もっと、こう、なんか、ドンパチしたい

━━i━━


“では!これから“歴戦の勇士トーナメント“の第35回戦を開始します!!南からー!エントリーネーム『i』選手ー!!“


呼ばれ、事前に受けた説明で真ん中まで行き、止まる


“小さな躯体からどのような戦いを見せるか楽しみですねー!続いて北から────“


相手の選手に興味がなかった


勝つことに楽しみは感じるが、のは不必要だ


……?

わたし、今なんて?


“────おーっと!『i』選手動きません!もう既に始まってますよ!!っとと!北の────“


始まってた…


相手の雄は、二脚で立つ人型の生物


視えるオーラは赤色、闘志の色で突っ込んでくる


やる気に満ちているってことかな…?

それともわたしが少女だから油断してる?



相手が左足を踏み込む


それを軸に上体を動かし、両手で持っているどんきで私の頭を切ろうとする



「……あぶない」


角に魔力を貯め、赤く光らせる


…光ったかな?


そのままの状態で首を動かし、角でどんきを粉砕した


「…っ!?!?」


「…殺しちゃダメ…殺しちゃダメ…よしっ!」


おとーさんのやってた回し蹴りを模倣し、その場で回転、右の足裏を相手の鳩尾に入れた


「…グブゥエッ!」


殺しちゃダメとおとーさんに言われているので、相手の力量から、内臓系をグチャグチャにする程度に抑えた


けれど、相手は倒れなかった


「小娘ぇ…!」


私を軽々と上げれそうな腕力が、足を掴んできた


「……なら、死なないでね?」




────地面から


地の底から細い筋の通る龍脈から


、力を借りる


「返さないけど…」


返す時は、還る時くらいかな?


「何を言ってるのか知らんが…足を貰うぞ!!」



「『さっさと寄こしやがれぇえ!!龍脈ゥゥウアアアア!!』」


私の足元に来る、この星の力を貰い



回し蹴りをした足の、爪先に力を送る



目の端に映るは、おとーさん


慌てた様子で試合会場に入ろうとする



捻れる私の足


タオルを投げようとするおとーさん



…ミシィ


「っ!『龍脈借激殺・壊始』!!」



ドゴンッッッ!!



私の繰り出した足技から出る音と、衝撃波が響くと同時に、相手の雄は場外まで吹っ飛ばされ、柔らかなスポンジ壁にぶつかる


それを見たおとーさんは────



────相手の心配をしていた







…おとーさん、なんで?







━━( ^>д<^)━━


iがとうとう、人を殺したかと思ってしまった


ぶっ飛ばされた選手の元に、院長と共に駆け寄ると、相手選手は口から血反吐を吐き、内臓系が全てやられていた


かすかに息をしていたが、心音が衰弱している


「院長!俺の持ってる『緑地の光合』のタバコじゃ無理だ!魔法を早くしろ!」


「ごめんなさい…さっき『回復の息吹』を使ってしまって、完治出来ないわ…『回復』ならなんとか…」


「お前アホだろ!?あぁ!それなら、息できるレベルまで『回復』させろ!」


院長が横で、相手選手の鳩尾あたりを『回復』させる中、俺は先に言った『緑地の光合』というタバコを5本咥え、火をつけて吸う


効果は『即効回復』『気分上々』『傷跡消滅』と、中々の効果があり、1本でも値段が高いのが難点だ


あぁぁぁあぁあぁあぁ〜…気分ええんじゃ〜…


って違ぇ、んな事やってる場合じゃねぇ…


火がついたタバコの1本を、息が出来るようになった相手選手に咥えさせ、吸わせる


相手選手は吸い、段々と身体が落ち着きを取り戻す


それに比例してタバコの消化も早い


次の1本を咥えさせる


院長を見れば、問題ないと視線を送ってきたので、俺は担架を呼び寄せ、喫煙治癒の相手選手を載せる


『緑地の光合』の『即効回復』と言えど、完治できるレベルではないので、相手選手は直ぐに医務室へと運ばれていった



「“タバコ屋“さん」


「……」


「……あまり怒ってあげないであげて?相手は子供───」


「分かってる、が、中身はどうだろうな…?“院長“も医務室に行け」


院長は俺の言葉を聞いて、直ぐに医務室へと走り去っていった



俺はその逆の方向へと歩き出し、iを見やる


「……躾、めんどくせぇなぁ」


「おとーさん…なんで…?」


「あん?」


「なんで…向こうに行ったの?」


向こうとは、相手選手の心配をしたということだろう


確かに、普通の親族や、応援する人種や異人種ならば勝ったことに歓喜して、本人に近づいて褒め称えるだろう


しかし──…


「…やりすぎだ、バカ」


「でも!痛いのは嫌だもん!あの雄は、私の足を捻じろうとしたんだよ!?」


「足捻れるくらいじゃ死なねぇよ…なんつーかな…あの蹴り技は死ぬから、二度と使うなよ」


全内臓破壊技なんて芸当、この大会で出来るやつ居ないだろ…


いや居るけどさ…


「ん…なら教えてよ、なんで向こうに行っちゃったの?」


めんどくせぇ…俺がティアのババアに修行ごうもんを受けた時なんざ、理屈云々より取り敢えず受けろ、が常識だったのによぉ…


「別段、てめぇみたいなのに構ってられねぇんだよ…あっ」


つい、うっかり、本音を漏らしてしまった



この武道大会に、俺が出場した理由は子守りのためではない


『サブ』の全体としての動きが荒れてきて、武道大会にも出場者の中に『サブ』らしきメンバーがいて、出ざるを得ないということもあった


『ビショップ』や『クイーン』の三番目が居たが、後者は多分興味本位だろうとは思う


問題の『ビショップ』だが、名前は偽名を使っており、姿が見えなかったが、俺の狼鼻で臭う機械のオイル臭は誤魔化せなかった



前に、録画していた列車での破壊を見てはいたが、サイボーグならばその個体を増やし、量産することは可能だろうとは思っていた



その量産された一体が、この大会に出ている


俺はその一体を破壊せずに捕獲し、城にいるじじいに持っていく依頼を受けていたのだが…なんで躾なんて面倒なことをしなければならないのだろう?


「……どぃ…」


「…聞こえねぇな」


「──っ!おとーさんなんて大っ嫌い!!」


とまぁ、こんなこと言われたが実際に血は繋がってないし、家族の絆とかそんなモノがないので心は傷つかない



しかし、なんだろうな




……つれぇ



「もう知らないっ!!」


iはそう言って試合会場から出ていった


まぁZに合流して、寝て、起きたら忘れてるだろ



俺はそんなことを思いながら、試合会場の周りを見渡す



観客はざわついていたが


────ひとつ


“創り嗤い“している人の形を見つける


「俺の目ん玉をごまかせると思うなよ、クソ野郎ビショップ!」

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