ポリネシアンわかる?スローで行うせいこ(殴

━━i━━


動けない私の目の前には大きな穴が開き、血色の鎧が倒れていた


外は黒い雨が降り注いでたが、闘技場屋内には進入してこなかった


「ペっ!ぺっぺっ!うー、ぅもごもご」


何か言っていたが、何かを吐き出す感じだったので土でも口に入ったのだろう


そんな間抜けな光景を目の当たりにしても、わたしは警戒と恐怖による衝動で身動きが取れなかった


「ん〜?もごご」


血色の鎧男はわたしに気づき、こちらを見た


品定めするように全身を見回し、鼻で笑う


「フッ、もごごごー」


しかし何を喋っているのか分からない


だが、吹っ飛ばされて闘技場の壁に大穴を開けて来たはずなのに、両の手に持つ機械の頭はなんだろうかと、切断された腕の切り口を布で縛りながら、凝視する


「もごご?もごっ!」


今のは何となくわかった、わたしがそれを見てから血色の鎧男は「これか?ほれっ」と放り投げたのだから



転がる丸は、複数の頭



機械の頭だった



「う、うそ…いつったの!?」


吹き飛ばされながらるにしても数か合わない


その後に起きた砂埃でも外からの雨風でスグ晴れたのだから────


「……いや、砂ホコリ舞う間に…?」


それを聞いた血色の鎧男は、親指を立てて頷いた



一瞬にも近い砂ホコリの舞は、血色の鎧男が機械の頭部をもぎるには、十分な時間だったというわけだ


「────…早すぎる」


そして、思う、恐怖による勝敗の未来を


──勝てない


かの血色の鎧男が何者かは知らないが、わたしとの力量の差はこの数秒で激しく劣っていたことが分かった



次に思考を埋めたのが、会話による平和的解決


だが、モゴモゴと、喋ることが不可能な相手にそこまで言葉を交わせる自信がなかった



ふと、今のお父さん《破壊英雄》の言葉を思い出す


『殴り合えば、会話がなくても思いは伝わるもんよ』




……ズレているかもしれないが、理性よりも本能を焦燥が上回り


気づいた時には


全身から


前進していた


「……、もごごー」


やれやれといったジェスチャー混じりに、ため息をした血色の鎧男は、地面ギリギリまで伏し、飛び出そうとした私の背中を踏みつけた


本能丸出しの本気の接近を、血色の鎧男は即座に近づき、踏みつけたのだ



見抜いていた、見抜かれていた


だが私は上体と、片腕を上げて血色の鎧男の具足を、掴むと同時に潰すことに成功した


わたしは握りつぶすことに成功した驚きと、わたしの力でも通用することがわかった喜びで、次の一手に出た


血色の鎧男は、潰されたことによる戸惑いで踏みつけていた足を浮かせてしまい、私の行動を許した


伏せた状態の全身を、跳ねるように起こし、地に足をつけ、欠損していない片腕を、矢から射出する弓のように引く


”鬼族業術・深心淵終おわり




狙うは心臓、それで終わるとは思わないが致死の一撃であることは変わらない



ズドンという音と共に、わたしの拳は血色の鎧男の胸板を凹ます


拳跡が残る胸板の鎧を他所に


次に繰り出すは技とは関係ない顔面への右回し蹴り、そして左足による喉仏圧迫をする蹴りを、2連撃、連続で繰り出した


最後の蹴りの反動で一気に距離を取り、相手の様子を伺う



まだ────倒れない


この程度かと言わんばかりに鎧男は、首をゴキリゴキリと回し、私を見すえていた


深心淵終おわりとはいえ、技の威力は対鬼用への攻撃だ


こんなキチガイじみた存在に通用するとは、最初ハナから思っていなかった


血色の鎧男は1歩、踏み出した



────眼前


えっ?


気づいた時には時遅く、わたしは乱暴に頭を掴まれて────


おでこ横に血鎧の兜ごと、頭突きを食らわされた


「いぎっ──!!」


おでこに当たった兜は砕け散るが、地面には落ちずにわたしの眉間へと集中していった


同時に脳へとナニカが流れ込んでくる


「あ、あが、がぁ!!」


その正体が分からないまま、脳内へと流れてくるのは色々なイメージ


人類の誕生から進化、幸せな誰かの顔、歪み、睨み合う人類、小言から発展した戦争、兵器の量産



誕生が──笑顔が──人類が──


繰り返し、流れてくるものを拒めないまま、兜の取れた赤髪の男は口開く


は、誕生や戦争、善と悪を拒まない。光あるから闇もある。中立、バランスよくバランサーとして存在し続けている。この世界を維持するためだけに派遣されたとも言える」


何を────言っているのか?


