武闘大会で弟子が頑張るやつを見守る師匠

━━Z━━


受付を済ませて、控え室でトーナメント表を見た


色んな人、異人種達がいたが、敵同士なのだ


変に挨拶して絡まれたら嫌なので、目を合わせないようにする



改めてトーナメント表を見る


簡略すると8回勝てば優勝だ




親父の言う“結果を出せ“とは、優勝のことだろう


俄然燃えてくる!



……あれ、iの名前が無い


「なあi、名前ねーんだけど…」


俺の質問に、親父が答えた


「iはこっちだ」


渡された表を見ると20歳未満でもなく、20歳以上でもなく、



“歴戦の勇士トーナメント“



「……えぇ!?」


「うん?Zは違うの?」


聞いてくるのはiだ…



恥ずかしすぎる!俺よりも年下の!しかも女の子に!?


「あ…あぁ」


「ショック受けてるなこりゃ、事前にいえばよかったか」


「なにがー?なにがー?」


「i、お前は気にすんな」


「はーい」


話を進めるふたりを、遠目で眺める


次元が違う



iは異人種とは言っていたが、鬼という種族だ



親父が認める実力か…


なんら歴戦の勇士にいてもおかしくはない



「考えても仕方ねぇぞ、そろそろ始まるか」


親父の発言と同時にアナウンスが控え室に響く


“では!20歳未満の1回戦に入りましょう!!各出場者は場内に移動してください!“


「行ってこいZ、俺はiと医務室に行く」


「…分かった、すぐ来てくれよ?」


「Z、アドバイスだが初戦は大丈夫だ、俺はテレビで見とく。あと、殺す気でいけ」


そう言い放ち、控え室から出ていった


俺も場内に移動しようと思った瞬間、空気が変わる



入った時はピリピリしていたものが、炭酸の気が抜けたような安堵感が充満する


「おい見たかよ…“破壊英雄“って奴だったろ…」

「初めて見たけど…勝てるビジョンが見えなかったよ…」

「殺されると思ったぜ…あれが世界から危険視されてる奴かよ…」

「かっこよかったなぁ」

「憧れちゃうよな、もう存在だけで次元の違いがハッキリわかるとか」



控え室にいた全員が口々に俺たちの親父を


恐れ、憧れ、尊敬していた



「子供二人連れてたけどよ…」

「ありゃ人質か奴隷だよ…噂じゃ強欲で気に入ったものは殺してでも手に入れるらしいぜ」

「あの子も可哀想だな…男の子もそうだけど、女の子連れていったんだぜ…」

「性欲の捌け口か…」



聞くに堪えない噂程度の話し声


イラつくが、俺はさっさと控え室から出ていった









“続いての1回戦!最初は『ハルバード』出身!Z選手です!位置についてください!!“


俺は位置につく


大剣を背負っているが、始まりと同時に強化魔法を使い、上段から切り込む


“相手選手は……なななな、なんと!『カトリーナ』国王子!!セマルタ・アカナム選手です!!“


相手を見るだけで分かる、相当の実力者だ


装備は頭部を除く鉄鎧一式、両腰に2本の片手剣を備えている


日頃からの鍛錬を怠らない、それがひしひしと伝わってくるほどの筋力を感じた



顔には少しアザがあるくらいか


教えた先生がよほど偉くない限り、将来を担う国の王子の顔を傷つけたりはしないだろう


「小僧、歳はいくつだ」


「15歳です」


「そうか、俺は19だが年上も年下も関係なく戦わせてもらう」


「分かった、俺も遠慮しない。よろしくお願いします」


「あぁ、宜しく頼む」






“では!挨拶も済んだようですし始めましょう!“





ゴングが鳴り響く




跳ぶように走った


両手で持っている大剣の柄を掴み、口で強化魔法を詠唱し、発動する


「「フッ!」」


俺が振り下ろすのと、相手のアカナムが片手剣を抜き防ぐのは同時だった


「小柄ながら!実に良い剣筋だ!」


