文武両道とか無理ゲー

「おとーさん、なんで名前で呼びあっちゃダメなの?」


依頼が終わり、依頼主への報告が済んだ後、店に寄らずに孤児院へ戻った


担いでいた武器を下ろす中、最初の質問は『B』と呼ばれる活発な少女からだった


「名前は真名にもなる、迂闊に名前出しちまうと封印っていう魔法されるんだ」


「封印ってなーに?」


「目の前が真っ暗になって、動けねぇんだよ」


「真っ暗やだー!こわーい!」


「そうだな。だが、愛だの恋だの喚いたやつが、好いた奴と一緒に封印する、なんてこともあったんだ」


「僕なら嫌だね…」


そう呟くは魔法に関心の高い『K』だ。前に俺の時計いじったクソガキだ


「恋は盲目ってな…まぁ、普通に犯罪だから強制的に封印解いて、封印魔法使った男の方は隔離され、女の方は牢獄生活に戻ったらしいぜ?あと時計戻しとけ『K』のクソガキ」


「こわいよぉ…」


「魔法は奥が深いね…あと自分で治して」


2人して違う反応を見せる


スーツはアイギスお嬢に被せたままなので、黒のネクタイを解きながら、次に何を教えようかと思った時、後ろから子供が叫ぶ


「親父!剣の稽古つけてくれよ!」


『Z』だ、最年長ではあるがまだまだ15のガキだ


「挑むのは勇ましいが、力量を見誤るなよ」


この施設を出るなれば、尚更だ


「でも一撃でも入れたらこの施設出ていっても良いんだろ?『Y』の姉貴もそうやってこの施設出て行ったじゃん!」


Yは施設を出た女子の1人だ


見聞を広めたいを理由に『ハルバード』の国を出て、音信不通となっている、が…


なぜか『ウィルマ』の事後処理に見かけたが、挨拶はしなかった


「Yは、レディやティアのババアがいない時の子守りに飽きたらしくてな…嫌気が差して、俺を刺して出ていきやがったんだ」


事実である


俺がたまに顔を出した時に、俺の死角から全気配を消して背後から、足の小指を刺したのだ


施設を出る条件では正解だが、刺された小指の傷は思い出す度に疼くのだ


悔しいのもある



てか小指ってなんだよ小指って


「その分、Zは素直でいいな」


「何を言ってんのかわかんねぇけど、Yの姉貴みたいに卑怯なこと出来ないからな!男なら堂々と真正面から対峙する!親父も言ってることだろ!」


俺がそう教育したんだけどな


俺の体なら、どこ刺しても無条件で施設出れるし


「だがなぁ…俺もここに来ることなんて少ないし…」


「いやさ、ただめんどくさいだけだよな親父?」


「……、レディとかティアのババアに言えば出してもらえるぜ?」


「言っても条件出してきて、それクリアしねぇと出れないじゃん!」


「まぁな」


ちなみにYは、レディに施設を出たいと申し出た時に、条件として『Yは空間把握能力が高いのと、身体能力が高いから3分以上、私の攻撃を全部避けてね』との事だった


2分半まで頑張って避けてたが、意地になったレディが本気出したため全身複雑骨折で条件未クリアとなった


俺にも言えることだが、大人組の大人げなさ…半端ねぇ



「Zは物理的火力がメインだったな?」


「自分の力は把握しとけって奴だな親父!そうだぜ、火力メインと親父から貰った『風人の息切れ』が俺の身体的武器だ!」


「扱う武器は両刃の大剣だったか」


「瞬発火力で速攻するからな!反応できない相手なら右に出るやつはいないぜ!」


居るけどな、お前の上にゴロゴロと


「んじゃあ、いいこと思いついた。施設出る条件を変えよう」


Zは勝負挑んでくると、1日終わるまで付き合わされるからな


「大体親父の言う『良いこと』って、悪い方向にしか進まないよな」


「当たりだけど悔しいから黙ってろ。俺、明日闘技場で武闘大会出るんだけどよ、参加して結果出せ」


「は?いいのかよ、そんな楽なので?」


「楽かどうかは出りゃわかる、参加枠は20歳未満クラスだ」


「っしー!燃えてきた!ちょっと鍛えてくるわ!」


そう言って、Zは俺の目の前から去り、遠くで素振りやら腕立てやらし始めた


「……登録まだなんだけどな」


「お父さん!」


おっと、聞かれてたか!?