「たが派遣されたあの黒獅アホは何を思ってか、この世界に入り浸ってやがる。この程度の世界なら数年で終わるはずなのに────長すぎる」


流れてくるイメージ、遂には空高くまで上り詰める


「だから俺は様子見がてら来たってのに、現状どうだ?腐ってやがるあのアホは…普通、自分の武器は手放さねぇよ」


イメージは次第に黒を基調とし、白、青、赤と輝き、そして星たちは次第に消えていく


「話逸れたな、まぁ今回敵さんの罠にもハマってクソザコナメクジになった黒獅ワンチャンだが、記憶はあるみてぇだから1度の対立に済ませたわけだ」


そして、黒だけがイメージを占める


「話は変わるが────世界のバランス、それを維持するためには未来を担う存在が必要だ」


イメージが流れ終わったのか、視界が闘技場に戻る


「…っ!ハーッ!…ハーッ!」


「それがお前だ、だから殺さねぇし奪わねぇし侵さねぇし冒さねぇし犯さねぇし潰さねぇし生かす」


「はー…な、なに?」


「頑張ってやれよ?てめぇは世界の鍵だ」


かんなぎ────その言葉を聞いて胸が弾けた


母や父の教え通りなら、その言葉かんなぎの意味も十分理解出来る


私は────死ねない


だけど、邪魔してるモノがある────


「そうだ、てめぇの中にゃもうひとつ邪魔な要素がある」


見抜かれていた


「しっ…ていた、の?」


「薄々は、な…だから邪魔な要素を隔離させた」


赤毛の男は私を手放し、地面へと落とす


「頭、触れてみ?」


へたり込む私は眉間の上側を、片手で触る、丁度そこにあったのは───禍々しく捻れた、角


「え、えぇ?!」


鏡を見て見ないと色は分からないが、時折激しく脈打つ1本角は、自我を持っているようで────


「その角に邪魔な要素を入れた、てめぇにわかりやすく言うとしたら”もう1匹の鬼さん”、か」


「私の中の…鬼」


「今回、てめぇを確保するにあたって具体的な内容は、ひとつもなかった。故に、中に潜む鬼が不確定要素でな…てめぇ自身の意思にもよるが抑制できなかった場合を考えての、処置だ」


