取り消せ!タイトル!取り消せよ!

「その初代ってのやめろ」


「ふん、それを決めるのは貴様ではない」


相変わらず我がつえぇな…


「して、久しいな、シロの」


『お久しぶりです、“五代目“』


「相変わらず丸いな」


『褒め言葉として受け取っておきます』


「なんだお前ら知り合ってたのか」


『おやおや、我が主は嫉妬なされておるのですか?悪い気はしませんね!』


あぁうぜぇ…


「……五代目、いや、酒場のマスターでいいか?」


「マスターでいい。それよりも反応してやれ、泣いてるぞ」


『うっうっ…!我が主は極悪非道な冷血漢でしたのを忘れていました、死ねばいいのに』


「悪口言うやつだから無視していいんだよ。マスター、掲示板は奥か?」


「いや、管理は俺がしてる。依頼でもするのか?借金まみれの癖にか?」


「いや、情報を流すくらいだ。切羽詰まってるわけじゃねぇが…ここ来るまでに時間喰いすぎた」


「良いだろう、『オープン』」


五代目と呼ばれるマスターが叫ぶと同時に、“掲示板“と呼ばれる分厚い板が天井から垂れ下がってくる


「いちいち許可取らねぇと、ここに書き込めないのダルいな」


「工場とは別に、信用度高い情報を提示するためだ。やむを得ん」


話を聞くと、今では焼却する工場に信用度の低いものを手作業で仕分け、処分している


マスターの知り合いや、信頼関係にある者は、マスターが出現させた掲示板から書き込める


閲覧もマスターの許可がいるのだが…、赤毛の雇い主が閲覧出来るものなのか……?

やはり工場で情報流すべきだったか?


「早く書き込め、“初代“を狙う輩が腐るほどいるのは知ってるぞ」


「わーってるよ!……もういいや、『貼り付け』っと」


No2とNo3の情報を『貼り付け』る


閲覧はここ、VR空間やパソコンから見れることは可能だ



数秒待って書き込みが出始める


“これは本当なのか!?“

“確認した“

“『ハルバード』が混乱するぞ!?偽物ならさっさと焼却処分しろ!“

“やべぇもん見ちまった!俺に明日はあるのか??“


うん、2つ目おかしいよな明らかに


「シロ、2つ目追えるか?」


『この私に追いつけない相手がいると思いですか?失笑ものですね、反吐が出ます』


「口動かすより、手を動かせ……手あるのか?」


俺の疑問を無視して、シロは追跡を始める


色々なデータ枠がシロの周りを出たり消えたりしている中、マスターに声かける


「ここの背景から、匂い、感覚、全てにおいて変わってねぇが…今何代目だ?」


「俺が辞めてからずっと空席だ、監視役でもあったシロも居なくなって、大荒れてな」


「その割に静かだったが?」


「席を決めるのはこんな表ではないのは知っていただろう?忘れたのか?」


「あー…そうか、地下闘技場なんて作ったっけ」


「このVR空間は、ゲーム仕様ではなくリアルの能力が反映される、地上での御法度は無しだが…」


「地下の闘技場でテッペンを決めると…勝者の判定はシロがやってたのか?」


『我が主がログインしているのみですが、ログアウト状態では来られませんからね』


「判定決めが居なくて荒れてるわけか」


「その通りだ…シロよ、今回は判定頼めるか?」


『構いませんが、我が主はどうされます?』


「シロは追跡を続けろ、俺が見定める」


「見定める、と来たか」


「ずっと空席なんざさせられっかよ、それにな」


「それに、なんだ?」


「死なねぇ世界なんざ、ぬるすぎるわ」


そう言い残し、俺は酒場をあとにして地下の闘技場に向かった




原付を地下闘技場手前で停めると、シロに声をかけられた


『我が主、私なら大丈夫ですよ?処理しながら審査は可能です』


「いや、いい。システムで勝敗決めるより、目で見た方か早いしな」


『なるほど、血がたぎっていて先程のでは殴り足りないと』


「よく分かったな、乱入してボコボコにしたくて仕方なかったんだ…いやちげぇよ、殴らねぇよ誰も。ただ見に行くだけだよ」


『ほんとぉ〜?』


「うぜぇ、取り敢えず静かにしてろよ」


地下闘技場に入り、まず目に映ったのはでかいリング場だ

天井に吊るされたライトはリング場で素手の殴り合いをする人物達を照らし続ける


勝敗が決したのか、観客が沸きだす

1人は地に伏し、1人は両手を上げ吠えていた


「ひでえ八百長だな」


『ええ全くです、私なら両者五体不満足にさせますよ』


「うちの従者がこわい」


と、その時だった

観客がさっき以上の湧き上がりを見せる

聞こえてくるアナウンスは“期待の新人“やら“完全勝利無敗の男“なんて叫んでやがる


「期待の新人だとよ」


『私たちが追ってる輩です』


「ふーん……はっ!?まじか!」


『あ、見えましたね。あの野郎です』


「口悪いなお前…っと、あいつか…」


姿を現した期待の新人と呼ばれる男は、列車の監視カメラに映っていた男そのものだった


「アバター変えなかったのかあいつ…」


『我が主が何に巻き込まれているかわかりませんが、あの人相当やばいですよ。ステータスも隠す気がありませんし、余程の自信でしょうね』


「あー、そういうシステム的なのはどうでもいい。奴を捕らえるぞ」


『詮索開始します、ダメでした』


「やっぱ遠いか」


『近づければなんとか、我が主…』


「任せろ、と言いたいが…満身創痍狙った方がいいな」


『と、いうと…対戦相手ですか』


入場してくる赤髪の男

その反対側から入ってきたのは化け物と比喩していいほどの特徴的な角を持った巨大な獣だった


『“アルキファンス“希少種のデータですね、魔大陸産の四足歩行する獣で、希少なあまり量産されてるアルキファンスとは仲が悪く食い殺すことが多々あるようです。“仲間殺しの孤高“とも呼ばれているとか』


