肩甲骨の辺りぐらいから翼でも生えているんでしょう
2日目の武闘大会
そのロビーでは初日に勝利をもぎとった選手達が勢揃いだった
━━(∪˘•ω•˘∪)━━
俺は、大会の人間からシード権を有無を言わさず与えられていたため、2日目の歴戦の勇士トーナメント初戦を飾られた
はずだったが、前日での出来事を見た相手が棄権したため、俺は闘わずして勝利を得た
それとは別に、Zが挑む20歳以下トーナメントと、俺と同じトーナメントの i が、昼頃に出場する予定となっている
なので俺は
「Zと i、悪いが2人は俺と殴り合いするぞ」
と俺は提案し、強制的に指導を行うことにした
何故かふたりは喜んでいたが、気には留めなかった
武道大会会場の正面玄関はデカい噴水がある広場だが、裏手は木々で生い茂り、森という形を作り出していた
この森を作り出したのは『ハルバード』国に所属する賢者レベルの奴らが、選手たちの練習場として創り、設けられたものだが、調子に乗ったのか『ハルバード』国領土の半分を、緑で埋め尽くす所業を成し遂げた
その所業に
取り敢えず俺は2人を森へと移動し、俺の身長の5倍もある巨木の前でガキ共2人を並べ、Zと i を見比べる
Zは俺たち家族以外の対人戦は初めてだったので、目から真剣に指導を受ける姿勢が見受けられた
別の意志も見えたが、そこには突っ込まなかった
逆に i の方はと言うと、滅茶苦茶殺意に満ち溢れていた
目を見ずともわかるほどの殺意むき出しに、俺は意味がわからなかった
理解することを放棄した俺は、手順を説明する
「Z、お前は大剣使ってでも俺を切り殺す勢いで来い。i は────」
「わかってるよおとーさん!龍脈から全借りしてぶっ殺せばいいんでしょ!」
「おう、違うからな?」
間髪入れず答えたので俺は訂正する
「i は今の状態のままでこい、お前は少し“痛み“を知るべきだからな」
ガキ共にとって孤児院での生活は極楽そのものだが、逆に言えば、痛みや争いのないぬるま湯の生活でしかない
平和な時代であれば、多少の殴打による痛みは知れど、足をねじ曲げられるなんてことは無い
しかも見ず知らずの相手に、だ
「っ、い、痛いのはやだ!」
「なら俺の拳を全て避ければ良いだろ?簡単な話だ」
「……っ!じょ、じょーとーだよ!」
譲渡してるのか上等したのか知らないが、俺は肩の力を抜く
「……しっ!いつでも来い!俺を本気にさせてみろ、ガキ共ォ!」
湿り気のある地面を踏みにじり、俺はZと i の指導に取り組んだ
────────────────────
2人のガキどもの初撃から10分経つと、変化が現れた
俺は躱し躱しの繰り返しで、気を抜いた瞬間にはゲンコツを食らわせていたのだが────
「『うがぁぁあぁぁあ!!』」
i が変貌する
声が荒らがる i の、この状態はというと
i 自身と、i に潜む鬼が同調し、戦闘力を高める状態なのだ
「『当たれや!ボケェ!!』」
口が悪くなるのが唯一の欠点だが、俺の体を掠り始める拳は威力を増す
だが、故に────
「わ、割り込めねぇ!」
Zが嘆く
間髪入れない拳の連撃に、Zはただ見守ることしか出来なかった
「っ、まぁ!この状態の i に!Zが、入ればっ!俺らのトーナメント入れてもっ!おかしくは無いがな!」
避け続ける i の連撃の合間に、腹に膝蹴りをする
それでも止まらない i はさすがと言うべきか、鬼人の肉体を持って耐え凌ぎ、さらに連撃を繰り出してくる
俺は、避けては攻撃をしていく
それを繰り返すこと3時間、昼には2回戦が始まるので打ち止めをさせてもらった
「この辺で終わりだ……ふっ!!」
i が1回戦に使った回し蹴りを、俺は同じ形で繰り出す
理性が吹っ飛び、本能だけのiにとって、回し蹴りを受けた時は何も疑問を受け付けなかったが────
『タバコ屋蹴り・壊始』
喰らった瞬間、i は自分の技と似たものだと理解しながら吹っ飛び、巨木に頭を打ち付けられて気絶した
「はぁー…こんなもんかね、指導っつーよりも殴っては避けるの繰り返しだったが…」
「お、親父…」
「そういやZ、居たな」
「わ、忘れんじゃねぇよ!てか、i 大丈夫なのかよ!?」
