勇者ああああって叫んでるみたいだよな




窓に映る隣国への経路は、夜行バスに乗って5時間かかった


道は整備されていて、普段は”魔物除け成分”が、整備された道路に練り込まれているので、バスの移動や引越しのトラックなどには被害がないよう工夫がされている


唯一、被害があるとすれば両端の森から来る”魔物大移動”くらいが道路を横断する


数万という魔物の群れの大移動だ


時期は不明だが、大移動の予兆は分かりやすく出るため、予兆を見て各国は道路の封鎖などを行ったりしてる


前回は今年入ってすぐだった。前々回が去年の今頃なので、下手したら帰りには封鎖の可能性がある


まぁその場合は飛行機に頼るしかないが…費用はかかる分、その時はその時だ、何とかなるだろ


武器の携帯は許可がいるものの、基本は所持して可能になっている




10日間の調査を期限としたが、装備としては重装備になった


いつもの弾薬入り歪なガンケース


アサルトライフル系統は、M4A1カービンにサンプレッサーを付けた


対魔物用と偽って、M28バレットをむき出しのまま持っている


対魔物用と偽って、スラックスの中に、ブーツナイフを仕込み


腰裏に、50口径デザートイーグルと、スプリングフィールドXDを魔改造して無理やり50口径にした


弾はデザートイーグルと共用できる仕様に



服装としては、黒のワイシャツの上に


商業を目的としてると偽って黒のスーツを羽織り


下はスラックスに、先程言った仕込み用ブーツを履いている




出発する時にレディに心配されたが(特に荷物の量)


問題ないと偽った


嘘ついてるでしょ?って目をされたがそれも嘘ついた


目的地まではあと数分なのか、『ウィルマ』の街が見え、検問する奴らが見える


『ウィルマ』自体、行くのは2度目だ


1度目は人殺し観光だったが、今回は流血を観光するだろう



我ながらうまい事考えたな、帰ったらレディに言ってみよ


”レディ!今回は『ウィルマ』で血を巡ったぜ!”


