弱者を搾り取り、強者にひれ伏す

将軍と“タバコ屋“が戦い始めた時


━━( ΦωΦ )━━


オレは司令官を見る



かすかに残る毛量

首が見えない

顎は3段

腹が丸

超えた腹に負けじと、太い両の足が身体を支えている


その体でよく、素早さに定評のあるネコ科のオレに対峙しようと思ったもんだ


司令官は叫ぶ


「貴様ァ!頭が高いぞ!誰を前にして突っ立っておるのだ!」


やべぇよこいつ、自分以外を下だと思ってるよ


「生前は“破壊英雄“に何も出来ずに殺されたが!今回は違う!ハァァァァアアアア!!!」


コイツうるせえ、変わってくんねぇかなアイギス嬢


アイギス嬢はガモンと対峙してるが


様子がおかしかった



特に、ガモンの体がもうグチャグチャに折れ曲がってるから、グロいんだけど


あーあ、アイギス嬢もドン引きしてるよ。見慣れてないのかね


「フハハハ!!コレガ私ノ完全体ダァ!」


司令官を見ると、3メートル超の巨体となり、筋骨隆々とでも表せればいいか…デブとはかけ離れた姿になっていた


まぁでかくなるから、服が弾け飛んで全裸なんだけど


ちんこでけぇ


「あぁ、終わった?まぁ痛みなく綺麗に殺すとか、オレ苦手だから痛かったら手を上げてね」


「何ヲ言イ出スカト思エバ!喰ラエェイイ!!!」


俺の装備は縄一つ


されど、縄は強固に作るものであり


繊維となる糸は


「ウガッッ!カ、体ガ動カヌ!」


「魔物特製の鋼糸だ、無理に動くと骨ごと切れるぞ」


魔獣の蜘蛛の中で、最も硬い糸を持つ“地獄の糸を持つアラクネ“は、鋼並に固く、しなやかな糸ではありオレはそこに改良を重ねた


糸は、飛ばせば貫通し、軽く引けば切断が可能になるように細工した


ただ、難点なのが使用する者の技術だ



この鋼糸、とにかく扱いずらい

人種の『執事バトラー』しか鋼糸を扱えず


異人種でも、このような武器の使い方は存在しなかったので、前の世界では軽鎧などに用いられていた


異人種であるオレが10年の間で初と言ってもいいほど、それくらい親しみがない武器だ


使い方を教え乞うたのは、『執事』のとある師匠である人種であったが


『なんだこれ?ワイヤーの方がマシじゃん。クソ弟子、お前が使え』


と言って、俺に渡してきたのが最初だ


6年前の大戦、その4年前の融合


計10年使っているが劣化は見られない


「クソォォォオオオ!!」


「あんたの特殊能力は知らねぇが、頭みじん切りにしたら終わるだろ」


オレが一番か、楽な仕事だったな


さっさと援護に行こう


糸を操り、司令官の頭をグルグルにする


「ムゴォォォオオオ!!」


「頭からケツまで叫んでんだな、また死後に会おうぜ」


そう言って、糸を引くとなんの抵抗もなく、首の付け根から上がみじん切りされ、ブロック状となる


倒れるかと思ったが、流石というか、巨体だけあって仁王立ちしている


「蝋で固めたら良い芸術品になりそうだな」




余裕の油断が先に表れ、糸を解くのが間違いだったか



「────っ!」


残心


警戒したオレは猫の聴力というのもあって、司令官の心音を聞き取ると少しずつだか鼓動を感じ始めた、というより激しくなる一方


「まだ生きてんのか…厄介すぎんだろ」


ネクロマンサー系魔術の関係かは知らないが、面倒事が増えたことに変わりはない


再生系や回復系、死霊系魔法において、急所を破壊して生きる可能性は3つ


ひとつは、外部の死霊系の術者が魂を保管している可能性


これはない、資料でも確認したがラナバスタ博士は死霊系は得意では無い


ただ何らかの方法で生き返らせただけ


ては2つ目、聖獣の存在だ


身体を聖獣に任せ、再生系魔法を自動発動させる


その際、身体に刺青が心臓付近の胸部表面に入るが全裸時に見られなかった


なれば3つ目、というより消去法だが…これしか思いつかなかった


ネクロマンサー系の死霊魔法でもない



『呪い』



使う術者は異人種に限られるが、権力や金、暴力に物言わせれば使用する術者を呼び寄せ、施してもらったか……?