処置と言われ、角は激しく揺れるところを感じると気に入らないらしかった


「こんな事ァ俺の領分じゃねぇんだが…これもの言う運命か、皮肉なもんだ」


「ぁ、あの!……ありがとうございます…えと…」


「────名前は、昔捨てた。今貰ってる名は”血鬼けっき”だ。全て終わりゃ、俺と同じ仕事場に就けるだろうよ」


言い残して、赤毛の男は黒獅お父さんの元へ歩いていった


疼いていた亡くした腕の方は、いつの間にか赤い固まりが薄い膜で覆われ、痛みが無くなっていた


不思議な感覚のまま私は、その去る姿を見つめていると、なぜだか…後ろについて行く姿を幻視した


「は、はい!」


その出会い以降、私は会うことが無かったのは、未来の話



━━━━黒━━━━


場所を変えて、ここは黒雨が泥となり、大の大人が化け物と殴りあっていたはずの場所


片方の狼頭はボロボロで、服には穴が空いている

片方の黒の巨躯は片膝を立てる寸前で、凹んだ腕や体を抑えている



「なぁキング、死ねとまでは言わねぇが魔人化を解除しろよ…そうすりゃこの世界のエネルギーも元に戻る」


「戯け破壊英雄!貴様の外見は服に穴が空く程度だが、内蔵はボロボロのはずだ!」


そう、黒獅は外傷はなけれど、キングが飲んだ瓶に入った液体の回復効果で、完全回復での魔力付与による暴力を貰っていたのだ


既にズタボロの内蔵は、生命維持するためにしか機能していない


だが、それでも黒獅は、黒雨降る中、笑う


「アッハッハッハッハッ!!俺はなぁ!ギリギリを楽しむ人間でさぁ…楽しめりゃそれでいいんだよ!」


黒獅ギリギリジャンキーは大笑いしながらも、立ち尽くしていた


相反して、黒い化け物は膝を着く直前の状態だ

足の裏からの拘束が解けないのでアキレス腱を伸ばす羽目になっている


互いの外観に差はあるものの、満身創痍の2人は互いを睨み合う


「…破壊英雄、足裏の拘束を解くのだ!このままでは互いに────死ぬぞ!」


「悪い、解き方知らない」


『えええ!?』


黒獅の体内に潜むクロがうるさく叫ぶ


狼の被り物をしているが、嘘ではなく本音だということにクロは驚愕する


『なんで知らないんですか!?このままいけば──』


対象の魔力を削ぎ落とす黒雨

魔力を削ぎ落とした存在が次に削ぎ落とすのはなのだ


「魔力が尽きりゃ、次は命、楽しみだよなぁ!!」


「な、なんだと…貴様ァ!」


「てめぇが絶望する面を拝めんのがよ!」


「破壊英雄ゥ!!」


黒の巨躯は膝を曲げた状態の姿勢から、腕を目一杯に振り上げ、黒獅の鳩尾に拳を直撃させる


拳に力を込めるだけでも命は削られるが、その代償を払ってでも怒りをぶつけたかった


黒獅は鳩尾に入った拳をモロに受けると、体を少し浮かせるが足裏は地面から離れない


つまり、上へ上へと行く暴力のダメージは鳩尾だけでなく脚全体にまで響くということだ


「おぇぇ…っ!」


胃袋からとてつもなく襲う吐瀉物は、狼頭の口元から流れる


無理もない、飲み続けた金龍ティアの液体は1口飲むだけで嗚咽感しかないのだから、それが原因でを吐き出すことになっても仕方ないのだ


そう、《全て》を、だ



「────!!何をしている破壊英雄!!」


「は?何って…もったいねぇだろ?ジュルル」


地にまき散らされた吐瀉物を泥と共に手のひらですくい、飲んでいたのだ


「うーん、土と混ざってゲロさ増し増し!」


「────な、何がお前をそこまで駆り立てるのだ…!」


「人間よぉ、泥水啜ってでも成し遂げなきゃ行けねぇ時があんだよ……今がそれだァ!!」


────拘束解除!


