死地に向かわせるのに、イエスかヴァルハラは鬼畜だと思う

━━Z━━


武闘大会当日になり、親父から登録証を貰った


昨日思いついたのにすぐ用意するって、親父は何者だろう?



まぁ俺は試合に専念するだけだし、他のこと考えてもしかたない




闘技場に向かう


横を歩く黒のワイシャツに、黒のスラックス姿の親父に声をかける


「親父!俺、勝つからな!どんな奴が出ようとな!」


「そうか、ババアに言われたが今年は強敵が揃ってるらしい。無理してもいいが、俺の判断でタオル投げるからな」


「20歳以下は保護者同伴だけどよー、タオル投げなくてもいいぜ?」


「まぁそうだといいな」


20歳以下には保護者が必要で、戦闘が困難だと判断すれば、何故かタオルが投げられ、試合が中断される


「こっからだ!って時に投げられたら親父をぶん殴ってやる」


「俺に拳当ててからもの言え」


「…てかよ、なんか親父…なんでそんな…なんだっけ?よそよそしいんだよ?」


「ちと、な…あぁ、来たか」


親父の顔が向いてる方向を見ると、iが、全力疾走でこちらに向かってくる



てか、俺よりはええ!


「走ると転ぶぞi!」


「えへへ!楽しみにしてたから気分が上がっちゃって!」


「さ、行くぞ」


「……いやいや待て待て!!親父!聞いてねぇぞ!iが出るなら言ってくれよ!勝てねぇって!」


「Z、戦争とはな、いついかなる時も、どんな敵が来るか予想して対策立てておくべきだ。そして、未知なる敵に対しては観察を怠らず、隙を見て倒すんだ。わかったな?」


「んんんん???何度も言われてるから、それはわかるけど…俺の質問カンケーないよな!?」


「そうだな、じゃあ行くか」



親父は俺の質問無視して、そそくさと早歩きで闘技場に向かった


「……はぁ、なんでこんな…ぁぁぁぁ、i!頼む手加減してくれ!」


「んー、殺すなって言われてるし…死なない程度に手加減はするよ?」


「……俺…未だに施設から出れないか…」


俺が遠い目をしているのをよそに、親父から声がかかる


「ズレた話してんなよお前ら…行くぞ、開会式は別に出なくてもいいが、トーナメント表だけは確認しろよ」


「ハァーイ!!」


「へーい…」



試合前早々、やる気がなくなるわ…




──────────────────



坂を歩く


先にある闘技場への道のりは、露店が立ち並び、各国の名産物に溢れていた


右を見れば『ハルバード』国名物のベヒーモスバーガー(小)があったり


左を見れば、『カトリーナ』国名物の、豆から作る肉団子『謎の肉』名義で、甘辛のタレに付け込まれてたり



客は、悩みながらも買っていく姿が見える


「なぁ親父、『ハルバード』の露店の店員て…あれ兵士だよな?昨日、ランニングしてた時に挨拶したぞ、あの人と」


「そうなのか、俺は知らん」


「うん、まぁ今話したから知らないと思うけどさ、なんで?」


すると横からiが叫ぶ


「警備も含めた営業してるんだよー!ねーお父さん!」


「そういやそうだったな、まぁ金はあるが…今は飲み食い禁止だ」


「えー!あんなに美味しそうなのが『食べてください!』て懇願してるのに!?」


「なら自分から金出せ、お父さんそれなら文句言わないから」


もちろん、お小遣いという形でレディの姉さんから貰ってはいるが…


「足りないよぉ…」

「足りねぇ…」


腹を満たせない意味で足りないのだ


他の国からお客さんも来るのか、祭ごととあって、値段は高い


「バーガーが小さいのに1000円するとか…ぼったくりじゃね?買えるけど勿体ねぇよ…」


「沢山食べたかったのに…お父さん、”鬼ぃさん”も食べたいって言ってる」


「…ちっ!わかったよ、いくら欲しいか言え」


「やったぁ!」


「なんか俺と態度ちがくねぇ!?」


「うるせー、仕方ねぇだろ…理由言えねぇけどよ」




親父は露店に近づき、目的のバーガー100個と肉団子を500個を積み重ねて持ってくる



「……親父!?多くねぇかそれ!?欲しいとは言ったがそこまで頼んでねぇ!?」


「ん?あぁ、まぁ…食えるなら横取りして食ってもいいぞ?許可なんて貰えねぇと思うし」


「何言って……は?」


100を超える名物を渡されたiは、路上に座り、勢いそのまま縦横無尽に喰らい尽くしていく




瞳の色が違う


いつもは瞳孔と角膜が黒色をしていたが、食らっていく姿の時は結膜が黒く、瞳孔と角膜が赤く輝いていた


「う、うわぁ!」


「何も見るのは初めてじゃねぇだろ?」


「い、いや、いつも食堂で…同じ時間帯で、ご飯食べてるけど…」


「…ババアもレディも、教育不足だな…異人種は分かるな?」


「あ、あぁ…」


融合した時、別の世界から来た人の形をした人達


異人種と呼ばれるのは知っていた…実際に、孤児院にも猫耳やうさぎの耳生えてるヤツいるし…そこら辺の犬がそのまま二足歩行した奴もいる