だが、代償はでかい


今回、司令官の代償は魂そのものだろう


過去に、腕一本での『呪い』による恩恵を受けた者がいた


その恩恵を受け願った効果は、魔力自然回復の向上だった


他の者は、両の足の犠牲で、頭の回転速度向上だった



ガンアス司令官は全五感である、視力、聴力、触覚、味覚、嗅覚は己の欲望を満たすために健在



となると、犠牲にしたのは魂、か


だが、融合から10年たった


前の世界と今の世界の者たちが手を取り技術向上が進めば、小指の爪垢だけで永遠の不老不死が可能なるのかもしれない


警戒しなければならないが…そんな技術、『ハルバード』の諜報員による情報にもない


魂を犠牲に、不死身を手に入れたのなれば────



「──もっと刻んでやるよ!『呪い』が消え散るまで!」


「ッィイ!ヤッテミルガイイ!!」



首から上が再生し、闘争心あらわに咆哮し突っ込んでくる


だが俺の目前、糸で張り巡らされていたので、3メートル超の巨体に糸が食い込む


「コノヨウナ鋼糸!『鋼鉄』!『溶断』!」


叫びの魔法呪文発動と共に、糸か切れる


「んなっ!!」


突っ込んでくる巨体の肩が、鳩尾に入り、息が出来なくなる


「っっ!!」


吹っ飛ばされる


窓が割れ、オレは外へと投げ出されるが、意識を取り戻して糸を操り屋根へと移動する



危なかった、軽く意識飛んでた


屋根の上で呼吸を整えながら糸を回収していると、巨体が研究室の天井を突き破り、俺の前に立ち塞がる


「クハハ!“破壊英雄“ノ仲間ダト思ッテイタガ、大シタコトハ無イニ等シイ!」


「ハァ…、余計な…、こと言うと…、舌切るぞ…」


膝に手を付けて、緊張と死の恐怖による焦りを息で整えて鎮静していく


「ソノヨウナ“体タラク“デ、何ガ出来ル!!」


気づけばオレの頭一個半分の拳が、顔面を打ち抜く


司令官の戦闘スタイルは近距離戦


技術は異人種の『拳闘士』よりは劣るものの、最低限の技量はある


そんなことをふっ飛ばされながらも考え、屋根の上で転ばされる


顔面を打たれた痛み

吹っ飛ばされて転がった時の痛み


懐かしく感じた



師匠から教えを乞いた時


修行の痛み


感情が芽ばえる



悔しさや悲しみよりも真っ先に


怒り



「痛えんだよボケがァァァあああ!!」


怒り任せに立ち上がり、猫特有の素早さを活かし、背後に回る


司令官が巨体なだけあって反応が鈍いのか、背後に回ったことさえ気づいていないように捉えれた


「永遠の死を与えてやる」


オレの声を聞き、振り返りながら裏拳をしてくるが


「イナイッ!!!ドコニ────」


何度も殺さないと、死なない



ならば



『生死よ廻れ滅びの炎獄ヘル・ファイア



オレの得意魔法は『火』


特に『陽炎』といった姿をくらますものが得意だった



逆に、攻撃関係の魔法は逆に不得意だった


天性によるものだろうと、前の世界で診断された



だが、攻撃魔法を諦めなかった


今や異人種と呼ばれる存在となったが、他の異人種たちに負けじと磨き上げた攻撃魔法


そのひとつ、『生死よ廻れ滅びの炎獄ヘル・ファイア



糸がなかった前では、この魔法は指向性がなかった為、無差別攻撃をしてかつての仲間たちに怪我を負わせた記憶がある


師匠から貰った鋼糸という指向性を持たせることで無差別攻撃を解消させたのは師匠がそれを見抜いたか、はたまた気まぐれか



司令官の頭の上を跳び、糸を関節に巻きつける


先程、千切れたのは硬い面だったと判断し、間接という脆い部分に巻き付けた


地面に深々と複数の糸をランダムに刺し、固定魔法を施す


先の魔法の発動は時間がかかる為、ちょうど固定したタイミングで『廻れ滅びの炎獄ヘル・ファイア』が出る


「コ、コノヨウナ炎!!熱クモナイ!!」


「わりぃが、この炎は命を燃やし尽くす魔法だ…熱の温度による焼死や、火傷の炎症による2次被害を捨てた、殺すことに特化した炎だ!1回死んだくらいじゃ消えねえサービスだ!!」



付け加えるなら魔力が続く限り、だが────


持ってくれ、オレの魔力!!