「ただ孤独が辛くなっただけじゃねぇか、まぁひとりぼっちは寂しいもんな」


『寂しさのあまり食い殺しては意味ありませんけどね。おや、こちらを見てきてますよ』


「勝手にさせておけ、あのでけぇのに興味はねぇし」


『我が主も喰い殺しそうですね』


「的確な悪口やめてくんねぇかな!?始まるぞ」


赤毛の男が走り出すと、獣は俺たちから視線を外し突っ込んできた“敵“を見やる


そして吠えた

ギャァァアオオオオオオ!!



「うるせえだけじゃねぇか」


『あの雄叫びは宣戦布告の合図です、獣の方も殺る気が出たようですね』


「俺には吠えなかったぞ」


『あの獣、雌ですから』


「俺は獣姦…見るのは好きだが、するのは嫌だ」


『我が主の新たなる嗜好を発見出来て私は幸せです』


「俺、するの嫌だって言ったからな!?」


『お、両者ともぶつかりあったまま動きませんね』


俺の言葉を無視してシロは実況し始める


獣は特徴的な角を活かし、男の心臓のあたりに突き立てるが男はそれを両手で掴み、胸板にたどり着く前に止めた


『両手で止めましたよあの男。ぷぷぷ、我が主なら片手で止めるでしょうね』


「俺を過大評価しすぎだ、俺TUEEEEしたいわけじゃねぇし」


『最近流行りじゃないですか、便乗してはいかがで?』


「血と汗と涙の努力あっての話の方が、盛り上がるだろ」


『似合わないセリフですね、っと、動きがありそうですよ』


リング場を見ると男は膝を曲げて踏ん張る姿勢になり、獣を持ち上げ始めた


獣も対抗するべく暴れるが、天井にぶら下がるライトに近付くと途端に急降下され、リング場の床に突き刺さる


男はそれを機に、腹の部位周りに移動して構えた


「正拳突きか」


『“溜め“てますね、凄まじい威力が出ますよ』


溜め終えたのか、見えない拳が腹に突き刺さり、獣は血反吐を床に撒く


「見えねぇ、シロは見えたか?」


『申し訳ありません、こちらは30fpsで録画していましたので、視認出来ませんでした』


獣は力なく唸り、データとして散っていった


またもや観客席から歓声が上がる


アナウンスをしていた司会の男が近づくと、赤毛の男はマイクを取りあげ、叫んだ


「まだ足りねぇ!!乱入者はいねぇのか!!」


この叫びの後に、俺の方を見やがった


指名するならしろよな、まぁ行くけど


動き出そうとした直後、俺とはまた別の方向から1人の大男がリング場に上がった


「俺の胸なら貸してやらんでもねぇぞ?」


「雑魚に興味ねぇ、すっこんでろ」


「な……おごはァっっ!!!」


拳ひとつくらった大男はリング場から即退散された


「今の茶番居る?」


『本人は真面目そうなのでそういうのは言わない方がいいかと、ハッキング開始します』


「任せる」


リング場では既に待ちくたびれた様子で赤毛の男が立っていた


「会いたかったぜぇ…“破壊英雄“さんよぉ…」


「俺はてめぇなんざ興味なかったけどな。つかてめぇの名前、俺知らねぇし」


「わりぃわりぃ、俺は“血鬼“って呼ばれてる」


「なんだよ、他称かよ。親につけられた名前なんざ忘れんなよ」


「人のこと言えんのかそれ?」


「なんだと?」


「“破壊英雄“の出現理由と、タバコ屋、お前自身の意識取り戻す前、知りたくねぇか?知りたかったら俺を倒してみろ。教えてやるよ」


突然の交渉に心の奥底からブレた



破壊姫で表面上は満足していたが、心の奥底で燻っていた火は激しく燃え盛る


「きょ、興味ねぇな」


「図星かよ、まぁ俺を倒せたらだがな…先にそっちからでいいぜ?」


「え、遠慮なく行くぞゴラァ!」


振りかぶり、顔面に拳を入れるが硬い


過去にティアのババアを殴った事があるが、あの時以上にビクともしなかった


「1発で充分か?ならこっちから…ふっ!」


血鬼はただ突っ立ってる状態から、ノーモーションで腹に拳をぶち込んできた


精神的にブレまくっていて反応できなかった理屈など通じない


なんて状況を自己解析しながら後ろに吹き飛ばされ、リング場から落とされた


床に転がり立ち上がろうとするも先の一撃で足が震え、力が入らなく立てなかった


「ま、こんなもんかね。勝てなかったみたいだし“破壊英雄“…いや、“タバコ屋“の名前だけ教えてやるよ」


声がした方向を見上げると目の前にいた


なんなんだコイツは?俺はこいつを…


(黒獅子)


耳元で囁かれた“真名“から身体中に電撃が走るが如く、俺は雄叫びを上げ、頭を抱えうずくまる


「ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“!!!」


脳内をノコギリの刃で切られるような痛みに逆らえず、頭を指で引っ掻き、皮膚を削ぎ落とすように痛みを和らげようと試みる


だが、それでも収まらない



脳裏に浮かぶのは、ティアのババアが俺に跪く所だった



『我が主!強制ログアウトさせます!えいっ!』





瞬間────暗闇が訪れた

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