声のする方を向くと、『ノギロ』に住む“鬼“と呼ばれるような存在を小さくしたような、角が生え、髪は黒の少女iがいた


iはまだ小さいが、Zと同じ物理火力が高く、力持ちでもある


異人種ということもあり、全五感も優れている


「どうしたi、言っとくがお前は闘技場には出させ…」


「ワタシも出る!」


「うん、話聞こうな?さすがにiを武闘大会出したら死者が出るからな?」


「ワタシの中の鬼が騒ぐの!強いやつに会いたいって!」


「そんな厨二病みたいなこと誰に教わった!言え!ゲンコツしてやる!!」


「違う!ワタシの中に潜む鬼!お父さん分かってて言ってるよね!?」


「分かってるけどわかりたくない!」


「話し続けるから!結果出したら『ノギロ』に帰ってみたいの!」


柔らかな声だが、鋭く、気迫に充ちた言葉



足が半歩下がる…俺が気圧されたか?



「……結果を出したら『ノギロ』に帰る、だな?」


「うん!」


「……いいだろう、ただし、枠だが…」


「同じ20歳以下でしょ!」


「いや、俺と同じ20歳以上の歴戦の勇士達が集う枠だ」


「ええええーーっ!!勝てるわけないじゃん!」


「うるせぇ叫ぶな、20歳以下の腕に自信があるZと同じ若手枠だと、死人でるわ!俺のでる枠でも怪しいとこだが…まぁいい、決定事項だ」


「ブーブー!」



ブー垂れるiを無視し、タバコと携帯を取り出しながら施設に戻る


タバコに火をつけてひとつ吸い、電話の相手にティアのババアを選択する



「もしー?ババアー?死んでるー?」


“ババア言ったこと記憶しておるからの!……なんの用事じゃ、こちらは会議中じゃぞ“


「平然として、返事するババアの立場を改めて痛感したわ」


今、ティアのババアは『世界協定会議』という、表向きは各国での異常がないか、などの情報交換をしている



「ババア、『話し合い』はどんなだ?」


“大雑把すぎるぞクソ親父、問題ありまくじゃ“


「やっぱりか……『サブ』関係か?」


“5姉妹が抜けたことによる『サブ』の動き、活発になっておるとのことだ“


「あいつらやっぱ、抜けたんだな」


“うむ、そのおかげかどうか知らないが各国の市民達も不安になる一方だそうだ“


「『サブ』……いい加減戻さねぇとな」


“…奴らが称えておった『先生』のことか?じゃが、あの時の『先生』の死は必然じゃ、回避は出来んかった“


「仲間残して死んでったのが不味かったな…『キング』が不安定になるのもわかる」


“『キング』の元に『ジョーカー』が戻れば、多少マシになるだろうが…『キング』が魔王との遭遇以来、行方がわかっておらん“


「……行き詰まりだな、話変えるぞ」


“そうじゃな、して、用事はなんじゃ?“


「iが『ノギロ』に帰りたがってる。条件を出して施設に留まらせようとはしたが…」


“何!?…iがか?条件となんだ?“


「武闘大会の出場だ、Zも出す」


“Zを殺す気か貴様は!勝手なことをしおって!“


「iは歴戦枠だ、安心しろ」


“Zが大会に出るのがまずいんじゃ!理解せんか!“


「…?何慌ててんだ、20歳以下だぞ?軟弱なのしかいねぇって」


“はぁー……、今年は各国の王子や王女が出るのじゃ、しかも力はあるのに使い勝手がわかっとらん連中でな“


「…魔力暴走の心配か?」


“それもあるが、王子王女のほとんどが短気じゃ…Zも好奇心旺盛にして口が悪い…誰に似たんだか“


「親の顔が見てぇな」


“クソ親父、貴様の事じゃぞ?自覚せいよ“


「……まぁ、まぁまぁ長々と話し込んですまんかった」


“図星なら少しは改善せい“


「へいへい、んじゃ会議頑張れ。どの国が『嘘ついてる』か見当つけてくれよ」


“…知っておったのか“


「どの国がサブを匿っているか、なんてのは予想だ、その反応は正解と見るが…まだかかりそうだな?」


“腹の探り合いは苦手なんじゃ、殴り合いならば簡単なんじゃがなぁ“


「人種のほとんどが持たねぇよ、切るぜ」


“あぁ。武闘大会、結果楽しみにしておるぞ“








翌日、武闘大会に『Z』と『i』の2人を登録するため、闘技場へ向かう俺だった

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