「背は関係ねぇだろ!」


両足が地に着く


少し力を入れるが、そのまま拮抗してくるので大剣をひく


俺は一回転するも姿を確認せず、横薙に移行した


胴を狙うが、右手に持つ片手剣で防がれた


「抜いた最初の剣、どっちか見てりゃよかった!」


「時、既に遅い!」


一旦距離をとり、観察する


アカナムは剣を二刀使う


力関係では俺が負けている


なので一刀であしらわれ、一刀で急所を狙われては太刀打ちできない



“殺す気でいけ“



親父の言葉を思い出す


そう言われた時は、必ず“手段を選ぶな“と後付けされた


今の試合もそうしろと……


「将来、国背負う奴だけど!後遺症残らねぇように“壊して“やらぁ!!」


「やはり遠慮していたか!屈辱だ!俺も本気を出そう!」


「てめぇも手ぇ抜いてたんじゃねぇかァァァァアアアア!!」



上段から振り下ろす大剣を右に持つ一刀の剣先で防がれる


外に流され、アカナムの突きを狙う左の一刀に対し


俺は跳び、手首をふみつける


「ガっ!」


痛み、叫ぶアカナム


バランスが崩れた胴体、そして首付け根を膝蹴りする


硬いものにぶつかった

左肩の鎧だ、アカナムは瞬時に判断して防がれた


「首!貰い受ける!」


アカナムの右に持つ一刀が首を狙う



瞬時に顔を上向き、顎を反らせた


顎掠ったか?血が少し飛び出す



地に着いた唯一の左足で、全力で後退、飛び跳ねる




アナウンスが叫ぶ


“なんという攻防でしょう!!パワーのZ、技のアカナムと言った所でしょうか!1回戦にして熱いです!“



会場は湧き上がっているようだが、俺は集中力を高め、何も聞こえなくなる



五感全てをアカナムに向ける



俺は次で決めることにした


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


金塊ごときに騒いでいた連中が、『カトリーナ』国の女王による発言でしんと静まった


中々の爆弾発言に静寂、そしてどよめきが生まれる


「なにゆえか?『カトリーナ』国の女王よ」


「貴方に任せては次、いつ、破壊英雄が世界を滅ぼすか分かりませんからね…私の国で管理させてもらうことを提案します」


生まれたどよめきは、批判を含むざわめきに変化する


「…確かに、“金龍師“と言えど抑えつけられなかった力だ」

「真名が暴かれたのも機械に疎いのが原因だったな…」

「奴に任せて大丈夫なのか?本当に…」

「何年か育成してたと聞いたが…我らの世界滅亡を進めただけでは…?」


ざわめきにはそのような言葉数が並べられ、耳の良い“金龍師“ことティアにとって、怒りが沸騰することに変わりがなかった


「みな!ここに居る私たちは“金龍師“に押付けたに過ぎない!」


そう、“破壊英雄“こと黒獅子をどう扱うかは“金龍師“に任せていたのだ


「だが!今の“破壊英雄“は如何程か!?弱い!弱すぎるであろう!!」


弱くさせた原因は“金龍師“にあるものの、まるで自分達がやったと言わんばかりに『カトリーナ』国の女王は続ける


「よって、今後は私達の国があの犬を管理させてもらう!意義があるものは居るか!?」


どよめきが喝采に溢れ、他国は『カトリーナ』国を賞賛する


「……」


「如何なさいましたか?“金龍師“よ」


「いやな…見事なもんじゃったなぁと…」


わしは口角を上げ、目は笑わず、軽い拍手を送る


それに釣られ他国も拍手をし、『カトリーナ』国は不機嫌になる


「……良いでしょう、今すぐにあの犬には首輪をつけ、私の国の管理下に置きます!…貴方は指を咥えて見ていなさい」




膨大な力を手にした国の末路が楽しみだ、と思うティアだった

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