そして俺は、蛙の様に打ち負かされた。
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