「ァ……ガ……」


黒焦げになった巨体は崩れ落ちようとするが、固定は外さない



みるみる再生していくが、炎は消えない


「グゥゥァァッ!」

「あぁぁ!!」


生き返っては燃え尽く


その繰り返しを15回目にして



魔力がなくなる


ジリ貧か──


──いや、まだ──燃やせる!


「あぁぁっ!」




魔法を発動するには、体内の魔力と、外気に漂う魔力を使用する


そして、例外として、代償を差し出す



俺が差し出すは『水分』



異人種の体の仕組みにて、人種と違うのは五感の発達や、魔力の馴染み方だ


水分の量は同じ、成人男性なれば60%


その30%を差し出し、“脂“に変換する


「ナ、ナゼダ!魔力ハ残リカスノハズ!!ナノニ、ナゼ燃エ続ケル!!」


あぁ、やべぇ…今思えば“タバコ屋“に後を任せりゃ良かった……


喉乾いた…



「ァァ…マダ……ダ…」


そう言い残し、炭となった司令官に対してオレは膝をつく


炭となったことで、糸の拘束がなくなる


「回収……しねぇと…はっ!?」




驚きも束の間


焦げたの司令官は、俺の首根っこをつかみ、胴を殴りつける


「グッ!ォェェ…」


内蔵関係がやられたか、血を吐く


「ハァ…ハァ、貴様のおかげで……聴力と眼球を失ったが新品の肉体を手に入れた!楽ニ死ねネると思うナ!!」


聴力と眼球ふたつで『呪い』を増やしただと!?


呪いの発動者は遠隔操作によるラナバスタ博士自身か……その部下が…魔法を使ったか…


くそ、頭回らねぇ…考えがまとまんねぇ



あぁ、もう少し…駄弁ってねぇで早く来ればよかった



司令官は屋根を歩き、オレ落とした


落ちるさ中、司令官が城の窓から戻っていくのが見え、その奥で“タバコ屋“が銃を構えていた



……くっそ悔しいんだけど


終わったら援護してくれとは頼んだが、司令官も…多分瀕死の状態だ





──…チラつく走馬灯


こちらの世界に来て初めてプレイしたゲーム


タイトルは忘れたが…RPGの、主人公率いるパーティ


主人公が死んで、ほかの仲間がボスを討ちとったのを思い出す



何事も無かったように、仲間達が勝利後の会話をし続けるが、主人公が倒れたのに、誰も助けてくれない


主人公がボスの体力を削ったから、仲間達がトドメをさせた



今のオレは主人公では無い


だが



「狼野郎の戦果にさせてたまるかぁ!!!」



落ちる途中、先程回収した鋼糸を飛ばし、何か喋っている司令官の首に巻き付ける


オレの自重はさほど重くはないのだが、落下の勢いで、司令官は後ろに後ずさり、窓際まで引きずられ、頭を外に出す


城の壁に、振り子の原理で右半身を叩きつけられ、衝撃を和らげることも出来ず、感覚が麻痺し、痛みが感じなくなった


右腕は折れたのか、肘から先が反応しない



残った左手で糸と壁を利用し、上手い具合に登り、壁を走る


爪を出す


狙うは、外に出ている後頭部



「トドめぇ!!」



ガキンと


後頭部に直撃した爪は砕けた


「……嘘だろっ?」


オレは驚愕により脱力してしまい、またもや落ち始める


と思った瞬間────


「援護は任せろっつった、だろうが!」


“タバコ屋“が窓際に走り寄り、デザートイーグルで司令官の頭をぶち抜いた


爪が砕けた俺は、再度落ちるも“タバコ屋“に胸ぐらを捕まれ、九死に一生を得た


「こいつらァ、オリハルコン並に硬ぇんだとよ…無茶すんなや」


「オレが…主人公だ…仲間に……いい所、持っていかれたくなかったんだよ…ありがとう」


「なんだそのクソみたいな理由、つまんねぇよ。後、どういたしまして」



ゲームで主人公だったオレは、リアルじゃ主人公にはなれない


「てめぇの戦果だ、俺が報告する時は“隠し屋“がトドメさしたって言っとく。そん時は“隠し屋“も口裏合わせとけよ」



だがオレの生きる猫人生はオレが主人公だ


オレの勝利後には、戦果が貰え、会話ができるようだ






リアルは、ゲームじゃねぇな

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