なんか物騒だな、おもれー




『ようこそ!『ウィルマ』へ!!』


夜行バスの外で誰かがそう叫んだ

まぁ実際、観光客も乗ってるし


『お客様は降りてこちらに来てくださーい!』


ウェルカムな発声で、乗ってる奴らを案内する男


ニコニコと、笑顔がとても気持ち悪い


一度目に行った時もそうだったが、常に笑顔が気持ち悪かった


『お客様はどちらからお越しで?そーなんですね!私もその近くなんですよ!川が綺麗ですよね!』


嘘ついてる俺だからわかる、この男は嘘をついていると


観光客は機嫌を良くしたのか、不信感を抱かずに男の案内に従い、街へ入っていく


俺にも声がかかった


『おや!お客様珍しいですね!異人種様には丁寧に案内させていただきますよ!ささ、こちらへ!』


「いや、結構だ。宿も自分で探す」


『承りました!何か御用があれば話しかけてください!』


「あぁ、わかった」


気味が悪ぃ、俺のテンションも底ついたぞ


検査等は『ハルバード』国から出る際に貰うカードに、入ったデータを見てもらう


シロに弄ってもらったデータの中身は、偽物だらけだが、セーフだった


街に入り、宿を探す振りをしながらあたりを見渡す


何も変わっていない


過去の記事や写真とすり合わせても、


綺麗なビルがあればボロのビルが立ち並び


電柱が等間隔で電線を張り巡らしている


信号機は縦

赤2つと青が点滅する


民家は二階建てがあれば一階建てもあり

広く間隔をとっている所もあれば、隙間なく詰めていたりする


道端では、ホームレスや路上ライブが目立つ


物乞いをしてくるので、金を投げ捨てると喜んで拾いやがる


鉄道が上を通過する下では、若い奴らが音楽を垂れ流しながらダンスしていたり、薬物を吸っている光景がある


タバコを吸えタバコを


ふと見ると、ガソリンスタンド内にあるコンビニで強盗があったが、1分で警察が到着し強盗を捕まえていた


迅速だが、異常なことに変わりはない


また、そんな事があったにも関わらず、街は何事も無かったかのように日々を繰り返している



異様にして異常、それが平常

それが『ウィルマ』





行く先々の途中、廃墟のアパートを見つけた


人が住んでいたであろう痕跡はあるものの、人の気配はない


ホームレスが住処にしていると思ったが、気配がない


直接交信魔法装置…携帯みたいなもんを取り出し、ある人物に魔力波長を合わせる


魔力波長は、この世界にいる人種、異人種、魔物が体内に持つ魔力の波で、本人の感情によって波が引き伸ばされたりせばまったりする


だが人種、異人種、魔物が持つ根本的な波長数値は最初の部分だけ固定されている


魔物が070〜と続くのであれば

人種は080〜と一つ数字が変わっていく

そして異人種は090〜と続く


こういった数字化して、電話のように交信ができるのも魔法と科学が融合したおかげか


090から始まる番号を押し始める

通話相手は異人種だが、本人は気に入らないようだ


知ったこっちゃねぇが


『ウィルマ』にスパイ任務として大戦以降から潜伏している奴だ。元気にしてっかな


“……誰だ“


通話先から聞こえる、未だ少年のような声


ナニカを憎むような声


「よう、シャド。この国の気持ち悪さに汚染されたか?」


“…この声、懐かしいな“タバコ屋“か。通話してくるということはこの国にいるのか“


魔力波長による電話は、特定の範囲内でないと通話ができない


「あぁ、そうだ。一年前から変わったことがないか聞きたい」


話しながらも、荷物を下ろしていく


“無茶を言うな、何も変わらない。こちらが聞きたいくらいだ“


「そう言うなって、小さなことで構わねえから」


M28の足を開き、外に向けて固定する


“…百以上あるな、ジャンルはなんだ?“


「『ウィルマ』国直属騎士だ」


ガンケースから弾倉を取り出し、横に置く


“…ふむ、あるにはあるが…“


「聞かせてくれ」


双眼鏡で目標を探しながら通話を聞く


“なんでも、好きな人が出来たらしい。この国の外の人種だ“


「はっ!それまじかよ、ウケるぜ」


目標を見つけ、寝そべり、構える


“その件で、『ウィルマ』国王がブチギレてな“


「そりゃな、自分の国で管理してたもんが、他国に持ってかれちゃ、つまらねぇしな」


“それだけではない、直属騎士には外に漏らしてはいけない情報を持っている“


「それ先に言えよ」


“知ってるのかと。まぁ、情報を外に出さないために、国王はその直属騎士を表面上は軟禁状態にしている“


「くははっ!必死すぎんだろ、わかりやすすぎ」


目標を撃つ、狙った目標は鳥だ


目標の頭は吹っ飛ぶ


弾の威力に耐えきれず、身体ごと破裂した


魔改造しすぎた


“銃声がしたが何をした?そんなことしても、この街は、国は、気にも止めんぞ“


「確認だよ、代わり映えがないかの」


落ちる血と肉の塊は、そのまま地に落ち、街の風景に溶け込んだ


街を歩く人々はそれが当たり前のように無視し、素通りしていく


「やっぱすげぇな、素通りしてんぞ」


“車なんかで動物を轢いた時の死体は、そのまま放置して、その土地の管理人が処理をしている“


「これほど生き物に対して無関心だと、俺自身が狂ったように感じちまうな」


“それを俺は六年見続けたんだ、いつ発狂してもおかしくはない“


「言えてんな、来るのが遅くなってすまん」


“本当にそれな。それで?今回の目的はなんだ?“


「廃墟のアパートで一泊する、侵入者がいれば連絡してくれ」


“了解、って流しそうになったけど目的はなんだっつってんだよ“


「依頼だよ、No1の眠姫さんからな」





通信を切り、荷物をまとめ、廃墟で俺は眠る前に依頼の整理をする


目的はこの街の正常化


10日を目安に動けと言われたが6年も監視を続けるシャドすら変化がないと言っていたほどだ


俺に努まるわけがない、務まるはずもない


壊すだけが取り柄の俺に、何を変えろと言うのか…


まぁ何とかなんだろ…俺の真名のこともある…だが急がば回れ…




ぐぅ




━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「クソ親父の様子がおかしかっただと?」


第一声は“金龍師“ことティアだ

場所は孤児院の、ティアが事務的な意味で使う部屋だ


「うん、部屋から出てきたから用事終わったのかなって思って声掛けたら“黙れ“って言われて…ちょっとびっくりしたんだけど」


ティアの質問を返したのは、孤児院で育てられた経験があるレディだ


「ふむ、それからどうなったのじゃ?」


「そのまま店から出て城の方向に車飛ばして行ったよ…お母さん、お父さん何があったかわかる?」


「見当はつくが…今はなんとも言えん。それで?クソ親父は今見当たらんのだが」


「数時間して帰ってくるなり“依頼が入った、10日後あたりに帰ってくる“って…“ウィルマ“?とかその辺に行くって言って出て行っちゃった」


そうか、とティアは告げた後、考え込む


ティアには心当たりがあった。我が娘のように扱っていたレディを『黙れ』と言った時点で、だ


だが確証には至らない。直接会わなければこの推測も意味がなさないからだ


「レディよ、クソ親父からは少し距離を置いてもらえるか?ワシはワシでクソ親父と接触してみる」


「ん、分かったけど無茶しないでね?お父さんに声掛けた時、殺されると思っちゃったから…」


「ふん!クソ親父も人情というものが無いのか!会ったら叩きのめしてやるからの!」


「暴力はダメだよお母さん!でも、なにがあったんだろうね…力になれないかな」


「レディよ、改めて言うがクソ親父とはあまり近づくな、よいな?」


「わ、わかったってば」


レディは落ち込みながらも、孤児院の子供たちと来客の夕飯作りに勤しむ為に

炊事場に向かった


それを見送り、1人考え込むティア


(ネットとやら…電子世界で正体をばらしたヤツがいるな…クソっ!このようなことになるのであれば少し勉強しておけはよかったわい!)


ティアの悲観も時すでに遅しか


はたまた、まだ間に合うか




止まった時、動き出したことに変わりはない


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