心の中で叫び、両者の拘束されていた足裏の拘束を解くと同時に、クロが変化していたコートと、地面に投げ捨てたダブルバレルショットガンの全てを黒い塊にし、手元に戻した


ここまで1秒かかり、驚愕の為動きが止まったキングは黒塊を見、そして手を動きだす


狙うは致命的な魔力の塊を、黒獅に向けるための一撃


黒獅は一丁のハンドガンを

キングは上級魔術の闇魔法を


互いに標的に向け

互いに撃ちだした



だが、両者の弾丸はぶつかり合い、消滅


不発に終わる



「────我の、勝ちだ!」


キングは続けざまにを削り、闇魔術の魔力弾を撃ち出そうとする


「…そうか、じゃあお前の負けだ」


残りカスで残った強化魔法による殴打、そして先程の命を少々削った魔術


そして最後の、文字通り命をかけた魔術

魔術それを連続して打たせるほど黒雨は甘くはない

未だ降り続け、黒獅とキングに打ち付ける黒雨は容赦なく両者の命を削る


結果的に、キングの放った魔術は不発に終わる

体内に内蔵する魔力は尽き

そして、命も削られていく


発動されるはずだった魔術は次第に消滅していく


「ば、馬鹿な…なぜ…っ!!」


答えはもうでている

キングも分かっていた

だが、分かりたくなかった


キングは、爪先、手の甲、二の腕と徐々に黒雨による水滴で溶けていき、下半身が溶け始めると体勢を崩壊させた


黒に染る泥の地面に落ちた上半身は肩や脇、胸部、腹筋、背面と地面に溶けていき、エネルギーを世界へと受け渡していく


頭部は化け物の顔から次第に溶けていき、本来、キングの持つ顔が見えていく

しかし、表情を浮かべようにも黒雨が頬肉を削ぎ溶かし、鼻や唇といった、嗅覚や味覚を奪い取っていく

フサフサだった頭髪も次第に溶けていくが割愛する


「俺にも、………わかんねぇな」


黒獅は手向けの言葉に、そう呟いた



━━━━━━━━━━━━━━━━━


『サブ』のメンバーが何らかの形で死亡・消滅をすると自動的に他のメンバーへ共有される


それはポーンやビショップ、クイーンに限った話ではなく、キングにも影響を及ぼす


以前、黒獅がクイーンと対峙した際、変異したポーンたちの被害人数を確認する時にもそれは用いられた


今回、キングがやられたことは『サブ』のメンバー全員に通達される


組織というのは、1番上が崩壊すると繰り上がりが普通となる


チェスの駒はキングの次にクイーンと来るが、そのクイーンは未だ空席



なので『ルーク』が自然と『キング』の位置に来るが、その力の差は激しく、『ポーン』クラスが毛の生えた虫程度なら、『ルーク』は未だ蛹だ


蝶にすらなってない蛹など足元に及ばない


「だから僕がいるんだけどね?」


『サブ』のメンバー全員が集うここは劇場ホールのような、演劇が始まるような場所で、バルコニーや手前の客席を異形な形をした人型がひしめき合っていた


もはや、そこに人間はおらず、バケモノが席に座らず何かを待ち望むかのように佇んでいた


始まる前からのスタンディングオベーションは一般市民からすれば異状、異常にして恐怖しかないが、舞台に堂々と座る7名は威風堂々としていた


さもそれが当たり前かのように


「『ジョーカー』、何か言ったか?」


「『キング』が死んだ」


ジョーカーはサラッと組織の上に立つ者の死を告げる

観客席は嗚咽と鳴き声と雄叫びが上がる


「『クイーン』の五姉妹は牙も削ぎ落ち、悠々自適に暮らしているようじゃないか」


それを聞いた観客席は怒号を上げていく

裏切りそのものに腹を立てるのは当然のことか


来る者拒まず、去るものは死を選べ


『サブ』の方針を簡単に破った五姉妹の『クイーン』は、怒りに満ち溢れても仕方が無いのか


「『ジョーカー』!もう一度問う………なんと言った?」


発言は『ルーク』クラス100人の内の1人、今最も『クイーン』に近い者だった


否、女か男か分からないその中性的な容貌は天使と呼ばれる種族特有のものだろうか


未だ抜けないソプラノ声はその証拠だ


「うるさいな、所詮『ルーク』止まりが…、君って五姉妹のうちの一番下にすら勝てなかったじゃん」


「それが『クイーン』に上がるための昇進試験だったからだ!!更に!正直に言うとだな『クイーン』というチェスの駒は1つだぞ?!相手から奪っても2つだそうだ!五姉妹ならば席を増やしても問題は無いはずだろう!!」