i の容態はそこまで酷くはなく、身体中に青アザを作る程度で済んでいる
「大丈夫だろ、打ち付けた頭の中のネジが外れなきゃ、廃人にはならねーだろうよ」
「大丈夫なのかそれ?!」
Zのツッコミに無視した俺は、Zの動きを注意する
「……Zは、そうだな…大剣っつーハンデはあるが、パイプ鉄みてーに軽く振れるのが利点だ。それを相手にあえて隠すのも戦法のひとつだな」
「え、あ、お、おう…?いや急にアドバイス寄越すなよ!?こっちにだって心構えとかあるんだからさぁ!」
「知らねぇよんな事、今言ったこと覚えたら……今回の大会は、まぁ、ベスト4まで行けるだろうな…」
そう呟いた俺の言葉を聞いて、Zは不満そうな顔をする
「なんで不満そうな顔してんだよ」
「い、いや、優勝しなきゃ孤児院出られねぇからよ」
どうやらZは優勝しなければいけないと、勘違いをしていたらしい
別に優勝することが孤児院を出る条件では無いのだが…
と、俺はそこまで思考し、逆にこれを活かすことにした
「なら優勝するんだな、俺が思う今Zが行けるレベルは、最低でもベスト4だからな」
この煽り文句が効いたのか、Zは目を輝かせ、意気揚々としだす
「じゃ、じゃあ!親父の思う最高レベルを結果に出してやるよ!」
「期待してるぜ?Z」
「任せときな!!」
Zと拳を突き出し合わせると、Zは昼に始まる2回戦へと向かった
「……i 、起こさねえと」
Zに続き、俺も気絶した i を担ぎ、闘技場へと向かったのだった
────────────────────
初日の1回戦に比べ、2日目の2回戦では、観客席は大混雑だった
各国から出場する王子王女さんが出場することもあり、また、歴戦の勇士トーナメントでは、俺こと“タバコ屋“も参戦することもあって賑わいもあった為だ
勿論、俺は相手の棄権で2回戦も出場することが無かったが、それでも尚、強い人種・異人種を見ようと一般市民がゾロゾロと観客席を埋める
時間的にZが先、i がその次だが、時間は無いのでアンモニア臭を i に嗅がせることで、強制的に起こした
「っ、んがぁぁあ!!」
「i 、煩いぞ」
嗅がせたアンモニア臭の入った瓶を、急ぎポケットに仕舞い、i の様子を見る
「あぇ…?おとーさん?んん???」
「試合始まるから起こしたんだよ、いい目覚めだったろ?」
「むむぅ…鼻が折れるかと思った」
先の指導中に、俺は i の顔面に拳を入れたが、鼻が折れる云々は違うと願いたい
「Zが始まったらすぐ i の出番らしい、行けるか?」
i は俺の言葉を聞いて身体を動かす
「んー…ばっちり!」
「ならいい、次は痛くても我慢しろよ?」
「『その前に殺す』」
不吉な言葉を聞いた俺は i の姿を見るが、あどけない少女がそこに居ただけだった
i に眠る鬼は同調し続けるとリミッターが外れ、i 自身に多大な影響を及ぼすのだ
一眠りすればリミッターもリセットされると思っていたが────
「……鬼、居るのか?」
「『さぁて、どうだろうな?』」
少女のあどけない声色と、鈍く低い声色が混ざり、返答してきた
俺はとっさに、角を捕まえようとするも──
「始まっちゃう!おとーさん、行ってくるね!」
呼び出しのアナウンスが響き、俺の掌は空振りした
「待て!」
「『やなこった!』」
俺は強制的に止めるべく、i の元へと向かうが
「ここから先は選手以外は立ち入り禁止です」
「どけっ!てめぇ────」
「立ち入り、禁止です」
「っ!!何で『サ─────」
「しっ!!」
俺は警備員らしき『サブ』のメンバーから、魔力による衝撃波を貰い吹っ飛ばされ、闘技大会の外へと追いやられたのだった
──────────────────
「ガッ、ゴホッ!カーッ!ペッ!!」
狼ツラの口の中に入った砂を、魔力による衝撃波で破壊された体内部から出血された血で口をゆすぎ、吐き出す
胸部にモロに喰らい、肺あたりをやられたらしい…
砂埃の付いた黒のスラックスから『緑地の光合』のタバコを取り出し吸うと、感覚でしかないが、肺が治っていく感じはした
「本当、そのタバコは危険だよね」
歩いてくる警備員の男は、俺の喫煙姿に苦いもん食った顔をしながら歩み寄ってくる
