平常心で走れってんの僕には関係ないでしょう

━━ i ━━


わたしの生まれた鬼の部族の集落では、“直感“を信じ、確信することを義務付けられていた


鬼の部族では“直感“が冴えていて、己が信じた道は、必ず成功はする、と本当のおとーさんとおかーさんに言われてきていた


だからこの、今のおとーさんから感じる嫌な胸騒ぎは…予感であって、わたしの直感では心配することではないと確信はできていた


“試合開始ィィィイイイ!!まずは■■選手!大きく前に出たぁ!!“


アナウンスの声にビックリして前を見ると、角の生えた黒い雌がフォークみたいな槍を持って突っ込んできた


「『勝ちてぇなぁっ!』」


おとーさんから感じる嫌な予感って、この世界と同じなんだよね……




まぁ大丈夫かなーなんて考えてる間にも、わたしはその場から動かずにフォークの先端を咥え止める


“おおーっと!■■選手の三叉槍が i 選手の口で止められたぁーっ!なんという顎の力でしょう!!“


口に咥えた時に引っ張って力を流しただけだから…そんなに難しい事でもないんだけど


“両者!そのまま動きません!!どうなるんでしょう────おおっと!■■選手、三叉槍を手放したぁーっ!“


相手の雌は武器みたいな槍を手放して、魔法を唱えてた


わたしの周囲の地面から、“土属性“による棘が出てきて、一気に刺してくる


わたしは咥えた武器を手に持ち替え、その場で飛んだ


土のトゲは貫通させてこようとするので、1本1本丁寧に避けると、元いた場所は見事に重なり始め、重なったトゲの上にわたしは着地した


“み、見事な■■選手の攻撃を i 選手は跳躍し!避けましたぁ!“



棘の山に着地したわたしは手に持った武器を投擲する


相手の雌は、三叉槍が投げられたことを目前まで認識せず、反応したと思えば首を捻り躱すくらいしか出来なかった


縦に投げたので、肩を貫通してしまったが、わたしには関係がなかった


雌が怯んでいるところで懐に入り、一撃食らわせて終わらせても良かったが


棘の山という足場が悪い分、迂闊に足に力を込めれば、棘の山が崩れて態勢が悪くなる可能性を直感した


「『派手にイこう!!』」


棘の山の上で、わたしの鬼の一族がよく使っていたを発動する


「『龍脈借・土怒号』!!」


相手の雌の足元から天高く貫き出るは、六角形の土柱


雌は顎を引き態勢を後ろに崩しながらも避けるが、六角柱はそれを逃がさない


六角柱の中心から射出された土の杭が、雌の肩を貫き、留まる


「『元ぁ、悪さした鬼を身内で拘束する為の鬼術だが…当たりどころが悪けりゃ死ぬぜ?頑張って避けなぁ』!!」


六の平面から射出される杭は、肩を貫かれた雌の太ももや腹を抉る


雌は負けじと、わたしに向かって何か魔法を使おうとするが手のひらを杭に貫かれ、そのまま地面に繋がれる


私は躊躇せずに、棘の山の上から見下しながら六角柱を操作し、連続で射出して地面に繋いでいく


“■■選手!行動不能になったぁー!っと、ここでタオルが投げ込まれ、試合終了で────あ、i 選手!?何を────“


投げ込まれたタオルは土の杭でリング外につなぎ止め、穴だらけになった六角柱を操作して宙に浮かせる


六角柱の先端を尖らせるように削りながら、わたしは喋る


「『本当の封印の儀式にゃ、こうやってトドメ刺して悪さしないようにしてんだ。鬼共は耐えてるが…他の異人種はどうだろうなぁ』!」


棘の山の上で、腕を振り下ろすと六角柱の先端が雌を捉えて落ちていく




────瞬間


腹1センチに突き刺さると同時に


六角柱が


煮えた馬鈴薯が箸で割り崩れるように


崩壊した



それと同時に、相手側から二枚目のタオルがはいり、試合はそこで終わったが────


わたしの中では、終わっていなかった



ちょうど真後ろから来るのオーラが、私を襲った


否────闘技場内を襲う



“わ、わぁぁぁあ!!“

“な、なんだこの気持ち悪い感覚!?“

“わしゃ、この感覚を知っておる!“

“なんだよジーさん!“

““破壊英雄“の物じゃ!!“


年寄りが気持ち悪い感覚の正解を導くと、闘技場内の観客は一斉にオーラとは反対側の出口を求めて逃げようとする


相手側も“院長“って人と部下たちを連れて逃げていく


わたしは────



──────動けなかった



━━赤━━



「なんと…おぞましいオーラ…」


目が覚めた“破壊英雄“こと“黒獅子“を見るキングに、俺は一言付け加える