「いや、多分それは五姉妹の方が収まり良いからじゃないかなァ?」


「今更語尾にカタカナを振るな!!なぁ『ビショップ』の鋼鉄マンよ!お前もなにかいえ!!」


そう呼ばれた”鋼鉄マン”は、身体中を覆う機器の隙間から熱気を排出し、口開く


「拙者の名は”鋼鉄マン”では無い!」


「言って欲しいことが違う!!」


「何だと!?オカマ風情が!!」


「なんだと貴様!仲間だと思っていたが貴様とはもうオリが合わん!!ここで切り伏──!!」


「おー、仲良いネ!喧嘩するなら────」



━━━僕も混ぜてよ━━━


2人が舞台の上で騒ぐ中、『ジョーカー』は割り込んだ


その発言で、2人は固まる

その発言で、観客席は静寂に堕ちる


「あんまし今の状況で、仲間割れはしたくないんだよネェ」


顔を道化の仮面で、体をスーツ姿で覆い隠す『ジョーカー』は、首から垂れる長髪の白髪をいじる


「す、すまない……すいませんでした」

「拙者こそ、申し訳なかっ…御免なさい」


『ジョーカー』の姿形は人の姿を保っているものの、中身から漂う異常性に2人は、敬語を使うほどの恐怖を受けていた


「やめてよ気持ち悪いナァ2人とも、僕は戦闘は不向きなんだカラ。君たちには追いつかナイヨ」


そうは言うが、

───────明らかに

───────その言葉は


「矛盾…」

「嘘しか聞こえぬでござる」


「えぇ…僕はこう見えて中和的存在なんだよ?!戦いを終わらせるために上から通達されてここに来たんだから!」


その言葉は────触れれば爆発するもので


化け物から舞台の人間まで、全員が全員──────驚愕の声を上げた


「「「「!?!?!???」」」」


「あれ、言ってなかったっけ?あ、言ってなかったや。まぁいいや」


驚愕はどよめきとなり、次第に焦燥と怒りが聞こえてくる


────なぜ我らの戦争を終わらせようとするのか

────なぜ中和的存在なのか


『サブ』の、現在の計画通りならば未だ進捗は半分にも満たしてはいない


6カ国程度だが、それでも未だ裏を牛耳ってはいるだけで、表沙汰になっていない


もっと増やさねば機動力・軍事力・技術力は満たされない


「その算段を見つけたとしたらどうする?」


それは悪魔の囁きか────はたまた神のお告げか


「『ジョーカー』、その言葉に偽りがあれば貴様を…」


「何?僕が嘘つくとでも?ロキ神の使徒である僕が嘘を?」


ロキ神────その神に聞き覚えのない、この世界の住人にとっては”神”という言葉に心惹かれた


「ロキ神……その神の名を聞いたことはないが、仮に本当だとして…この状況だ、どうやって駒を進める?」


キング、クイーンと不在のチェスとは、もはや勝敗は決したものだ


だが、ジョーカーというチェスとは無縁のトランプは、口角を上げて嗤う


「別にチェスで例えなくてもいいんだよ、将棋でも、なんだったらひとつの企業として見てもいい。中性の『ルーク』、お前が社長になって僕が株主でもいいんだ。企業にキングは不要だろ?アホでも社長になれるんだから」


その言葉は的を得ていたのか

社長となれば決めるのは方針で魔力、暴力による力は必要ない


「だが捨てると決めるのは株主だろう?貴様の気分次第で、我々の組織が壊滅したら────」


「それはない、ロキ神の名の元に約束する」



威圧、オーラ、眼力


その全てを駆使し、ジョーカーは応える


舞台上のジョーカー以外の6人は身を震わせ、その応えに多少納得した


だが、『メイン』という企業名を破棄し、『サブ』という形で創設以降に来た、素性を明かさなかった奴だ


何を企んでいるのか分からない

何が狙いか分からない


それが「多少納得」という言葉の意味であり、信頼度は無いに等しかった


「……ジリ貧だな、言い争っても仕方ないことだろう?」


機械人間の『ビショップ』はそう呟く


「他に案があるなら、拙者はそれを踏まえて思考はする。この身は戦闘仕様だが、回転する演算は多少はあると自負している。改めて問うが、他に意見は?」


仕切る機械人間を他所に、中性の『ルーク』は言う


「私はない、だが考える頭があるなら鋼鉄マンよ、貴様も考えろ」


「貴公と同じだおかま野郎」


「まだ言うか貴様────!」


「仲良いよね君たち、夫婦漫才なら他所でやってね」


「「誰が夫婦か!」」


一悶着ありつつも、静かになったところで『ジョーカー』はまとめる


「今後の方針、”企業”という形に切りかえていこう。社長は天使のルークちゃん、君がやってくれ」


「……分かった」


『ルーク』は渋々ながらも応えた


「秘書に機械の『ビショップ』君ね、『ルーク』ちゃんを支えてあげて」


「なぜ拙者が──」


「仲良さそうだから。んじゃ次、舞台にいる他の4人は観客席にいる奴らをまとめる係ね、管理職みたいなものかな?分かった?特に”マグロ”……マグロ?」


マグロと呼ばれた、ラフな恰好をした青年は寝ぼけた顔を起こす


「……ん、あぁい、あいあい!起きてます!寝てません!」


「…では、先程僕が言ったこと、何でしたか?」


「やだなぁ道化パイセン、自分の行ったこと忘れたんすか?ボケ防止に友達作って喋ること奨めますよ!」


「繰り返し、聞くよ?僕は、さっき、なんて、言った?」


「”では先程僕が言ったこと”、すかね?」


「……マグロ、後で私と話しまショウ、すぐ済みますから」


「了解っす!」


『ジョーカー』と”マグロ”と呼ばれる青年のやり取り


それはいつものやり取りで、また、化け物に囲まれたこのホールでは異質で、


しかし、それを咎める者は誰一人としていなかった


「デハ、役割が纏まったところデ、これからの方針を決めましょう…まず社長は────」





『サブ』のメンバー全員が集まった劇場施設は、1時間後に証拠隠滅として爆破され、崩壊した




天高く舞う火の粉と黒煙は、異形の化け物たちにとって祝炎と捉えられた

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