「名前付けた連中は、何を思ってかそう名付けたか知らねぇが……融合する前にも居たんだ、異人種」


「は、はぁ?」


「まぁ、正確には“妖怪“や“架空の存在“とか呼ばれる生き物達だったがな」


「な、なるほど…」


「んで、今『ノギロ』って呼ばれる国の“妖怪“って奴の中に『鬼』と呼ばれる存在がいた」


「お、鬼…なんか強そーだな」


「実際、ババアが言うには相当のパワーの持ち主だったとは聞いてる、鬼の中にも“妖術“とかいう魔法に似たようなものを使ってた記録はあった」


「ま、まさかiも?」


俺はiを改めて見る


まだ食ってた


「完全な鬼か、鬼と人種のハーフか…そこまでは分からん。これは断言出来る」


「うぅ…怖ぇ」


「だがな」


すると親父は、鬼の女の子の頭を撫でる


条件反射か、鬼の女の子は



親父の撫でていた手を噛む


「親父!」


「まだ子供だ、仲良くしてやってくれないか?」


「親父!手!」


「質問に答えろ」


「え、は?……わ、分かった!仲良くする!約束するから早く手を!」


「俺の手なんざ、どうとでもなる。i、邪魔してすまんかった」


グルル…と唸りながら、親父の手から口が離れ、食事の続きを始める


「…親父」


「なんだ?腹減ったか?横取りする時は、噛みつかれんように気をつけろよ。手がなくなるからな」


「違うけどよ…その、あ!手は大丈夫かよ!」


「しばらく銃は持てねぇだろうが、なんとかなるだろ」


そういって親父は、噛み付かれた手を掲げ、横にプラプラと何も無かったように揺らす



噛み付かれた跡は流血し、骨まで見えてるにも関わらず、だ



「闘技場、着いたらさ…医務室行ってくれよ?」





俺に、仲良くしろって教えてくれたんだ…俺のせい━━━


「お前のせいじゃねぇよ、『Z』」


噛まれてない手の方でチョップされた


「いってぇぇ!!何すんだよ!」


「いいか、今のは俺が撫でたのが悪いんだ…勘違いすんなよ?」


「お、おう…わかったよ」


静かに、強く言ってくる親父に反論はできなかった




────施設では最年長なんだ…自覚持たねえと!



「親父!ありがとう!」


「うん!おとーさんありがとう!ご馳走様でした!」


俺の感謝と同時にiが食べ終わり、感謝を述べた


「良いってことよ、もういいな?行くぞ」


「はーい!」





そして、闘技場へ向かうのであった



━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「“金龍師“よ…先の電話の相手、“破壊英雄“か? 」


1人の男の質問に、眉を動かすわしは頭を抱える


「……ようわかったの」


「仲睦まじく話すのでな、そうでは無いかと推測したまでだ」


推測ではなく確定で聞いてきたくせに、とわしは思い、苛立ちを微かに起こす


破壊英雄、またはタバコ屋の管理はワシに任されている


つまり、この世界の命運を握っていることに変わりはないのだが…


その管理が甘いのではないか?とも取れるような言い方に、さらに苛立ちが加速する


「破壊英雄の真名が本人に伝わった今、記憶を取り戻し世界の崩壊が進んでしまうと…分かっているな?」


「あ“?ワシよりも弱いくせしおって、上から命令するでない」


このような世界会議、正直に言うと不要だ


己の国に影響がなければ傍観を決める奴なんぞ、クソ喰らえだ



…クソ親父の思考が移ったか?


「“金龍師“よ!なんだその“物言い“は!貴様の国にいくら援助したと思っているのだ!!」


「たがが金板300枚程度の金銭でその“物言い“か?ワシなら塊を300kgくれてやることも出来るぞ?ほれ」


金属性の魔法を使い、金塊を出現させると言い放った男と、その周りがざわつき始める



──…やはり人種は金か


興奮冷めやらぬ者や、無関心を装う者が慌てザワつく中、一人の女が言葉を発する


「“金龍師“さん、私の国にそのような物は不要です。」


「女…確か貴様の国は『カトリーナ』だったか?」


「覚えていただき感謝の極みです…して、私たちの望みをお聞き願いますか?」


「いつから願い事を述べる大会になったのじゃ…それに…、『カトリーナ』は特に“これ“が必要だと思ったのじゃが?」


金塊を指先で転がしつつ、『カトリーナ』の女王を見やる


「確かに、未だ大戦の傷跡が残り、復興の続く私の国では必要不可欠です…しかし、別のものを要求させて貰います」


「言うだけ言うてみぃ…」


わしは促したが、今思えば読唇術等を使い、何を考えれば読み取ればよかったと思った







「“破壊英雄“の管理です」




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