「目ェ覚まさせた本人がアホなこと抜かすなや」


告げると同時に降り出す“赤い雨“は、地面を、黒を、キングを、濡らす


「ど、どこだ!?」


「大魔導師様でもわかんねぇ事はあるんだな…こいつァ魔大陸に住む魔人の力でなァ、雨から実現する為に用いられる技術らしいぜェ?」


“赤い雨“が止むと、俺は黒獅子とキングの間に出現する


「お前は…!“血鬼けっき“ィ!!」


大戦時を参戦してるやつなら、俺の存在を知っていても何ら不思議ではない


「久しぶりだな、将棋の王様キングよォ。うちの仲間くろいのが世話になったぜ」


「なぜ貴様がそこにいる!……まさかその狼を庇うためか!?」


「……は?」


「ふん、仲間思いはいい事だが…貴様らの墓がここに増えることには変わりない!纏めて屠ってやろう!!」


「おいおい…冗談なら口だけにしてくれよ?」



(レベル解除申請────“却下!今のままでも倒せるから!“)


チッと俺は楽な仕事が出来ないことに舌打ちし、キングに背を向けて黒獅子へと歩き出す


「おーい、起きろ犬っころ。そんな被りもん趣味でつけてバカにでもなったかぁ?」


「──れが、──か!」


足首の力だけで全身を起こす黒獅子に、俺は鼻で笑う


「カッコつけんなやバーカ」


「2回も言うな、アホ!」


「んだとぉ!?てめぇ俺が散々負かしたこと憶えてねぇのか!?」


「俺の方が勝ち数多いだろうが!」




「…ど、どういうことだ?『狼面の封』は“破壊英雄“になっても喋れないはずだ!!」


「…?おい、王様キングに説明してやれよ」


「やだよ、てめぇがやれ」


「あ“?もっかいボコられてぇのかてめぇ!!」


「んだと?死に目見てぇのはてめぇだろうが!!」


「……フッ!」


無詠唱による気合いの入った空間魔法は俺の手前で弾けた


「なっ…ど、どういうことだ?」


「説明するギリはねぇ」


「……喋れる理由だけは話してやるか、キングが喉に一撃食らわせたから狼面の喉が禿げたんだよ。それだけだ」


黒獅子の説明に、王様キングが驚愕する


俺も黒獅子の喉元をみて、納得した


「禿げてるな」


「頭が禿げたみたいに言うなやアホ」


「うるせえ禿げ」


俺たちは血色をした、水の形のオーラとトゲトゲした黒のオーラをぶつけ合いながら文句をダラダラと言い合っていると、キングがなんか驚いていた


「お、オーラが形を保持しているだと?」


「…ハッ、別にこれくらいなら、魔大陸に潜む魔獣どもなら普通に出来んだろ?」


「そ、そのような記録はない!」


「ならあんたの調べてる範囲が狭すぎたってことだ、融合前も、後も」


黒獅子が付け加えると、王様キングはスっと、顔色を悪くする


「私が…知識不足だと…?」


そう呟くと、キモデブから少女、紳士的な男性から老婆へと変身して行く


「精神崩壊してんじゃねーか?」


と、俺


「魔大陸最深部まで足運ばなかったキングが悪ぃ」


と、黒獅子のアホ


俺ら2人が軽く責めただけで、キング精神メンタルが崩壊した


「ぬぅぅうううう!!有り得ぬ!!そんなこと!!」


「おーし、こっから話聞かなさそうだぞ!“黒いわんちゃん“!」


「“汚ぇ赤い汁“撒き散らすアホよりも、先にぶっ殺してやるよ」


俺は黒獅子の文句を他所に、体内部を巡る血を使い、錆色の大槌を出現させて地面にヒビを入れる



大槌を軽々と振り回して準備運動をしている横では、黒獅子は手に持っている黒々としたデザートイーグルを弄ってた


「何やってんだ?」


「いや、『クロ』の扱い忘れた。これじゃアイツ殺せねぇし」


「いつも握りつぶしてたじゃねぇか、忘れたか?」


「あ、そうだった。悪ぃ悪ぃ」


黒獅子は、黒々としたデザートイーグルを握る潰すと、へしゃげながら黒い液体を流出し、形が変わる


その姿は少年とも少女とも言えない顔立ちのガキで、黒い狐耳が生える頭部、そこから垂れ流す長い黒髪はボサボサで地面ギリギリを掠める


太ももをさらした和服を纏い、下駄が地面を鳴らす


「もぅ!なんで握りつぶすんですかマスター!」


「え、違ったか『クロ』?」


「違いますよ!“血鬼”の兄さんも嘘教えないでください!」


「あれ、違ったのか?」


「2人揃って!もー!!」


『クロ』は黒獅子のアホが使う精霊武器で、人型の質量より小さければ強力に、大きければ弱体化する銃武器に変化することが可能で、弾丸は『クロ』自身から魔力補充することが可能であれば、黒獅子の保有する魔力からも補充が可能な性能を持っている