「どこがじゃボケェ…国から認定書貰えば、成人未満のガキでも吸える代物だぞぉ…?」
「そう、そこだよ。国認定?ふざけた話だよね、それ」
「『ハルバート』国を貶すやつは反逆罪だって
「
警備員だと思っていた男は、帽子を取り、ジャケットを脱ぐ
「キングだぁ?…っ!な、なんで、お前!なんで気づかなかったんだ俺!?」
警備員の男は中性的な声色を変えて、ドスの効いた低い声色に変える
「ふっ、真似事が得意な私だぞ?全人類の職場はほとんど網羅しているのだよ、“破壊英雄“よ」
融合する前の大陸に所属しており、大戦時もまた“金龍師“とは別グループで『メイン』という組織を創り上げたこともある
「その姿…モノホンじゃねぇな?それも偽装ってことか」
「魔力の解放をしただけだからな、──まぁ過剰演出は必要でしょう?」
今度は秘書官の女性のような出で立ちに変化する『サブ』の
「てめぇが出てくるってことァ…目的は武道大会の景品か?」
今回、武道大会の景品には『ハルバード』国の
その海中時計は、基本的には時刻を示すものではなく
所有者の運命寿命を縮める・延ばすことが可能な代物であり、その不老不死を求めて戦争があったほどだ
なぜそのような危険物が優勝商品となっているのかは不明だが、
『サブ』が────それも
「外れよ、“破壊英雄“さん」
そう告げた次の瞬間には少女の姿に変身する
「幼女受け狙うならやめとけ、キモデブにしとけ」
「ふぅん、そういうのも────ありだな」
俺が助言すると一瞬にして、メガネが曇る腹回りが太い男性に変わった
「お似合いだぜ、
「皮肉なら効かぬゾ」
「その語尾やめい」
「ふん、まぁ話を戻すとする。まず私自身の目的としては、次期王となるもの達の接触だ」
次期王となる……と来たら、各国から来ている王子王女の観覧か?
「各国から来てる王子共は、生憎だがてめぇら『サブ』にゃ……興味ねぇだろうよ」
「むふふ、貴殿の推測はよく外れるな。生憎だが快く受けてくれる馬鹿なガキもいたよ……それに」
「?…それに、なんだよ?」
「鬼の娘の一撃も、王としての力量は十分でありましたねぇ!」
銃への攻撃は弾を逆手に取られることを懸念し、俺は咄嗟に走り出し、ヤクザキックを繰り出す
しかしキモデブ
「チッ!あの蹴られて吹っ飛んだ男はてめーだったのかよ!肺がんになるまで、吸わせりゃ良かったぜ!」
「私は禁煙者なので今度吸わせたら予告無しで殺しますからね。あと、“破壊英雄“…貴殿の力量は大戦時から衰退している。そこらの野良犬と何ら変わりませぬよ」
「黙れ!俺の家族に手ぇ出したら────」
「家族──貴殿はそういった、フワフワした言葉で拾った子を精神的拘束させ、甘い世界へと誘う。それが貴殿の目指すものですか?」
「拾ったガキどもは!……俺がたまたま見つけて…自立できるように…」
「もうほとんどの記憶は蘇っているのでしょう?“破壊英雄“ゥ!!!」
俺は名前を──“血鬼“から“黒獅子“と聞かれてから全てを思い出していたのだ
だが、今の今まで、忘れている
嘘偽りのない、本当の狼少年だけに
何故それを『サブ』の
俺は
強者に
言の葉で──捻じ伏せられた
「──心の動揺が、死への近道となる」
「──ッ!」
太もも付け根までを粉々にされたような感覚に、俺は思考が止まる
「まだまだ行きますよぉ!」
足の太もも付け根までが骨と血肉で散布している途中、グツグツと温度が上昇する感覚を得た
「やべっ────」
大魔導師の魔法による水と火の混合魔法となれば、温度の上昇による足の融解など容易いものだ
“院長“が控えているとはいえ、足の復元が可能かは分からない
俺は足を退くも、もう片足では踏ん張りが効かない
「足に意識が行きがちですぞ!」
そう、俺は見落としていた
思っただけで発動できる無詠唱魔法
その上、“大魔導師“に位置する人種の魔力量
大量の魔力を、如何に死へと繋ぐかの技量
それが合わさると、この
“限界突破済み人種“──その
俺を
破壊させるには十分だった
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