故に弾丸は要らないはずだが、”タバコ屋”の時は、それを知ってか知らずか、依頼受ける際に弾丸を要求していたらしい


このを、経済的破滅から狙うとしたらそれは不可能に近い事なのだが、可能でもあるので少々の打撃はあったらしい


俺は、直接には聞いていないものの、俺の依頼主である”情報屋”からはそんな言葉を垂れ流していた


「私は!!世界の平和をォォォオオオオ!!」


「ズレた考え持ったまま平和なんて願うと、破滅が急速化する。キングにはそれを教えていたはずだが?」


「そのような言葉!私は真に受けん!!」


その言葉を皮切りに、キングは『魔人化』をしだした


(世界安定推進力5割切ったよ!)


(あとどんくらいで、この星は消滅する?)


(5億年あったけど2.5億年になったね)


(核廃棄物2500年ごとか)


(アホみたいな数字だね)


(うるせぇ)


脳内での会話を終え、俺と黒獅子は『大魔導師』から『魔人化』したキングを見る


「おー、派手な青と黒が混じっててカッコイイな」


「バカが、んな事言ってる場合じゃねぇだろ」


そう、キングは『魔人化』する為に、この『世界安定推進力』の半分を己の力に蓄え、変身を遂げたのだ


話が世界規模となると、俺たちは黙っていられない


「おいアホ、勝利条件ってなんだろうな?」


「うるせーバカ、ンなもん力を世界に返上するの一択だろ」


「つーことは?」


「土に還す、それだけだ」


(言っておくけど手順ってものがあるからね?!僕の部下をそっちに寄越したからちゃんと指示聞いてね!!)


「なんか脳内で怒られたぞ」


「お前バカだからな、何でもかんでも力で解決しようとしてんだから、言われてんだよ」


「何をぉ?見よこの大胸筋を」


俺が、上半身裸の大胸筋を見せびらかすと胸を抉られた


「……ゴフッ!」


「やーいばーか!」


「お喋りはそこまでにしておけ『管理者』共よ、貴様達の力を借りずともこの世界は私が征服し、平和を成し遂げることを誓ってやる」


キングはそう言うが、行動と言葉が噛み合っていないのは如何なものか?


世界の半分を吸収し、パワーアップに変える時点で辻褄が合わない、合わなすぎる


理解していない線もあるが、結果的に殺し、死に至らしめることしか出来ない


俺はえぐれた胸を血の力で補強し


されど、全身を血色の赤の鎧を覆っていく


「久しぶりに見たなその鎧」


と黒獅子


「意味がねえかもしれないが、やらねぇよりはモゴモゴ…」


血色の兜が頭を覆うことで俺は喋れなくなる


「まあ、ないよりはマシだわな」


黒獅子の方はと言うと、『クロ』になにやら指示を出し、『クロ』を全裸にさせる


「(幼女の全裸なんぞ興味ねぇぞー)モゴモゴー」


「何かしら纏ってた方が気合い入るんだよ」


『クロ』の着ていた和服を、黒獅子は纏うとフードコートになり、そして全裸の『クロ』は────


「ねぇ、マスター?冗談ですよね?」


「お前そんなうるさかったか?黙ってろ」


なんて会話しながら黒獅子は『クロ』の両腕を掴む


「『黒武・散死銃ダブルバレルショットガン─二対─』」


『クロ』の腕を引きちぎると、身体の真ん中から雑に千切られ、そのまま黒い液体となりながら黒獅子の両腕を纏い、銃が形成されていく



────ダブルバレルショットガン


散弾銃でありながら、その威力は黒獅子が持つ近距離の武器で最強だ


それを二対、そしてフードコートを被るとなると威力は弱まるが…


「(倒せんのかー?)モゴー?」


「調べ《サーチ》は終わってる、バカと俺が組ゃ5秒も要らねぇよ」


「…(はっ!)モゴッ!(なら賭けようぜ)モゴモゴ」


「俺が5秒、バカは何秒だ?」


「(参)モゴ」


「調子に乗るなよ?バカ」


「(お前こそなー!)モゴゴー!」



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